隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

文字の大きさ
43 / 74
世界樹への道のり

どうも、どうやら捕獲作戦は静粛に行うようです

しおりを挟む
ジュッテルの地下水道は、地上とは全く異なる、独自の生態系と、掟を持つ、巨大な迷宮だった。俺たちは、闇市場の喧騒を背に、ターゲットである『古き理の探求者』の構成員の男を、影のように、追跡していた。

男は、よほど、闇市場での取引に、緊張していたらしい。時折、神経質に、何度も、何度も、背後を振り返る。その度に、俺たちは、壁の窪みや、太い水道管の影に、息を殺して、身を隠した。

「……まずいな。このままじゃ、気づかれる」

俺は、通信魔道具を通して、仲間たちに、小声で、指示を送る。

「奴は、この先の、三つ目の分岐を、右に曲がる。シルフィが、そう教えてくれてる。エルマは、一本、北側の並行通路を通って、先回りしてくれ。俺とシュタで、このまま、奴を追い込む」
『了解した。あんまり、派手にやるんじゃないよ』

エルマの、頼もしい声が、返ってくる。
俺たちは、シルフィの『共鳴感応』による、未来予測にも近い、敵意の先読みと、俺の『自然の心得』による、完璧なマッピング能力を組み合わせ、この、複雑怪奇な迷宮を、まるで、自分の庭のように、進んでいく。

やがて、ターゲットの男は、一つの、行き止まりの、古いメンテナンス用通路へと、足を踏み入れた。おそらく、ここで、手に入れた品を、確認するつもりなのだろう。

(……好都合だ。ここで、決める)

俺は、シュタに、目配せをした。
そして、『自然操作』を発動。俺の意思を受け、通路の入り口にあった、古く、錆びついた、鉄格子が、何の予兆もなく、ガシャン!という、けたたましい音を立てて、落下した。

「なっ!?なんだ!?」

突然の轟音に、男は、驚き、飛び上がる。そして、自分の退路が、完全に、断たれたことに気づき、顔を、恐怖に、歪ませた。

「ひ、ひぃっ……!だ、誰だ!」

男は、パニックに陥り、通路の奥へと、駆け出す。だが、その先には――。

「……よう。どこへ、行くってんだい?」

通路の、奥の暗闇から、巨大なウォーハンマーを、その肩に担いだ、エルマが、ぬっと、姿を現していた。その口元には、獰猛な、笑みが浮かんでいる。

「た、助けてくれ!お、俺は、ただの、使いっ走りで……!」

男は、完全に、進退窮まった。そして、最後の抵抗とばかりに、懐から、短剣を抜き放ち、魔法の詠唱を、始めようとする。
だが、その、全ての行動は、あまりにも、遅すぎた。

俺の体は、彼が、悲鳴を上げるよりも、速く、動いていた。
ガルドさんとの修行で、体に叩き込まれた、高速の踏み込み。スキル『ダッシュ』と、『身体強化』を、組み合わせた、神速の動き。
俺は、まるで、瞬間移動したかのように、男の背後に、音もなく、出現していた。

そして、その、無防備な、首の付け根へと、手刀を、的確に、振り下ろす。

「――がっ……」

男は、声にならない、呻き声を一つ上げると、白目を剥き、その場に、崩れ落ちた。
捕獲、完了。
戦闘にすら、ならなかった。

俺たちは、気を失った男を、近くにあった、忘れられた、小さな管理室へと、引きずり込んだ。エルマが、手際よく、男を、ロープで、椅子に、ぐるぐる巻きにする。

しばらくして、男は、呻き声を上げながら、意識を取り戻した。

「……こ、ここは……。き、貴様ら、一体、何者だ!俺を、どうするつもりだ!」
「まあ、落ち着きなよ。あんたに、いくつか、聞きたいことがあるだけさ」

エルマが、その巨大なウォーハンマーを、男の、目の前で、ブン、と振り回してみせる。

「あたしたちの、質問に、素直に、答えるなら、命だけは、助けてやらないこともない。だが、もし、くだらない、忠誠心なんぞを、見せるつもりなら……。このハンマーで、あんたの指の骨を、一本ずつ、丁寧に、砕いてから、下水に放り込んでやる。どっちがいい、選びな」

エルマの、完璧な、悪役(ヒール)っぷり。男は、顔を真っ青にして、ガタガタと、震え始めた。だが、それでも、唇を、固く結び、何も、話そうとはしない。よほど、組織への、恐怖が、体に、染みついているらしい。

(……脅しだけじゃ、ダメか)

俺は、一歩、前に出た。そして、男が、闇市場で手に入れた、あの、魔力で封印された、木箱を、彼の、目の前の、テーブルに、置く。

「……面白いな。あんたの組織は、あんたみたいな、使いっ走りに、随分と、大事なものを、運ばせるらしい」
「……な、何のことだか、さっぱり……」
「そうか?じゃあ、当ててやろうか。この中身」

