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絶対に守る!
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それから数時間ほど経って、自宅で食事をとっていると直純くんの父、保さんが目を覚ましたと連絡があった。
ただ、目を覚ました直後に錯乱状態になり、すぐに鎮静剤を投与してまた眠りについたようで、そのため面会は明日以降にしてほしいとのことだった。
保さんにとって直純くんのあの姿はかなりショックだったようだ。
まぁ無理もない。
彼自身は可愛がっていたようだったからな。
それが出張を終えて帰ってきたら痛々しい姿になっていればショックを受けるに決まっている。
それどころか自分を責めているだろう。
「卓さん。大丈夫?」
「ああ。ちょっと精神的に辛い案件を抱えてね……」
「そうなんだ。私はいつでも相談に乗るからなんでも話して。あ、もちろん守秘義務は守ってくれていいから」
「ありがとう。絢斗がいてくれるだけで私の心が癒されるよ」
絢斗にも話をしたいと思ったが、今はまだ無駄に心配させるだけだ。
まだ話す時じゃない。今はまだ、な。
翌日、安慶名くんと成瀬くんに事務所を任せ、聖ラグエル病院に向かった。
まずはPICU。外から見える位置に直純くんを移動させてくれたおかげで姿を確認できる。
まだ管はつけられたままだが、心なしか昨日より頬に赤みが戻ったような気がする。
「あ、磯山さん。いらしてたんですね」
「おはようございます、榎木先生。直純くんの様子はいかがですか?」
「ええ。今までしっかりと栄養を摂っていなかったから少し栄養を入れただけで身体の反応がすごいんです。あの子の身体は頑張ってますよ。このまま栄養を摂りつつ、治療を続けていけば一週間ほどで小児病棟に移れると思います」
「そうですか。よかった……」
やはり細胞が強いからか、子どもの治癒力はすごいな。
「直純くんより、今心配なのはお父さんのほうですね」
「保さんですか? 昨日目を覚ましたあと錯乱状態だったという話は聞きましたが他にも何か?」
「担当医の話によると、鎮静剤投与の後に目を覚ました際に直純くんのことはおろか、自分が父親でいることを忘れているようです」
「えっ? 記憶喪失、ということですか?」
「そうですね、保さんの場合は解離性健忘のようです。」
解離性健忘とは心的外傷やストレスによって引き起こされる記憶障害のことで、自分にとって重要な情報ほど思い出せなくなる傾向にある。
「保さんにとって直純くんは一番重要な情報であり、ショックを受けた原因でもあるので、その情報がいち早く抜け落ちてしまったのではないかという診断でした」
「記憶は、戻るんですよね?」
「それは……今はまだなんともいえません。数日で戻る方もおられるようですが、数十年経っても記憶が戻らないケースもあります。とりあえず、今は保さんにとってショックを起こしやすい時期ですから、今の直純くんには会わない方がいいというのが担当医の見解です」
「そんな……。では、その間あの子はずっと一人で……?」
母親が逮捕された上に、父親と面会もできないなんて……。
「そこが難しいところなんです。直純くんにとって、治療を受けることも大事ですが、愛情を与えられることも大事なので……」
榎木先生の苦悩に満ちた表情に、本当に難しい問題なのだと突きつけられる。
そっと直純くんの寝ているベッドに視線を向けると、握ってほしいとでもいうように手を伸ばしているのが見える。
あの子はあんなにも守ってくれる存在を求めているというのに……。
「榎木先生。私が保さんの代わりに毎日面会に来てはいけませんか?」
「えっ、でもそれでは磯山先生のご負担が……」
「いえ。私のことは気にしないでください。今は直純くんと、保さんのことを第一に考えましょう。毎日の面会を認めていただけませんか?、できれば、私がいけない日は絢斗の許可もいただきたいです」
「……わかりました。主治医として、許可します」
「――っ、ありがとうございます!」
こうして私は、毎日の面会権を手に入れた。
事後承諾になるが絢斗にも話をしておかないとな。
子ども好きな絢斗のことだから直純くんのおかれた状況を話せばショックを受けそうな気もするが、隠しておくわけにはいかないな。
