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14 邂逅 3
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__________後日。
この日は快晴で、ヒロセはいつも通る無人の地下道と遊歩道を渡って、自宅から歩いて十分ぐらいの待ち合わせ場所に到着した。グレーのコート、指定した服装で指定した場所に現れる。
『時の記念公園』という名称の公園で、自分の住んでいるところとカズヤの住んでいるところの中間の地点に位置する。目にも鮮やかな山吹色の石畳。
噴水と時計塔があるだけの簡素な場処。
腕時計を確認する。待ち合わせの時間よりも二十分も早く到着してしまった。
少し早く来すぎたかな、と思いながら、まだ見ぬカズヤの到着を待ちわびていた。
一方、カズヤはまだ自宅にいた。さっきからずっと行こうとして、行けずにいる。
支度をして、三十分が経過した。その場でじっと佇んだまま時間だけが通りすぎる。
そもそも、動けるものならとっくに動いていたはずだろう。
どうしたことだか、今まで「外」に出たことがなかった。
誰にも会わず、部屋の中でパソコンを使って仕事を淡々とこなす日々。
何の疑問も持たず、それが決まりごとだと本能的に理解しいていた。
でも、ヒロセとやり取りをしていて、何度か繰り返すうちに彼に興味を持つようになった。
もし、行かなかったら、怒らせてしまうだろうか。二度と連絡をとってもらえなくなるだろうか。確実に云えることは、彼とのつながりは間違いなく終わってしまう。
時間は刻一刻と迫ってくる。こうしている間にも。
会うって、約束した。
時間まで行かなきゃならないのに強固な扉が立ちはだかる。
カズヤの住む場処はワンルームのマンションの一室だ。
玄関の鍵が施錠されていて、しかも六ケタの暗証番号が揃わないと開かない仕組みになっている。
ロック機能が複雑で、何度も失敗した。
ひとつひとつ試しても埒が明かない。覚悟を決めると、己が拳を使って鍵を破壊した。ドーンという衝撃が直に手に伝わる。
バチバチと火花が散り、ものすごい破壊音を響かせながら扉が開いた。
「そうだな。最初っから、こうすればよかった」
結局、パスワードが解けず、家の鍵を壊してしまったけど、仕方がない。
それよりも……早く、急いで向かわなければならない。
待ち合わせ場所に間に合わない。
カズヤはマンションを飛び出し、すぐに目的地へ向かう。
やった。やっと無事家から出られて、初めて「外」の世界に出た。
流れゆく景色は、初めて見る「外」の世界。
だが、周りの景色に眼を向けている余裕はない。
まっすぐに走る。目的の場所へ一秒でも早く到着できるように。
あのひとが待っている。
ヒロセは再び腕時計を確認する。約束の時間から二時間が経過した。
おかしい、カズヤは何やっているんだろう。遅れるって連絡はなかったよな。
もしかして、すっぽかされた?と、疑念を持ち始める。
そもそも彼だって本当に実在するかどうか。
そうだ、もしかしたら人工知能なのではないのか?
刻々と色を変える空は石畳の色と同じ黄昏に染まりはじめる。
さすがにもう来ないかもしれないな。と諦めかけたとき。
ゼロコンマ、何秒かありえない速さで何かが目の前に向かってくる。そう風のように。
息も切らさず、カズヤは疾走する。キツそうな素振りは微塵もない。
ただわずかに彼の前髪を揺らしただけだ。
ヒロセは眼を瞠る。
百メートルを五秒とか三秒で走る人間なんかいない。
それは車とか電車の乗り物だけだ。もしかして彼は…………。
「お待たせ」
静寂を割って声がした。息ひとつ乱していない。
ヒロセは息を呑み、大きく眼を見開いた。
銀色の髪と睛。黒のデニムの上下。パッと見た服装で彼がそうだと分かる。
突如異世界に飛ばされたような感覚がした。キーン、と耳鳴りがする。世界からすべての音が止んだ。時間が止まったような錯覚がする。
銀色の一対の睛は、こちらから眼を逸らさずに、じっと見つめている。
硬質で金属的な色を湛える睛。
彼は、アンドロイドだ。
人間の理想を具現化した容姿と高知能な頭脳を併せ持つ……。
しばし、信じられないというようにヒロセは目を瞬かせた後。
「カズヤ・ハギワラか……?」
掠れた声で、やっとのことで名前を呼ぶ。
彼は頷く。不動の存在を以て、ここに存在している。
「遅れてごめん、待った?」
「うん……、今来たところだ」
勿論、嘘だ。相手に気兼ねさせない為の。
彼は動揺に気付くはずもなく、よかったと安堵して、手を伸ばし、握手を求めた。
躊躇いがちに触れた手は、ひんやりと冷たい手だった。
「初めまして、って変かな。__________逢えてうれしいよ」
