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ガルドさんとの修行編
どうも、どうやら鬼の修行は常識外から始まるようです
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シュタと恋人になって初めて迎える朝。俺は、朝日が昇るよりも早く目を覚ました。昨日までの決闘の疲労や、ガルドさんとの修行への緊張とは違う、どこかむず痒いような、それでいて心地よい高揚感が全身を包んでいた。
守りたいものができた。ただ生き延びるためだけでなく、大切な誰かのために強くなりたい。そんな、青臭いが力強い感情が、俺の心の中心に、確かな熱を持って灯っていた。
食堂に下りると、すでにシュタが朝食の準備をしていた。俺の姿に気づくと、彼女は「あ……」と小さく声を漏らし、昨日までとは違う、はにかんだような笑顔を向ける。その仕草一つで、俺たちの関係が変わったことを実感させられた。
「お、おはよう、ショウさん……。よく眠れましたか?」
「ああ、おはよう、シュタ。……うん、まあな」
ぎこちない挨拶を交わす。だが、その気恥ずかしさすらも、今の俺には幸福なものに感じられた。
「今日の朝食は、特別ですよ!修行、大変だと思いますから、精一杯、力のつくものを用意しました!」
そう言って彼女が出してくれたのは、いつも以上に具沢山で、湯気の立つシチューと、栄養価の高い木の実が練り込まれた黒パンだった。その一皿一皿に、彼女の応援と気遣いが込められているのが、痛いほど伝わってくる。リルも俺の足元で、シュタから貰った朝食用のモンスタージャーキーを、嬉しそうに食べていた。
温かい食事で腹と心を満たした俺は、シュタとリルからの「いってらっしゃい」の声に見送られ、決意を新たに訓練場へと向かった。
訓練場では、すでにガルドさんが仁王立ちで待っていた。俺の顔を見るなり、その鬼のような顔を、さらに僅かに顰める。
「……惚けた顔をしやがって。恋にうつつを抜かして腑抜けたか、小僧。言っておくが、そんな甘っちょろい覚悟で、俺の修行を乗り越えられると思うなよ。浮ついた心は、お前の一番の敵になる。下手をすれば、死ぬぞ」
ガルドさんの鋭い言葉が、俺の心を突き刺す。この男には、俺の心の変化などお見通しらしい。だが、それは俺を奮い立たせるための、彼なりの激励なのだと、今の俺にはわかった。
「いいえ。俺は、強くなる理由が、昨日よりも一つ増えただけです」
俺がそう言って、彼の目をまっすぐに見返すと、ガルドさんは「ふん」と鼻を鳴らし、ほんの少しだけ、口の端を緩めたように見えた。
「口だけは達者になったみてぇだな。……いいだろう。ならば、その覚悟が本物かどうか、その体で示してみせろ」
その日から、俺の地獄のような、しかし、本当の意味で強くなるための修行が始まった。
初日に課せられたのは、意外にも、剣の素振りでも、走り込みでもなかった。
「今日お前が学ぶのは、ただ一つ。『魔力操作』だ」
ガルドさんは、俺に訓練場の真ん中で胡坐をかくよう指示すると、静かに語り始めた。
「お前は、スキルや知識という『外付けの力』に頼りすぎている。だが、本当の強さの源泉は、お前自身の内にある。それが、魔力だ。だが、今のてめぇは、その魔力をただ垂れ流しているだけの、穴の空いた水袋みてぇなもんだ。まずは、その穴を塞ぎ、流れを完全に掌握することから始める」
ガルドさんの指導は、驚くほど的確で、論理的だった。
最初の課題は、自分の体内を流れる魔力を『感知』すること。
目を閉じ、意識を内側へ。雑念を払い、血流でも、呼吸でもない、第三の流れを探す。最初は何も感じられなかったが、シュタやリルの顔を思い浮かべ、守りたいという一心で『精神統一』スキルを発動させると、やがて、体の中心から手足の末端へと巡る、温かいエネルギーの奔流を、確かに感じ取ることができた。
