オレンジ

ユウキ カノ

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オレンジ -プロローグ-

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 地面をやさしく叩く雨音が図書室のなかにこだましていた。
 図書室にいるのは、ぼく以外には数人だけだった。卒業式が終わり、来週になれば入試のために中学生で埋め尽くされる校舎に、そもそも生徒の姿はすくなかった。部活も休みで、放課後に学校に縛られる必要がないのだから、みんなどこかへあそびにいっている。
 彼らは、彼らの物語の主人公なのだとぼくは思う。自分は主人公なのだという、たしかな自覚を持っていなければ、あんなふうに振る舞うことはできない。図書館でひとり課題を片づけるぼくは、だから彼らとはちがう世界に生きている。
 そうだ。ちがう世界に生きているから、あの栗色の瞳は、ぼくのことを見はしない。
 視線を上げると、窓の外は灰色のベールをかぶせたみたいにワントーン暗くなっていた。いつのまにか図書室に残る最後のひとりになってしまったらしい。駅へと向かうバスは、きっといつも以上に空いている。人生の主人公たちに混じって、脇役のぼくがひっそりと息を潜める必要もない。
 机に並べていた教科書やペンケースをリュックにしまって、だれかの気配すら感じない階段を降り、靴を履き替えて校舎を出る。透明な傘越しに見る空は、闇よりすこし明るい。
 学校前のバス停に立つ、錆びて赤茶に染まった時刻表を眺めて、ふ、とため息をついた。案の定、バス停にはだれもいなかった。市街地の端に建つこの高校から一番近い駅のほうへ向かうと、徐々に田畑が増えてくる。反対の方向へいけば、商業施設と住宅が混在する場所へ出て、各地へつながる高速道路やバイパスにもすぐに乗れる。
 都会ではないけれど、田舎と聞いたときに想像するような、農村の風景とは無縁の、中途半端な地方都市が、ぼくの生まれ育った土地だった。新年度からの時刻表改訂を知らせる貼り紙が、雨に耐えながら揺れている。
 春らしい細かい水の粒が、傘の上で不規則なリズムを刻んでいた。グレーの世界で、雨に濡れたアスファルトだけが真っ黒に光っている。落ちていた小石をつま先で弄びながら、走りたい、と思う。ぼろぼろのスニーカーじゃなく、足先をぴったりと包むスパイクを身につけて、風を切って。練習のとき、必ずそこにあった栗色の瞳を感じながら、走りたい。
 ふ、と唇の端が上がる。落ちてくる雨粒のひとつを意図して掴むことができないように、あのまなざしの前で走ることは、ぼくの人生には一度としてなかったからだ。
 灰色の空を仰いで、もう二度と戻ってこない時間に思いを馳せる。傘のビニール越しに、信号で停まる車のテールランプが光っていた。水滴に反射する赤いひかりがきれいだな、と思う。雨音、エンジン、街の喧騒と、静寂の音。そこに、ぴちゃ、と水溜まりを蹴る音がした。キャメルのセーターが見えるのと、聞き覚えのある声がしたのは同時だった。
「あれ、めずらしいな」
 どくん、と心臓が跳ねた。誇張ではなく、ほんとうに、跳ねた。
 自分の身体じゃないみたいだ。ぎこちない動きで、声のするほうを向く。
「……先輩こそ」
 そう声に出すのが精いっぱいだった。顔が見れない。どんどん指先が冷たくなっていく。今まで、どんなふうにこのひとと話していたっけ。働かない頭で必死に記憶をたぐり寄せながら、二の句を継ぐ。
「卒業したのに、まだ学校にくるんですか」
 なんとか絞りだした台詞は、そんな憎まれ口だった。いつも、いつもそうだ。ほんとうに言いたいのは、ほんとうに伝えたかったのは、こんな言葉じゃなかったのに。
 勇気を振り絞って、ちら、と視線を上げる。
 つい先日の卒業式で、もう二度と会うことはないと、「さようなら」も言わずに見送ったひとだった。手のひらまで覆い隠すキャメルの袖を見せながら、突然現れた佐々木先輩が笑う。その微笑みの真意が読めないのは変わらない。当たり前だ。卒業式をしてから、まだ数日しか経っていないのだから。
「うん、小論文みてもらってた」
