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9.佐々木愛人
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帰省するのか、あるいは新天地へ向かうんだろうか。新幹線を待つ駅のホームには大きな荷物を持った若者の姿が並んでいた。薄暗い新幹線ホームで、希望に満ちたその背中だけが、きらきらと光ってまぶしい。
地元に向かう新幹線に乗るのは、何年ぶりのことだろう。トンネルばかりで、電波が入らない場所のほうが圧倒的に多い、田舎に向かうにはお似合いの乗りもの。大学を卒業するまでは、必死にバイトをして、長細い車体に毎月のように駆けこんでいた。
『いまたかさき』
電波が途切れてメールが届かなくなってしまうことにびくびくしながら、すこしでも急ぐために、漢字に変換することすら諦めて文字を打った。送る相手は、いつも、たったひとりだった。
あのころは、地元ゆき新幹線の時刻表を、朝から晩まで完璧に覚えていた。何時に東京を出て、何時に地元に着くか。始発、最終は何時か。地元を出たあと、東京に着いてバイトに向かうまでのあいだ、何時間寝られるかも、頭に入っていた。
一週間前、帰省しようと思い立った。久しぶりに見た新幹線の時刻表は、記憶よりずっと数字の間隔が広くなっていた。そんなことも知らないくらい長い年月が経っていたこと、そしてその長いあいだ、新幹線に乗る必要がなかった「理由」に思考がたどりついて、思わず目を閉じる。
大切に、ずっとずっと、なによりも大切にしてきたひとだった。「海」と、その名前を呼ぶのが好きだった。「まなと」と、まるい声で呼ばれるのが、大好きだった。
『家にあったものを送ります』
そんな短い手紙が、海と最後に会ってからしばらくして届いた荷物に添えられていた。筆圧の低い、神経質そうな文字から、だけど大好きな声は聞こえてこなかった。
会いにいくことだってできた。仕事先も、電話番号も、何千回と通ったマンションも、きっと海は変えないだろう。そういう予感があった。だからひょっこりと、まるであの夜になにもなかったみたいに、顔を見せることだってできた。
でも、おれはできなかった。
去っていった海を追いかけて、その先に待っているのはたぶん、これまでとなにひとつ変わらない毎日にちがいない。それを海は「もうむりだ」と言った。
新幹線が長いトンネルに入って、窓の外が真っ暗になる。山を下っているのか登っているのか、耳の奥がキン、と痛んだ。唾を飲みこんでも、その痛みがなんとなく消えない。
海に別れを告げられてから、毎日考えていた。考えるために必要な時間は、余るほどあった。暮らしのすべてが海を中心にまわっていることに気づいていたつもりだったのに、失ってからはじめて、海がいない自分の人生のほんとうの空虚さを知った。
トンネルを抜けて見えた雪国の浅い春には、もう桜が咲きはじめた東京とはちがって、まだすこし冬の気配が残っていた。山のうえに見える白い雪の影を見て、なつかしさで胸が震える。
――海といっしょに暮らせるなら戻ってきてもいいかも。
そんな台詞を、甘い時間を過ごしながら吐いたことを覚えている。だけど結局、その未来は実現しなかった。
おれは、馬鹿だ。どうしようもない馬鹿だから、なんのあてもなく、故郷に向かう新幹線に乗ってしまった。帰ることは、家族にも知らせていなかった。
「あなたはほんとうに自由ね」、と、いつか母は電話口で言った。自由でいることを許されたようにも、勝手にしろと諦められたようにも、どちらとも取れる言い方だった。実際、かあさんはいろんな言葉を飲みこんでくれたのだと思う。実家からのおれへの干渉は、社会人になってしばらくしたあと、ぱったりなくなった。
海と、海の実家との関係は、おれのそれとはちがった。だから、海が帰らないのなら、おれも帰らないと誓っていた。それがおれの信念だった。
でも、今は思う。逃げる手を取るのではなく、「自由」になれない海を、解放してやれたらよかった。
「――はは」
会わなくなってずいぶん経つのに、おれの頭のなかは今でも、海のことばっかりだ。
おかしくて、自分でも笑ってしまう。ペットボトルに口をつけながら、となりに座るスーツの乗客に気づかれないように、唇を歪めて笑う。
終点に向かってどんどん車内が空いていく。かつて海に会うために飛び乗った新幹線は、こんなに早くおれをこの地に運んでくれなかった。二時間足らずで着いてしまう場所を、あまりにも恋しく、あまりにも遠く感じていた。距離も、この乗りものが走るスピードも、なにひとつ変わっていないのに。