目の前で必死に生きようとしている直純くんをみながら、絶対に守るからと心に誓った。
ただ、目を覚ました直後に錯乱状態になり、すぐに鎮静剤を投与してまた眠りについたようで、そのため面会は明日以降にしてほしいとのことだった。
保さんにとって直純くんのあの姿はかなりショックだったようだ。
まぁ無理もない。
彼自身は可愛がっていたようだったからな。
それが出張を終えて帰ってきたら痛々しい姿になっていればショックを受けるに決まっている。
それどころか自分を責めているだろう。
「卓さん。大丈夫?」
「ああ。ちょっと精神的に辛い案件を抱えてね……」
「そうなんだ。私はいつでも相談に乗るからなんでも話して。あ、もちろん守秘義務は守ってくれていいから」
「ありがとう。絢斗がいてくれるだけで私の心が癒されるよ」
絢斗にも話をしたいと思ったが、今はまだ無駄に心配させるだけだ。
まだ話す時じゃない。今はまだ、な。
翌日、安慶名くんと成瀬くんに事務所を任せ、聖ラグエル病院に向かった。
まずはPICU。外から見える位置に直純くんを移動させてくれたおかげで姿を確認できる。
まだ管はつけられたままだが、心なしか昨日より頬に赤みが戻ったような気がする。
「あ、磯山さん。いらしてたんですね」
「おはようございます、榎木先生。直純くんの様子はいかがですか?」
「ええ。今までしっかりと栄養を摂っていなかったから少し栄養を入れただけで身体の反応がすごいんです。あの子の身体は頑張ってますよ。このまま栄養を摂りつつ、治療を続けていけば一週間ほどで小児病棟に移れると思います」
「そうですか。よかった……」
やはり細胞が強いからか、子どもの治癒力はすごいな。
「直純くんより、今心配なのはお父さんのほうですね」
「保さんですか? 昨日目を覚ましたあと錯乱状態だったという話は聞きましたが他にも何か?」
「担当医の話によると、鎮静剤投与の後に目を覚ました際に直純くんのことはおろか、自分が父親でいることを忘れているようです」
「えっ? 記憶喪失、ということですか?」
「そうですね、保さんの場合は解離性健忘のようです。」
解離性健忘とは心的外傷やストレスによって引き起こされる記憶障害のことで、自分にとって重要な情報ほど思い出せなくなる傾向にある。
「保さんにとって直純くんは一番重要な情報であり、ショックを受けた原因でもあるので、その情報がいち早く抜け落ちてしまったのではないかという診断でした」
「記憶は、戻るんですよね?」
「それは……今はまだなんともいえません。数日で戻る方もおられるようですが、数十年経っても記憶が戻らないケースもあります。とりあえず、今は保さんにとってショックを起こしやすい時期ですから、今の直純くんには会わない方がいいというのが担当医の見解です」
「そんな……。では、その間あの子はずっと一人で……?」
母親が逮捕された上に、父親と面会もできないなんて……。
「そこが難しいところなんです。直純くんにとって、治療を受けることも大事ですが、愛情を与えられることも大事なので……」
榎木先生の苦悩に満ちた表情に、本当に難しい問題なのだと突きつけられる。
そっと直純くんの寝ているベッドに視線を向けると、握ってほしいとでもいうように手を伸ばしているのが見える。
あの子はあんなにも守ってくれる存在を求めているというのに……。
「榎木先生。私が保さんの代わりに毎日面会に来てはいけませんか?」
「えっ、でもそれでは磯山先生のご負担が……」
「いえ。私のことは気にしないでください。今は直純くんと、保さんのことを第一に考えましょう。毎日の面会を認めていただけませんか?、できれば、私がいけない日は絢斗の許可もいただきたいです」
「……わかりました。主治医として、許可します」
「――っ、ありがとうございます!」
こうして私は、毎日の面会権を手に入れた。
事後承諾になるが絢斗にも話をしておかないとな。
子ども好きな絢斗のことだから直純くんのおかれた状況を話せばショックを受けそうな気もするが、隠しておくわけにはいかないな。
目の前で必死に生きようとしている直純くんをみながら、絶対に守るからと心に誓った。
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