前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました

初昔 茶ノ介

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8巻

8-2

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「とりあえず座りましょうか」
「はい……」

 とりあえず二人で席に着く。
 じいやさんが紅茶こうちゃを淹れて、カップを私の前に置いてくれた。

「改めて、急に呼び出したりしてごめんなさい。気をつかわせてしまいましたよね」
「い、いえ! そんなことないです!」

 そんな風になおもカチンコチンな私を見て「ふふっ」と笑みをこぼしてから、クリスティ様は言う。

「今日お招きしたのは、サキさんに頼みたいことがあったからです」

 た、頼みたいこと……?
 いったいなんだろう。
 クロード家は、四公爵家の中で一番の戦闘技術を誇る家。
 国家規模きぼの軍事的な依頼とかも、まず最初に声が掛かるわけで……。
 あ、もしかして魔法武器について聞きたいことがある、とか?
 いや、でもシンプルにレオンさんの話って可能性もあるよね。
 ……まさか、貴族の義務よりアメミヤ工房を優先して、自由に生きているレオンさんをどうにかしたいとか!? そ、それは困る!

「頼みたいことと言うのは……」

 私はクリスティ様の言葉をさえぎるようにして、口を開く。

「レ、レオンさんは、もう私たちにとってはいてくれなきゃ困る存在なんです!」
「……え?」
「で、ですから! レオンさんの貴族としての時間は確保しますので、何卒なにとぞ! 何卒レオンさんをアメミヤ工房から連れ戻さないでください!」

 私は勢いよく頭を下げた。
 すると、戸惑とまどったような声が聞こえてくる。

「頭を上げてください。何か思い違いをしているようですが、私はレオンのことを家にしばり付けるようなお願いをしようとしているのではありません」
「え? そうなんですか?」

 おそおそる頭を上げると、クリスティ様が苦笑いを浮かべていた。
 も、もしかして……私、早とちりでやらかした!?

「すすす、すみません! 私また変なことを!」

 私は再び頭をビュンッと下げ、ゆっくりと上げる。
 すると、クリスティ様は口元を押さえてクスクスと笑い出す。

「サキさんは思ったよりも、にぎやかな人なのですね」
「す、すみません……」

 クリスティ様はひとしきり笑い終えてから紅茶を飲んで、口を開いた。

「今日お呼びしたのは他でもありません。普段のレオンのことをお聞きしたかったんです」
「普段のレオンさん?」
「はい。その……おずかしい話なのですが、私は母親としてあの子たちのことをちゃんと見ていられていなくて……だから、身近な友人に我が子の様子を聞ければなと」

 え、えっと……つまり、貴族家としてってわけじゃなく、一人の母親として子供の様子を知りたかったってことでいいんだよね?
 りんとしたクリスティ様が、そんなアットホームななやみを抱いているだなんて……。
 いやいや、悩みは人それぞれ。そうとなれば、私のやるべきことは一つ!
 私は胸をドンと叩いて言う。

「そういうことなら、お任せください! いくらでもお話しします!」
「ありがとう。助かります」

 私は意気揚々いきようようと、語り出す。

「まず、レオンさんはいつも頼りになるんです! たまに一人で抱えすぎちゃうところもあるけど、そこがみんなのためだってわかるし、そういうところもかっこいいし……あと……それから……」

 それから私は、レオンさんとどこへ行ってどんなことをしたとか、その時にどれだけ素敵だったかとか、いろいろとしゃべった。
 だってお母さんは、子供が活躍かつやくしていたら嬉しいはずだもんね!
 そうして話が一段落したタイミングで、ふとクリスティ様が聞いてくる。

「……サキさん、レオンとの時間は楽しいですか?」
「え? はい! とても!」

 私の返事を聞いてクリスティ様は紅茶を一口飲み、カップを机に置いた。
 そして、先ほどまでとは一変して、真剣な眼差まなざしを私に向ける。

「サキさん、ここからは少しだけ真面目まじめな話をさせてもらいます」
「は、はい……」

 クリスティ様が口を開こうとした瞬間――へいの方からするどい殺気を感じた。
 私はすぐに愛刀あいとう白風しらかぜを取り出して、殺気がした方へと走りながら構える。

「クロード家当主、クリスティ! お覚悟!」

 殺気のぬしはそう口にしながら塀を飛び越え、剣を振りかぶる。
 黒子くろこのように、顔の半分を黒い布でおおっている。きっと、暗殺者だ。
 そして声から推測すいそくするに、男だろう。
 クリスティ様を守らないと!