変わったのは、待っていてくれるひとがいるかどうかだけだ。
「――まもなく、終点です」
アナウンスが聞こえて、車内がざわざわと動きだす。空気が抜けるような独特な音とともに、新幹線が止まった。ホームに降りた瞬間、なつかしさで鼻の奥がツンとする。浅い春のひんやりした空気も、鼻の頭を刺激した。壁の向こうに見えるのは、たしかにおれが生まれ育った街だった。
この街で、海と出会った。海と学生時代を過ごした。海のことが、たまらなく好きだった。だけど、おれがこの街に返ってきたのは、海のためじゃない。
「……ほんと、最低だな、おれ」
つぶやいた声は、たくさんのひとがあふれるホームの雑踏のなかで、おれの耳にだけ届いて消えた。
新幹線が停まる駅からさらに北。電車に乗って三十分。
久しぶりに降り立った小さな駅は、あいかわらず古く、あいかわらず地味だった。駅員もいない。改札もない。稲刈りが終わったまま冬を越えた田んぼのまんなかに建つ、ぼろぼろの駅舎を見あげる。
あの日は、そうだ、雨が降っていた。雨どいを伝って屋根から滴り落ちた雨が、駅に駆けこんでいくおれの首に当たったのを覚えている。この駅を使ったのは、あの雨の日のあと、大学に合格したことを報告にきた以来だ。
目の前のバス停に掲げてある時刻表に近づく。時計を確認して、もう一度時刻表に目をこらすと、そこには数分前にバスがここを通る予定だと書かれていた。でも、と顔をあげて、道路の向こうを覗きこむ。やっぱりだ。ゆっくり、ゆっくりと、昔と変わらないようすで、ぼろぼろのバスがやってくる。この街のバスが時間どおりにやってこないのは、今も同じらしい。
「はは、ラッキー」
ぷしゅ、と開いたドアの勢いそのままに、ステップに足をかける。春休みの真昼、車内にはおれのほかに高校生がふたりしかいない。前のほうに座っている彼らからいちばん遠い後ろの席に座って、足を組んだ。
部活のジャージだろうか、おそろいの服を着て、同乗者の男子高校生たちは黙って並んでいた。スマートフォンを手にして、イヤホンをつけながら指を動かしているところを見ると、画面の中身はゲームだろうか。ときどき顔を合わせて笑って、また画面に目を向けている。
彼らがどんな気持ちで、あの小さなふたりがけの席に身体を押しこんでいるのかはわからない。だけど、ひとつだけおれに理解できることがある。
この一瞬が、今まさにこのときにしか存在しないこと。それを彼らは知る由もないこと。ぴったりとくっついた肩のやわらかさを見れば、彼らがお互いを受け入れているのはあきらかだった。何年もこのバスを使ってきたひとの気配が染みついた車内に、ふたりだけの空間がたしかにあった。
「次は――高校前でございます」
おれが動く前に、高校生たちが降車ボタンを押す。やっぱり後輩だったらしい。見たことのないジャージ姿に、あれからずいぶん時が経ったことを、改めて実感する。
バスが停まって、前方のドアが開く。瞬間、真っ赤に光っていた車内じゅうの降車ボタンの明かりが、ふっと消えた。
久しぶりに乗ったバスは、いつのまにかICカードでも支払いができるようになっていた。同じ車両に乗った高校生たちが、ピッと音を立ててバスから降りていく。
「ありがとうございました」
二一〇円の料金を、箱のなかに入れる。おれが高校生だったときから、料金は数十円値上げされている、と思う。学生時代は定期券で過ごしていたから、きちんとした数字は覚えていないし、たぶん、当時もよく知らなかった。だからこそ、卒業して定期が切れていたあの春の日、おれは小銭を持っていなかった。
校門前にあるバス停から、コンクリートで固められた三階建ての校舎を見あげる。どこかからか聞こえる楽器の音や、グラウンドから響く叫び声に、どうしようもなく胸が詰まった。
先にバスを出た彼らが、部室棟へ向かいながら笑っている。肩がぶつかりそうなほど近くて、鼻先がついてしまいそうなほど親密な距離。
高校時代、あいつはどんな顔をしていただろうか。おれのそばに近寄ることはできていただろうか。もうそれすら思いだせないのに、おれは今、こうしてここに立っている。
あのとき、あの、雨が降っていた浅い春の日。バスの支払いに現金がいらなかったら。あのとき、雨が降っていなかったら。あのとき、あいつに会っていなかったら。おれは今、ここにはいない。
それでもこの場所に帰ってくることがあったとしたら、きっと、海といっしょだった。山も谷もない、あたたかい毎日を、山も谷もないこの街で過ごしたにちがいない。