「……こちらこそ」
何かが動き出した。それが、出会いだった。
この日は快晴で、ヒロセはいつも通る無人の地下道と遊歩道を渡って、自宅から歩いて十分ぐらいの待ち合わせ場所に到着した。グレーのコート、指定した服装で指定した場所に現れる。
『時の記念公園』という名称の公園で、自分の住んでいるところとカズヤの住んでいるところの中間の地点に位置する。目にも鮮やかな山吹色の石畳。
噴水と時計塔があるだけの簡素な場処。
腕時計を確認する。待ち合わせの時間よりも二十分も早く到着してしまった。
少し早く来すぎたかな、と思いながら、まだ見ぬカズヤの到着を待ちわびていた。
一方、カズヤはまだ自宅にいた。さっきからずっと行こうとして、行けずにいる。
支度をして、三十分が経過した。その場でじっと佇んだまま時間だけが通りすぎる。
そもそも、動けるものならとっくに動いていたはずだろう。
どうしたことだか、今まで「外」に出たことがなかった。
誰にも会わず、部屋の中でパソコンを使って仕事を淡々とこなす日々。
何の疑問も持たず、それが決まりごとだと本能的に理解しいていた。
でも、ヒロセとやり取りをしていて、何度か繰り返すうちに彼に興味を持つようになった。
もし、行かなかったら、怒らせてしまうだろうか。二度と連絡をとってもらえなくなるだろうか。確実に云えることは、彼とのつながりは間違いなく終わってしまう。
時間は刻一刻と迫ってくる。こうしている間にも。
会うって、約束した。
時間まで行かなきゃならないのに強固な扉が立ちはだかる。
カズヤの住む場処はワンルームのマンションの一室だ。
玄関の鍵が施錠されていて、しかも六ケタの暗証番号が揃わないと開かない仕組みになっている。
ロック機能が複雑で、何度も失敗した。
ひとつひとつ試しても埒が明かない。覚悟を決めると、己が拳を使って鍵を破壊した。ドーンという衝撃が直に手に伝わる。
バチバチと火花が散り、ものすごい破壊音を響かせながら扉が開いた。
「そうだな。最初っから、こうすればよかった」
結局、パスワードが解けず、家の鍵を壊してしまったけど、仕方がない。
それよりも……早く、急いで向かわなければならない。
待ち合わせ場所に間に合わない。
カズヤはマンションを飛び出し、すぐに目的地へ向かう。
やった。やっと無事家から出られて、初めて「外」の世界に出た。
流れゆく景色は、初めて見る「外」の世界。
だが、周りの景色に眼を向けている余裕はない。
まっすぐに走る。目的の場所へ一秒でも早く到着できるように。
あのひとが待っている。
ヒロセは再び腕時計を確認する。約束の時間から二時間が経過した。
おかしい、カズヤは何やっているんだろう。遅れるって連絡はなかったよな。
もしかして、すっぽかされた?と、疑念を持ち始める。
そもそも彼だって本当に実在するかどうか。
そうだ、もしかしたら人工知能なのではないのか?
刻々と色を変える空は石畳の色と同じ黄昏に染まりはじめる。
さすがにもう来ないかもしれないな。と諦めかけたとき。
ゼロコンマ、何秒かありえない速さで何かが目の前に向かってくる。そう風のように。
息も切らさず、カズヤは疾走する。キツそうな素振りは微塵もない。
ただわずかに彼の前髪を揺らしただけだ。
ヒロセは眼を瞠る。
百メートルを五秒とか三秒で走る人間なんかいない。
それは車とか電車の乗り物だけだ。もしかして彼は…………。
「お待たせ」
静寂を割って声がした。息ひとつ乱していない。
ヒロセは息を呑み、大きく眼を見開いた。
銀色の髪と睛。黒のデニムの上下。パッと見た服装で彼がそうだと分かる。
突如異世界に飛ばされたような感覚がした。キーン、と耳鳴りがする。世界からすべての音が止んだ。時間が止まったような錯覚がする。
銀色の一対の睛は、こちらから眼を逸らさずに、じっと見つめている。
硬質で金属的な色を湛える睛。
彼は、アンドロイドだ。
人間の理想を具現化した容姿と高知能な頭脳を併せ持つ……。
しばし、信じられないというようにヒロセは目を瞬かせた後。
「カズヤ・ハギワラか……?」
掠れた声で、やっとのことで名前を呼ぶ。
彼は頷く。不動の存在を以て、ここに存在している。
「遅れてごめん、待った?」
「うん……、今来たところだ」
勿論、嘘だ。相手に気兼ねさせない為の。
彼は動揺に気付くはずもなく、よかったと安堵して、手を伸ばし、握手を求めた。
躊躇いがちに触れた手は、ひんやりと冷たい手だった。
「初めまして、って変かな。__________逢えてうれしいよ」
「……こちらこそ」
何かが動き出した。それが、出会いだった。
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