次の課題は、その魔力を、体の特定の一部――右手のひら――に『集束』させること。
ガルドさんが手本として見せた、空気が歪むほどの圧倒的な魔力密度をイメージし、俺は自分の魔力を必死に導く。何度も失敗し、霧散させながらも、『呼吸法』で集中力を維持し、諦めずに挑戦を続けた。そして、数時間が経過した頃には、俺の右手のひらにも、淡い蒼白い光が、確かな熱を持って灯るようになっていた。
その日の修行の締めくくりとして、ガルドさんは最後の、そして最難関の課題を俺に突きつけた。
「最後だ、小僧。今度は、その魔力を、鎧のようにお前の全身に均一に行き渡らせてみろ。これが、スキルに頼らない、本物の『身体強化』の基礎となる。言っておくが、これは一番難しい。下手をすれば、制御を失った魔力が体内で暴走し、内側からお前の体を破壊するぞ。……だが、これができれば、お前の力は、新たな次元へと突入する」
俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。だが、ここで退くわけにはいかない。
「やります!」
これまでの人生で、最も集中した。体の中心にある魔力の源泉から、無数の細い流れを、脳、心臓、筋肉、骨、皮膚、その全ての細胞一つ一つへと、同時に、そして均一に広げていく。それは、巨大なオーケストラの指揮者が、全ての楽器を同時に、完璧なハーモニーで奏でさせようとするような、神業に近い精密作業だった。
だが、やはり俺の実力では、まだ早すぎた。
全身に魔力が広がり始めた瞬間、俺の意識は、自分の内側で荒れ狂うエネルギーの奔流に飲み込まれた。制御を失った魔力は、もはや俺の意識を無視して暴走を始める。
(まずい、制御できな――)
それが、俺の最後の思考だった。視界が真っ白に染まり、俺の意識は、ぷつりと、深い闇の中へと落ちていった。
どれくらい時間が経っただろうか。
頬を、ぷにぷにとした柔らかい何かが突く感 xúcで、俺は意識を取り戻した。
「……キュ?」
「ん……リル……?」
目を開けると、心配そうに俺の顔を覗き込むリルの姿があった。いつの間にか、俺の鞄の中から出てきてくれたらしい。その向こうには、腕を組んで俺を見下ろすガルドさんの巨躯があった。
「……情けねぇな。だが、まあ、最初はそんなもんだ」
ガルドさんはそう言うと、回復薬の小瓶を俺の口に流し込んだ。
「立てるか、小僧。一度意識を失ったことで、逆にお前の体は魔力の『通り道』を覚えたはずだ。感覚が残っているうちに、もう一度やれ。次で決めろ」
言われた通りだった。起き上がってみると、先ほどまでとは体の感覚が違う。一度、魔力が全身を駆け巡ったことで、体の中に、新たな神経回路が刻まれたような、不思議な感覚があった。
俺は、再び胡坐をかき、目を閉じる。そして、今度は魔力の流れに逆らわない。ただ、その身を任せる。体に刻まれた、新しい道筋へと、魔力を解き放つように。
すると、どうだ。
さっきまでの暴流が嘘のように、魔力は滑らかに、そして淀みなく、俺の全身へと行き渡っていった。皮膚の内側、すぐ下を、温かい光の鎧が形成されていく。目を開けると、自分の体全体が、淡い蒼白いオーラに包まれていた。力がみなぎる。視界が、音が、匂いが、全てが先ほどまでとは比べ物にならないほど、鮮明に感じられた。
その時、脳内にシステムメッセージが響いた。
[スキル【魔力操作(5)】を新規に習得しました]
[既存スキル【身体強化(3)】が【魔力操作】と統合され、効果が向上しました]
「……これが、本当の身体強化……」
俺が、自分の体の変化に驚愕していると、目の前のガルドさんが、その鬼のような顔に、初めて明確な驚愕の色を浮かべていた。
「……馬鹿な。俺が、この感覚を完全に掴むのに、一週間はかかったぞ。……おい、小僧。お前、本当に何者なんだ……」
ガルドさんは、何か得体のしれないものを見るような目で、俺をじっと見つめていた。
