虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

文字の大きさ
1 / 117

IFの世界 実父・保との出会い

しおりを挟む
<side卓>

貴船コンツェルンの顧問弁護士をしている私は半年に一度会社に足を運び、玄哉会長と現在の会社の状況についての意見交換をするようにしている。だが、貴船コンツェルンは社員に寄り添った会社づくりに徹しているため特段問題はない。

だから半年に一度のこの時間は、友人である玄哉と仕事の話はそこそこに食事を楽しみながら、プライベートな話をする、そんな時間になっている。

「それにしても、征哉くん……頼もしい限りだな。入社して早々、評判がかなりいい。さっきも少し話したが以前とはかなり別人だな。よほど仕事が楽しいんだろう」

「ああ。それもあるだろうが、一番大きな理由は運命の相手に出会ったからだろうな」

「へぇ、じゃあもうすぐ結婚か?」

「いや、それはまだまだ。そうだな……あと干支が一周するくらいは待たないといけないだろうな」

「えっ? そんなに? 何か問題でもあるのか?」

社会人になったタイミングで最愛に出会っても、自分の仕事が軌道に乗るまで数年待たせることはまぁあるだろう。
だが十年以上となれば話は別だ。何か途轍もない問題があるとしか考えられない。

「お前が反対しているのか? だが十年以上も待たせるのは流石に酷だろう」

「いや、私はもちろん賛成しているさ。だが、相手方に問題があるんだ」

「相手方に? 一体どんな?」

私の質問に玄哉は少し笑いを含みながらゆっくりと口を開いた。

「征哉の相手……櫻葉さんとこの息子なんだよ」

「えっ? 櫻葉さんのところの、って……えっ? 息子?」

征哉くんの相手が息子=男だということに驚きはあったが、自分の最愛も絢斗という男性である以上、そこの驚きはない。
それよりも櫻葉さんのところの息子は確か……。

「今年、小学生だと聞いた覚えがあるんだが……」

「ああ。そうだ。今は六歳。だから、あと干支一回りくらいは待たないといけないんだ」

「征哉くんの相手が……小学生……」

「ああ。でも素直で優しい子だよ。誰にも興味を持たなかった征哉を一瞬で虜にするくらいにな。征哉は一花くんには恥ずかしいところは見せられないと言って仕事にも熱が入っているし、一花くんはそんな征哉を癒してくれる。本当にお互いが必要な存在みたいだ」

それが運命の相手ということなんだろう。
私もそうだ。絢斗と出会ってから仕事にやる気が出た。絢斗と会うために自分の実力以上の力が出せたこともある。
私が絢斗と出会った時は十八に限りなく近い年齢になっていたからそこまで待たずともよかったが、もっと早く出会っていれば私も征哉くんのようになっていただろう。

最愛を目の前にして成長を待ち続けるというのはなんとも大変なものだな。だがそれもきっと幸せなんだろう。
さっき征哉くんを見た時、今までで見たこともないほど充実しているといった表情をしていたからな。

「さて、そろそろ事務所に戻ろうかな。仕事もまだ残っているからな」

「ああ。今日はありがとう」

「いや、いい気分転換になったよ。このところ、面倒な事件ばかりだったからな」

玄哉と別れ、エレベーターに乗り込むと途中で社員が一人乗り込んできた。
その表情があまりにも青褪めていて今にも倒れてしまいそうだ。

「君、医務室に行ったほうがいいんじゃないか?」

「い、いえ。だ、大丈夫です。急いで病院に行かないと、息子が……」

「病院? 息子さんに何かあったのか?」

「それは……」

「大丈夫。私は弁護士だ。気にせずに話をしてくれたらいい。君の力になると約束しよう」

とりあえずすぐに病院に行かなければいけないという彼に付き添い、私の車に乗せた。
彼の行き先である聖ラグエル病院に向かう車中で、できるだけ安心させるように声をかけた。

