アルカディア・フロム ディープブルー

深也糸

文字の大きさ
11 / 45

11 過去 2

しおりを挟む
通常は出身地、髪の色、睛の色などを細かく記載されているものだが、年齢は十七歳でヒロセと同い年。性別は男だということ以外何も分からない。友人リストに誰もいない。まだSNSをはじめたばかりなのかも?

画面を見つめたまま、コンタクトを取ることにした。どうせ辞めることにしていたんだから、ついでに声を掛けてからでも悪くないか、という軽い気持ちで。

ビデオチヤットで対面式の会話をするのが常だが、当人もあまり顔を晒したくないのではないか?という配慮から、それはやめた。

プロフィール名前がホームとして存在し、赤く点滅表示されているので、彼は今、パソコンの前にいるらしい。
早速文章を打ち込み、呼びかけてみる。


__________初めまして、プロフィールを拝見しました。ヒロセ・タカナシと申します。少し話がしたいのですが、今時間ありますか?

少し畏まりすぎたかな、と思いつつも、初対面の人間に声を掛けるなら、マナーとしてはこんなものだろうと思った。
ややあって、反応が返る。

____________はじめまして、カズヤ・ハギワラと申します。

プロフィールを読んでいただきありがとうございます。
はじめてsnsを利用するので、こういう場は慣れていないので、もしも失礼があったらすみません。

声を掛けてもらったのが今回はじめてで、とてもうれしいです。
せひ話をしましょう。時間はたくさんあるので、喜んで。


どういう経緯でカズヤ・ハギワラはここにいるのだろう?
気になって、まず、SNSを利用してみようかと思ったのはなぜ?と質問してみる。

________俺、学校に行っていなくて。SNSでみんなやりとりしていて、みんな友達がいて、楽しそうだったから、俺も参加してみたいなーって思っていて。きみは?

「俺は、学校のカリキュラムで義務づけられているからかな」

_________え、どういうこと、それ?

「高校の途中から通信制に切り替わって、通学しない代わりにオンラインで授業受けることが決まって、SNSで友達を作らなければいけなくなって。それらは通知表の点数に加算されて総合評価に繋がる」

________そうか、そうだよね…………。

ショックを受けているのか、カズヤは閉口する。
そうでもないと自分は相手にされないと思ってしまったのだろうか。
そう思われてはまずいと、すぐに。

「でも、もう卒業までもうわずかだよ」

点数稼ぎのためにやっているんじゃないよとアピールしておく。

「大学もすでに推薦で決まっているし、今さら内申書の点数を上げたところで意味がないんだ」

_______え、それじゃあ…………。

「大学に進学したらオンライン講義とレポート提出だけで、卒業できるみたいだ」

だから、SNSで友達を作る必要はもうない。と伝えた。
それを聞くとカズヤはすっかり安心したようだ。

________ねぇ、学校ってどんなところで、どんなことをしていたの?

「集団生活の場所だったよ。授業を受けたり、部活動をしたりして。いろいろなことがあったな」

______もちろん、友達もいたよね。そこで。

「ああ、そうだな」とヒロセは一応返事してみる。

______学校生活が終わって寂しくなったんじゃないのかな。友達と会えなくなって。

「そんなこともないよ。気楽なもんだよ」


一瞬、高校生活を思い起こしてみる。
薄情な奴だと思われるだろうか。誰の顔も思い出さない。

ふいに可笑しさがこみ上げてくる。
何、どうしたの?と怪訝なカズヤの問い。

画面の向こうで相手が急に笑い出したことなど気付きもしないだろう。
何でもないよと、すぐに答える。


「それより、きみのことがもっと知りたい」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

魔法使いになりそこなったお話

ruki
BL
男は30歳まで経験がないと、魔法使いになるらしい。そんな話を信じている訳では無いけれど、その魔法使いになれるほど人生に何も起こらなかったオメガの波瑠は突然、魔法使いではなく『親』になってしまった。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...