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狂気の恋愛
#35.冷たい雨
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今年度のイルモニカ傭兵団内定者を決める最終試験が目前に迫ったその3日前にセバスティアン・ネル・デルシアは、イルモニカ政府の傭兵所があるハウルト・オージスへと出向いて行った。
そこで約1ヶ月の厳しい試験後に、
イルモニカ傭兵団に相応しいかどうかの審判が下される。
同じくして、セバスティアンの弟フィリップも月始めから魔法学院に通い始めていた。
フィリップは、最も苦手とする早起きという習慣に苦戦しながらもセシリアの作る朝食に起こされる形で眠たい目を擦って食卓に向かうそんな生活に慣れ始めた頃、
セシリアもまた自身が見習いとして働く理髪店でその腕を上げていたのだった。
そんな彼女は、完全にスコルビとその妻ケールの娘のように慣れ親しんでいて、
街の中でその3人の家族を見かけても、
誰も疑う者はいないほどに、
3人の姿は自然であった。
過去を覆うほど大きなもの得たように..
───
そのセシリアは、正午過ぎにスコルビに連れられてユストの町にある外壁は古びてはいるが如何にもお金持ちが住んでいそうな1件家に訪れていた。
そこで2時間ほどして
2人がその1件の家の中から出て来るとセシリアは、軽く伸びをして口を開く。
セシリア「はぁー、上手く切れたね?」
スコルビ「うん、正直驚いた...
まさかこうしてユストの自宅までワシを呼び寄せて於いて、お前に切ってもらいたいと言うとはな?」
セシリア「でもベルナさん、凄く喜んでたよ?」
スコルビ「いや、だから驚いているんだ?
あのベルナ婆さんは、ワシ等の店を知ってからは、
他の床屋には絶対に行く事は無いって言うくらいにワシ等を気に入ってくれてな..
ワシかケールじゃないと絶対に嫌だって言う人なんだ?
まあ、要は頑固者なんだ..
それがセシリアを見るなり、
お前に切って欲しいって言うとはな...」
その言葉にセシリアは、したり顔を浮かべる。
セシリア「あのベルナ婆さん...見る目があるな?」
スコルビ「何を言っておる?!
偶々じゃよ? たまたま?」
セシリア「はははははは、私がまた客を1人奪ったからって、そう怒んないでよ?
スコルビおじさん?」
スコルビ「..直ぐこれじゃ?
全く..浮かれるでないぞセシリア?
お前はまだ見習いという立場の者で、
最初に上手くいったからといって、
次も上手くいくと思うなよ?
お前の様な若者には多いんじゃよ..
慢心と言ってな?」
セシリア「またその説教かよ?
何か上手くいったら直ぐそれだもんな..
慢心なんかする訳ないだろ?
この真面目で働き者の私が?」
スコルビ「それが慢心だと言うのじゃ!」
セシリア「はははははははは、
ねえスコルビおじさん?
このやり取り..今回で何回目?」
スコルビ「さあな?」
セシリア「ははははは、分かった?!
次から数えとくよ?
はははははは」
スコルビ「よく笑う娘じゃの?
さあセシリア? 帰ろう..」
セシリア「うん!
あーなんか私もう..お腹空いたよ?」
スコルビ「何を言っておる?
昼間にケールが作った昼御飯をたっぷり食ったじゃろ?」
セシリア「でも、あれから3時間近く経ったよ? そりゃお腹も空くよ?
ああー! ケールおばさんの手料理が早く食べたいよぉぉ!」
スコルビ「全く..よく食べる娘じゃな?」
セシリア「それはそうよ?
だってちょうどさ..私の体は成長期で..
見てよ...この発育の良さをさ?」
説教くさいスコルビの前でセシリアは、わざと腰に手を当て、体をくねらせて見せる。
スコルビ「ワ..ワシの前で色気なんぞ使うな!
全く..なんて娘じゃ」
セシリア「ははははは、スコルビおじさんをからかうのって本当に面白いや?」
スコルビ「その事をイルモニカの最終試験に挑んどるセビィが知ったら泣くぞ?」
セシリア「ちょ..ちょっと?
いきなりセビィの話を出さないでよ?
...もう」
スコルビ「ほぉー...これはとんだ黙秘権を見つけたぞ?」
セシリア「..なんて意地の悪いじーさんだ?」
スコルビ「そうじゃよ? ワシの前ではよからぬ事はせんことじゃな?
