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3・裏切りと告白
レーズンパンとコーヒー
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(な、なんでこんなことになってるの……)
ソファーの肘置きを背にして斜めに座り直した千紗子は、雨宮に髪を乾かされながら、体を固まらせている。けれど、体とは正反対に思考は忙しなく動きまわっていた。
時折雨宮の指が千紗子のうなじをくすぐっていく。
その度に肩をピクリと跳ね上がってしまい、千紗子は自分の体が勝手に反応するのを押さえるのに必死になった。
(は、恥ずかしすぎる………)
その指先の感覚に覚えがあって、ゆうべのことをまた思い出してしまう。
雨宮の指に反応してしまう自分の体が、今までとは違うものになってしまったかのようだ。
ただ単にドライヤーを掛けているだけなのに真っ赤になってしまって、自分一人で雨宮を意識しているようで居た堪れない。
体を縮ませて、羞恥に耐えていると、ドライヤーの風が止まった。
「さっ、できた」
やっと終わったと思った千紗子は、ホッと肩から力を抜いた。
「遅くなったけど、朝食にしよう。こっちにおいで、千紗子」
ドライヤーを棚の上に置きながら、雨宮は千紗子をダイニングテーブルの方へと呼んだ。
ソファーの背を回ってダイニングスペースに行く。
「そこ、適当に座ってて」
ソファーと同素材のダイニングチェアを引いて腰を下ろそうとした時、対面式のキッチンの向こうで雨宮が戸棚から食器を出している後姿が見えた。
「運びます」
「ありがとう。じゃあ頼むよ」
雨宮がキッチンカウンターにパンの乗った大皿と、取り分け用のプレートを置く。千紗子がそれらをダイニングテーブルに運んだところで、両手にマグカップを持った雨宮がこちらにやってきた。
コーヒーのよい匂いがふわっと香る。
「コーヒーにはミルクだけで良かったか?」
「はい。……でも、なんでそれを?」
雨宮と二人でコーヒーを飲んだ記憶なんてない。
千紗子はどうして彼が自分の好みを知っているのか疑問に思った。
「よく休憩室で河崎と飲んでるだろ?いつだったか自動販売機の前で話しているのを聞いたことがあったから」
ちょっと言い訳のように感じてしまうのは、彼の自分に対する気持ちを知ってしまったからだろうか。
千紗子は素直に「ありがとうございます」とミルク入りのコーヒーを受け取った。
「パンは、さっき一階のブランジェリーで買って来たんだ。良かったらどうぞ」
焼き立てと思われるパンからは香ばしい匂いが漂ってくる。
(さっきって、私がシャワーしている間かしら………)
正直空腹も感じていないし、何か食べたいとも思えない。
けれど、雨宮がわざわざ自分の為に買ってきてくれたものに手を付けないのも失礼な気がして、千紗子は迷いながらも皿の中で一番小さなパンに手を伸ばした。
「いただきます」
千紗子が手に取ったのはシンプルなレーズンパン。
一口齧ると、口の中に小麦の甘みとふんわりとした触感で癖がなく、とても食べやすい。
「おいしい……」
「良かった」
千紗子口から漏れた素直な呟きに、雨宮は目を細めて嬉しげに笑う。職場で見るクールな姿とは全く違う彼の姿に、千紗子は目をしばたかせる。
(これが素の雨宮さんなの?)
「ん?どうした?遠慮なくどんどん食べろ」
本当は胸が塞いでこれ以上食べる気にはなれなかったけれど、雨宮にそう言われて残すわけにもいかなくなった千紗子は、食べかけのレーズンパンをコーヒーと一緒に何とかお腹の中に収めたのだった。
ソファーの肘置きを背にして斜めに座り直した千紗子は、雨宮に髪を乾かされながら、体を固まらせている。けれど、体とは正反対に思考は忙しなく動きまわっていた。
時折雨宮の指が千紗子のうなじをくすぐっていく。
その度に肩をピクリと跳ね上がってしまい、千紗子は自分の体が勝手に反応するのを押さえるのに必死になった。
(は、恥ずかしすぎる………)
その指先の感覚に覚えがあって、ゆうべのことをまた思い出してしまう。
雨宮の指に反応してしまう自分の体が、今までとは違うものになってしまったかのようだ。
ただ単にドライヤーを掛けているだけなのに真っ赤になってしまって、自分一人で雨宮を意識しているようで居た堪れない。
体を縮ませて、羞恥に耐えていると、ドライヤーの風が止まった。
「さっ、できた」
やっと終わったと思った千紗子は、ホッと肩から力を抜いた。
「遅くなったけど、朝食にしよう。こっちにおいで、千紗子」
ドライヤーを棚の上に置きながら、雨宮は千紗子をダイニングテーブルの方へと呼んだ。
ソファーの背を回ってダイニングスペースに行く。
「そこ、適当に座ってて」
ソファーと同素材のダイニングチェアを引いて腰を下ろそうとした時、対面式のキッチンの向こうで雨宮が戸棚から食器を出している後姿が見えた。
「運びます」
「ありがとう。じゃあ頼むよ」
雨宮がキッチンカウンターにパンの乗った大皿と、取り分け用のプレートを置く。千紗子がそれらをダイニングテーブルに運んだところで、両手にマグカップを持った雨宮がこちらにやってきた。
コーヒーのよい匂いがふわっと香る。
「コーヒーにはミルクだけで良かったか?」
「はい。……でも、なんでそれを?」
雨宮と二人でコーヒーを飲んだ記憶なんてない。
千紗子はどうして彼が自分の好みを知っているのか疑問に思った。
「よく休憩室で河崎と飲んでるだろ?いつだったか自動販売機の前で話しているのを聞いたことがあったから」
ちょっと言い訳のように感じてしまうのは、彼の自分に対する気持ちを知ってしまったからだろうか。
千紗子は素直に「ありがとうございます」とミルク入りのコーヒーを受け取った。
「パンは、さっき一階のブランジェリーで買って来たんだ。良かったらどうぞ」
焼き立てと思われるパンからは香ばしい匂いが漂ってくる。
(さっきって、私がシャワーしている間かしら………)
正直空腹も感じていないし、何か食べたいとも思えない。
けれど、雨宮がわざわざ自分の為に買ってきてくれたものに手を付けないのも失礼な気がして、千紗子は迷いながらも皿の中で一番小さなパンに手を伸ばした。
「いただきます」
千紗子が手に取ったのはシンプルなレーズンパン。
一口齧ると、口の中に小麦の甘みとふんわりとした触感で癖がなく、とても食べやすい。
「おいしい……」
「良かった」
千紗子口から漏れた素直な呟きに、雨宮は目を細めて嬉しげに笑う。職場で見るクールな姿とは全く違う彼の姿に、千紗子は目をしばたかせる。
(これが素の雨宮さんなの?)
「ん?どうした?遠慮なくどんどん食べろ」
本当は胸が塞いでこれ以上食べる気にはなれなかったけれど、雨宮にそう言われて残すわけにもいかなくなった千紗子は、食べかけのレーズンパンをコーヒーと一緒に何とかお腹の中に収めたのだった。
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