「させない!」

 私は暗殺者の男の剣を受け止めた。
 それからは、激しい剣の打ち合いになる。
 くっ……こいつ、強い!
 レオンさんとの訓練で私も少しは剣のうでが上がっていると思っていたけど、徐々じょじょに押されているのがわかる。
 私はネルと協力して生み出した剣術――ネル流剣術の技を繰り出す。

「ネル流剣術スキル・【刺々牙ささがき】!」

 しかし、暗殺者の男はあせった様子もなく私の技を受ける。

「レインバント流剣術・【天蓋てんがい】」

 そして、反撃してくる。

「トゥリアフ流剣術・こうかまえ・【炎獅子えんじし】!」
「なっ!?」

 これは学園代表戦で戦った、ロイさんの流派の技!? さっきとは違う流派の技を使うだなんて!
 私はそれでもどうにか攻撃をしのぎ、後ろに飛びのいて距離を空ける。
 様々な流派を扱えて、状況に応じて使い分けている……だけじゃない。
 一つ一つの技が、どれも食らえば致命傷ちめいしょうになりかねないくらいの威力いりょくだ。

「ローデンベルク流武術・【早駆はやがけ】」

 せっかく空けた距離を特殊とくしゅな歩法で一気にめてきたかと思えば、目の前から消えた。
 いや、後ろだ! こうなったら一かばちか!
 私は白風をさやに収めながら身をひねる。
 男は上段に構えていた。

「トゥリアフ流剣術・【天躯てんく】!」
「ネル流剣術スキル・【居合いあいおろし】!」

 力強く振り下ろされた剣に向かって、私はネル流の中でも最速の技を放った。
 両者の剣がちゅうを舞う。
 男は驚いたようで、一瞬動きが止まる。
 このすきのがさない!

「ネル流魔武術まぶじゅつ・【陽光一天突ようこういってんづき】!」

 魔武術とはその名の通り、魔法と武術を融合ゆうごうした技だ。
 私の右手にほのおともり、男のお腹へ向かって加速していく。
 その時、男が短刀を振るっているのに気付く。
 けられない……このままじゃ相打ち!? いや、刺し違えてでもクリスティ様を守るんだ!

「そこまでです!」

 クリスティ様の声が響いた。
 男は攻撃をやめて、私のこぶし間一髪かんいっぱつで避ける。
 私の攻撃によって風が巻き起こり、顔を隠していた布が少しめくれた。

「あ……」

 男の正体が、わかった。

「……これはどういうことですか。レガール様」

 ちらっとしか見えなかったけど、あの顔は間違いなくレオンさんのお兄さん、レガール様だ。
 なんだかだまされたような気分。
 私はついつい、ムッとした顔をレガール様に向けた。
 レガール様は短刀をふところに仕舞いつつ、軽く頭を下げる。

「すまないな、サキじょう。詳しい話は母から聞いてほしい」

 クリスティ様の方を見る。すると彼女は、先ほどとは違って鋭い目で私のことを見つめていた。
 まるで、何かを見定めようとしているかのような、そんな目だった。

「レガール、ありがとう」

 そう言って、クリスティ様はさっきまで私が座っていた椅子を手で示す。
 レガール様はふっ飛んだ彼の剣と白風を拾う。そして自分の剣を鞘に収め、白風を私に渡してから「それではまた」と口にして、庭から出ていった。
 私は白風を鞘に収めて収納空間にしまってから椅子に座り、クリスティ様に向き合う。