その未来を選べなかった自分に、吐き気がする。
「……酔ったかな」
立ち尽くしてしまいそうな足に力を入れて、前に進む。一歩いっぽ踏みだすたびに、目がくらんだ。十年経ったって、鮮明に覚えている。忘れない。忘れるわけがない。
海や陸上部の友だちとバスを待った校門前。そこでみんなと集合するまでのあいだ、海と手をつないだ部室棟からの小路。部室棟の階段を降りてくる、眼鏡の奥に見える海の瞳。みんなから隠れてキスをしたのは、一回や二回じゃ済まない。
頭のなかに残る景色の端に、背の低い後姿がある。いつも、いつも、それはおれの視界から消えずに、小さな身体とは真反対の存在感をもってそこにいた。
「――よし」
職員玄関の前に立って、インターホンのボタンを押す。
『はい』
ピンポン、と電子音が鳴ったあと、事務室からの声が聞こえた。もう、あとには引けない。背筋を伸ばして、口を開く。社会人になってすっかり身についた他人行儀な話し方で「卒業生の、佐々木と申します」と、マイクに向かって告げた。
「佐々木? ひさしぶりだなあ」
十年ぶりの職員室は、なにひとつ変わっていなかった。机のうえに雑多に積まれた資料やプリントの山の向こうから、なつかしい顔がひょっこりと顔をだす。
「飯島先生。おひさしぶりです」
先生は、おれたちが高校生だった当時、陸上部でお世話になった監督だった。ジャージの上半身にグレーのスラックス。社会科資料室の狭さがきらいで、いつも職員室で仕事をしていた。かなり老けたように見えるけど、しゃがれた声や大柄な印象はあの頃のままだ。
「どうした、急に。卒業してから音沙汰なかったくせに」
「はは、まあ、なんとなく」
春休みで部活中ということもあって、職員室にいる先生はまばらだった。なかには顔を覚えている先生もいるけれど、飯島先生ほど親しく話せるひとはいないように見えた。座れや、と椅子をすすめられて、おとなしく座る。そうだ、飯島先生は、立ち話がきらいなひとだった。たった数十センチの距離が詰まっただけで、おれと先生のあいだに、親密な空気が生まれる。
「今は、東京か?」
「はい。大学からそのままずっと」
仕事はなにか、どこに住んでいるのか、当たり障りのない会話を、ゆっくりと、当たり障りなく続ける。ここが私立の高校でよかった。馴染みの先生が変わらずにいてくれれば、話が早い。
「――あの、先生、夏目太一って覚えてますか」
飯島先生の話をさえぎって吐きだしたその名前を口にするのは、何年ぶりだろう。もしかしたら、一度も呼んだことがないのかもしれない。それなのにどうしてか、こんなにも唇がしっかりとその音を、形を覚えている。
一瞬、先生がこちらをうかがうような目をした。じ、と刺された視線は、だけどすぐにやわらかくなって、笑顔に変わる。
「夏目太一。なつかしいな。もちろん、覚えてるよ」
焦ってはいけない、と自分に言い聞かせて、一拍間を置く。膝の上で、こぶしを握った。
「……あいつの連絡先、教えてもらえませんか」
額に汗をかいているのがわかる。自分でもおどろくくらい、緊張していた。
「連絡先? なんのために」
腕を組んで、先生が唸る。その瞬間、だめだ、と思った。飯島先生は腕を組みはじめると頑固になっててこでも動かない。それでも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「昔……借りたものを返したくて」
広い職員室に、抑えているはずの声がしずかに響く。この場所に味方はいない。おれが、おれの願望を伝えるしかない。おれは、もうひとりだ。
「金か? そういうのは早く返しといた方がいいぞ」
「そんなかんじです。教えて、もらえませんか」
金は借りた。まちがったことはなにも言っていない。それなのに、握ったこぶしが汗でぬめる。背が丸まって、先生の顔が見られない。こんなふうに胸を張って話せなかった経験は、記憶のなかに存在しなかった。
うーん、と飯島先生はもう一度唸って、首を鳴らした。白髪が混じるようになった髪の毛を、がしがしと掻く。
「今は個人情報の扱いが厳しくなってるし、そう簡単には教えられないんだよ。悪いな」
「そう、ですよね」
あたりまえの返事だということはわかっていた。ここにきたからって、あいつにつながるなにかが手に入るなんて、考えていたわけじゃない。ただ衝動的に、ここに帰りたいと思っただけだ。
「だれか連絡先知ってるやついないのか。真泉あたり仲良かったろ」
真泉。その名前を聞いて、肩が震えなかった自分をほめたかった。緊張で冷えていた吐息が、もっと冷たくなる。