さあ! 帰るぞ? ケール婆さんがおやつでも作って待っとるぞ..」
セシリア「...おう!」
セシリアにとってスコルビとケールの存在は、血の繋がりがどうのといった事を越えたものであった。
スコルビもケールも子に恵まれず、その思いをセシリアという1人の子に語りかける事で返って来るその喜びを噛み締めていた。
時代の違う者同士が、互いに同じ様な喜びを見つける事で繋がる事が出来るのだと...
そんなスコルビとケールは、セバスティアンからセシリアの過去について聞かされると、ケールは声を出して泣き始め、スコルビはただ黙って震える手を隠して平静さを装っていた。
そしてスコルビはこう言ったのだ。
「...なあセビィよ? ワシはこの話を聞いて無かった事にする。その話を聞いたからといって、ワシもケールも何も変えてやれん...ワシ等に出来るのは、セシリアのこれからに寄り添う事だ。
なあ、ケールも..そう思わんか?
ワシもケールも子がおらん...
だからセシリアをその代わりにとは思っとらんが..
ワシもケールも...あの子が大好きだ。
あの子に寄り添ってあげる事がワシ等の唯一出来る事だと思うんだが..
だからセビィよ? ワシ等は何にも聞いておらんかった事にするよ..
きっとフィルとエレも..それにジウもな..セシリアの亡くなった両親もきっとその方がいいって言ってくれる気がするんじゃが...
どうだ、ケールや?
ワシ等は何にも聞いておらんかった事にせんか?」
その言葉にケールは、黙って涙を拭いながら返事をした。
そんな思いを持つスコルビとケールに返事をするセシリアは、内心は気付いていた。でもそうやって見て見ぬ振りをする2人の気持ちに感謝する思いもセシリアにはあったのだ。
──
"だからと言って.."
─
スコルビ「ほれセシリア? あの場所を見てみろ?」
セシリア「..あっ..川の真ん中に森がある?」
スコルビは、そう言って指を差す方向に川を挟んで出来た森があった。
森から何羽もの鳥の群れが飛んで行くのが見え、
その光景がこの町の静けさを表しているかのようである。
スコルビ「うん、このユストの町に古くからある森なんだ?」
セシリア「へぇー..ねえ、どうやって入るの?」
スコルビ「ああ、この下をずっと行ったら橋がある、そこから入るんだ?
少し不便だがな...元々は、そんな橋は無かったんじゃ?
だが、ここ最近は自然の伐採等が問題になっておるから..
それを減らす為の取り組みとして、
あの森に入れる様に4年前から橋を掛けたんじゃよ?
自然の価値を知ってもらう為にな..」
セシリア「そうなんだ...
今度またここに来たときは、あの森に入ってみたいな...」
スコルビ「セビィとか?」
セシリア「...もー! ほんっとぉーに、
意地悪いなんだから!」
スコルビ「はははははは、すまんすまん」
セシリア「ふん!」
スコルビ「さあさあ怒るのもそこまでじゃ..
では帰るとしよう.....うん?」
不意にスコルビが何かを見た聞いたような顔をする。
セシリア「..どうしたんだよ?」
スコルビ「..森が騒いでおる...」
セシリア「森が騒ぐって...鳥か?」
スコルビ「いや..鳥ではない...
..妖精か...何かが」
セシリア「妖精がいるのか? この森に?」
スコルビ「ああ...言い伝えでな?
..見えはせんのだが...」
セシリア「精霊とかそんな感じか?
それが騒いでんのか?!」
スコルビ「..いやワシもはっ..きりとは..知らんの...」
そのスコルビの耳元にはっきりと
(彼女を行かせてはいけない...)
スコルビ「......」
─
黙って声を聞いたスコルビのその後は、
しばらく無音だった。
セシリア「...おい! スコルビおじさんどうしたんだよ?
..いきなり怖い顔してさ?」
セシリアの言葉が届いた時、スコルビは、辺りがいつの間にか暗くなっている事に気がつき、
その暗くさせたものに目を向けながら口を開く。
スコルビ「...えっ? ..あっ..いやぁ何でもない」
セシリア「いったい何を聞いたんだよ?」
スコルビ「..ああなに、気の所為じゃよ?
...うん?
..いつの間にあんな雨雲が...」
セシリア「...気の所為なもんか」
スコルビ「さあセシリアよ..
早く帰るぞ....雨が降ってくる...
全く...予報も当てにならんな...」
そうスコルビが口にした時には既に雨は降り始めていた。
そんな先を行くスコルビの背中を見るなりセシリアは、雨を降らす雨雲を見上げこう願った。
お願い...私に時間をちょうだい。
あと少しでいいから..私に時間を...
せめて...
私がはっきりと、それを掴んだと思える時まで..
スコルビ「おい? セシリア...