「実は現在、クロード家とつながりのある貴族たちがレガールとレオンのどちらが次期当主にふさわしいかで対立し、派閥はばつが生まれてしまっているのです」
「え……」

 私は唐突とうとつな話に、驚く。
 貴族の後継問題は、その家だけでなくその家と関わりのある貴族をも巻き込むという話は、聞いたことがある。
 しかし、いざ自分の身近な人物がその渦中かちゅうにいると思うとなんというか……テレビで見ているかのような現実感のなさだ。

「レガールを評価する派閥は、レガールがいかにレオンよりも体術、剣術にすぐれているかということを主張しています。親の私から見てもあの子の身のこなしは天賦てんぷのものだと思います。さらに、あの子はカルバート家のメイリーとは幼い頃から親しくしていますし、次の代に繋ぐという意味でも有望ゆうぼうだと思われているようですね」

 え、えぇ!? それって、レガール様とメイリー様がいい感じってこと……だよね!?
 た、確かにお似合いの二人ではあるけど。
 そんな風に驚く私に構うことなく、クリスティ様は話を続ける。

「反対にレオンの評価は、クロード家始まって以来の魔術の天才といったところかしら。でも、クロード家において剣術に優れていることは何においても重要。そういった事情で、レガールの方が周囲の評価は高かったのです」

 クロード家はこのグリーリア王国が作られた時に一技必殺いちぎひっさつうたわれた『抜剣術』を評価され、四公爵に選ばれた一族。当然、体術や剣術にひいでた人が歴代当主となっているだろうことは想像にかたくない。
 私としてはレオンさんの夢……冒険者になっていろいろな場所を旅したいっていう夢を知っているから、そのままレガール様になっちゃえ~って思っちゃう。
 でもクリスティ様としてはそんな簡単に決断できない話ではあるだろう。

「でも、それはちょっと前までの話。実は今、状況が変わりつつあります。あの子が生み出した、ある技によって。確か『抜剣術魔纏まてん断閃だんせん】』と呼んでいたかしら」

 私の魔剣術と、前に戦ったモーブという男が使っていた魔法を元にレオンさんがみ出した技だったかな。
 レオンさんの愛剣であるノーチェと私の白風は、炎の精霊がともした特別な炎である聖炎せいえんによって生み出された、魔力をびる鉄――魔含鉄まがんてつでできている。
 そして、魔含鉄によって造られた剣は、他の剣と違って魔力をまとわせることができるのだ。
 断閃は、剣の表面に纏った魔力をやいば状に形成して高速で放つ、強力な技なんだけど……。

「その技によって、どう状況が変わったんですか?」
「……抜剣術は元々、対人に特化した剣術です。他の流派の剣を置き去りにし、一技必殺とまで言われるほどに、それは強力なものでした。ですが、大量の魔物に対して特別強いというわけではないです。いかんせん、一度の技で斬れるのは一体だけですから」
「それが跡目争いの話にどう……あっ!」

 クリスティ様は頷く。
 今、リベリオンの召還魔物の軍団による襲撃しゅうげきに対してどう対応するべきか貴族たちが議論しているって、パパが言ってた。
 そういった意味で剣術と魔術、どちらも使いこなすレオンさんは、かなり優秀だと言える。

「レオンを支持する者たちが『新たなクロードとしての道を作るのはレオンである』とより強く主張するようになったんです」

 なるほど……それは自然な流れだよね。
 でも、となると新しい疑問が生じる。

「レオンさんの評価が上がったことは理解しました。でも、それとさっきレガール様がおそってきたこととはどういった関係があるのでしょうか?」

 私が聞くと、クリスティ様は咳払せきばらいを一つしてから口を開く。

「……レガールにはメイリーがいますが、レオンには今まで懇意こんいにしている女性がいたことはない。しかし最近、あなたにずいぶんと熱を入れているとの情報を得まして。貴族家には血を重んじる人間が多い。あのレオンが興味を持つ女性ならば、いずれクロードに……ということも考えられますでしょう? あなたがどれだけ強いのかを知りたかったのです。早計なのはわかっているのですが……」

