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夕日の海辺での出会い
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アブサンとしてアジールの掃討活動を終えた夕暮れ時、エマが決まって訪れる場所があった。
プチ・ぺシェにほど近い、きれいな夕日が見える海辺だ。
そこのベンチに座り、プチ・ぺシェからテイクアウトした紅茶といろんなフレイバーのカラフルなマカロンを頬張りながら、沈んでいく夕日を眺めるのが、エマの日課となっていた。
「はあ、気持ちいい。癒される。。。」
その時間は、身や心を清める儀式のようなものだった。頭をからっぽにして、香り高い紅茶と上品な甘さのマカロンを楽しむのが、エマにとって至福のひとときだった。
その時だけは、元の世界に息子を残してきた罪悪感や、魔女の復讐の呪いといったすべての負の感情から解放され、自由になれる気がしていた。
その日も、エマがいつものように夕日を眺めていると、見知らぬ青年がコーヒーを片手に現れ、隣のベンチに腰を掛けた。
彼は、ゆるくカールした藍色の髪と碧い瞳、黒のスーツに緋色のネクタイという気品ある佇まいだった。
おそらく貴族かそれに準ずる上流階級の人間だと思い、エマは少し距離を感じた。自分とは無縁の別世界の人間のように見えたからだ。
もしその時、その青年がマカロンを欲しそうな素振りを見せなければ、エマたちは言葉を交わすことも、知り合うこともなかっただろう。
海辺に似合わない風貌だわ、と心の中でつぶやいた。
エマがふと青年に目を向けると、彼もまたエマを見返した。しかし、その視線はエマではなく、マカロンの入った紙箱に向けられた。
「マカロン、お好きなんですか?一つ、いかがですか?」とエマが勧めると、
青年は遠慮することなく、「ありがとう」と満面の笑みでうなずいた。
エマは、ベンチから立ち上がり、「好きなものをどうぞ」と彼の前に紙箱を差し出した。
青年は、色鮮やかなラズベリーマカロンを手に取り、口に運んだ。
「どうです?おいしいですか?甘いものが好きなのですね」とエマが尋ねると、
「ああ、おいしいよ。こんなにおいしいスイーツは初めてだ。これは何ていう名前なんだ?」と青年はその外見に似合わない好奇心旺盛な少年のような目で尋ねた。
「マカロンっていうんです。私、プチ・ペシェっていうカフェを経営していまして、そこで大人気の看板商品なんですよ」とエマは誇らしげに言った。
「人生は甘くないから、みんな甘いものを欲しがる、って誰かが言ってましたけど、本当にそうですね。私も甘いもの大好きなんです」とエマが楽し気に語ると、青年は静かな笑みを浮かべてうなづいた。
しかし、その笑顔の奥に隠された青年の哀しみの色を、エマは見逃さなかった。
エマには、人の心に隠された哀しみの色が見えるのだ。そんな哀しみの色に染まった陰惨なこの街にエマは心底うんざりしていた。
奇妙なことに、その青年だけは他の人とは少し違っていた。いつもならその人が抱える哀しみや苦悩の理由が自然と脳裏に浮かぶのだが、彼からは何も伝わってこなかった。
その見えない糸に絡まれたような感覚に戸惑いつつ、彼の澄んだ瞳に何かを見出そうと、視線を外すことができなかった。
「俺の名前はルカ。君は?」
貴族でも俺っていう人がいるのね、とエマは少し不思議に思いながら、
「エマです」と答えた。
「かわいい名前だね。君にぴったりだ」とルカは女性の扱いに慣れているような口調で褒めた。
少年のような人懐っこさ、黙っていれば紳士に見える風貌、そして深い哀しみを帯びた瞳。ルカが持つこれらの矛盾に、エマはどこか惹かれるものを感じた。最初はただ、その矛盾が面白いと思っただけだったが、それが彼女の心を捉えて離さなくなるまで、それほど時間はかからなかった。
「何?俺があまりにイケメンだから見とれたか?」とルカが冗談めかして言うと、
「え?そんなわけないじゃないですか。自信過剰ですよ。私は、全然興味ありませんから。それに。。。なんだか哀しそうだなと思ったけれど、勘違いだったみたいですね」とエマは冷ややかな口調で言い返した。
「俺が哀しそう?お前、変なこと言うな」とからかうルカだったが、その瞳に一瞬、深い哀しみの影がよぎった。
二人の出会いは、人が人生で通り過ぎる無数の出会いの一つのはずだった。
カフェへの帰り道、エマは煌びやかに装飾されたジュエリーショップの前を通りかかった。そこで、上流階級らしい装いの中年男性と並んで立っている少女に目を留めた。
その少女の瞳の奥に哀しみの色を見た瞬間、少女が抱える哀しみの理由が脳裏に浮かんだ。
少女は、見習いのバレリーナ。プロのバレリーナとして成功するためには、美貌や踊りのセンスやスキルの他に、パトロンに気に入られ、金銭的な援助を受ける必要があった。舞台裏の控室への立ち入りを許可された新興ブルジョワジーたちから、パトロンとなる見返りとして、嫌々ながら不健全な関係を求められていたのだった。
