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ユウキ カノ

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16.真泉海

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 見られた、と思った。思った自分に、どうしてかまた吐き気がした。
 まなとがおれを見ている。おれと、霧崎きりさきさんを見ている。隣り合って、行列に並んでいるおれたちを、まんまるの瞳が見ている。
「――っ、ごめん」
「え、ちょっと真泉まいずみくん!」
 だれに向けて謝ったのか、自分でもわからなかった。走り出したおれの背後から声が聞こえる。それがまなとの声じゃなかったことに酷くがっかりして、黒く淀んだその気持ちを燃料に、おれはまたストライドを大きくした。
 知らない街で、さっき霧崎さんの後ろをついて歩いてきた方向を思い出しながら走る。ぐちゃぐちゃの頭のなかで、それでもしっかり思考できているのが不思議だった。
 人生で一番速く走れたと思ったまなととの別れの日と、同じくらいのスピードで走った。やっぱりおれは、逃げ足が速いのだと思う。最低だ。いつでも相手に向き合えない。
 逃げ癖のついた自分の生き方が情けなくて、目の奥が焼けるように暑くなる。
 駅が見えて、足を止めた。休日のひとで混雑した駅の構内を走れるほど腹が座っていないことにも、また恥ずかしくなる。おれは、なにもかも中途半端だ。悲劇の主人公になりたくて、だけど数多の悲劇がそうだったようには死ぬことができなくて、ドラマのワンシーンのように、人目も憚らずに街を駆け抜けることもできない。
 苦しい。息ができない。走っていたときは平気だったのに、急に呼吸が荒くなる。道の端に移動してしゃがみ込んだ。うつむいて見える両足のあいだに、汗の粒が落ちる。脳に流れる酸素が薄くなると、どうしてひとは泣きたくなるんだろう。
「はあ、はあ、なに? どうしたの急に」
 パタパタと軽い足音が聞こえて、今一番ここに存在してほしくない声が上から降ってきた。無視しようとして、そんなことでこのひとが諦めるとは思えなくて、腹の底から絞り出すように答える。
「……なんでもないです」
 はあ、と、霧崎さんはため息をついた。このひとのため息は苦手だ。重くて、呆れが詰まっていて。自分が間違ったことをしているのだと自覚させられる。
「なんでもなくないでしょ。もしかして彼が例の――」
 汗ばんだ背中に、霧崎さんの指先が触れる。その口からまなとの名前が出ることも、冷たい皮膚が近づくことも、なにもかもが受け入れられなくて、咄嗟に手を振り払う。
「だから、なんでもないって言ってんだろ!」
 顔を上げなくてもわかる。それまでただの通行人だったひとびとが、一気に物語の観客になる。全身に浴びせられる視線の棘に、身体を丸めて戦うことしかできない。
 天敵に狙われたダンゴムシみたいになっていても、霧崎さんはそこを動こうとはしなかった。押し込まれている肺がなんとか酸素を取り込んで、爪先までの感覚がしっかり戻ってくる。我慢勝負をするつもりはなかった。それに、いつまなとがやってくるかもわからない場所でじっとしているのは、得策ではない。
「……すみません、帰ります。ひとりにしてください」
 霧崎さんはおれの前を歩いてきただけで、おれは霧崎さんの後ろをくっついてきただけで。ただそれだけだったはずの移動に、その一言で意味が生まれる。でもそんなこと、今はどうだっていい。返事は聞かずに、ICカードを取り出して改札を抜けた。霧崎さんが後を追ってくるような気配はなかった。
 ぐいぐいと、こちらの感情なんてお構いなしに他人の心のなかに入ってくるくせに、ここぞという場面ではきちんと引くことができる。そういうところが、ほんとうに、ほんとうに苦手だ。
 電車内、ドアと座席のあいだの角に身体を押し込んで窓を見る。なにかのタイミングで透明なガラスに自分が映るたび、この姿が、まなとの瞳に捉えられたという事実に胸が痛んだ。
 時間にすれば、きっと数秒だ。でもおれの眼に映ったまなとは、最後に会った日と変わらず、大好きなまなとのままだった。