「ま、いずみとは……ちょっと、連絡とってなくて。夏目太一の連絡先とか、知らないと思いますし」
海のことを名字で呼ぶ。もしまだ海のそばにいたなら、きっと飯島先生に対しても、おれはその名を、いつもどおりに呼んだだろう。それをできないのがもう、海がおれから離れていったというなによりの証拠だった。
「あれ、飯島先生、そのひとならさっききてましたよ」
職員室の対角から、知らないひとが声をあげた。同時に、おれも声が漏れる。
「……っ、ほんとですか」
「あれですよね、背の低い、がっしりしたかんじの子。さっきリストに記入してもらったんでまちがいないと思いますよ」
『事務』と書かれた名札をつけたそのひとは、にこにこしながらこちらを見た。
「へええ、そんな偶然もあるんだな」
飯島先生も、笑いながら、ちょうどよかったな、と言った。偶然。たまたま。わかっているのに、心臓がばくばくと、口から飛びだしてしまいそうなほど大きく跳ねる。落ち着け、冷静になれ。頭のなかでもうひとりのおれが諭していた。でも、勝手に言葉が転がり出る。
「あ、あの、太一はどこに」
「えっと、グラウンドにいくって言ってましたよ」
事務員だろうそのひとが、校舎の反対側を指差した。あの頃、くる日もくる日も、太一が走っていた場所だ。
「……っ、ありがとうございました」
コートとかばんを引っ掴んで、飯島先生と事務員さんに頭を下げる。
「あ、おい、佐々木!」
飯島先生の低い声が後ろから聞こえた。聞こえたけれど、振り返ることはできなかった。廊下を駆け抜けて、階段を下りる。
太一が、この場所にいる。十年前と同じ、この場所に。
一段ずつ足を進めるのがもどかしくなって、階段の半ばから、思いきって飛び降りた。着地した瞬間に身体がぐらりと傾いて、尻餅をつく。
「いった……」
これくらいの高さから跳んだって、高校の頃ならなんてことなかった。何段だって階段を飛び越えられたし、全力疾走したって、つらくなかった。どこまでも飛んでいけると思っていたあのときとは、もう、なにもかもちがう。
校内に、楽器の音が響く。グラウンドからも、叫び声が聞こえていた。吹奏楽部が合奏している派手な音楽と、野球部があげる「おねがいします!」の雄叫びが、背中を押す。冷たい床に触れていた腰を浮かせて、職員玄関を目指して走った。靴に履き替えるのももどかしくて、スニーカーのかかとを踏みつぶす。ひんやりとしていた校舎の外に出ると、あたたかかった。
はやく、はやく。太一が帰ってしまう前に。
校門を背に、部室棟の脇を抜けて、グラウンドへの道を急ぐ。心臓の鼓動が止まらない。喉の奥から血の味がして、だけどおれは、とにかく走り続けた。
太一に会ったら、なにを言おう。なにを返そう。
「――はあっ」
校舎の陰を出ると視界が開けた。なつかしい、グラウンドの砂っぽいにおいが鼻に届く。
おれが立っている位置から一番遠いグラウンドの隅で、陸上部が練習していた。この広い場所を使う部活のなかで、おれたちはいつだって端っこに追いやられるんだと、いつか海がそう言っていた。
こんなときまで海のことを考えている。自分という人間の最低さに、思わず笑いがこぼれた。うつむいた視線を上げて、陸上部のようすを眺める。ぼんやりしていた視界のなかに、違和感を覚えた。
「た、いち」
陸上部が走っている、そのすぐ近く。かつておれが、海を待つために座りこんでいた体育館に続くドアの前。そこに、太一がいた。
ひとつ深呼吸をして、できるだけゆっくり、その場所に近づく。一歩進むごとにはっきりとわかる太一の輪郭は、記憶のなかのそれと変わっていない。不器用で、まっすぐで、だけどいつもおれからは視線をそらしていた、太一のままだ。
風がやわらかい。短かった太一の髪は、風に揺れるくらいには伸びていた。鼻が低くて幼かった横顔も、大人っぽくなっている。それでも、そこにいたのは太一だった。走ってきたからだろうか、胸がいっぱいになって、息ができない。足を止めて、勇気を振り絞る。
「……ひさしぶり」
太一が、ぼんやりとこちらを見た。変わらない、真っ黒でうそのない瞳だった。その瞳のどまんなかに、おれが映る。
「せん、ぱい」
低い声でそう言った太一の顔が歪む。どこにでもある、はるか昔から使い古されたその単語に、とくべつな意味が乗っていることを、おれは知っている。知っていたはずなのに、いざ耳に響いた声は、おどろくくらい新鮮に聞こえた。それほどの長いあいだ途切れていたおれたちのつながりが、もう一度結びなおされていくのを感じる。