 久しぶりだな、と先輩がとなりに立つ。濃厚な雨のにおいの向こうに、胸のあたりがざわざわする洗剤の甘い香りが漂ってきて、めまいがした。
「お前は? めずらしいよね、バス乗るの」
 傘を覗きこむように先輩が腰を折る。栗色の瞳を見あげながら、このひとより一ミリでもいいから身長が高かったらよかったのにと、何度も考えたことを思いだす。
「……雨なのと、なんかだるくて」
 普段、ぼくは駅と学校を歩いて往復していた。入学以来二年間ずっと、駅から高校までの三十分を歩いている。「脇役」は、「主役」ばかりが詰めこまれた空間にいると息ができなくなるのだ。酸素の供給は、神さまによって優先順位が決まっている。
「はは、まだ若いだろ、歩きなよ」
 そう言って、先輩は長い脚でぼくの足元を軽く蹴る。そうだ、こういう戯れが好きなひとだった。押し込めたはずの記憶の欠片が、蓋をこじ開けて飛び出してくる。
「やめてください、濡れます。若いって、年ひとつしかちがわないじゃないですか」
「まあ、そうだけどさ」
 先輩が、ふふ、と肩を揺らして笑う。辺りは真っ暗なのに、傘越しに空を見あげる先輩は、薄闇のなかできらきらと光っていた。このひとが機嫌を損ねているところを、ぼくは一度たりとも見たことがない。だけど、こんなにうれしそうな先輩も見たことがなかった。
 冷たくはないし、熱くもない。ぬるま湯のようで、そばにいるのが心地いいと思っているうちに、手のひらをするりと抜けてしまう。佐々木先輩は、そういうひとだったはずだ。
 一〇〇メートルを走り抜けた直後のように心臓が暴れている。混ぜこぜになった緊張と興奮と期待とが、全身の血管を駆け巡っていた。
 ――もしかして。そんな都合のいい考えが頭をもたげる。
 もしかして、先輩もこの再会に、なにかを感じてくれているのだろうか。
 その瞬間、瞳に熱がこもったのが自分でもわかった。おれの視線に気づいた先輩が、首を傾げる。
「なに?」
「い、いえ」
 へんなやつ、と言って、また先輩が笑う。そのまぶしさに耐えきれず、下を向いた。このひとが笑うと、すべてがどうでもよくなる。足もとで徐々に大きくなっていく水溜まりがスニーカーを濡らしていることも、湿気を帯びた制服が冷たくても重いことも、目の前のひとが「主役」で、自分は「脇役」なのだということも。
 不思議なちからを持っている笑顔が、今こうしてぼくに向けられている。その異常さに、まだ頭が混乱していた。地面にできる雨の波紋を見つめているふりをしながら、ふわふわ揺れるキャメルの袖を目の端で捉え続けていた。
「バスきたよ」
 先輩の声に顔を上げる。細い雨のあいだを縫って、武骨で古めかしいバスがやってきていた。ぷしゅ、と空気の抜ける音がして、乗車口が開く。先輩の背を追うように乗りこんだ車内は、予想どおりだれもいなかった。
 ひとりがけ席がたくさんあるタイプの車両だ。軽やかな足取りで、先輩はバスのなかをぐんぐん進んでいく。
 どこにだって座り放題のこの状況で、なぜか目の前のひとは、ふたりがけの席の奥へと腰かけた。立っていれば見あげる位置にあるはずの栗色の瞳が、ぼくの胸のあたりの高さからこちらを見る。上目遣いの甘さに、どくん、と胸が鳴った。
「ほら、おいで」
 ひどく、やさしい声だった。やわらかくほほえみながら、先輩がぽんぽんと座席を叩く。普段の立ち姿や振る舞いのしなやかさとは真逆の印象を受けるその筋張った硬そうな手が、ぼくのために使われている。
「え、と」
 先輩の意図が読めずに立ち尽くす。冗談なのか、本気なのか、それさえ見極められない。
『お客さま、おかけください。発車します』
 マイクを通して運転手の声が促す。それでも動けないままのぼくは、バスが動きだした勢いで足もとがふらついて、先輩のとなりにすべりこんだ。
 ぼくたち以外だれも乗っていないバスの後ろ、ふたりがけの席。高校生にもなった男がふたりで座るにはすこし狭くて、脚と肩が、ぴったりとくっついた。通路側の手すりにぶらさげた二本の傘が、バスの動きに合わせてゆらゆら揺れる。
 夜へ続く国道を、車内灯をつけたバスが駆けていく。窓の縁に肘をついて、カバンを膝に乗せた先輩はじっと外を眺めていた。真上からの明かりが、その横顔に影を落とす。ぼくがとなりにいることなんて忘れてしまったみたいに、穏やかでうつくしい横顔だった。