 変わらず、だなんて、どうしてわかるんだろう。別れた日も、今日も、逃げるおれを追いかけてもこなかった、あのまなとの心のなかに、おれがいないことなんて明らかなのに。
 おれが存在していないまなとの未来を願って手を離したのは、おれのほうなのに。
 わかっているのに、どうしておれは笑って「久しぶり」と言えなかったんだろう。
 ――どうして、見られた、と反射的に感じたんだろう。
 足もとが不安定になっていく感覚。ガタガタと揺れる電車の床は、それでも硬くてたしかな感触でそこにあった。相反した触覚のなかで思考だけがやけにはっきりと冴えていく。
 『なじょも』にはもういけない。霧崎さんに会いたくない。
 ハンバーグを食べるはずだった胃は、もう音を立てるのも忘れて静かになっていた。スーパーへ戻るには億劫なほど、全身に汗をかいている。さっきまであった肉を食べたいという欲も、もうどうでもよくなっていた。ただただ、逃げるためだけに家に向かった。


 缶チューハイのプルタブを上げる。アルコール度数が九パーセントであることが大々的に表示されているとおり、ひと口喉奥に流し込むだけでクラクラと思考にもやがかかった。
 鶏の唐揚げとたこ焼き、フライドポテト。油でギトギトになった透明パックに詰められているスーパーの総菜は、どれも茶色くて、どれも不健康な味がする。不健康だとわかっていても、それなりにこの味を好んではいたはずだった。買ってみたはいいけれど、結局その味の大雑把さに違和感を覚えて、毎回冷蔵庫に食べ残しの山を作っている。
『関東では連日、猛暑日に迫る勢いで気温の上昇が続いています――』
 テレビを観るのが好きだったのは、まなとだった。この部屋にまなとがこなくなってからも、家にいるあいだテレビの電源を入れてしまう癖が抜けない。
 肌をくっつけていられるように、設定温度を低く、風量を強くしていた冷房もそのままになっていて、ひとりの部屋では、エアコンの風の涼しさも、音も、すべてが過剰だった。
 『なじょも』には、もうずいぶんいっていない。いつのまにかゴールデンウィークは終わって、いつのまにか日本じゅうが祝日を恋しく思う季節になった。
 ひとりでは手持ち無沙汰になる時間を、テレビ番組を見ることで埋めている。まなとがいないと、家に帰っても話をする相手がいない。連絡をとる相手もいない。スマートフォンでなにかを調べるモチベーションになるような理由も、対象も、ない。ほんとうにただの薄い板と化してしまったスマホは、それでもなんとなく充電ケーブルにつないで、電源を切らさないようにしてある。まなとから連絡がこないだろうか。そんな淡い期待が、おれの心臓を掴んで離さないせいだ。
 あの日、再会したまなとの形を思い出す。「かい」と名前を呼ばれた途端、懐かしい香りが鼻の奥に蘇った。まなとが好きだった、マリンの香水だった。
 雨の朝、だるい身体をベッドに沈めて、同じくだるそうなまなとの背に腕をまわしたこと。細い髪の毛に鼻先を埋めて、シャンプーとマリンが混ざった肌のにおいを嗅いだこと。セックスをして汗をかくと、そのにおいに少し苦さが加わること。
 キスをする直前、屈むようにして上目遣いで甘えてくること。二の腕の、太ももの、脇腹の、筋肉がない人間特有のうっすらとした脂肪のやわらかさ。繊細な顔立ちに似合わない、ごつごつした手や、栗色のまんまるな瞳。
 あれから毎日、こんなふうに生きている。「つらい」も「苦しい」も「死にたい」も「死ぬのがこわい」も「逃げてしまいたい」も、直面すれば動けなくなってしまうだけだから、ただ、目を背けるためだけに生きている。
 記憶の濁流に飲まれそうになって、缶チューハイをひと口呷る。大きく一度飲み込んだだけで、アルミ缶は空っぽになってしまった。そばに置いてあるスーパーの袋から新しい缶を取り出す。劣悪な酒を求める人間には向かない小さな飲み口から、どぽどぽと音を立てて液体を胃に流し込んだ。アルコールで正気が戻るわけないのに、やめるタイミングがわからない。
 すべてを忘れたい。すべてをなかったことにしたい。そう思うのに、頭のてっぺんから爪先までのぜんぶに、おれが見てきたこの世界のすべてが詰まっている。
「う……」
 急な眩暈と一緒に、込み上げる吐き気に襲われた。
 前屈みになって、喉奥を刺激する衝動に耐える。
 ――どうしたの? また気持ち悪くなった?
