隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

文字の大きさ
12 / 74
ガルドさんとの修行編

どうも、どうやら鬼の修行は常識外から始まるようです

しおりを挟む
シュタと恋人になって初めて迎える朝。俺は、朝日が昇るよりも早く目を覚ました。昨日までの決闘の疲労や、ガルドさんとの修行への緊張とは違う、どこかむず痒いような、それでいて心地よい高揚感が全身を包んでいた。

守りたいものができた。ただ生き延びるためだけでなく、大切な誰かのために強くなりたい。そんな、青臭いが力強い感情が、俺の心の中心に、確かな熱を持って灯っていた。

食堂に下りると、すでにシュタが朝食の準備をしていた。俺の姿に気づくと、彼女は「あ……」と小さく声を漏らし、昨日までとは違う、はにかんだような笑顔を向ける。その仕草一つで、俺たちの関係が変わったことを実感させられた。

「お、おはよう、ショウさん……。よく眠れましたか?」
「ああ、おはよう、シュタ。……うん、まあな」

ぎこちない挨拶を交わす。だが、その気恥ずかしさすらも、今の俺には幸福なものに感じられた。

「今日の朝食は、特別ですよ!修行、大変だと思いますから、精一杯、力のつくものを用意しました!」

そう言って彼女が出してくれたのは、いつも以上に具沢山で、湯気の立つシチューと、栄養価の高い木の実が練り込まれた黒パンだった。その一皿一皿に、彼女の応援と気遣いが込められているのが、痛いほど伝わってくる。リルも俺の足元で、シュタから貰った朝食用のモンスタージャーキーを、嬉しそうに食べていた。

温かい食事で腹と心を満たした俺は、シュタとリルからの「いってらっしゃい」の声に見送られ、決意を新たに訓練場へと向かった。

訓練場では、すでにガルドさんが仁王立ちで待っていた。俺の顔を見るなり、その鬼のような顔を、さらに僅かに顰める。

「……惚けた顔をしやがって。恋にうつつを抜かして腑抜けたか、小僧。言っておくが、そんな甘っちょろい覚悟で、俺の修行を乗り越えられると思うなよ。浮ついた心は、お前の一番の敵になる。下手をすれば、死ぬぞ」

ガルドさんの鋭い言葉が、俺の心を突き刺す。この男には、俺の心の変化などお見通しらしい。だが、それは俺を奮い立たせるための、彼なりの激励なのだと、今の俺にはわかった。

「いいえ。俺は、強くなる理由が、昨日よりも一つ増えただけです」

俺がそう言って、彼の目をまっすぐに見返すと、ガルドさんは「ふん」と鼻を鳴らし、ほんの少しだけ、口の端を緩めたように見えた。

「口だけは達者になったみてぇだな。……いいだろう。ならば、その覚悟が本物かどうか、その体で示してみせろ」

その日から、俺の地獄のような、しかし、本当の意味で強くなるための修行が始まった。
初日に課せられたのは、意外にも、剣の素振りでも、走り込みでもなかった。

「今日お前が学ぶのは、ただ一つ。『魔力操作』だ」

ガルドさんは、俺に訓練場の真ん中で胡坐をかくよう指示すると、静かに語り始めた。

「お前は、スキルや知識という『外付けの力』に頼りすぎている。だが、本当の強さの源泉は、お前自身の内にある。それが、魔力だ。だが、今のてめぇは、その魔力をただ垂れ流しているだけの、穴の空いた水袋みてぇなもんだ。まずは、その穴を塞ぎ、流れを完全に掌握することから始める」

ガルドさんの指導は、驚くほど的確で、論理的だった。
最初の課題は、自分の体内を流れる魔力を『感知』すること。
目を閉じ、意識を内側へ。雑念を払い、血流でも、呼吸でもない、第三の流れを探す。最初は何も感じられなかったが、シュタやリルの顔を思い浮かべ、守りたいという一心で『精神統一』スキルを発動させると、やがて、体の中心から手足の末端へと巡る、温かいエネルギーの奔流を、確かに感じ取ることができた。

次の課題は、その魔力を、体の特定の一部――右手のひら――に『集束』させること。
ガルドさんが手本として見せた、空気が歪むほどの圧倒的な魔力密度をイメージし、俺は自分の魔力を必死に導く。何度も失敗し、霧散させながらも、『呼吸法』で集中力を維持し、諦めずに挑戦を続けた。そして、数時間が経過した頃には、俺の右手のひらにも、淡い蒼白い光が、確かな熱を持って灯るようになっていた。

その日の修行の締めくくりとして、ガルドさんは最後の、そして最難関の課題を俺に突きつけた。

「最後だ、小僧。今度は、その魔力を、鎧のようにお前の全身に均一に行き渡らせてみろ。これが、スキルに頼らない、本物の『身体強化』の基礎となる。言っておくが、これは一番難しい。下手をすれば、制御を失った魔力が体内で暴走し、内側からお前の体を破壊するぞ。……だが、これができれば、お前の力は、新たな次元へと突入する」

俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。だが、ここで退くわけにはいかない。

「やります!」

これまでの人生で、最も集中した。体の中心にある魔力の源泉から、無数の細い流れを、脳、心臓、筋肉、骨、皮膚、その全ての細胞一つ一つへと、同時に、そして均一に広げていく。それは、巨大なオーケストラの指揮者が、全ての楽器を同時に、完璧なハーモニーで奏でさせようとするような、神業に近い精密作業だった。

だが、やはり俺の実力では、まだ早すぎた。
全身に魔力が広がり始めた瞬間、俺の意識は、自分の内側で荒れ狂うエネルギーの奔流に飲み込まれた。制御を失った魔力は、もはや俺の意識を無視して暴走を始める。

(まずい、制御できな――)

それが、俺の最後の思考だった。視界が真っ白に染まり、俺の意識は、ぷつりと、深い闇の中へと落ちていった。

どれくらい時間が経っただろうか。
頬を、ぷにぷにとした柔らかい何かが突く感 xúcで、俺は意識を取り戻した。

「……キュ?」
「ん……リル……?」

目を開けると、心配そうに俺の顔を覗き込むリルの姿があった。いつの間にか、俺の鞄の中から出てきてくれたらしい。その向こうには、腕を組んで俺を見下ろすガルドさんの巨躯があった。

「……情けねぇな。だが、まあ、最初はそんなもんだ」

ガルドさんはそう言うと、回復薬の小瓶を俺の口に流し込んだ。

「立てるか、小僧。一度意識を失ったことで、逆にお前の体は魔力の『通り道』を覚えたはずだ。感覚が残っているうちに、もう一度やれ。次で決めろ」

言われた通りだった。起き上がってみると、先ほどまでとは体の感覚が違う。一度、魔力が全身を駆け巡ったことで、体の中に、新たな神経回路が刻まれたような、不思議な感覚があった。

俺は、再び胡坐をかき、目を閉じる。そして、今度は魔力の流れに逆らわない。ただ、その身を任せる。体に刻まれた、新しい道筋へと、魔力を解き放つように。

すると、どうだ。
さっきまでの暴流が嘘のように、魔力は滑らかに、そして淀みなく、俺の全身へと行き渡っていった。皮膚の内側、すぐ下を、温かい光の鎧が形成されていく。目を開けると、自分の体全体が、淡い蒼白いオーラに包まれていた。力がみなぎる。視界が、音が、匂いが、全てが先ほどまでとは比べ物にならないほど、鮮明に感じられた。

その時、脳内にシステムメッセージが響いた。
[スキル【魔力操作(5)】を新規に習得しました]
[既存スキル【身体強化(3)】が【魔力操作】と統合され、効果が向上しました]

「……これが、本当の身体強化……」

俺が、自分の体の変化に驚愕していると、目の前のガルドさんが、その鬼のような顔に、初めて明確な驚愕の色を浮かべていた。

「……馬鹿な。俺が、この感覚を完全に掴むのに、一週間はかかったぞ。……おい、小僧。お前、本当に何者なんだ……」

ガルドさんは、何か得体のしれないものを見るような目で、俺をじっと見つめていた。

やがて、彼は「ふん」と鼻を鳴らし、驚きを隠すように言った。
「……まあ、いい。どうやら、とんでもねぇ化け物を拾っちまったらしいな。基礎はできた。だが、それはスタートラインに立ったに過ぎん。明日からは、その魔力操作を維持したまま、俺の攻撃を避け続けてもらう。本当の地獄は、ここからだ」

修行初日が終わった。俺は、立っているのもやっとなほど疲労困憊だったが、その心は、自分の内なる力が目覚めた確かな手応えと、明日からの本当の地獄への、恐ろしいほどの期待感で満たされていた。

しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵
ファンタジー
連日の残業で終電帰りのサラリーマン、神無月無名21歳。 ある夜、突然足元の光に包まれ異世界へと召喚されてしまう。 そこは豪華絢爛な王宮。 第一王女ラクティスは、彼を含む男女5人を「勇者」として召喚したと告げる。 元の世界では時間がほぼ止まっているという説明を受け、半ば強制的に魔国との戦いに協力することになった無名たち。 発現した無名の紋章は歴代でも最高クラスを示し万能の勇者と称され、周囲を驚愕させる。 元の世界への帰還を条件に口頭で協力を約束する勇者たちだが、無名だけは王家に対し警戒心を抱き、王に元の世界への帰還とこの世界で得た力を持ち帰ることを書面で約束させる。 協調性がないと周囲から思われながらも、己の最適解を優先する無名は、果たして他の勇者たちと協力し、魔国を打ち倒して元の世界へ帰ることができるのか。 それぞれの思惑が交錯する中、勇者たちの戦いが幕を開ける。 これは社会不適合者が歩む成長の物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...