 こんなに近づいたら、息が止まってしまうんじゃないか。腰をおろす前はそう覚悟したのに、どうしてだろう、いざとなりに座ってみると、不思議なくらい落ち着いている自分がいた。それどころか、制服越しに伝わる熱に、心地よささえ感じている。
 先輩がいる。遠くではなく、どこかではなく、となりにいる。その体温を、ぼくに預けてくれている。ずっと、ずっと願っていたことが、現実になっていた。このままじゃ脳みそが沸騰したっておかしくないのに、そうならないのが不思議だ。
 高校生になってからの二年間、ぼくの存在なんて目に入っていなくても、先輩が近くにいることがうれしかった。言葉を求めているわけじゃない。こちらを見てほしいわけでもない。ただ先輩がそこにいてくれるだけで、ほかにはなにもいらない。
 たとえ先輩のとなりに、あのひとがいたとしても。
 だって、そうだ、そんなの考えるまでもない。ぼくが先輩の熱を感じることができるのは今だけ。主役と脇役が交わることはないとわかっている。自覚していて当然だ。
 でもその当然を乗り越えて、浮き足立つ自分がいるのもまた、当たり前なんだろうか。
 バスが発するエンジンの唸りのなかで、ぼくたちはひとことも言葉を交わさなかった。車窓をくもらせる先輩の呼吸と、そっとくり返すぼくの呼吸とが、だんだん同じリズムを刻んでいく。普段よりすこし浅くて、すこし速いそのテンポが、車体を打つ雨粒と合わせて音楽を奏でているような錯覚さえ覚える。
 これまで生きてきて出会った人間が、みんなぼくの世界から消えてしまったみたいだ。制服を隔てて触れあった肌から、先輩の体温を感じる。あたたかくて、ほんのわずか洗剤のいい香りがして。爪の先から髪の毛の一本一本まで、ぼくの身体を先輩が満たしていた。
 薄暗い春の夕闇を走る、光る箱のなかで、ぼくらはふたりきりだった。
 時間にしてしまえば、ほんの数分。けれど駅に着くまでのその短い時間を、ぼくは永遠のように感じていた。
 終わらないで、と願うことすら許されなかった。このバスを降りてしまったら、今度こそほんとうに、このひとと会うことはないだろう。先輩は主役としての人生を『あのひと』の横で過ごしていく。その暮らしを知らないふりしたぼくは、脇役として、ひっそりと、息をひそめるように日々を生きていくだけだ。
 それだけ。それだけなのに、どうしてこんなにもさびしいんだろう。
 すべてが終わる。ぼくが高校に入ってからのぜんぶが、砂埃のグラウンドで追いかけた時間のぜんぶが、まるごと過去のものになる。
 それは嫌だ。なにか、なにか言わなければ。
「あの、」
 声を絞りだした瞬間、車内アナウンスが目的地の駅名を告げる。半身にくっついていた身体がすっと動いて、降車ボタンを押した。
「……なに?」
 一気にオレンジに染まった車内の降車ボタンが、赤信号に見えた。となりに座ってからはじめてこちらを見た先輩の目を、ぼくは見返すことができなかった。
 なにを言おうとしたんだろう。この瞬間を繋ぎ留めることができる夢みたいな言葉が、ぼくのなかに存在するはずもないのに。
「……なんでもないです」
 そっか、とつぶやいて、先輩はカバンから財布を取りだした。ならうように定期券を手にしたところで、バスが停まる。
 席を立ち、かけてあった傘を手渡す。一歩下がったぼくを見て、先輩が前に進み出た。
 細い背を丸めて財布を探る背中を見て、先輩が持っていたはずの定期券はもう、期限が切れているのだと知る。長距離を無理なペースで走ったときのように、胸のあたりがギリギリと軋んで音を立てた。
「やば、十円足りない」
 キャメルのセーターによく似合う薄茶色のえりあしが、焦ったように肩の上で揺らめく。グラウンドの砂埃の向こうにいつも探していたこの後姿を、近くでずっと見ていたい。
 でも、その願いは叶わないことを知っている。
「あげますよ」
 十円玉を一枚手のひらに乗せて、先輩に差しだす。ぱ、と振り向いた栗色の瞳が、田舎のバスに不釣り合いなほど繊細な形でほほえんだ。
「ありがと」