 冷たい手が背中に触れる。これはだれの手のひらだろう。わかっている。おれはこの手を知っている。でもその事実にも、目を向けたくない。
 吐きそうなときは迎え酒だと、幼い頃、親戚の集まりでだれかが言っていた。当時その言葉の意味すら理解できなかった子どもは今、記憶の隅に引っかかっていた戯言を信じて、吐き気ごとアルコールを飲み下す。買ってきたアルコール類は飲み切ってしまった。冷蔵庫のなかに、たしか缶が残っていたはずだ。
 床がふわふわしていて抜けそうだ。キッチンに入って、冷蔵庫を覗く。思ったとおり、二本だけ缶が残っていた。しかもアルコール度数は九パーセントだ。
「よし」
 なにがいいのかも判断できないけれど、口からはそんな言葉が漏れた。二本の缶を手に、リビングへ戻る。ほんの数歩の距離なのに、ふらついた足が、なにかに躓いた。「なんだよ」と声に出て、自分のつま先に当たっているものを見下ろそうとする。
 悪い予感がした。視線を下げてはいけない、このまま前を向いてテーブルに戻ればいい。
 やめろ、駄目だ、止まれ。
 願う頭とは裏腹に、反射的に動いた身体を制動することはできなかった。足の先にぶつかった、硬くて乾いた、紙の肌触り。
「……っ」
 それは、まなとから送られてきた荷物だった。なかには一体なにが入っているんだろう。気にならないわけじゃなかったけど、そこにあるのが復縁の印ではないことだけはわかっていたから、それは段ボールに包まれたまま、部屋の隅でほこりを被っている。
 ――このあいだは荷物ありがとう。おれもいろいろ送ったけど、要らなかったら捨てて。
 あれ以来一度も視界に入れていない文章を、だけどおれは一言一句間違えることなく思い出せた。簡単に「捨てて」と言ってしまえる記憶の重なり。おれとまなとが、ふたりで過ごした時間のすべて。それを、最初に捨てたのは、紛れもなくおれだった。同じ質量の想いを返してもらえるなんて、思うほうが間違っている。
 顔面が痛いほどぐしゃぐしゃに歪む。悪い予感が当たった。もう、堪えられなかった。
「うぁ……あぁ……」
 ずっと、まなとに会いたかった。まなとのいない人生を自分で選ぼうとしたことを後悔していた。まなとがいれば、おれの人生はもう一度生き返るかもしれない。意地を張らないで、素直になれば、まなとは戻ってきてくれるかもしれない。
 なのに。なのに。久しぶりに会ったまなとは、かつておれのなかに存在した、まなとの形をしていなかった。
 ――ちがう。
 変わったのは、おれだ。
 はじめてまなとに触れたときから、まなとの存在がパズルのピースみたいにぴったりハマる場所が自分のなかにあった。まなとがどんな形をしていても、受け入れられると思っていた場所だ。あのハンバーグ屋の前で、そのピースのための空白はもう、おれのなかから消えてしまったことに気づいた。顔を合わせれば心の奥底に触れられるだけの年月を、おれとまなとは過ごした。
 まなとのせいじゃない。結局、変わったのはまなとじゃなくて、まなとという自由な魂が綺麗にはまる形ではなくなったおれのほうだ。まなとは、もうおれのなかにいなかった。おれはもう、まなとのなかに、存在していなかった。
 視界が狭まる。思考が浅くなる。
 ああでも、明日もまた仕事へいかないと。最近は暑いから、寝る前にシャワーを浴びないと気持ち悪くて眠れない。だけど、浴室へ移動するだけの気力は、身体に残っていなかった。
 ヴー、ヴー、ヴー。床に置きっぱなしのスマホが震えている。おれのスマホが鳴るのはめずらしい。こんな時間に連絡してくるのは、どうせ地球の裏側からの詐欺電話かなんかだ。リビングの端に丸まって、うるさいバイブレーションが止まるのをじっと待つ。
 ヴー、ヴー、ヴー。
「……くそ」
 シャワーを浴びるついでだと言い聞かせて立ち上がる。通話を拒否するつもりで覗き込んだ画面には、『佐々木愛人』の文字が映っていた。

***

 金曜日。仕事帰りの格好のまま、ファミレスへと足を踏み入れる。スタッフに声をかけられるより先に、角の席に座るまなとが手を挙げたのが見えた。
「ありがと、きてくれて」
「いや」
 ソファに滑り込んだ途端、まなとが眉を下げて笑う。以前ならその申し訳なさそうな笑顔に軽口を叩けたのに、今は気の利いた台詞を返すことはできなかった。目的のない会議みたいに、ギクシャクした空気がテーブルの上に落ちる。
「この店、久しぶりにきたね」
「そう、だな」
 週末を迎えた街は騒々しくて、店内にもそれなりの客が入っていた。学生、親子連れ、社会人、ありとあらゆる属性のひとが、それぞれの四角いテーブルを囲んでいる。