忘れないでいてくれた。眉根を寄せて、唇を歪めて。そんな顔をするほど深く、覚えていてくれた。すぐそこにいる太一の姿が、揺れてうるんでかすんでいく。鳶の鳴き声が響いて、ああ、なつかしい、と、そう思った。
地元に向かう新幹線に乗るのは、何年ぶりのことだろう。トンネルばかりで、電波が入らない場所のほうが圧倒的に多い、田舎に向かうにはお似合いの乗りもの。大学を卒業するまでは、必死にバイトをして、長細い車体に毎月のように駆けこんでいた。
『いまたかさき』
電波が途切れてメールが届かなくなってしまうことにびくびくしながら、すこしでも急ぐために、漢字に変換することすら諦めて文字を打った。送る相手は、いつも、たったひとりだった。
あのころは、地元ゆき新幹線の時刻表を、朝から晩まで完璧に覚えていた。何時に東京を出て、何時に地元に着くか。始発、最終は何時か。地元を出たあと、東京に着いてバイトに向かうまでのあいだ、何時間寝られるかも、頭に入っていた。
一週間前、帰省しようと思い立った。久しぶりに見た新幹線の時刻表は、記憶よりずっと数字の間隔が広くなっていた。そんなことも知らないくらい長い年月が経っていたこと、そしてその長いあいだ、新幹線に乗る必要がなかった「理由」に思考がたどりついて、思わず目を閉じる。
大切に、ずっとずっと、なによりも大切にしてきたひとだった。「海」と、その名前を呼ぶのが好きだった。「まなと」と、まるい声で呼ばれるのが、大好きだった。
『家にあったものを送ります』
そんな短い手紙が、海と最後に会ってからしばらくして届いた荷物に添えられていた。筆圧の低い、神経質そうな文字から、だけど大好きな声は聞こえてこなかった。
会いにいくことだってできた。仕事先も、電話番号も、何千回と通ったマンションも、きっと海は変えないだろう。そういう予感があった。だからひょっこりと、まるであの夜になにもなかったみたいに、顔を見せることだってできた。
でも、おれはできなかった。
去っていった海を追いかけて、その先に待っているのはたぶん、これまでとなにひとつ変わらない毎日にちがいない。それを海は「もうむりだ」と言った。
新幹線が長いトンネルに入って、窓の外が真っ暗になる。山を下っているのか登っているのか、耳の奥がキン、と痛んだ。唾を飲みこんでも、その痛みがなんとなく消えない。
海に別れを告げられてから、毎日考えていた。考えるために必要な時間は、余るほどあった。暮らしのすべてが海を中心にまわっていることに気づいていたつもりだったのに、失ってからはじめて、海がいない自分の人生のほんとうの空虚さを知った。
トンネルを抜けて見えた雪国の浅い春には、もう桜が咲きはじめた東京とはちがって、まだすこし冬の気配が残っていた。山のうえに見える白い雪の影を見て、なつかしさで胸が震える。
――海といっしょに暮らせるなら戻ってきてもいいかも。
そんな台詞を、甘い時間を過ごしながら吐いたことを覚えている。だけど結局、その未来は実現しなかった。
おれは、馬鹿だ。どうしようもない馬鹿だから、なんのあてもなく、故郷に向かう新幹線に乗ってしまった。帰ることは、家族にも知らせていなかった。
「あなたはほんとうに自由ね」、と、いつか母は電話口で言った。自由でいることを許されたようにも、勝手にしろと諦められたようにも、どちらとも取れる言い方だった。実際、かあさんはいろんな言葉を飲みこんでくれたのだと思う。実家からのおれへの干渉は、社会人になってしばらくしたあと、ぱったりなくなった。
海と、海の実家との関係は、おれのそれとはちがった。だから、海が帰らないのなら、おれも帰らないと誓っていた。それがおれの信念だった。
でも、今は思う。逃げる手を取るのではなく、「自由」になれない海を、解放してやれたらよかった。
「――はは」
会わなくなってずいぶん経つのに、おれの頭のなかは今でも、海のことばっかりだ。
おかしくて、自分でも笑ってしまう。ペットボトルに口をつけながら、となりに座るスーツの乗客に気づかれないように、唇を歪めて笑う。
終点に向かってどんどん車内が空いていく。かつて海に会うために飛び乗った新幹線は、こんなに早くおれをこの地に運んでくれなかった。二時間足らずで着いてしまう場所を、あまりにも恋しく、あまりにも遠く感じていた。距離も、この乗りものが走るスピードも、なにひとつ変わっていないのに。
変わったのは、待っていてくれるひとがいるかどうかだけだ。
「――まもなく、終点です」
