SAND PLANET

るなかふぇ

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第五章 覚醒

5 鳥の巣

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「何しに来たッ! ここから先は閉鎖だぞ!」

 ヴォルフが問題の場所までようやくたどり着いたとき、その場にいた宇宙服姿の軍曹が途端に怒鳴り声をあげた。
 周囲にはまだ、じゅうじゅうと金属やゴムの焦げた煤煙だの水蒸気だのの混ざり合った煙が立ちのぼっている。皆で奥から伸ばしてきた太いホースを使い、冷却物質の噴霧をおこなっているところらしいが、まだまだかなりの高温だ。宇宙服なしではとても耐えられないだろう。

「まだこの区画は冷却途中だ。冷却と調査が終わり次第、厳重に閉鎖せよとのフォレスト大佐のご命令だ。そのまま外殻の修理にかかり、終了し次第発進せよと」
「チッ……!」

 そうか。あの大佐はもう、この惑星に見切りをつけ、おさらばする気になったわけだ。だったらなおさら、早くフランを救出してやらなければ。
 ヴォルフがぐいと前に出ると、ガシッと肩を掴んで引き留められた。

「やめろ! 危険すぎる。最初よりは随分マシになったとこだが──おいっ!」

 言いかけた軍曹の胸を無造作に押しやって、ヴォルフはその爆発のまさに中央部分へ歩み寄った。あとの兵らはついてこず、遠巻きにこちらを見ているだけだ。
 その場所は、まるで真っ黒な洞窟のようになっていた。さらに進むと、何もかも焼き尽くされ、もとが何であったかも分からないほど溶けてまぜこぜになった真っ黒い樹脂みたいなものが、びっちりと蓋をするように立ちはだかっていた。まるで硬質のガムのようだ。

(ここか──)

 ヴォルフはその突起のひとつにおもむろに手を掛けると、力任せにひん剥き始めた。触れた途端、じゅうっと宇宙服のグローブ表面が熱にやられる音がする。
 宇宙服内部の温度はある程度までは担保されるが、それでもあまりに高温になりすぎればいつまでもつか分からない。時間との勝負だった。

「ウ……オオオオオッ!」

 ヴォルフは吠えた。
 ベキベキ、バキバキと手当たり次第、真っ黒なガムもどきをひっぺがし、破壊してゆく。グローブの表面が溶かされて、しゅうしゅうと悲鳴をあげながら黒い煙をしみださせる。
 グローブをつけていてさえ、手が熱にやられて火傷を負い、容赦なく皮膚が擦り切れていく。それでもヴォルフはがむしゃらに、ひたすらに掘り進んだ。

 どのぐらいそうしていたか。
 ようやく最後の一枚らしきものがべりっと剥がれ、唐突に穴があいた。あちら側は、どうやら空洞になっているようだ。
 ヴォルフはそこから少し慎重になった。もしもすぐそばにフランがいたなら傷つけてしまう恐れがあるからだ。穴の端から少しずつ、卵の殻を割るようにして崩していく。さらにじりじりと時間が過ぎた。やがて、やっと自分ひとりがくぐれるほどの穴があいて、中の様子が少しずつ分かってきた。

 真っ暗かと思ったその中は、意外にもぼんやりと明るかった。
 理由は明らかだ。ちょうど鳥の巣のような感じでできた丸い空洞の中心に、巨大な鳥の卵のようなものが鎮座している。それがぼうっとクリーム色に光っているのだ。

(なんだ……? こりゃあ)

 卵はヴォルフの背丈ほどの高さである。ヘルメット内のモニターを確認したが、特に毒素や高熱を発したりはしていないらしい。それどころか、空洞の中そのものが、外とはまったく別次元のように通常の気温と湿度に保たれている。
 ヴォルフは慎重にその大きな卵に近づいた。
 まずは、ぐるりと周囲を一周してみる。やっぱり、それはどこからどう見ても卵だった。ヴォルフもよく知っているニワトリの卵と形状はそっくりだ。

 生き物の卵には、実際は様々な形状がある。ほとんど球に近いものもあれば、先と尻の区別のない、棒状に近いものもある。樹上で卵を産む鳥類などは、斜面を転がしてもまっすぐ下へは落ちないような形をしているものが多い。なんというか、神より授かった生き物たちの生存の知恵なのだろう。
 反対に、カメや魚など土の中や水中に産み付ける生き物では、落ちて割れる心配がないためにほぼきれいな球形になっている……というのが、今では基本的な定説にもなっている。
 ともかくも。

(卵だってんなら、こりゃあ何の卵なんだ……?)

 片眉を上げて腕を組み、しばしその前で考え込む。
 卵の表面は本物のニワトリのそれのように、多少ざらついているようだ。ぼうっと光るその色が、なんとも穏やかで温かい。ヴォルフはなんとなく、これに対して危機感を抱くことが出来なかった。むしろ気持ちがゆったりと落ち着いて、張り詰めていた神経がリラックスしていくのを感じる。
 ヴォルフはとうとう、そろそろと手を伸ばした。
 卵の表面にそっと指先を滑らせる。

 と、その時だった。
 ぴしりとその表面にひびが入った。

「うおっ……!?」

 ぱっと手を引っ込め、慌てて飛びのく。
 まずい。これがもし、自分が触れたせいだったらだった。
 が、皹は見る間にぴしぴしぴし、とその亀裂を広げていく。と同時に、全体が光り輝き始めた。やがてその皹の形が、ちょうど翼と翼がパズルのように組み合わさった形に見えはじめ、やわらかそうな羽毛につつまれた本物の翼に変貌していった。
 丸く硬かった卵の殻が、ふわふわした二枚の巨大な翼に変わり、目の前でゆっくりと広げられていく。
 まばゆく光る大きな翼は、ついにふわりと「巣」の中いっぱいに手を広げた。

(……!?)

 その中心にいる者を見て、呼吸を忘れる。
 
(フラン……!)

 そうだった。
 求め続けていたその人が、両腕で大切な何かを抱え込むようにして、その場にうずくまっていた。

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