やがて、彼は「ふん」と鼻を鳴らし、驚きを隠すように言った。
「……まあ、いい。どうやら、とんでもねぇ化け物を拾っちまったらしいな。基礎はできた。だが、それはスタートラインに立ったに過ぎん。明日からは、その魔力操作を維持したまま、俺の攻撃を避け続けてもらう。本当の地獄は、ここからだ」
修行初日が終わった。俺は、立っているのもやっとなほど疲労困憊だったが、その心は、自分の内なる力が目覚めた確かな手応えと、明日からの本当の地獄への、恐ろしいほどの期待感で満たされていた。
守りたいものができた。ただ生き延びるためだけでなく、大切な誰かのために強くなりたい。そんな、青臭いが力強い感情が、俺の心の中心に、確かな熱を持って灯っていた。
食堂に下りると、すでにシュタが朝食の準備をしていた。俺の姿に気づくと、彼女は「あ……」と小さく声を漏らし、昨日までとは違う、はにかんだような笑顔を向ける。その仕草一つで、俺たちの関係が変わったことを実感させられた。
「お、おはよう、ショウさん……。よく眠れましたか?」
「ああ、おはよう、シュタ。……うん、まあな」
ぎこちない挨拶を交わす。だが、その気恥ずかしさすらも、今の俺には幸福なものに感じられた。
「今日の朝食は、特別ですよ!修行、大変だと思いますから、精一杯、力のつくものを用意しました!」
そう言って彼女が出してくれたのは、いつも以上に具沢山で、湯気の立つシチューと、栄養価の高い木の実が練り込まれた黒パンだった。その一皿一皿に、彼女の応援と気遣いが込められているのが、痛いほど伝わってくる。リルも俺の足元で、シュタから貰った朝食用のモンスタージャーキーを、嬉しそうに食べていた。
温かい食事で腹と心を満たした俺は、シュタとリルからの「いってらっしゃい」の声に見送られ、決意を新たに訓練場へと向かった。
訓練場では、すでにガルドさんが仁王立ちで待っていた。俺の顔を見るなり、その鬼のような顔を、さらに僅かに顰める。
「……惚けた顔をしやがって。恋にうつつを抜かして腑抜けたか、小僧。言っておくが、そんな甘っちょろい覚悟で、俺の修行を乗り越えられると思うなよ。浮ついた心は、お前の一番の敵になる。下手をすれば、死ぬぞ」
ガルドさんの鋭い言葉が、俺の心を突き刺す。この男には、俺の心の変化などお見通しらしい。だが、それは俺を奮い立たせるための、彼なりの激励なのだと、今の俺にはわかった。
「いいえ。俺は、強くなる理由が、昨日よりも一つ増えただけです」
俺がそう言って、彼の目をまっすぐに見返すと、ガルドさんは「ふん」と鼻を鳴らし、ほんの少しだけ、口の端を緩めたように見えた。
「口だけは達者になったみてぇだな。……いいだろう。ならば、その覚悟が本物かどうか、その体で示してみせろ」
その日から、俺の地獄のような、しかし、本当の意味で強くなるための修行が始まった。
初日に課せられたのは、意外にも、剣の素振りでも、走り込みでもなかった。
「今日お前が学ぶのは、ただ一つ。『魔力操作』だ」
ガルドさんは、俺に訓練場の真ん中で胡坐をかくよう指示すると、静かに語り始めた。
「お前は、スキルや知識という『外付けの力』に頼りすぎている。だが、本当の強さの源泉は、お前自身の内にある。それが、魔力だ。だが、今のてめぇは、その魔力をただ垂れ流しているだけの、穴の空いた水袋みてぇなもんだ。まずは、その穴を塞ぎ、流れを完全に掌握することから始める」
ガルドさんの指導は、驚くほど的確で、論理的だった。
最初の課題は、自分の体内を流れる魔力を『感知』すること。
目を閉じ、意識を内側へ。雑念を払い、血流でも、呼吸でもない、第三の流れを探す。最初は何も感じられなかったが、シュタやリルの顔を思い浮かべ、守りたいという一心で『精神統一』スキルを発動させると、やがて、体の中心から手足の末端へと巡る、温かいエネルギーの奔流を、確かに感じ取ることができた。