アナウンスが聞こえて、車内がざわざわと動きだす。空気が抜けるような独特な音とともに、新幹線が止まった。ホームに降りた瞬間、なつかしさで鼻の奥がツンとする。浅い春のひんやりした空気も、鼻の頭を刺激した。壁の向こうに見えるのは、たしかにおれが生まれ育った街だった。
この街で、海と出会った。海と学生時代を過ごした。海のことが、たまらなく好きだった。だけど、おれがこの街に返ってきたのは、海のためじゃない。
「……ほんと、最低だな、おれ」
つぶやいた声は、たくさんのひとがあふれるホームの雑踏のなかで、おれの耳にだけ届いて消えた。
新幹線が停まる駅からさらに北。電車に乗って三十分。
久しぶりに降り立った小さな駅は、あいかわらず古く、あいかわらず地味だった。駅員もいない。改札もない。稲刈りが終わったまま冬を越えた田んぼのまんなかに建つ、ぼろぼろの駅舎を見あげる。
あの日は、そうだ、雨が降っていた。雨どいを伝って屋根から滴り落ちた雨が、駅に駆けこんでいくおれの首に当たったのを覚えている。この駅を使ったのは、あの雨の日のあと、大学に合格したことを報告にきた以来だ。
目の前のバス停に掲げてある時刻表に近づく。時計を確認して、もう一度時刻表に目をこらすと、そこには数分前にバスがここを通る予定だと書かれていた。でも、と顔をあげて、道路の向こうを覗きこむ。やっぱりだ。ゆっくり、ゆっくりと、昔と変わらないようすで、ぼろぼろのバスがやってくる。この街のバスが時間どおりにやってこないのは、今も同じらしい。
「はは、ラッキー」
ぷしゅ、と開いたドアの勢いそのままに、ステップに足をかける。春休みの真昼、車内にはおれのほかに高校生がふたりしかいない。前のほうに座っている彼らからいちばん遠い後ろの席に座って、足を組んだ。
部活のジャージだろうか、おそろいの服を着て、同乗者の男子高校生たちは黙って並んでいた。スマートフォンを手にして、イヤホンをつけながら指を動かしているところを見ると、画面の中身はゲームだろうか。ときどき顔を合わせて笑って、また画面に目を向けている。
彼らがどんな気持ちで、あの小さなふたりがけの席に身体を押しこんでいるのかはわからない。だけど、ひとつだけおれに理解できることがある。
この一瞬が、今まさにこのときにしか存在しないこと。それを彼らは知る由もないこと。ぴったりとくっついた肩のやわらかさを見れば、彼らがお互いを受け入れているのはあきらかだった。何年もこのバスを使ってきたひとの気配が染みついた車内に、ふたりだけの空間がたしかにあった。
「次は――高校前でございます」
おれが動く前に、高校生たちが降車ボタンを押す。やっぱり後輩だったらしい。見たことのないジャージ姿に、あれからずいぶん時が経ったことを、改めて実感する。
バスが停まって、前方のドアが開く。瞬間、真っ赤に光っていた車内じゅうの降車ボタンの明かりが、ふっと消えた。
久しぶりに乗ったバスは、いつのまにかICカードでも支払いができるようになっていた。同じ車両に乗った高校生たちが、ピッと音を立ててバスから降りていく。
「ありがとうございました」
二一〇円の料金を、箱のなかに入れる。おれが高校生だったときから、料金は数十円値上げされている、と思う。学生時代は定期券で過ごしていたから、きちんとした数字は覚えていないし、たぶん、当時もよく知らなかった。だからこそ、卒業して定期が切れていたあの春の日、おれは小銭を持っていなかった。
校門前にあるバス停から、コンクリートで固められた三階建ての校舎を見あげる。どこかからか聞こえる楽器の音や、グラウンドから響く叫び声に、どうしようもなく胸が詰まった。
先にバスを出た彼らが、部室棟へ向かいながら笑っている。肩がぶつかりそうなほど近くて、鼻先がついてしまいそうなほど親密な距離。
高校時代、あいつはどんな顔をしていただろうか。おれのそばに近寄ることはできていただろうか。もうそれすら思いだせないのに、おれは今、こうしてここに立っている。
あのとき、あの、雨が降っていた浅い春の日。バスの支払いに現金がいらなかったら。あのとき、雨が降っていなかったら。あのとき、あいつに会っていなかったら。おれは今、ここにはいない。
それでもこの場所に帰ってくることがあったとしたら、きっと、海といっしょだった。山も谷もない、あたたかい毎日を、山も谷もないこの街で過ごしたにちがいない。
その未来を選べなかった自分に、吐き気がする。
「……酔ったかな」
立ち尽くしてしまいそうな足に力を入れて、前に進む。一歩いっぽ踏みだすたびに、目がくらんだ。十年経ったって、鮮明に覚えている。忘れない。忘れるわけがない。