「海、ここのハンバーグ好きだったよね。チープなのがうまいんだーって」
「言ってたな」
 このファミレスは、お互いの家の中間地点に位置していることもあって、よく夕飯を食べにきていた。客が多いわりにうるさすぎることもなく、他人の会話も耳に入ってこない適度な距離感があって、ふたりで入ってもひとの目を気にすることが少なかった店だった。
「ここなら、ゆっくり話ができるかなって。勝手に選んでごめんね」
 まなとにこの店を選ぶ理由を話したことはない。ないけれど、まなとはきっと、おれの気持ちに気づいていたんだと思う。そのことが酷くうれしくて、久しぶりに胸が躍る。
 だけど同時に、こうやって察することだけでお互いを理解して、わかった気になっていたことが、おれたちのあいだには山ほどあったのだろうと思い知らされる。
「――ごめん、あのあとすぐ連絡しなくて」
 まなとが何回めかの謝罪を口にした。突然はじめられた本題に、一瞬怯んでから答える。
「いや、おれこそ、逃げてごめん」
 どちらが悪いかなんて関係ない。おれたちはたぶん、どちらもが悪い。
「はは、やっぱりあれ逃げてたんだ」
「……ごめん」
 まなとにつられて、おれも頭を下げた。でもそれは、子どもが怒られているときのように、曖昧で不完全な謝り方だった。
「なんか頼む? それこそハンバーグとか」
「……じゃあ、コーヒーにする」
 まなとはさみしそうに笑って、「おれはアイスカフェオレー」とタッチパネルを操作した。
 窓の外には夕陽で焼かれた街が見えている。燃え上がるような見た目に、首筋から汗が流れるを感じた。肌に浮かんできたとたん、その水分が店内の冷房で温度を失う。すぐにやってきたホットコーヒーとアイスカフェオレに、ふたりで揃って口をつけた。
「海、痩せたな。ご飯ちゃんと食べてる?」
 テーブルに両肘を置いて、まなとがこちらを覗き見する。意図的に上目遣いにしてみせるまなとの癖に、ああ、懐かしいと思う。
「あんまり、かな」
 このところの食生活を思い出して、苦笑いを返す。プロテインと牛乳、アルコールと、あとはなんとなく目に入る、適当な店の適当な惣菜。いつだったか、飢えで死ぬのも悪くないと思ったことがあるけれど、実際常に栄養が足りていない身体で生きる世界は、死の恐怖と隣り合わせだった。
「そっか。……痩せたの、おれのせい?」
 まなとが首を傾ける。こてん、と音が鳴るような美しさで、首を傾げる。まなとの問いを、そのまま自分の心臓の真ん中に突き刺した。
 痩せた理由。食べられない理由。食べられていたはずのものを、避けている理由。
 まなとの仕草が見られなかったから、まなとの声が聞けなかったから、まなとと離れてしまったから。はじめはそれが「理由」だった。今でもそうだったなら、どれだけよかっただろう。
「……っ」
 言葉に詰まる。栗色をしたまなとの眼が、くるくると光った。
「はは、ちがうんだ。よかった」
 よかった、と笑うまなとの顔は、やっぱりこの世界で一番綺麗だった。この笑顔のそばにいられる人間は、きっとしあわせだ。それは、おれも知っているひとかもしれないけれど。
 ずい、とまなとがテーブルに身を乗り出す。半径一メートルだけに聞こえるように潜められた声は、きちんとおれの耳にも届いた。
「海、この前一緒だったの、付き合ってるひと?」
 その言葉が示す相手を思い浮かべる。まなとの発言におどろいて、素っ頓狂な声が出た。
「……っ、ちがう、そんなんじゃなくて」
 そう、そんなんじゃない。
「そういうんじゃ、なくて」
 霧崎さんは、そういうんじゃない。
 ピンポーン、と店内で音が響く。波が起こるように、伝票を持った客が次々と会計に立っていった。忙しない空気に、気が急く。
「なあ、まなと」
 伝えたいことがあった。まなとと離れた春。あの瞬間からはじまった空白の背景は、まだ夏に変わってはいない。おれたちの関係も、まだグラデーションの途中にある。まだやり直せる。また、一緒にいられる。
「こんなこと言われて困ると思うけど、おれは、まだ、まなとのこと」
 そこまでで言葉は途切れた。まなとが、アイスカフェオレに刺さったストローをおれの口に突っ込んだからだった。口を塞がれた勢いのままに、ストローでカフェオレを飲み込む。甘さはなくてミルキーな、コーヒーの味は少ししかしない、まなとの好みのカフェオレだ。
 懐かしい味に、視界がゆれる。その景色の真ん中で、蠱惑的な笑みを浮かべたまなとが首を振る。それは、否定を示す仕草だった。