 つ、つまり……これは息子の未来のよめ候補を見定めるための試練ということですね!?
 どうしよう、なんだか変な汗かいちゃいそう。
 するとクリスティ様は居住まいを正す。

「クロードに……半端はんぱな者はいらないのです」

 背筋がこおるようなプレッシャーを感じた。
 でも、私に圧をかけようとしているってわけじゃなさそう。
 たぶんこれは……名家のきさきとしての覚悟なのだろう。
 きっとクリスティ様自身もそういう覚悟で、ここに身を置いているんだ。

「えっと……」

 私がどう言葉を紡ぐべきか思案していると、クリスティ様は言う。

「とはいえ……予想外でした」
「えっ!?」
「あ、いい意味で、ですよ」

 そう言ってクリスティ様はふっと笑う。
 一瞬驚いたけど、いい意味ならよかった。
 これで『あなたはクロードにふさわしくない』だなんて言われたらショックで気絶しちゃうもん!
 クリスティ様は、再度真剣な表情を浮かべ、頭を下げてきた。

「試すようなことをして、すみませんでした。立場上、正しく当主を選ぶ必要があり、強引に事を運んでしまったこと、謝罪いたします。魔術師としての実力はこれまでの功績が裏付けてくれますが、近接戦闘の技量もどうしても見ておきたかったのです。そして、その上で確信しました」
「確信?」

 クリスティ様は私の頭をでながら、優しい声で言う。

「レオンの近くにいる子が、あなたでよかった」
「え、えっと……」
「最後、剣を弾き飛ばしたあとに相打ちになってでも私を守ろうとしましたね」
「そんなことわかるんですか!?」
「わかりますよ。拳を振るう瞬間に、一瞬こちらに視線を遣ったでしょう?」

 剣の達人……恐るべし……。

太刀筋たちすじ所作しょさを見ればわかります。あなたが、自分ではない誰かを守れる優しい人だとね。これからも、レオンと仲良くしてあげてください」
「……はい!」

 なんか大変だったけど、クリスティ様にいい印象を持ってもらえたならよかったぁ!

「お時間をとらせてしまいすみませんでした。そこのあなた」
「はい」

 クリスティ様に呼ばれた、近くでひかえていたメイドさんが、こちらに近づいてくる。

「サキさんを、レオンの部屋に案内してあげて」
「かしこまりました」
「サキさん、またお話ししましょう。私は公務があるので、これから王城へ向かわなければならないのです。ゆっくりしていってください。では」
「ありがとうございました!」

 クリスティ様が庭を出ていくのを見送ってから、メイドさんに案内してもらって、私はいよいよご褒美……じゃなくて、レオンさんのお部屋へと向かった。


「こちらが、レオン様のお部屋でございます」

 しばらく歩いたところでメイドさんは立ち止まり、そう言った。
 目の前の扉はボロボロで、何度も修復した跡がある。
 どういうこと……? もしかして前世の私みたいに手ひどくしつけられて、とかじゃないよね?
 そんなことを考えている間に、メイドさんが扉をノックしてしまった。

「レオン様、サキ様をお連れいたしました」
「あぁ、入ってきてもいいよ」

 部屋の中からレオンさんの声が聞こえてきた。
 メイドさんが扉を開けてくれたので、私は中に入る。

「それでは私はこれで」
「あ、はい。ありがとうございます」

 メイドさんは頭を下げ、静かに扉を閉めた。
 そうして私は、思わず部屋を見回してしまう。
 部屋は綺麗に整頓せいとんされていた。家具はかべ沿いに勉強机やたなに、ベッドがあって……あとは、部屋の真ん中に丸いテーブルと椅子いすがいくつか置かれているくらい。
 かざり気はないけど清潔せいけつで、レオンさんっぽい部屋だ。
 レオンさんは丸テーブルのところの椅子に座っていた。
 そしてそのとなりにはレガール様がいて、ベッドにはメイリー様がごろんとしている。
 三人は幼馴染おさななじみで一緒に過ごすことが多いって知ってはいたけど、メイリー様とレガール様がいい感じだって聞いたばかりだからなんだかドキドキしちゃう!

