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私と一緒に
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私はその足で絢斗が働く大学に向かった。
確か今の時間は講義がないはずだ。一直線に法学部のある棟に向かう。
現役の弁護士として時折特別講座を行うこともあって、警備員も私の姿を見ても止めることはしない。
そのまま絢斗がいる部屋に向かった。
扉をノックすると
「はーい、どうぞ」
と絢斗の声が聞こえる。
ゆっくりと扉をあけ顔を出すと私を見た途端、満面の笑みで駆け寄ってきた。
「卓さん! あれ? 今日来るって言ってたっけ?」
「いや。ちょっと絢斗に大事な話があって来たんだ」
「大事な話? なんだろう? とりあえず中に入って」
「ああ。ありがとう」
部屋の中は綺麗に整頓されていた。
「絢斗、部屋が綺麗に整えられて――」
そう言いかけていたところに、大きな本棚の近くから一人の学生が現れた。
「あ、あの磯山先生。僕、緑川教授のゼミ生の有原です。磯山先生にお目にかかれて光栄です」
「ああ。有原くんか。絢斗から話は聞いているよ。かなり優秀な生徒だそうだね」
「えっ、そんなっ……磯山先生にお褒めいただくなんて……でも、嬉しいです」
少し照れた表情がなんとも可愛らしい。
「佳史くんは本当に優秀なんだよ。この前もゼミの討論会でしっかり相手を負かしてたんだから」
「ほお、それはすごいな」
「教授までそんな……恥ずかしいです。あの、僕……飲み物淹れますね」
「ありがとう。コーヒーを頼むよ」
その声にすぐに反応して手際よくコーヒーを淹れてくれる。
もうすっかりこの部屋の中の様子は絢斗よりもわかっているようだ。
ソファーに座るとすぐに彼がコーヒーを持ってきてくれた。
「あの、僕、資料室で片付けをしておきますね」
「気を遣わせて悪いね。すぐに終わるから」
私の言葉に笑顔を見せると彼は部屋を出て行った。
資料室はこの部屋の隣にあり、絢斗も一人で使うこともあるくらいだから大丈夫だろう。
「それで大事な話って? もしかして最近悩んでいたことと関係がある?」
「ああ。そうなんだ。実はな……」
私はこれまでの経緯を絢斗に全て話した。
あまりにも酷い話に、絢斗の表情がどんどん曇って行ったが途中で口を挟むことなくしっかりと最後まで聞いてくれた。
「あの子には愛情を与えてくれる存在が必要なんだよ。だから、行きたくても行けない保さんの代わりに直純くんのところに毎日顔を出しに行ってやりたいんだ。絢斗にもそれを手伝ってほしい。どうだろう?」
「卓さん……そんなこと、わかってるでしょう?」
「えっ?」
「もちろん私も直純くんに会いに行くよ!」
「絢斗……ありがとう」
当然だと言わんばかりのその言葉が、私にはたまらなく嬉しかった。
「本当は絢斗を一人で行かせるのは少し心配だからできれば一緒に行きたいんだが、どうしてもの時は絢斗だけに頼むことも出てくるかもしれない。それでも大丈夫か?」
「大丈夫だよ。あ、でも卓さんが心配だって言うなら、いい考えがあるよ!」
「いい考え? なんだ?」
「ちょっと待ってて」
絢斗は意味深な笑顔を見せると急いで部屋を出て行ったかと思ったら、さっきの有原くんを連れて戻ってきた。
有原くんも何も言われずに連れてこられたようで彼の顔に困惑の表情が見える。
絢斗は笑顔のまま、彼をソファーに座らせると私の隣に腰を下ろし、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、佳史くん。夕方とか、一緒に聖ラグエル病院に行ってくれないかな?」
「えっ? 聖、ラグエル病院、ですか? あの、緑川教授、もしかしてご病気でも……?」
