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24 とまどい 2
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「ユマ……。こればっかりはどうしようもないときがある。相手の意思があるから」
「分かっていても、止められないんだ。誰がどうしようが、彼女に近づく奴には腹が立つし、余裕もないし、どうにもならないときがある」
まっすぐで、熾烈な想いが伝わる。
そうだな。と、ゆっくりと受け止めながら口を開く。
「ユマの気持ちは分かるけど、相手の気持ちも考えなければいけない」
「もし、相手が自分以外の誰かを選んだとしても仕方がないって、云い切れるのか?」
「うん。快くとはいかないのかもしれない、納得できないかもしれないけど、相手が望んだことなら仕方がない。そのときは諦めるよ」
意見が合わず、ユマはムッとする。
どうしても自分の云う通りだと云わせたかったのか。
「そっちは良くても、こっちは困るんだよ。ば____________か!!俺はヒロセみたいに割り切れないし、軽蔑する」
「相手の人生を縛ることはできない。自分にはそんな尊厳はない。あくまで人生の途中経過に出会って、成長を見守ることができれば、それで満足だから」
いわば、親心のようなもの。そうだ。
「なんだよそれ、ふざけんなよ。なんでこんな処にいると思っているんだ。お前のせいだろ。その程度の覚悟でひっかき回されて、共犯にされちゃ、たまんねぇよ。二度と云うなよ、そんなこと」
「共犯か、もうなっている」
どこか卑屈に聞こえるような言葉だった。自虐的な笑みがヒロセから漏れる。
ユマがカッと怒りを顔にのぼらせる。
「お前の口からそんなぬるいこと聞くとは思わなかった。ここに来たときから分かっているだろ。カズヤはすでにお前の人生に巻き込まれてんだ。人を好きになって関わるって、そういうことだよ」
分からず屋、とばかりに捨てセリフを吐いて、タッと走り去ってゆく。
やれやれ。大喧嘩になってしまったかな。と思いつつ、ユマの背を見ながら、思ったことをはっきり云うその素直さと実直さがいいな。と微笑ましく思ったのだった。
もうスカートを持つ手は下ろした後だった。
リアを前にして、真っ赤になりながらカズヤが慌てふためく。
「ご、ごめんっっ!!」
こちらは見せたわけではなく、見せられた側なのだから。何も自分が悪い訳じゃないのに精一杯謝罪する。情けないくらい動揺していた。
「これっ、いいからこれ着てて」
見るとリアのサマードレスが水で濡れて、ところどころ透けている。当人は全く気にしてない様子だったが、眼の遣り場に困って、上着を脱ぐと掛けてやった。
と、そこにユマが現れる。タイミングが悪いことこの上ない。
「おい、こら、お前……なにしている!」
面倒くさいことに、また一気に気まずい空気が増した。
つかつかと寄ってきて、掴みかからんくらいの勢いだ。気迫に押され、思わずカズヤは後退った。
「お前、俺がいないうちにリアに手ぇ出すつもりだったな!?」
「ちがう、誤解だ!スケッチしていて、たまたま、この子が近くにきて、一緒に居ただけ。やましい気持ちなんかない。本当だ。この子だって、そんなつもりはないはずだ」
後ろめたいことなんか全然ないのに、言い訳じみたような云い方をしているような気がして、なぜか焦る。スカートを捲ったことは、彼女が勝手にしたことで、自分にはやましい気もなかったし、実際には何もなかった。
「リア、そうなのか?」
真剣な顔で、リアの方を見遣って確認すると、リアはこくん、と頷いた。
「カズヤの云ったとおりよ。ただそこで偶然会っただけ。何にもあるはずがないわ」
「ほら、リアもそう云っているだろう。想像したようなことは何もない。考えすぎだ」
カズヤが弁明すると、ユマが何か云いたいげに憤った表情を浮かべていて、一瞬どうするのだろうかと緊張が走ったが、それは杞憂に終わった。
当然、彼女に甘いユマは追求することなくあっさり信用したのだった。
「そうか。リア」
呟き、ほっとしたような表情を浮かべる。
とりあえずは救われたという思いで一杯だった。
カズヤが胸を撫で下ろす間もなく、今更だが。
「その花……」
ユマは彼女の髪に挿してある花に気付き、声を上げる。
さっきカズヤが挿してやったサシグサだった。
「よく似合っていてかわいいよ」
ふわりと微笑み、褒め言葉を云うことも忘れなかった。
海岸沿いをひとり、あてもなく歩く。
カズヤは先程の出来事に困惑し、思案に暮れていた。
さらりとした髪の手触りと、掠めた髪の香りを思い出す。
指にあの花の花弁が付いた。あの子の髪に花をつけるときに付いたものだ。
スラックスの横で擦り付けて払うと、先程リアの云った言葉を頭の中で反芻する。
あの子、自分で自分の兄を襲ったって云っていたな。
花は、鳥に運ばれて受粉するんだったっけ。
花は甘い香りがする。
そういえば、その昔。
無人島で複数の男が一人の女を奪い合うという小説があったな。
そうはならないと思うけど。と打ち消すように首を振る。
あの子はまだ子供だ。性的な眼で見れないし、対象外だ。