次の課題は、その魔力を、体の特定の一部――右手のひら――に『集束』させること。
ガルドさんが手本として見せた、空気が歪むほどの圧倒的な魔力密度をイメージし、俺は自分の魔力を必死に導く。何度も失敗し、霧散させながらも、『呼吸法』で集中力を維持し、諦めずに挑戦を続けた。そして、数時間が経過した頃には、俺の右手のひらにも、淡い蒼白い光が、確かな熱を持って灯るようになっていた。
その日の修行の締めくくりとして、ガルドさんは最後の、そして最難関の課題を俺に突きつけた。
「最後だ、小僧。今度は、その魔力を、鎧のようにお前の全身に均一に行き渡らせてみろ。これが、スキルに頼らない、本物の『身体強化』の基礎となる。言っておくが、これは一番難しい。下手をすれば、制御を失った魔力が体内で暴走し、内側からお前の体を破壊するぞ。……だが、これができれば、お前の力は、新たな次元へと突入する」
俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。だが、ここで退くわけにはいかない。
「やります!」
これまでの人生で、最も集中した。体の中心にある魔力の源泉から、無数の細い流れを、脳、心臓、筋肉、骨、皮膚、その全ての細胞一つ一つへと、同時に、そして均一に広げていく。それは、巨大なオーケストラの指揮者が、全ての楽器を同時に、完璧なハーモニーで奏でさせようとするような、神業に近い精密作業だった。
だが、やはり俺の実力では、まだ早すぎた。
全身に魔力が広がり始めた瞬間、俺の意識は、自分の内側で荒れ狂うエネルギーの奔流に飲み込まれた。制御を失った魔力は、もはや俺の意識を無視して暴走を始める。
(まずい、制御できな――)
それが、俺の最後の思考だった。視界が真っ白に染まり、俺の意識は、ぷつりと、深い闇の中へと落ちていった。
どれくらい時間が経っただろうか。
頬を、ぷにぷにとした柔らかい何かが突く感 xúcで、俺は意識を取り戻した。
「……キュ?」
「ん……リル……?」
目を開けると、心配そうに俺の顔を覗き込むリルの姿があった。いつの間にか、俺の鞄の中から出てきてくれたらしい。その向こうには、腕を組んで俺を見下ろすガルドさんの巨躯があった。
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言われた通りだった。起き上がってみると、先ほどまでとは体の感覚が違う。一度、魔力が全身を駆け巡ったことで、体の中に、新たな神経回路が刻まれたような、不思議な感覚があった。
俺は、再び胡坐をかき、目を閉じる。そして、今度は魔力の流れに逆らわない。ただ、その身を任せる。体に刻まれた、新しい道筋へと、魔力を解き放つように。
すると、どうだ。
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その時、脳内にシステムメッセージが響いた。
[スキル【魔力操作(5)】を新規に習得しました]
[既存スキル【身体強化(3)】が【魔力操作】と統合され、効果が向上しました]
「……これが、本当の身体強化……」
俺が、自分の体の変化に驚愕していると、目の前のガルドさんが、その鬼のような顔に、初めて明確な驚愕の色を浮かべていた。
「……馬鹿な。俺が、この感覚を完全に掴むのに、一週間はかかったぞ。……おい、小僧。お前、本当に何者なんだ……」
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「……まあ、いい。どうやら、とんでもねぇ化け物を拾っちまったらしいな。基礎はできた。だが、それはスタートラインに立ったに過ぎん。明日からは、その魔力操作を維持したまま、俺の攻撃を避け続けてもらう。本当の地獄は、ここからだ」
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