海や陸上部の友だちとバスを待った校門前。そこでみんなと集合するまでのあいだ、海と手をつないだ部室棟からの小路。部室棟の階段を降りてくる、眼鏡の奥に見える海の瞳。みんなから隠れてキスをしたのは、一回や二回じゃ済まない。
頭のなかに残る景色の端に、背の低い後姿がある。いつも、いつも、それはおれの視界から消えずに、小さな身体とは真反対の存在感をもってそこにいた。
「――よし」
職員玄関の前に立って、インターホンのボタンを押す。
『はい』
ピンポン、と電子音が鳴ったあと、事務室からの声が聞こえた。もう、あとには引けない。背筋を伸ばして、口を開く。社会人になってすっかり身についた他人行儀な話し方で「卒業生の、佐々木と申します」と、マイクに向かって告げた。
「佐々木? ひさしぶりだなあ」
十年ぶりの職員室は、なにひとつ変わっていなかった。机のうえに雑多に積まれた資料やプリントの山の向こうから、なつかしい顔がひょっこりと顔をだす。
「飯島先生。おひさしぶりです」
先生は、おれたちが高校生だった当時、陸上部でお世話になった監督だった。ジャージの上半身にグレーのスラックス。社会科資料室の狭さがきらいで、いつも職員室で仕事をしていた。かなり老けたように見えるけど、しゃがれた声や大柄な印象はあの頃のままだ。
「どうした、急に。卒業してから音沙汰なかったくせに」
「はは、まあ、なんとなく」
春休みで部活中ということもあって、職員室にいる先生はまばらだった。なかには顔を覚えている先生もいるけれど、飯島先生ほど親しく話せるひとはいないように見えた。座れや、と椅子をすすめられて、おとなしく座る。そうだ、飯島先生は、立ち話がきらいなひとだった。たった数十センチの距離が詰まっただけで、おれと先生のあいだに、親密な空気が生まれる。
「今は、東京か?」
「はい。大学からそのままずっと」
仕事はなにか、どこに住んでいるのか、当たり障りのない会話を、ゆっくりと、当たり障りなく続ける。ここが私立の高校でよかった。馴染みの先生が変わらずにいてくれれば、話が早い。
「――あの、先生、夏目太一って覚えてますか」
飯島先生の話をさえぎって吐きだしたその名前を口にするのは、何年ぶりだろう。もしかしたら、一度も呼んだことがないのかもしれない。それなのにどうしてか、こんなにも唇がしっかりとその音を、形を覚えている。
一瞬、先生がこちらをうかがうような目をした。じ、と刺された視線は、だけどすぐにやわらかくなって、笑顔に変わる。
「夏目太一。なつかしいな。もちろん、覚えてるよ」
焦ってはいけない、と自分に言い聞かせて、一拍間を置く。膝の上で、こぶしを握った。
「……あいつの連絡先、教えてもらえませんか」
額に汗をかいているのがわかる。自分でもおどろくくらい、緊張していた。
「連絡先? なんのために」
腕を組んで、先生が唸る。その瞬間、だめだ、と思った。飯島先生は腕を組みはじめると頑固になっててこでも動かない。それでも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「昔……借りたものを返したくて」
広い職員室に、抑えているはずの声がしずかに響く。この場所に味方はいない。おれが、おれの願望を伝えるしかない。おれは、もうひとりだ。
「金か? そういうのは早く返しといた方がいいぞ」
「そんなかんじです。教えて、もらえませんか」
金は借りた。まちがったことはなにも言っていない。それなのに、握ったこぶしが汗でぬめる。背が丸まって、先生の顔が見られない。こんなふうに胸を張って話せなかった経験は、記憶のなかに存在しなかった。
うーん、と飯島先生はもう一度唸って、首を鳴らした。白髪が混じるようになった髪の毛を、がしがしと掻く。
「今は個人情報の扱いが厳しくなってるし、そう簡単には教えられないんだよ。悪いな」
「そう、ですよね」
あたりまえの返事だということはわかっていた。ここにきたからって、あいつにつながるなにかが手に入るなんて、考えていたわけじゃない。ただ衝動的に、ここに帰りたいと思っただけだ。
「だれか連絡先知ってるやついないのか。真泉あたり仲良かったろ」
真泉。その名前を聞いて、肩が震えなかった自分をほめたかった。緊張で冷えていた吐息が、もっと冷たくなる。
「ま、いずみとは……ちょっと、連絡とってなくて。夏目太一の連絡先とか、知らないと思いますし」
海のことを名字で呼ぶ。もしまだ海のそばにいたなら、きっと飯島先生に対しても、おれはその名を、いつもどおりに呼んだだろう。それをできないのがもう、海がおれから離れていったというなによりの証拠だった。