「次の獲物はおまえだ」中年男性を窓越しににらみつけながら、エマは低くつぶやいた。心の中で復讐の炎が静かに燃え上がるのを感じていた。
プチ・ぺシェにほど近い、きれいな夕日が見える海辺だ。
そこのベンチに座り、プチ・ぺシェからテイクアウトした紅茶といろんなフレイバーのカラフルなマカロンを頬張りながら、沈んでいく夕日を眺めるのが、エマの日課となっていた。
「はあ、気持ちいい。癒される。。。」
その時間は、身や心を清める儀式のようなものだった。頭をからっぽにして、香り高い紅茶と上品な甘さのマカロンを楽しむのが、エマにとって至福のひとときだった。
その時だけは、元の世界に息子を残してきた罪悪感や、魔女の復讐の呪いといったすべての負の感情から解放され、自由になれる気がしていた。
その日も、エマがいつものように夕日を眺めていると、見知らぬ青年がコーヒーを片手に現れ、隣のベンチに腰を掛けた。
彼は、ゆるくカールした藍色の髪と碧い瞳、黒のスーツに緋色のネクタイという気品ある佇まいだった。
おそらく貴族かそれに準ずる上流階級の人間だと思い、エマは少し距離を感じた。自分とは無縁の別世界の人間のように見えたからだ。
もしその時、その青年がマカロンを欲しそうな素振りを見せなければ、エマたちは言葉を交わすことも、知り合うこともなかっただろう。
海辺に似合わない風貌だわ、と心の中でつぶやいた。
エマがふと青年に目を向けると、彼もまたエマを見返した。しかし、その視線はエマではなく、マカロンの入った紙箱に向けられた。
「マカロン、お好きなんですか?一つ、いかがですか?」とエマが勧めると、
青年は遠慮することなく、「ありがとう」と満面の笑みでうなずいた。
エマは、ベンチから立ち上がり、「好きなものをどうぞ」と彼の前に紙箱を差し出した。
青年は、色鮮やかなラズベリーマカロンを手に取り、口に運んだ。
「どうです?おいしいですか?甘いものが好きなのですね」とエマが尋ねると、
「ああ、おいしいよ。こんなにおいしいスイーツは初めてだ。これは何ていう名前なんだ?」と青年はその外見に似合わない好奇心旺盛な少年のような目で尋ねた。
「マカロンっていうんです。私、プチ・ペシェっていうカフェを経営していまして、そこで大人気の看板商品なんですよ」とエマは誇らしげに言った。
「人生は甘くないから、みんな甘いものを欲しがる、って誰かが言ってましたけど、本当にそうですね。私も甘いもの大好きなんです」とエマが楽し気に語ると、青年は静かな笑みを浮かべてうなづいた。
しかし、その笑顔の奥に隠された青年の哀しみの色を、エマは見逃さなかった。
エマには、人の心に隠された哀しみの色が見えるのだ。そんな哀しみの色に染まった陰惨なこの街にエマは心底うんざりしていた。
奇妙なことに、その青年だけは他の人とは少し違っていた。いつもならその人が抱える哀しみや苦悩の理由が自然と脳裏に浮かぶのだが、彼からは何も伝わってこなかった。
その見えない糸に絡まれたような感覚に戸惑いつつ、彼の澄んだ瞳に何かを見出そうと、視線を外すことができなかった。
「俺の名前はルカ。君は?」
貴族でも俺っていう人がいるのね、とエマは少し不思議に思いながら、
「エマです」と答えた。
「かわいい名前だね。君にぴったりだ」とルカは女性の扱いに慣れているような口調で褒めた。
少年のような人懐っこさ、黙っていれば紳士に見える風貌、そして深い哀しみを帯びた瞳。ルカが持つこれらの矛盾に、エマはどこか惹かれるものを感じた。最初はただ、その矛盾が面白いと思っただけだったが、それが彼女の心を捉えて離さなくなるまで、それほど時間はかからなかった。
「何?俺があまりにイケメンだから見とれたか?」とルカが冗談めかして言うと、
「え?そんなわけないじゃないですか。自信過剰ですよ。私は、全然興味ありませんから。それに。。。なんだか哀しそうだなと思ったけれど、勘違いだったみたいですね」とエマは冷ややかな口調で言い返した。
「俺が哀しそう?お前、変なこと言うな」とからかうルカだったが、その瞳に一瞬、深い哀しみの影がよぎった。
二人の出会いは、人が人生で通り過ぎる無数の出会いの一つのはずだった。
カフェへの帰り道、エマは煌びやかに装飾されたジュエリーショップの前を通りかかった。そこで、上流階級らしい装いの中年男性と並んで立っている少女に目を留めた。
その少女の瞳の奥に哀しみの色を見た瞬間、少女が抱える哀しみの理由が脳裏に浮かんだ。
少女は、見習いのバレリーナ。プロのバレリーナとして成功するためには、美貌や踊りのセンスやスキルの他に、パトロンに気に入られ、金銭的な援助を受ける必要があった。舞台裏の控室への立ち入りを許可された新興ブルジョワジーたちから、パトロンとなる見返りとして、嫌々ながら不健全な関係を求められていたのだった。
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