 貸しますよ、とは言えなかった。刻一刻と近づいてくるお別れの時間が、その言葉を紡ぐことをよしとしない。先輩と会うのは、今日が最後だ。
「よっと」
 勢いをつけて、先輩はバスのステップをふわりと降りた。「急げ急げ」。駅舎に入るまでの短い距離を、傘もささずに走り抜ける背中を追いかける。本気を出せば簡単に追い抜けるのに、手を伸ばせば触れてしまえそうなのに、ぼくはそうはしなかった。
 ただ見ているだけでよかった。後姿を見つめていられれば、それで十分。そう感じるこの一瞬が、まるでぼくらの二年間を表しているみたいで、吐息が熱くなる。
「……やっぱいいやつだな、おまえ」
 駅舎の庇の下で立ち止まった先輩のとなりに並んで、同じように空を見あげる。濡れた髪を指先で直しながら、先輩が笑った。ぼろぼろの駅舎を背にして、蜘蛛の巣がぶら下がる蛍光灯に照らされているだけなのに、すごく、すごくきれいな横顔だった。
 ずっと、ずっと見ていた。二年間、ほとんど毎日近くで過ごしていたのに、連絡先を訊くことすら、進学先を尋ねることすら、できなかった。
 先輩と出会ってから、どれくらいの会話をしただろう。今日で最後。これが最後。それをわかっていても、唇は言うことを聞かない。話したいことはたくさんあった。今それを口にすることができていたら、ぼくはこんなにも虚しい二年間を過ごさずにいられたはずで、だからこの瞬間に動きだせないという事実そのものが、ぼくと先輩のすべてだった。
『――まもなく、一番線に、列車が参ります』
 ホームからアナウンスが聞こえた。機械の音声が、先輩が乗る電車の到来を告げる。
「おれ、もう電車くるから」
「そう、ですね」
 電車がくるのに、先輩はそこから動こうとしない。唾を飲みこむのすら躊躇ってしまう沈黙が、ふたりのあいだに落ちた。視線だけを動かして、袖が伸びたキャメルのセーターを心に刻みつける。先輩があのひとに手を振るたび見えた、その色を忘れないように。
 早くいったほうがいいんじゃないですか。そう口を開こうとした寸前、となりで小さな「よし」という声が聞こえた。それが、合図になった。
「じゃあね」
「……はい、さようなら」
 振り向いた笑顔にカチコチの表情筋を精いっぱい動かしてほほえみ返す。うまく笑えている自信はなかった。ぼくのこの変な笑い顔が、先輩の記憶に残るのかと思うと、無表情で過ごしている自分の日々の生活が恨めしくなる。
 そこまで考えて、だけど、と思い至る。
 今日のことを、先輩はすぐに忘れるだろう。あたたかいわけでも、寒いわけでも、晴れているわけでも、雪が降っているわけでもなかった今日のことを。
 でもぼくは、きっと忘れない。まだ浅い春の日、最後に思い出をもらったことを、忘れはしない。その想いを込めて、改札を抜けて遠ざかっていく背中を、未練がましく見ていた。
 突然、先輩が立ち止まって、くるりと振り向く。一方的に見つめていた視線が、いきなり受け止められたことに動揺する。いつでもまぶしかった笑顔を浮かべながら、先輩は腕を伸ばして手を振った。
「またな! 十円ぜったい返すから!」
 大きな声で叫んで、そのひとは電車のなかへと消えていった。
 手を振りかえすことはできなかった。息をすることも忘れてその場に立ち尽くす。どうしてか、今すぐ大声を上げて泣いてしまいたかった。
 うれしい。さみしい。つらい。うれしい。十七年間の人生で得てきた言葉だけではとても表せない感情が、次からつぎへと溢れてくる。人生の主役は、いつもこんな渦のなかにいるのだろうか。
『またな』。先輩の声が耳にこだまする。
 約束ほどたしかなものじゃない。社交辞令かもしれない。それでもそのひとことが、胸のなかにそっと居場所を見つけたのがわかる。さっきまでぬくもりを感じていた肩と脚が、夕方の風に吹かれて冷えていった。
 卒業式の日には言えなかった「さようなら」は、ぼくのなかにある先輩の形を、より一層濃くした。目を閉じて、その輪郭をなぞる。夜へ移りゆく世界の空気に背を向けて、先輩が乗ったのとは反対の方向へ走る電車へと足を踏みいれた。
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