紅き鬣と真珠の鱗

緋宮閑流

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第5章 龍神の贄

5-2 浄化の力2

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若干焦ったように身を乗り出したコルリが、整ってゆくイスカの呼吸を確認して安堵の息を吐いたのがわかった。
「……感謝いたします、龍神様」
「……海には無い音だかンな……耳が痛ぇ」
コルリが前脚をつき、頭を下げる。敬う相手にするものだと気付いてしまえばそれも鬱陶しく、長くなりそうな話に何度それが挟まれるかもわからないので下がった頭のてっぺんを小突いてやった。
「……ワダツミ」
「……はい?」
「オレの名だ。その前脚ついて頭下げンのもナシにしてくれ。話が回りくどくなンだよ」
説明してやれば、コルリがくすりと笑った。ニンゲンというヤツは本当に色々な笑い方をする……否、龍もするのだ、本当は。
いつも困ったように笑うツキノワが、何でも豪快に笑い飛ばしてしまうアラナミが思い浮かんだ。
「ワダツミ様は気さくでおられる」
こちらに向き直ったコルリは、会ってから初めて見る顔をしていた。
少しだけ、力の抜けた笑顔を。
「キサクってのが褒めてンのかどうなのか解らんが、回りくどくなけりゃなんでもいい。言いたいことが有ンなら簡潔に、全部言え」
話の内容とは裏腹に笑顔の柔らかくなったコルリを見据える。
「……イスカの瘴気、浄化してンだろ」
こちらからの確認に、コルリは微笑みを深くした。
「ってか、お前瘴気がどういうものか解ってやがンな?」
「さて、どうでしょうか」
謎かけなのか、はぐらかしているのか全くもって謎だが、理解できないものにかまけていても埒があかない。話は強引に進めていくしかない。
「まぁいい。正直、オレはこのオマモリが欲しい。もっと強力なヤツをな。だから浄化の力を無駄にして貰っちゃ困ンだよ。それに」
同情、とでも呼ぶのだろうか。群れの長として、そして能力を持つ者として、己が身よりも重く果たさねばならぬ役目に取り憑かれた様を自分と重ねてしまうのだ。
「……いや、なんでもねぇよ」
コルリから目を逸らし、そして──イスカを見遣る。
イスカの話を聞く限り、ニンゲンという種族は自身だけでなく他者の死に対しても往生際が悪い。これほど慕う者が命を落とせばそのココロはひどく傷付くのだろうと予測できた。これは本当に認めたくない、不本意な感情なのだが……

……イスカの落ち込む様を見たくない。

黙り込んだこちらの様子を何と思ったのかは判らないが、コルリは笑顔のまま少しだけ困ったような表情を浮かべた。
コイツは、ツキノワとよく似ている。
「……どうもお前らと居ると本能が尻込みしやがるな……本来ならコルリ、オレはお前を喰ってその力を補填したって良いンだ。糧になる者もそれが役目なんだからな」
少しだけ凄んでみせたつもりだったが、コルリはあははと小さな笑い声を上げて光栄ですと呟いた。
遣り場の無い感覚に舌打ちする。
「オレには役目がある。救わなきゃなんねぇ奴も居るし通さなきゃなんねぇスジもある……なのにこのザマだ。何なンだよホントによ……」

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