「うん。おれも、海のこと、大好きだよ。たぶん、海が思ってるより、ずっと好きだ」
 唇からストローが離れていく。その先端を、まなとの指が弄んだ。
「海以上に好きになれるひとなんて、この先もういないと思う」
 まなとの視線がカフェオレの水面に落ちている。
 ああ、と心の隅でだれかが言った。まなとの話しぶりでわかる。ほんとうの終わりが、近づいてきている。
「……でも、この前ばったり会ったとき、ああ、もう、おれたち元には戻らないなって思った。いろいろ考えたけど、そう思った。海だってそうだろ」
 はじめてまなとのほうから突きつけられたノーだ。おれたちは長いあいだ、お互いのことをわかっているふりをしていた。だけどそうすることで見えていた映像は、間違いじゃない。
 おれたちは、お互いのことを、きちんと理解していた。言わなくてもわかる。知らなくても伝わる。最後の最後になって、それがわかった。
「……なあ、海。だめじゃないんだよ。だめって思ってるのは、海だけだよ」
 ずっと、これまでの人生の、ほとんどずっと。まなとが笑うと、それだけで、すべてが許されたような気がした。
「おれ以外のひとを好きになっても、いいんだよ。おれがいなくても、海はそのままじゃんか。臆病で、やさしくて、おれ以外興味なくて。でも、変わっていってもいいんだよ」
 つぶやいて、まなとは自分のカフェオレにガムシロップを入れた。
「おれ、海のこと、内に秘めてるところが好きだった。でも、海、ほんとは身体のなか、どろどろした気持ちでいっぱいじゃん。日本海みたいだって、おれずっと言ってたけど」
 まなとが思い出話をしている。まるで、おれたちふたりが過ごした時間の走馬灯を見せるみたいに。
「そういうの、海はおれには見せてくれなかった。それが、おれたちのすべてだよ」
 外からの夕陽と、真上からの暖色灯が、まなとのさらりとした肌を照らす。おれは、その彫刻みたいな美しい輪郭を、ただ、ただ視線でなぞった。
「おれたちが一緒にいた……十四年くらい? はは、長いね」
 そんな言葉では片付けられない。だけど、そんな言葉でしか表現できないほど、そこにはすべてがあった。
「無駄な時間なんて、一秒もなかった。おれにとって、それだけは事実だよ」
 なにも言えずにいるおれを、まなとはまた、困ったような笑みで見た。
 ガムシロップで甘みのついたカフェオレを、ストローで一気に飲み干す。
「海、駅まで送らせて。そこでさよならしよ」
 伝票を掴んで、まなとはそのままレジへと歩いていった。仕事帰りのファミレス。まなとのカフェオレと、おれのブラックコーヒー。先を歩くまなとの、長めの襟足。風に乗って、懐かしいマリンの香りがした。追いかけるように駅へ入って、滑り込んできた電車に乗る。横にはまなとがいて、電車の窓に映ったその姿を、眩しいものでも見るような気持ちで眺めた。
「海、送った荷物、開けた?」
「……いや」
「はは、絶対開けてないと思った」
 指の先が触れるくらいの距離にある。だけど、その肌が絡むことは、二度とない。
「いつか、大丈夫になったら開けて。そのまま捨てないでよ」
 いつもの路線で、いつもの光景が広がる。まるで少し前のおれたちに戻ったみたいで、でもおれたちはもう、絶対にここから先へ進むしかなかった。
 すぐに最寄りの駅に着く。おれが別れを告げた公園まで、歩いてほんのわずかだ。
 再現されそうなあの日に、足が震える。視界からいなくなってしまうのが怖くて、まなとの前を歩くことはできなかった。
「かーい」
 改札を通ったまなとが、くるり、と踵を返してまた笑う。
「あと一個だけ、報告」
 夕焼けの気配が残る空を背景に、まなとは、緊張しているように見えた。
「おれ、振られたよ。あいつに」
 あいつ。名前を聞かなくたってわかる。
 おれとまなととのあいだに、ずっと存在したあいつ。
 おれとまなととのあいだを、あっという間に離していったあいつ。
 夏目太一は、まなとしかいないおれの人生に、唯一存在しつづけた存在だった。
「好きな女の子がいるんだって」
 笑っちゃうよね。まなとがほんとうに、可笑しそうにうつむいた。まぶたに落ちるまつ毛の影を見て思う。まなとにもきっと、死にたかった夜がある。
「あいつとは、付き合わない。……でもそれは、海がいるからじゃない」
 おれがいるからじゃない。「さよならしよ」と言ったまなとの台詞が、急に現実味を帯びて目の前に迫ってくる。これは、本物のさよならだ。
「ずっと、おれのこと好きでいてくれてありがとう。海がいなかったら、たぶん、こんなにだれかを好きになれるって知らないままだった」