「私は貴船コンツェルンの顧問弁護士をしている。だから安心して話してくれていい」

「あ、でも僕はここの子会社の貴船商会の人間なので先生にお世話になることは……」

「いや、子会社でも構わないよ」

「本当ですか? 業務のことではないですがそれでも大丈夫ですか?」

「プライベートな話なんだね。大丈夫、今日起きたことも含めて君の状況を教えてくれないか?」

私の言葉に少し安心した様子で、彼はゆっくりと話し始めた。

「あ、あの……僕は迫田さこたたもつと言います。僕には、妻と息子がいるのですが、息子が生まれた頃に大きなプロジェクトのメンバーに選ばれたんです。でもそれがあまりにも大変で忙しすぎるから最初は断ろうとしたんです。でも家族を思うなら働いて給料をもらってこいって妻に言われて、妻子のためだと思って休日返上でがむしゃらに働きました。でもそのせいで家には寝に帰るくらいになっていて、子どもの様子も寝ている姿を少し見るだけで触れ合うこともなくなってました」

「それは会社側も配慮がなかったな。どれだけ君が仕事をしたいと希望しても、家族と過ごす時間も与えるべきだった。子どもが生まれたばかりなら尚更だ」

「いえ。会社側は休むように言ってくれました。でも僕が妻の言うことに逆らえなくて……人の残業まで代わって仕事してたせいです。でも、その僕のせいで息子が……」

涙を含んだ震える声に、最悪の事態を想定してしまう。

「息子さんがどうしたんだ?」

「妻が、息子を虐待していたんです」

「――っ!!」

そうでなければいいと思ったが、想定通りの状況に言葉もない。

「今日、あまりにも泣き続けている子どもがいると通報があってそれで発覚しました。妻はそのまま逮捕されて、息子は今、聖ラグエル病院の集中治療室にいます。僕は……息子を守れなかったんです。僕は父親の資格がない。わぁーーっ!!」

「自分を責めるのは良くない。君はこうして息子を思い、苦しんでいるじゃないか。愛情がなければそんな後悔すらしないよ」

頭を抱えて泣き叫ぶ彼を必死に宥めながら、私は聖ラグエル病院に急いだ。

集中治療室で必死に命の灯火を消さないように頑張っている彼の息子に、少しでも早く父親の声を届けたい。
その一心で……。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら
BL
久々の新作です。 全16話。 すでに書き終えているので、 毎日17時に更新します。 *** 騎士をしている公爵家の次男は、顔良し、家柄良しで、令嬢たちからは人気だった。 だが、ある事件をきっかけに、彼は【不能】になってしまう。 醜聞にならないように不能であることは隠されていたが、 その事件から彼は恋愛、結婚に見向きもしなくなり、 無表情で女性を冷たくあしらうばかり。 そんな彼は社交界では堅物、女嫌い、と噂されていた。 本人は公爵家を継ぐ必要が無いので、結婚はしない、と決めてはいたが、 次男を心配した公爵家当主が、騎士団長に相談したことがきっかけで、 彼はあっと言う間に婿入りが決まってしまった! は? 騎士団長と結婚!? 無理無理。 いくら俺が【不能】と言っても…… え? 違う? 妖精? 妖精と結婚ですか?! ちょ、可愛すぎて【不能】が治ったんですが。 だめ? 【不能】じゃないと結婚できない? あれよあれよと婚約が決まり、 慌てる堅物騎士と俺の妖精(天使との噂有)の 可愛い恋物語です。 ** 仕事が変わり、環境の変化から全く小説を掛けずにおりました💦 落ち着いてきたので、また少しづつ書き始めて行きたいと思っています。 今回は短編で。 リハビリがてらサクッと書いたものですf^^; 楽しんで頂けたら嬉しいです

【完結】妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた〜お姉様の選んだ人が欲しい?分かりました、後悔しても遅いですよ

冬月光輝
恋愛
ファウスト侯爵家の長女であるイリアには、姉のものを何でも欲しがり、奪っていく妹のローザがいた。 それでも両親は妹のローザの方を可愛がり、イリアには「姉なのだから我慢しなさい」と反論を許さない。 妹の欲しがりは増長して、遂にはイリアの婚約者を奪おうとした上で破談に追いやってしまう。 「だって、お姉様の選んだ人なら間違いないでしょう? 譲ってくれても良いじゃないですか」 大事な縁談が壊れたにも関わらず、悪びれない妹に頭を抱えていた頃、傲慢でモラハラ気質が原因で何人もの婚約者を精神的に追い詰めて破談に導いたという、この国の第二王子ダミアンがイリアに見惚れて求婚をする。 「ローザが私のモノを何でも欲しがるのならいっそのこと――」 イリアは、あることを思いついてダミアンと婚約することを決意した。 「毒を以て毒を制す」――この物語はそんなお話。

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...