隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

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世界樹への道のり

どうも、どうやら戦いの後始末は大変なようです

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賢者の炉が甲高い悲鳴と共に砕け散り、部屋を満たしていた不気味な緑色の光が消え失せると、そこにはただ静寂と破壊の跡だけが残された。
魔力の供給を完全に断たれたゼノンは、壁際で糸が切れた人形のようにぐったりと気を失っている。

「……はぁ……はぁ……。お、終わった……のか……?」

俺はその場にへたり込んだ。残された魔力はもう一滴もない。全身の筋肉が悲鳴を上げている。だがそれ以上に、凄まじい達成感が俺の心を満たしていた。

「ショウ!」
「ショウさん!」

エルマとシュタが駆け寄ってくる。シュタはすぐに俺の体に回復魔法をかけてくれた。その温かい光が疲弊しきった体に染み渡っていく。
肩の上ではリルとシルフィが、「キュー!」「ピィ!」と勝利の鳴き声を上げていた。

「へっ。……よくやったじゃねぇか、小僧」

俺の隣にどかりと腰を下ろしたガルドさんが、その巨大な手で俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。その手つきは不器用だったが、間違いなく弟子を誇る師匠のそれだった。

「さて、と。後始末の時間だ」

エルマがそう言うと、手際よく気を失っているゼノンの体を、魔力を封じる特殊なロープでぐるぐる巻きにしていく。

やがて塔の外から、複数の統制の取れた足音が近づいてきた。現れたのはフィンステイン商会の精鋭の私兵団と、執事のアルバードさんだった。

「……ショウ様、ガルド様。ご無事で何よりにございます」

アルバードさんは内部のあまりの惨状に一瞬だけ目を見張りながらも、すぐに冷静さを取り戻し、部下たちに的確な指示を飛ばし始めた。

「これよりこの『賢者の錬金塔』を完全に封鎖する!残党を一匹残らず捕らえよ!そしてこの塔にある全ての研究資料、アーティファクトを一つ残らず押収するのだ!」

フィンステイン商会の組織力は圧倒的だった。彼らは数時間のうちに、この巨大な悪の巣窟を完全に制圧してしまった。

翌日。俺たちはフィンステイン商会の本店、その最上階にある当主執務室へと招かれていた。そこには俺たちパーティだけでなく、少しだけ居心地が悪そうな顔をしたガルドさんの姿もあった。

「……君たちには、感謝の言葉もない」

カール・フィンステインはその威厳に満ちた顔に深い感謝の色を浮かべ、俺たち一人一人に向かって深々と頭を下げた。

「君たちは我が孫娘リアの命を救ってくれただけでなく、このジュッテルの光の届かぬ場所に深く根を張っていた巨大な癌細胞を、見事摘出してくれた。この功績はフィンステイン商会、いや、このジュッテルという都市そのものにとって、計り知れない価値がある」

カールさんの話によれば、捕らえられたゼノンは商会の専門の尋問官(スペシャリスト)によって、徹底的にその口を割らされているらしい。

「『古き理の探求者』。彼らのジュッテルにおける活動拠点はこれで完全に壊滅した。ゼノン以外の幹部たちも昨夜の儀式に集まっていたところを、一網打尽にできた。君たちのおかげだ」

その言葉に俺たちはようやく、この街での長い戦いが本当に終わったのだと実感した。

「つきましては改めて、君たちに最大限の報酬をお渡ししたい。……遠慮なく望むものを言ってほしい」

カールさんはそう言って白紙の小切手を差し出すかのような視線を、俺たちへと向けた。
だが俺は静かに首を横に振った。

「いえ。俺たちはもう十分すぎるほどのものをいただきました。あなた方のその信頼だけで十分です」

俺の言葉にカールさんは一瞬驚いたような顔をしたが、やがて心の底から楽しそうに笑った。

「……ハッハハハ!そうか、そうか!気に入った!ますます君という男が気に入ったぞ、ショウ・カンザキ殿!」

カールさんはそう言うと、一つの黄金色のパスを取り出した。

「ならば金銭ではない別の形の報酬を、受け取ってほしい。これは我がフィンステイン商会が発行する『ゴールド・パス』だ。これを持っていれば君たちは、この大陸にある全ての我が商会の支店や提携する宿屋、交通機関を永久に無償で利用することができる。……いわば生涯にわたる我々からの支援の約束だ。これならば受け取ってくれるかな?」

それは金銭以上に価値のある報酬だった。俺はありがたくそれを受け取ることにした。

「それと、君が探していた情報について少しだけ進展があった」

カールさんは話を続ける。

「君の同郷の者たちに関する情報はやはり、アストライア王国の厳しい情報統制が敷かれており、調査は難航している。……だが『世界樹』については、一つの信憑性の高い文献を見つけ出すことができた」

カールさんの私設図書館の司書が、一枚の古い羊皮紙の写しを持ってきた。

「古代エルフの伝承詩だ。そこにはこう記されている。『古の時代、大いなる『災厄』が世界を襲い、母なる世界樹は深手を負った。その傷口から生まれ落ちた『穢れ』が、今も森の深き場所、『影の森かげのもり』を蝕み続けている』、と。……どうやら君が目指すべきエルフの森もまた、問題を抱えているらしいな」

その言葉は俺たちの次なる旅の行き先を、明確に示していた。

全ての話しが終わった後。俺はガルドさんと二人でジュッテルの大通りを歩いていた。

「……ガルドさん。あんたが来てくれなかったら、俺たちは死んでました。本当にありがとうございました」
「ふん。礼を言われる筋合いはねぇよ。俺は俺がそうしたかったから、しただけだ」

ガルドさんはぶっきらぼうにそう言った。

「……なあ小僧。俺がお前に教えることは、もう何一つねぇ。お前はもう俺の保護が必要なひよっこじゃねぇ。お前自身の翼で飛べるようになった」
「……ガルドさん」
「俺は北へ行く。まだ見ぬ強大な魔獣を狩りにな。……次に会う時は師匠と弟子としてじゃねぇ。一人の冒険者として、対等に酒でも酌み交わそうぜ」

ガルドさんはそう言うと俺の背中を一度だけ強く叩いた。そして振り返ることなく雑踏の中へと、その巨大な背中が消えていった。
師との突然の、しかし必然の別れだった。

俺は仲間たちが待つ宿屋へと戻った。
エルマ、シュタ、リル、シルフィ。俺の新しい家族。
俺たちのジュッテルでの戦いは終わった。
そして次なる冒険の始まりの時が来たのだ。

俺は仲間たちの顔を見回す。

「……みんな、準備はいいか」

俺の言葉に全員が力強く頷いた。

「よし、行こう。東へ。――『迷わずの森まよわずのもり』へ」

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