早くせんか? 雨でずぶ濡れになってしまうぞ..」
セシリア「ああ....分かってる」
"例えスコルビとセシリアに優しい気持ちがあってもだ..
そんな事は、
運命と呼ばれるものにとって、
どうでもいい事なのだ.."
そこで約1ヶ月の厳しい試験後に、
イルモニカ傭兵団に相応しいかどうかの審判が下される。
同じくして、セバスティアンの弟フィリップも月始めから魔法学院に通い始めていた。
フィリップは、最も苦手とする早起きという習慣に苦戦しながらもセシリアの作る朝食に起こされる形で眠たい目を擦って食卓に向かうそんな生活に慣れ始めた頃、
セシリアもまた自身が見習いとして働く理髪店でその腕を上げていたのだった。
そんな彼女は、完全にスコルビとその妻ケールの娘のように慣れ親しんでいて、
街の中でその3人の家族を見かけても、
誰も疑う者はいないほどに、
3人の姿は自然であった。
過去を覆うほど大きなもの得たように..
───
そのセシリアは、正午過ぎにスコルビに連れられてユストの町にある外壁は古びてはいるが如何にもお金持ちが住んでいそうな1件家に訪れていた。
そこで2時間ほどして
2人がその1件の家の中から出て来るとセシリアは、軽く伸びをして口を開く。
セシリア「はぁー、上手く切れたね?」
スコルビ「うん、正直驚いた...
まさかこうしてユストの自宅までワシを呼び寄せて於いて、お前に切ってもらいたいと言うとはな?」
セシリア「でもベルナさん、凄く喜んでたよ?」
スコルビ「いや、だから驚いているんだ?
あのベルナ婆さんは、ワシ等の店を知ってからは、
他の床屋には絶対に行く事は無いって言うくらいにワシ等を気に入ってくれてな..
ワシかケールじゃないと絶対に嫌だって言う人なんだ?
まあ、要は頑固者なんだ..
それがセシリアを見るなり、
お前に切って欲しいって言うとはな...」
その言葉にセシリアは、したり顔を浮かべる。
セシリア「あのベルナ婆さん...見る目があるな?」
スコルビ「何を言っておる?!
偶々じゃよ? たまたま?」
セシリア「はははははは、私がまた客を1人奪ったからって、そう怒んないでよ?
スコルビおじさん?」
スコルビ「..直ぐこれじゃ?
全く..浮かれるでないぞセシリア?
お前はまだ見習いという立場の者で、
最初に上手くいったからといって、
次も上手くいくと思うなよ?
お前の様な若者には多いんじゃよ..
慢心と言ってな?」
セシリア「またその説教かよ?
何か上手くいったら直ぐそれだもんな..
慢心なんかする訳ないだろ?
この真面目で働き者の私が?」
スコルビ「それが慢心だと言うのじゃ!」
セシリア「はははははははは、
ねえスコルビおじさん?
このやり取り..今回で何回目?」
スコルビ「さあな?」
セシリア「ははははは、分かった?!
次から数えとくよ?
はははははは」
スコルビ「よく笑う娘じゃの?
さあセシリア? 帰ろう..」
セシリア「うん!
あーなんか私もう..お腹空いたよ?」
スコルビ「何を言っておる?
昼間にケールが作った昼御飯をたっぷり食ったじゃろ?」
セシリア「でも、あれから3時間近く経ったよ? そりゃお腹も空くよ?
ああー! ケールおばさんの手料理が早く食べたいよぉぉ!」
スコルビ「全く..よく食べる娘じゃな?」
セシリア「それはそうよ?
だってちょうどさ..私の体は成長期で..
見てよ...この発育の良さをさ?」
説教くさいスコルビの前でセシリアは、わざと腰に手を当て、体をくねらせて見せる。
スコルビ「ワ..ワシの前で色気なんぞ使うな!
全く..なんて娘じゃ」
セシリア「ははははは、スコルビおじさんをからかうのって本当に面白いや?」
スコルビ「その事をイルモニカの最終試験に挑んどるセビィが知ったら泣くぞ?」
セシリア「ちょ..ちょっと?
いきなりセビィの話を出さないでよ?
...もう」
スコルビ「ほぉー...これはとんだ黙秘権を見つけたぞ?」
セシリア「..なんて意地の悪いじーさんだ?」
スコルビ「そうじゃよ? ワシの前ではよからぬ事はせんことじゃな?
さあ! 帰るぞ? ケール婆さんがおやつでも作って待っとるぞ..」
セシリア「...おう!」
セシリアにとってスコルビとケールの存在は、血の繋がりがどうのといった事を越えたものであった。
スコルビもケールも子に恵まれず、その思いをセシリアという1人の子に語りかける事で返って来るその喜びを噛み締めていた。
時代の違う者同士が、互いに同じ様な喜びを見つける事で繋がる事が出来るのだと...