 昼の空気はもう残っていなかった。静かな街に、夜がやってくる。まなとが距離を詰めて、おれの指先を握った。
 綺麗な顔に似合わないごつごつした手は、やっぱりもう、一番近くにいてくれたときのまなとの肌とはちがう感触をしていた。
「……長い間、傷つけてごめん。言いたいことだけ勝手に言って、ごめん。でも、ほんとうに、海と会えて、一緒に生きてこられてよかった」
 それが何度めのごめんなのか、もうわからなかった。繋がれた指先が、するりと離れていく。
 たった今出てきたばかりの改札へ、まなとが向き直った。これが最後だ。くるりと振り向いたまなとは、おれの背後になにかを見つけて手を振った。
「海のこと、よろしくって伝えて」
 そのまま、その手のひらをおれに向ける。
「ばいばい、海。長いあいだずっと、ほんとうに、ありがとう」
 今まで見たなかで一番大人っぽい顔をして、まなとは笑った。
 一方的にまなとが話して、口を挟む勇気も、必要もなかった。おれたちはもう終わった。まなとはとっくに、その事実を受け入れている。おれが動けないでいるうちに、まなとはまた、ひとりで遠くへいってしまった。そのことが、ただ悲しくて、悔しい。
「……バイバイ、まなと」
 改札の向こうに消えていく後ろ姿に声をかける。聞こえないようにつぶやいたのに、まなとはちゃんと気づいて、また手を振ってくれた。節が目立つ手も、かつてキャメルのセーターをまとっていた身体も、まなとそのものだったけれど、何万回と触れた唇は「また明日」とは言ってはくれなかった。
 消えていった後ろ姿から目を引き剥がした。改札に背を向けて駅を出る。
「……こんなとこで、なにしてるんですか」
 まなとが手を振った相手。駅の外で立ちすくんでいたのは、霧崎さんだった。 
「……ごめん、待ち伏せして。話がしたかったんだけど、タイミング悪かったね」
 肩をすぼめて謝る霧崎さんは、めずらしく大人しかった。
 これまでの人生、まなとに救われて、まなとに許されて生きてきた。だからまなとが言うのなら、おれはもしかしたら、変われるのかもしれない。まだ、そんな未来は見えないけれど、いつか。そんな気がした。
「霧崎さん、時間あります?」
「え、うん。もちろん」
 戸惑った顔で霧崎さんがうなずく。この反応もめずらしい。薄暗い駅の入り口で見る霧崎さんの瞳は、さっき見た夕陽より綺麗な琥珀色をしていた。
 まなとの声がこだまする。だめじゃない。だめだと思ってるのは、海だけだよ。もらった勇気を、べつの言葉に乗せて口にした。
「霧崎さん、おれと、ハンバーグ食べませんか」

***

「ほんとに、ハンバーグ作るの?」
「はい」
 状況が飲み込めていない顔の霧崎さんを連れて、スーパーでひき肉とフライドオニオンを買った。そこでも霧崎さんは「え、作るの? ハンバーグを?」と聞いた。後ろから黙ってついてくるのをいいことに、霧崎さんの言葉はぜんぶ無視して、会計を済ませ、レジ袋を提げてマンションへ帰った。一瞬躊躇した霧崎さんを、無理やり部屋へと招き入れて。思えばそれは、前回まなとに会った日以来に、霧崎さんが家に上がった瞬間だった。
「作れるの?」
「今までも作ってたので、まあ」
 自分のテリトリーに入ると会話をしてもいい気分になるのは、なんだか恥ずかしかった。いちいち突っかかってくる霧崎さんをできるだけ視界に入れないように、料理に集中する。
 フライドオニオンと塩胡椒を入れて、ひき肉を捏ねる。つなぎとか、細かい調味料とか、そんなものは気にしない。今はとにかく、最短距離でハンバーグに辿り着きたい。
「真泉くん、最近『なじょも』にこないよね」
 リビングから声がする。霧崎さんは、リビングの端、キッチンのすぐ脇の床に居場所を見つけたらしい。姿は見えないけれど声が聞こえるのは、変な感じがした。
「……ちょっと、霧崎さんに会いたくなくて」
 顔が見えないと素直になれる経験は、過去にもあった。まなとと電話するとき、いつもは言えないような甘い台詞を何度も吐いた。今思えば幼い愛情表現だったけれど、あれをひとは青春と呼ぶのかもしれない。
「さっきのひと、『まなと』くんでしょ」
「はい」
 ビニール手袋をつけた手で、ボウルのなかの肉だねを掴んでは離し、離しては掴む。
「……より、戻した?」
 もう捏ねるのは十分だろう。二等分にしたハンバーグの赤ちゃんを、両手のあいだで整形していく。
「そんな未来は、きません」
 ぺち、ぺち。右手、左手、もう一度右手。ハンバーグが左右を行き来する。
「もう恋愛なんてしたくないんです」
