上流貴族の地位を継げないようなので大人しく一般人になります

夏樹

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53話 卒業の謎

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 セイさんは僕に問いかけるように言った。

「彼はなぜ、試験を受けていないのに卒業できたのだろうか?」

 当然、試験を受けなければ落とされる。
 この世界の学校だったとしても基本的なシステムは変わらないはずだ。
 僕は少し考えたが一向に答えが出なさそうである。

「どうしてなんでしょうか?」

「私が調べた限りでは、仮説としてはもう一つだけこの学校を卒業する手段があったんだ。それはの話だが、貴族学校に通うことによっていかなる事情があろうとも卒業できるみたいなんだ」

 あいつが、貴族?彼は確か貴族には恨みがあったのでは……?
 いや、それは貴族落ちしたからか?何にしても一般人が上流貴族に入り込むのはほぼほぼ無理な気がするのだが。

「冬休みはそれを調べようと図書館に通い詰めたね。それで、一般人が上流貴族になるための方法を二つだけ見つけてきた」

 そこまでしてくれなくても良かったんですけど……。
 とは流石に言えなかった。彼の妹だって被害者なんだ。犯人に逃げられたら嫌なんだろう。

「一つは、結婚もしくは婚約したとき。女性貴族は少ない上に最近婚約したのが王女様ということもあってこっちの線は少ないと言える。もう一つは、貴族の養子に入ったときだ」

 セイさんは「こちらは有り得る」と話をまとめる。
 養子に彼をとった人物がいたのかどうかはさておきとして、現実味があるのはこちらの方だろう。そうじゃないと理論が結びつかないから、というところもあるだろうが。

「誰が彼を養子にしたのかは分かるんですか?」

「いや、それが今回の本題だ。私には上流貴族との繋がりがほとんどない。唯一の例外が君だ」

 もしかしてそれを調べてほしいってこと?でも、僕にはトリオス以外の接点はないわけで……。
 いや、トリオスなら上流貴族の情報はある程度あるだろう。
 そもそも、今は一般人や貴族問わず様々な繋がりがあるため、大量の情報が勝手に入ってくるというようなことすら起きているらしい。

「というわけだ。少し探りを入れてくれると助かる」

 彼は僕の方を見つめてきたので、僕は「分かりました」と言った。僕が席を立ち上がろうとすると彼は僕を引き止める。

「どうかしましたか?」

「いや、お兄さんはいい人だな、と思ってな。また今度君から会いに行ってあげたらどうだ?」

 そういえば兄が僕のもとまで来てくれることはあったが僕が兄に会いに行くのはこの学校に通ってからは一度もない。これは丁度いい機会なのかもしれない。

「わざわざありがとうございます」

「気にしなくて大丈夫だ。頑張ってくれよ」

 セイさんはそう言って励ましてくれた。

「またなー」

 と彼が言ってくれているのを背に、僕は笑顔で応えたのだった。
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