「あれ、飯島先生、そのひとならさっききてましたよ」
職員室の対角から、知らないひとが声をあげた。同時に、おれも声が漏れる。
「……っ、ほんとですか」
「あれですよね、背の低い、がっしりしたかんじの子。さっきリストに記入してもらったんでまちがいないと思いますよ」
『事務』と書かれた名札をつけたそのひとは、にこにこしながらこちらを見た。
「へええ、そんな偶然もあるんだな」
飯島先生も、笑いながら、ちょうどよかったな、と言った。偶然。たまたま。わかっているのに、心臓がばくばくと、口から飛びだしてしまいそうなほど大きく跳ねる。落ち着け、冷静になれ。頭のなかでもうひとりのおれが諭していた。でも、勝手に言葉が転がり出る。
「あ、あの、太一はどこに」
「えっと、グラウンドにいくって言ってましたよ」
事務員だろうそのひとが、校舎の反対側を指差した。あの頃、くる日もくる日も、太一が走っていた場所だ。
「……っ、ありがとうございました」
コートとかばんを引っ掴んで、飯島先生と事務員さんに頭を下げる。
「あ、おい、佐々木!」
飯島先生の低い声が後ろから聞こえた。聞こえたけれど、振り返ることはできなかった。廊下を駆け抜けて、階段を下りる。
太一が、この場所にいる。十年前と同じ、この場所に。
一段ずつ足を進めるのがもどかしくなって、階段の半ばから、思いきって飛び降りた。着地した瞬間に身体がぐらりと傾いて、尻餅をつく。
「いった……」
これくらいの高さから跳んだって、高校の頃ならなんてことなかった。何段だって階段を飛び越えられたし、全力疾走したって、つらくなかった。どこまでも飛んでいけると思っていたあのときとは、もう、なにもかもちがう。
校内に、楽器の音が響く。グラウンドからも、叫び声が聞こえていた。吹奏楽部が合奏している派手な音楽と、野球部があげる「おねがいします!」の雄叫びが、背中を押す。冷たい床に触れていた腰を浮かせて、職員玄関を目指して走った。靴に履き替えるのももどかしくて、スニーカーのかかとを踏みつぶす。ひんやりとしていた校舎の外に出ると、あたたかかった。
はやく、はやく。太一が帰ってしまう前に。
校門を背に、部室棟の脇を抜けて、グラウンドへの道を急ぐ。心臓の鼓動が止まらない。喉の奥から血の味がして、だけどおれは、とにかく走り続けた。
太一に会ったら、なにを言おう。なにを返そう。
「――はあっ」
校舎の陰を出ると視界が開けた。なつかしい、グラウンドの砂っぽいにおいが鼻に届く。
おれが立っている位置から一番遠いグラウンドの隅で、陸上部が練習していた。この広い場所を使う部活のなかで、おれたちはいつだって端っこに追いやられるんだと、いつか海がそう言っていた。
こんなときまで海のことを考えている。自分という人間の最低さに、思わず笑いがこぼれた。うつむいた視線を上げて、陸上部のようすを眺める。ぼんやりしていた視界のなかに、違和感を覚えた。
「た、いち」
陸上部が走っている、そのすぐ近く。かつておれが、海を待つために座りこんでいた体育館に続くドアの前。そこに、太一がいた。
ひとつ深呼吸をして、できるだけゆっくり、その場所に近づく。一歩進むごとにはっきりとわかる太一の輪郭は、記憶のなかのそれと変わっていない。不器用で、まっすぐで、だけどいつもおれからは視線をそらしていた、太一のままだ。
風がやわらかい。短かった太一の髪は、風に揺れるくらいには伸びていた。鼻が低くて幼かった横顔も、大人っぽくなっている。それでも、そこにいたのは太一だった。走ってきたからだろうか、胸がいっぱいになって、息ができない。足を止めて、勇気を振り絞る。
「……ひさしぶり」
太一が、ぼんやりとこちらを見た。変わらない、真っ黒でうそのない瞳だった。その瞳のどまんなかに、おれが映る。
「せん、ぱい」
低い声でそう言った太一の顔が歪む。どこにでもある、はるか昔から使い古されたその単語に、とくべつな意味が乗っていることを、おれは知っている。知っていたはずなのに、いざ耳に響いた声は、おどろくくらい新鮮に聞こえた。それほどの長いあいだ途切れていたおれたちのつながりが、もう一度結びなおされていくのを感じる。
忘れないでいてくれた。眉根を寄せて、唇を歪めて。そんな顔をするほど深く、覚えていてくれた。すぐそこにいる太一の姿が、揺れてうるんでかすんでいく。鳶の鳴き声が響いて、ああ、なつかしい、と、そう思った。
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