 霧崎さんは黙って聞いている。耳を澄ましているのは、なんとなくわかった。
「しんどいばっかだし。いいことないし」
 おれが言葉を切っても、霧崎さんは声を出さなかった。冷蔵庫だけが低く唸る空間に落ちた沈黙を破って、霧崎さんが息を吸う音がした。
「そっか。おれは、真泉くんのこと、好きになっちゃったけど」
 ジュ。手のひらと同じ大きさのハンバーグを、熱したフライパンに入れる。肉の焼ける音で、急に部屋のなかが騒がしくなった。一瞬前に聞こえた言葉を無視して、ハンバーグに火を入れ続ける。
 心臓は、馬鹿みたいに暴れていた。
 フライパンに蓋をして、コンロの前でじっとそのときを待つ。霧崎さんも、気配さえしないくらい静かだった。首を伸ばして気配を探ったら、スーツの足先が見えてほっとする。
 それは、何分くらいの時間だっただろう。ハンバーグに火が通ったのがわかって、ガスを止める。
「できた?」
「はい」
 換気扇をつけてはいても、部屋はすっかり湿度が上がって、蒸し暑いくらいになっていた。霧崎さんの足をまたぐようにして、ベランダの窓を開ける。
 室内は暑くても、外からの空気はひんやりとしていて気持ちよかった。遮光のカーテンが揺れるたび、夜の風が部屋に残った熱気を冷ましていく。
「もう食べる?」
「はは、はい」
 子どもみたいに問いを繰り返すのがかわいくて、思わず笑いがこぼれた。霧崎さんもうれしそうに笑って、硬かった空気がふわりと緩む。フライパンから取り出した茶色の塊を皿に乗せて、冷蔵庫で眠っていたケチャップをかけた。白米も、パンも、付け合わせも、サラダもない。幼稚園児が描いた絵みたいな、シンプルなハンバーグの乗った皿を、ローテーブルに置く。近寄ってきた霧崎さんは、背中を丸めてなにかを抱えていた。
「霧崎さん、なに持ってるんですか」
「うん? これ」
 両手で大事そうに掲げられたのは、見覚えのある茶色い箱だった。
「『まなと』くんからのプレゼント」
 それは、一度つまずいて以来、部屋のさらに隅のほうへと押しやっていた、まなとからの荷物だった。
 さあ、とひと際強い風が吹いて、マンションの下を走る車の気配が侵入してくる。ひやりとした他人の空気に、今度は乾いた笑いがこぼれた。
「……プレゼントじゃないですよ。不要なもの送ってきただけです」
 うーん、とひとりで唸りながら、霧崎さんが首を傾ける。
「でも、『まなと』くんて、そういうひとじゃないでしょ」
 霧崎さんになにがわかるのだろう。まなとのことなんて、顔と声しか知らないくせに。あいつがどれだけズルくて、やさしくて、愛おしくて、悪魔みたいか、なんにも知らないくせに。
 視線を反らしても、霧崎さんは諦めなかった。耐えかねて横目で見たおれに、ずい、と、もう一度箱を差し出す。
「ほら、開けてみな。おれも一緒に見ててあげるから」
 すぐには答えられなかった。手を取られて、箱へと導かれる。中身を見たい自分と、開封しなければ自分たちの関係はまだ終わらないんじゃないかと思う自分とが喧嘩して、指先が震えた。戸棚からカッターを取り出して、箱に突き立てる。それは、まるで自分の身体に刃を入れるみたいに、痛みを伴った。
「――オーバーナイターだ」
 霧崎さんが口にする。封を切って、蓋を開けて。見えたのは、黒くてしっかりとした造りの革製品だった。小さなメッセージカードが入っているのを見つけた霧崎さんが、もう一回「ほら」とおれに笑う。
『海へ たまたま見つけたからあげる。要らなかったら捨てて。おれがいなくても、眼鏡ちゃんとケアするんだよ』
 文章の意味を理解するまで、一瞬間があった。何度も頭のなかで反芻した「捨てて」の文字が、まなとの丸い文字で上書きされて、温度を持つ。
 急に、ぼやけていた思考がクリアになる。それまで景色に同化していた眼鏡の汚れが、現実のものとしてリアルに見えた。
 まなとの、こういうところが好きだった。ズルくて、やさしくて、愛おしくて、悪魔みたいで。いつだって、自分を大事にできないおれのことを、一番に大切にしてくれた。おれからの好意を全力で返そうとしてくれるところが、大好きだった。生きている意味で、生きていく理由だった。だけど、まなとがいなくても、おれは生きていけるんだ。今までも、これからも。
「うあ、あ、ああ、ああ……っ」
 涙が止まらない。声が漏れる。あの手を離した日より、もっと。人生のどの瞬間より、ずっと。苦しくて悲しくて、思わず胸の辺りを掴んだけれど、触れるのは服の生地だけだった。この手のひらが、まなとの肌に触れることはもうない。今、それを受け入れている自分がいる。
