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28 特別な食卓、部外者はお断り
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「お願いがあるんですが、私のご飯をあげるので、私にもその……一口でいいので、分けてくれませんかっ!?」
サモンは、涙目になりながらハルトの差し出した皿を見つめていた。その手には固い干し肉と、味気ない保存パンが握られている。
「……」
ギンが無言でサモンを見た。その白い毛並みが風に揺れ、琥珀色の瞳が冷ややかに光る。
ギンの口元がわずかに開いたが、そこから聞こえたのは「わん」という短い声だけ。だが、ハルトにはその中に込められた念話が届いていた。
《あいつ、しつこい。ごはん目当てのやつ、嫌い》
ぎょっとしたサモンが一歩引く。
「ギ、ギンさん……? ちょっとだけ……おすそ分け、なんて、ダメですか?」
「ハルト様、どうされますか?」
フェンリースが穏やかに口を開いた。声は柔らかいが、まるで氷の刃のような拒絶の意志がその奥に潜んでいる。
「今日は仲間の分しか作ってませんから、すみません」
ハルトはやんわりと笑いながら断る。その表情に怒気はないが、決して譲る気もないと伝わる。
「そ、そうですか……すみません、しつこくて……」
サモンは背を向けて自分のテントへと戻っていった。だが、彼の耳にはまだ残っている。ハルトたちの食卓から漂ってくる香ばしいオーク丼の香り、ふわりと広がるスープの湯気。
(くそっ……なんだよ、あの飯。絶対普通じゃねぇ……)
テントの隅に腰を下ろし、干し肉をかじる。ガリッと音を立て、パサパサの口内に広がるのは、噛み切れない塩気だけ。
(ハルトとかいう奴、何なんだよ。料理はプロ級、仲間も化け物級の魔獣や女剣士……俺には何もないってのか)
唇を噛んだその時、またも風に乗って、あま~い匂いが漂ってきた。
(……今度は何だ!?)
覗き見するようにテントの隙間から顔を出すと、そこには――
「はい、できたよ。特製たまごプリン。ふるふるです」
ハルトが小さな陶器の器を配っていた。ギンにはスプーンは使えないため、ハルトが木の浅皿にプリンをゆっくりと流し込む。
ギンは「くぅん」と小さく鳴くと、ぺろりと一口舐めた。
《うまい……これ、すごく好き……ハルト、天才》
念話を受け取ったハルトが笑う。
「ありがと、ギン」
フェンリースもスプーンで一口、そして目を見開いた。
「……とろけますね。卵の甘みと、焦がし砂糖の香り……これは魔法です」
「ふふ、それは褒めすぎですよ。でも、うれしいです」
サモンは口を半開きにしたまま、プリンの滑らかな表面に反射する月光を見つめていた。
(ぷ、ぷりん……? な、なんだあれ……見たことないぞ……っ!)
しかもフェンリースが――
「サクサクに焼いたビスケットを砕いて乗せてもいいですね。あ、ギン、ほらこれ。粉をちょっと舐めて」
ギンは素直に「ぺろ」と舐め、「わんっ」と小さく鳴いた。
《甘いのサクサク。これ、毎日食べたい》
サモンはもはや、干し肉の味など感じられなくなっていた。口に運ぶ手も止まり、完全に呆然としている。
「はは、じゃあ明日も作るね。みんなの分ね。……サモンさんの分は、まあ……また今度ということで」
笑顔で締めるハルト。しかしその「また今度」は、永遠に来ない種類のものだった。
(な、なんなんだ……この差は……!)
サモンの心には、じわりと小さなざまぁの炎が灯る。自業自得と気づかないまま、彼は再び味のしない干し肉をかじった。
一方、特別な食卓では、プリンのおかわりが始まっていた。
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サモンは、涙目になりながらハルトの差し出した皿を見つめていた。その手には固い干し肉と、味気ない保存パンが握られている。
「……」
ギンが無言でサモンを見た。その白い毛並みが風に揺れ、琥珀色の瞳が冷ややかに光る。
ギンの口元がわずかに開いたが、そこから聞こえたのは「わん」という短い声だけ。だが、ハルトにはその中に込められた念話が届いていた。
《あいつ、しつこい。ごはん目当てのやつ、嫌い》
ぎょっとしたサモンが一歩引く。
「ギ、ギンさん……? ちょっとだけ……おすそ分け、なんて、ダメですか?」
「ハルト様、どうされますか?」
フェンリースが穏やかに口を開いた。声は柔らかいが、まるで氷の刃のような拒絶の意志がその奥に潜んでいる。
「今日は仲間の分しか作ってませんから、すみません」
ハルトはやんわりと笑いながら断る。その表情に怒気はないが、決して譲る気もないと伝わる。
「そ、そうですか……すみません、しつこくて……」
サモンは背を向けて自分のテントへと戻っていった。だが、彼の耳にはまだ残っている。ハルトたちの食卓から漂ってくる香ばしいオーク丼の香り、ふわりと広がるスープの湯気。
(くそっ……なんだよ、あの飯。絶対普通じゃねぇ……)
テントの隅に腰を下ろし、干し肉をかじる。ガリッと音を立て、パサパサの口内に広がるのは、噛み切れない塩気だけ。
(ハルトとかいう奴、何なんだよ。料理はプロ級、仲間も化け物級の魔獣や女剣士……俺には何もないってのか)
唇を噛んだその時、またも風に乗って、あま~い匂いが漂ってきた。
(……今度は何だ!?)
覗き見するようにテントの隙間から顔を出すと、そこには――
「はい、できたよ。特製たまごプリン。ふるふるです」
ハルトが小さな陶器の器を配っていた。ギンにはスプーンは使えないため、ハルトが木の浅皿にプリンをゆっくりと流し込む。
ギンは「くぅん」と小さく鳴くと、ぺろりと一口舐めた。
《うまい……これ、すごく好き……ハルト、天才》
念話を受け取ったハルトが笑う。
「ありがと、ギン」
フェンリースもスプーンで一口、そして目を見開いた。
「……とろけますね。卵の甘みと、焦がし砂糖の香り……これは魔法です」
「ふふ、それは褒めすぎですよ。でも、うれしいです」
サモンは口を半開きにしたまま、プリンの滑らかな表面に反射する月光を見つめていた。
(ぷ、ぷりん……? な、なんだあれ……見たことないぞ……っ!)
しかもフェンリースが――
「サクサクに焼いたビスケットを砕いて乗せてもいいですね。あ、ギン、ほらこれ。粉をちょっと舐めて」
ギンは素直に「ぺろ」と舐め、「わんっ」と小さく鳴いた。
《甘いのサクサク。これ、毎日食べたい》
サモンはもはや、干し肉の味など感じられなくなっていた。口に運ぶ手も止まり、完全に呆然としている。
「はは、じゃあ明日も作るね。みんなの分ね。……サモンさんの分は、まあ……また今度ということで」
笑顔で締めるハルト。しかしその「また今度」は、永遠に来ない種類のものだった。
(な、なんなんだ……この差は……!)
サモンの心には、じわりと小さなざまぁの炎が灯る。自業自得と気づかないまま、彼は再び味のしない干し肉をかじった。
一方、特別な食卓では、プリンのおかわりが始まっていた。
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⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
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