「やぁ、サキ。大変だったね」
「まったくです。もしかして、ほんとはレオンさんはこうなるって聞いてました?」

 レオンさんがそんな風に話しながら自分の隣の空いている椅子に座るよう私にうながしてきたので、私はそこに座る。

「いや、知らなかったよ。サキを待つために部屋に行くと、兄上がいなくて姉さんがくつろいでたから、なんとなくさっしたけど」

 すると、レガール様がテーブルの上のポットから近くにあったカップに紅茶を注ぎ、私に出してくれつつ口を開く。

「サキ嬢、先ほどは失礼したね」

 それを聞いて、メイリー様はがばっと起き上がって、会話に参加してくる。

「いや、ほんとよね。レオンと一緒に遠くから見てたけど、ちょっとは手加減したら? って思ったわよ」
下手へたに手加減すると母上にバレてしまうし、それに英雄殿えいゆうどのに手加減など不要かと思ってね」
「もぉ……英雄って呼ばないでくださいよ」

 私がほおふくらませると、レガール様はおかしそうに笑う。

「ははっ、すまない。だが、高等科の中でサキ嬢の武勇伝ぶゆうでんは、話によくあがるのでね」
「そうねぇ、私の学年でも結構話にあがってるわ」
「それじゃあこれからもっと有名になるね」

 そんなレオンさんの言葉に、私は首をかしげる。

「どうしてですか?」
模擬戦もぎせんとはいえ、兄さんと剣術で張り合ったんだ。そんなことができる人は魔法学園の中でも一にぎりもいない」
「えぇ!?」
「あぁ、サキ嬢との打ち合いは実に心おどった」
「うぅ……忘れてください。あの時は本当にクリスティ様を守らなきゃって思ってて……」
「守らなきゃって思って、すぐに動けることがすでにすごいことよ。普通の令嬢だったら、固まっちゃうもの」

 ん? それじゃあ……。

「メイリー様も――」
「お姉ちゃん!」

 あぁ、そういえばそうだった……前にメイリー様を間違って『お姉ちゃん』って呼んだことをきっかけに、そう呼ぶことになっているんだ。
 とはいえ『姉』呼びしているのって私とレオンさんくらいらしいから、ちょっと恥ずかしいんだけど……この場にはレオンさんもいるし、いっか。

「お、お姉ちゃんもやったの?」
「ん? あぁ、やったわよ。私の時はレオンが相手だったけどね」

 笑顔で言うメイリーさんに対して、レオンさんはその時のことを思い出して苦笑いした。

「姉さんは容赦ようしゃないもんだから、大変だったよ」
「あぁ、こいつは加減を知らないからな。あとで庭を修復するのが大変だった」

 メイリー様、何したの!?
 まぁ、それはこの際置いといて……。

「あ、あのレオンさん。この扉って……」
「ん? あぁ、これ? 昔、僕はこの部屋で剣の練習をしていてね。何度も斬っちゃうものだからついには自分で直すように言われちゃって」
「へ? じゃあ虐待ぎゃくたいとかそういうわけじゃ……」

 頓狂とんきょうな声で聞き返す私に、レオンさんは微笑む。

「虐待? あぁ、ないない。母様に虐待なんてされたら、今頃僕も兄さんも生きてないさ」
「はははっ! それはそうだな!」
「そ、そうなんだ。よかったぁ……」

 レオンさんとレガール様が笑い合っている姿を見て、私は胸を撫で下ろした。
 そうだよね。ついつい前世の経験に引っ張られて悪く考えてしまっていたけど、あんな息子思いなお母様がそんなことするわけないもんね。


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