 今日のこの日まで、まなとがいたから生きていた。この先も、まだ、ほんの少しだけ、あるいは先の未来まで、おれはまなとを頼りに生きていく。なにより、自分より大切なひと。たぶんこれからも変わらず、おれのなかの一番のひと。
 さよなら。何度も追いかけた背中に、心のなかでつぶやく。
 ありがとう。おれを、おれでいさせてくれて。おれをここまで連れてきてくれて。おれがこれから生きていく勇気をくれて。ずっと忘れられない思い出をくれて。
「……真泉くんは、ほんとに泣き虫だね」
 背中に冷たい手が触れた。その温度が、ほんとうはあたたかいものだと、おれはもう知っている。ひとは、変わっていく。いい方向にも、悪い方向にも、変わっていける。
「いっぱい泣きな。大丈夫。いつかきっと、大丈夫になる」
 ――思う存分泣きな。ずっと泣いてたら、いつのまにか笑顔になる。
 ――真泉くんのこと、おれはよく見てるから。
 ――また明日ね。
 桜が咲いて、散って、夏がこようとしていて。そのあいだずっと背中を撫でてくれたのは、ほかでもない、霧崎さんだった。霧崎さんの手のひらと、おれの背中がくっつきそうになる。
 離れがたいな、と思った自分におどろいて身じろぎをしたところで、霧崎さんが「さっ。せっかく作ってくれたハンバーグ、食べよっか」とテーブルについた。
 冷めたハンバーグは、さらに茶色の塊としての存在感を放っている。皿の上にふたつ乗ったそれを見て、霧崎さんはひとしきり笑って、その発作が治まるまでに、ハンバーグはまたさらに温度を失ったように見えた。
「適当なわりに、結構うまく作れましたね」
 もさもさで、ぱさぱさ。あの店で食べられるはずだったハンバーグとは似ても似つかないけれど、それはたしかにハンバーグだった。
「ほんと、おいしそうに食べるね」
 テーブルに頬杖をついて、霧崎さんは緩みきった顔でおれを眺めている。
「……すみません」
「なんで謝るの?」
「……なんとなく」
「はは、そういうところ、好きだなって思うよ」
 霧崎さんが、箸で皿に残ったケチャップの痕をなぞる。その箸は、長いあいだ、まなとが使っていたものだった。
「臆病で、繊細で、そのわりに言いたいことはちゃんと言う。アンバランスだよね、きみ」
 好き、という言葉を口にしてから、霧崎さんは表情がやわらかくなった。この顔に、おれは見覚えがある。
 まなとを目の前にしていたときの、おれの顔と一緒だ。
「……真泉くんを最初に見たとき、眼が真っ赤だった。ひと晩じゅう泣いてたひとの眼だって、すぐわかった」
 琥珀色の瞳がじっとこちらを見ている。この眼も、涙で満ちることがあるのだろうか。こんなに綺麗な瞳が、哀しみに埋もれる日があるのだろうか。
 そういう瞬間があるなら、そのときは一緒に酒を飲みたい。今はそんなふうに思う。
「ムカついたんだ。こんな顔して仕事いって、この世で一番自分がかわいそうって思ってるんだなって。酒飲めないのに深酒してバカだなって。だけどきみ、食べものの趣味が子どもっぽいでしょ」
 おれから視線をぱ、と外して、また皿の上のケチャップをもてあそぶ。うつむいたその鼻筋が真っ直ぐに通っていて、彫刻みたいだ、と思った。
「それでほんとに、子どもみたいに泣くんだよ。見た目と行動のギャップにやられちゃった」
 下から掬い上げるように視線が送られる。目が合った瞬間、霧崎さんは恥ずかしそうに、ふふ、と笑った。
「だから、またきみとご飯を食べられてよかった」
「はい」
 霧崎さんに皿を洗ってもらって、風呂に入る。浴室から帰ってきたとき、ソファに霧崎さんの姿があって、一気に肩の力が抜けた。追い立てられるようにひとりベッドに入って、布団をかぶる。ベッドの端に腰かけた霧崎さんが、そっとおれの額を撫でた。
「眼鏡、綺麗にした?」
「……しました」
「まなとくんの言うこと、ちゃんと守らないとね」
「……はい」
「ふふ、眠い?」
「……はい」
「今日はもう寝な。いろいろあったもんね」
「……はい」
「また明日ね。あの店で、おれはずっと待ってるから」
 最後に額になにかが触れて、霧崎さんはそっと離れていった。布団のなかで、深く、ふかく息を吸う。この部屋ではじめて嗅いだウッドの香り。このにおいを、ずっと前から知っていた気がする。その香りは、どんなに洗っても掃除しても消えなかったマリンのにおいと混ざって、全身から力みという力みすべてを奪う。深い、ふかい眠りに落ちたのは、ほんとうに久しぶりのことだった。 
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