そんなスコルビとケールは、セバスティアンからセシリアの過去について聞かされると、ケールは声を出して泣き始め、スコルビはただ黙って震える手を隠して平静さを装っていた。
そしてスコルビはこう言ったのだ。
「...なあセビィよ? ワシはこの話を聞いて無かった事にする。その話を聞いたからといって、ワシもケールも何も変えてやれん...ワシ等に出来るのは、セシリアのこれからに寄り添う事だ。
なあ、ケールも..そう思わんか?
ワシもケールも子がおらん...
だからセシリアをその代わりにとは思っとらんが..
ワシもケールも...あの子が大好きだ。
あの子に寄り添ってあげる事がワシ等の唯一出来る事だと思うんだが..
だからセビィよ? ワシ等は何にも聞いておらんかった事にするよ..
きっとフィルとエレも..それにジウもな..セシリアの亡くなった両親もきっとその方がいいって言ってくれる気がするんじゃが...
どうだ、ケールや?
ワシ等は何にも聞いておらんかった事にせんか?」
その言葉にケールは、黙って涙を拭いながら返事をした。
そんな思いを持つスコルビとケールに返事をするセシリアは、内心は気付いていた。でもそうやって見て見ぬ振りをする2人の気持ちに感謝する思いもセシリアにはあったのだ。
──
"だからと言って.."
─
スコルビ「ほれセシリア? あの場所を見てみろ?」
セシリア「..あっ..川の真ん中に森がある?」
スコルビは、そう言って指を差す方向に川を挟んで出来た森があった。
森から何羽もの鳥の群れが飛んで行くのが見え、
その光景がこの町の静けさを表しているかのようである。
スコルビ「うん、このユストの町に古くからある森なんだ?」
セシリア「へぇー..ねえ、どうやって入るの?」
スコルビ「ああ、この下をずっと行ったら橋がある、そこから入るんだ?
少し不便だがな...元々は、そんな橋は無かったんじゃ?
だが、ここ最近は自然の伐採等が問題になっておるから..
それを減らす為の取り組みとして、
あの森に入れる様に4年前から橋を掛けたんじゃよ?
自然の価値を知ってもらう為にな..」
セシリア「そうなんだ...
今度またここに来たときは、あの森に入ってみたいな...」
スコルビ「セビィとか?」
セシリア「...もー! ほんっとぉーに、
意地悪いなんだから!」
スコルビ「はははははは、すまんすまん」
セシリア「ふん!」
スコルビ「さあさあ怒るのもそこまでじゃ..
では帰るとしよう.....うん?」
不意にスコルビが何かを見た聞いたような顔をする。
セシリア「..どうしたんだよ?」
スコルビ「..森が騒いでおる...」
セシリア「森が騒ぐって...鳥か?」
スコルビ「いや..鳥ではない...
..妖精か...何かが」
セシリア「妖精がいるのか? この森に?」
スコルビ「ああ...言い伝えでな?
..見えはせんのだが...」
セシリア「精霊とかそんな感じか?
それが騒いでんのか?!」
スコルビ「..いやワシもはっ..きりとは..知らんの...」
そのスコルビの耳元にはっきりと
(彼女を行かせてはいけない...)
スコルビ「......」
─
黙って声を聞いたスコルビのその後は、
しばらく無音だった。
セシリア「...おい! スコルビおじさんどうしたんだよ?
..いきなり怖い顔してさ?」
セシリアの言葉が届いた時、スコルビは、辺りがいつの間にか暗くなっている事に気がつき、
その暗くさせたものに目を向けながら口を開く。
スコルビ「...えっ? ..あっ..いやぁ何でもない」
セシリア「いったい何を聞いたんだよ?」
スコルビ「..ああなに、気の所為じゃよ?
...うん?
..いつの間にあんな雨雲が...」
セシリア「...気の所為なもんか」
スコルビ「さあセシリアよ..
早く帰るぞ....雨が降ってくる...
全く...予報も当てにならんな...」
そうスコルビが口にした時には既に雨は降り始めていた。
そんな先を行くスコルビの背中を見るなりセシリアは、雨を降らす雨雲を見上げこう願った。
お願い...私に時間をちょうだい。
あと少しでいいから..私に時間を...
せめて...
私がはっきりと、それを掴んだと思える時まで..
スコルビ「おい? セシリア...
早くせんか? 雨でずぶ濡れになってしまうぞ..」
セシリア「ああ....分かってる」
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そんな事は、
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