ヒロセも自分もあの子には惹かれないと思う。
ふぅ、と苦い思いで息をつく。
そういえば、スケッチの道具を置いてきてしまったことを思い出して、来た道を引き返した。
「分かっていても、止められないんだ。誰がどうしようが、彼女に近づく奴には腹が立つし、余裕もないし、どうにもならないときがある」
まっすぐで、熾烈な想いが伝わる。
そうだな。と、ゆっくりと受け止めながら口を開く。
「ユマの気持ちは分かるけど、相手の気持ちも考えなければいけない」
「もし、相手が自分以外の誰かを選んだとしても仕方がないって、云い切れるのか?」
「うん。快くとはいかないのかもしれない、納得できないかもしれないけど、相手が望んだことなら仕方がない。そのときは諦めるよ」
意見が合わず、ユマはムッとする。
どうしても自分の云う通りだと云わせたかったのか。
「そっちは良くても、こっちは困るんだよ。ば____________か!!俺はヒロセみたいに割り切れないし、軽蔑する」
「相手の人生を縛ることはできない。自分にはそんな尊厳はない。あくまで人生の途中経過に出会って、成長を見守ることができれば、それで満足だから」
いわば、親心のようなもの。そうだ。
「なんだよそれ、ふざけんなよ。なんでこんな処にいると思っているんだ。お前のせいだろ。その程度の覚悟でひっかき回されて、共犯にされちゃ、たまんねぇよ。二度と云うなよ、そんなこと」
「共犯か、もうなっている」
どこか卑屈に聞こえるような言葉だった。自虐的な笑みがヒロセから漏れる。
ユマがカッと怒りを顔にのぼらせる。
「お前の口からそんなぬるいこと聞くとは思わなかった。ここに来たときから分かっているだろ。カズヤはすでにお前の人生に巻き込まれてんだ。人を好きになって関わるって、そういうことだよ」
分からず屋、とばかりに捨てセリフを吐いて、タッと走り去ってゆく。
やれやれ。大喧嘩になってしまったかな。と思いつつ、ユマの背を見ながら、思ったことをはっきり云うその素直さと実直さがいいな。と微笑ましく思ったのだった。
もうスカートを持つ手は下ろした後だった。
リアを前にして、真っ赤になりながらカズヤが慌てふためく。
「ご、ごめんっっ!!」
こちらは見せたわけではなく、見せられた側なのだから。何も自分が悪い訳じゃないのに精一杯謝罪する。情けないくらい動揺していた。
「これっ、いいからこれ着てて」
見るとリアのサマードレスが水で濡れて、ところどころ透けている。当人は全く気にしてない様子だったが、眼の遣り場に困って、上着を脱ぐと掛けてやった。
と、そこにユマが現れる。タイミングが悪いことこの上ない。
「おい、こら、お前……なにしている!」
面倒くさいことに、また一気に気まずい空気が増した。
つかつかと寄ってきて、掴みかからんくらいの勢いだ。気迫に押され、思わずカズヤは後退った。
「お前、俺がいないうちにリアに手ぇ出すつもりだったな!?」
「ちがう、誤解だ!スケッチしていて、たまたま、この子が近くにきて、一緒に居ただけ。やましい気持ちなんかない。本当だ。この子だって、そんなつもりはないはずだ」
後ろめたいことなんか全然ないのに、言い訳じみたような云い方をしているような気がして、なぜか焦る。スカートを捲ったことは、彼女が勝手にしたことで、自分にはやましい気もなかったし、実際には何もなかった。
「リア、そうなのか?」
真剣な顔で、リアの方を見遣って確認すると、リアはこくん、と頷いた。
「カズヤの云ったとおりよ。ただそこで偶然会っただけ。何にもあるはずがないわ」
「ほら、リアもそう云っているだろう。想像したようなことは何もない。考えすぎだ」
カズヤが弁明すると、ユマが何か云いたいげに憤った表情を浮かべていて、一瞬どうするのだろうかと緊張が走ったが、それは杞憂に終わった。
当然、彼女に甘いユマは追求することなくあっさり信用したのだった。
「そうか。リア」
呟き、ほっとしたような表情を浮かべる。
とりあえずは救われたという思いで一杯だった。
カズヤが胸を撫で下ろす間もなく、今更だが。
「その花……」
ユマは彼女の髪に挿してある花に気付き、声を上げる。
さっきカズヤが挿してやったサシグサだった。
「よく似合っていてかわいいよ」
ふわりと微笑み、褒め言葉を云うことも忘れなかった。
海岸沿いをひとり、あてもなく歩く。
カズヤは先程の出来事に困惑し、思案に暮れていた。
さらりとした髪の手触りと、掠めた髪の香りを思い出す。
指にあの花の花弁が付いた。あの子の髪に花をつけるときに付いたものだ。
スラックスの横で擦り付けて払うと、先程リアの云った言葉を頭の中で反芻する。
あの子、自分で自分の兄を襲ったって云っていたな。
花は、鳥に運ばれて受粉するんだったっけ。
花は甘い香りがする。
そういえば、その昔。
無人島で複数の男が一人の女を奪い合うという小説があったな。
そうはならないと思うけど。と打ち消すように首を振る。
あの子はまだ子供だ。性的な眼で見れないし、対象外だ。
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