俺は、その木箱に、そっと、手を触れる。そして、『真贋鑑定』スキルを、発動させた。

「……なるほどな。精巧な、魔力封印の術式だ。だが、その中身は、ただの石ころだ。そこらの、道端に転がってる石ころに、ほんの少しだけ、魔力を付与して、あたかも、貴重なアーティファクトのように、見せかけているだけの、な。……これは、あんたたちの組織が、よく使う、『囮』だろ?あんたは、この、ガラクタを運ぶためだけに、こんな、危険な場所に、送り込まれた。そして、もし、誰かに、襲われたり、捕まったりしても、組織にとっては、痛くも、痒くもない。あんたは、ただの、使い捨ての、駒なんだよ」

俺が、淡々と、事実を告げると、男の、目に、初めて、動揺の光が、浮かんだ。自分が、信じていた組織に、いいように、利用され、捨て駒にされていたという、残酷な真実。それが、彼の、最後の、忠誠心を、打ち砕いた。

「……そんな……。俺は、組織のために、ずっと……」

男が、絶望に、打ちひしがれている、その時だった。
シュタが、そっと、彼に、近づいた。そして、生活魔法で作り出した、一杯の、清らかな水を、彼の口元へと、差し出す。

「……これを、どうぞ」
「……え?」
「私たちは、あなたを、殺したいわけじゃないんです。私たちは、ただ、あなたたちの組織が、やろうとしていることを、止めたいだけなんです。……もう、たくさんの人が、傷ついて、悲しんでいますから」

シュタの、どこまでも、優しく、そして、透き通るような声。

「もし、あなたが、知っていることを、話してくれたら、私たちは、あなたを、解放します。この街から、遠く、遠く、離れた場所へ、逃がしてあげます。組織からも、警備隊からも、追われることのない、新しい人生を、始めるお手伝いを、します。……だから、お願いです。私たちに、力を貸してください」

エルマの、暴力的な『脅し』。
俺の、理詰めによる、精神的な『破壊』。
そして、シュタの、慈愛に満ちた、『救済』。

この、硬軟織り交ぜた、完璧な揺さぶりに、男の心は、ついに、完全に、折れた。

「……わかった。わかったよ……。話す。俺が、知ってること、全部、話すから……。だから、助けてくれ……」

男は、泣きじゃくりながら、全てを、白状し始めた。
奴らの、ジュッテルでのアジトの場所が、『賢者の錬金塔』の地下にあること。
そのアジトが、無数の、錬金生物によって、警備されていること。
そして――。

「……三日後だ。三日後の、満月の夜に、組織の、最重要儀式が、執り行われる。その儀式のために、本国から、ゼノン様や、セラフィーナ様をはじめ、多くの、幹部の方々が、このアジトに、集結することになっているんだ……」

三日後。
それは、奴らの守りが、最も、手厚くなる時であり、同時に、幹部連中を、一網打尽にできる、千載一遇の、好機でもあった。

俺たちは、必要な情報を、全て、引き出した。
そして、男を、再び、気絶させると、ロープで縛ったまま、下水道の、目立たない場所に、放置した。いずれ、警備隊が、見つけるだろう。

俺たちは、隠れ家である、エルマの工房へと、戻った。

「ターゲットは、定まった。決戦は、三日後の夜だ」

俺は、仲間たちの顔を、見回す。

「俺たちは、奴らの、本拠地に、正面から、殴り込みをかける」

俺の言葉に、誰も、異論はなかった。
その瞳には、恐怖ではなく、決意の光が、宿っていた。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵
ファンタジー
連日の残業で終電帰りのサラリーマン、神無月無名21歳。 ある夜、突然足元の光に包まれ異世界へと召喚されてしまう。 そこは豪華絢爛な王宮。 第一王女ラクティスは、彼を含む男女5人を「勇者」として召喚したと告げる。 元の世界では時間がほぼ止まっているという説明を受け、半ば強制的に魔国との戦いに協力することになった無名たち。 発現した無名の紋章は歴代でも最高クラスを示し万能の勇者と称され、周囲を驚愕させる。 元の世界への帰還を条件に口頭で協力を約束する勇者たちだが、無名だけは王家に対し警戒心を抱き、王に元の世界への帰還とこの世界で得た力を持ち帰ることを書面で約束させる。 協調性がないと周囲から思われながらも、己の最適解を優先する無名は、果たして他の勇者たちと協力し、魔国を打ち倒して元の世界へ帰ることができるのか。 それぞれの思惑が交錯する中、勇者たちの戦いが幕を開ける。 これは社会不適合者が歩む成長の物語。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...