「そうじゃなくてね。大事な用事があって……卓さん、佳史くんにも少し理由を話してもいいかな?」
「ああ。だが他言無用で頼む」
私の言葉に彼は少し緊張したようだが、しっかりと頷いてくれた。
そして先ほどの話を掻い摘んで伝えると彼は驚きつつも
「僕で良ければ喜んでお供させていただきます」
と言ってくれた。
「ありがとう。佳史くんなら安心だよ。一緒に賢吾くんも行ってくれるしね」
「――っ、教授っ。それはっ……」
「ああ。そうだったな。すっかり忘れていたよ。そうか、君が榎木くんの……」
あの聖ラグエル病院の院長の息子でこの桜城大学の医学生の榎木くんと、絢斗の教え子の子がカップルだと言う話は絢斗から聞いていた。ここ最近のゴタゴタですっかり忘れてしまっていた。
確かに彼なら絢斗と一緒に行ってくれる相手に最適だ。
なんと言っても直くんの主治医である榎木先生の将来の息子なのだからな。
私の笑顔に、全てを知っていると理解した彼は顔を真っ赤にしていたが、榎木くんから見ればこれも可愛くて仕方がないのだろうな。
「だから、卓さん。大丈夫、いつでも行けるよ」
「ありがとう。助かるよ。有原くんも、よろしく頼む」
「は、はい。お任せください!」
「じゃあお礼にランチでもご馳走しよう。ミモザにでも行こうか」
「あ、でもそろそろ賢吾が……」
「彼も良ければ一緒にどうかな? 二人がいいなら邪魔はしないが」
可愛い彼はすぐに顔を赤らめる。
「卓さん、あまりからかっちゃダメだよ」
「ははっ。わかった。わかった」
それからすぐにやってきた榎木くんと一緒にミモザに向かった。
確か今の時間は講義がないはずだ。一直線に法学部のある棟に向かう。
現役の弁護士として時折特別講座を行うこともあって、警備員も私の姿を見ても止めることはしない。
そのまま絢斗がいる部屋に向かった。
扉をノックすると
「はーい、どうぞ」
と絢斗の声が聞こえる。
ゆっくりと扉をあけ顔を出すと私を見た途端、満面の笑みで駆け寄ってきた。
「卓さん! あれ? 今日来るって言ってたっけ?」
「いや。ちょっと絢斗に大事な話があって来たんだ」
「大事な話? なんだろう? とりあえず中に入って」
「ああ。ありがとう」
部屋の中は綺麗に整頓されていた。
「絢斗、部屋が綺麗に整えられて――」
そう言いかけていたところに、大きな本棚の近くから一人の学生が現れた。
「あ、あの磯山先生。僕、緑川教授のゼミ生の有原です。磯山先生にお目にかかれて光栄です」
「ああ。有原くんか。絢斗から話は聞いているよ。かなり優秀な生徒だそうだね」
「えっ、そんなっ……磯山先生にお褒めいただくなんて……でも、嬉しいです」
少し照れた表情がなんとも可愛らしい。
「佳史くんは本当に優秀なんだよ。この前もゼミの討論会でしっかり相手を負かしてたんだから」
「ほお、それはすごいな」
「教授までそんな……恥ずかしいです。あの、僕……飲み物淹れますね」
「ありがとう。コーヒーを頼むよ」
その声にすぐに反応して手際よくコーヒーを淹れてくれる。
もうすっかりこの部屋の中の様子は絢斗よりもわかっているようだ。
ソファーに座るとすぐに彼がコーヒーを持ってきてくれた。
「あの、僕、資料室で片付けをしておきますね」
「気を遣わせて悪いね。すぐに終わるから」
私の言葉に笑顔を見せると彼は部屋を出て行った。
資料室はこの部屋の隣にあり、絢斗も一人で使うこともあるくらいだから大丈夫だろう。
「それで大事な話って? もしかして最近悩んでいたことと関係がある?」
「ああ。そうなんだ。実はな……」
私はこれまでの経緯を絢斗に全て話した。
あまりにも酷い話に、絢斗の表情がどんどん曇って行ったが途中で口を挟むことなくしっかりと最後まで聞いてくれた。
「あの子には愛情を与えてくれる存在が必要なんだよ。だから、行きたくても行けない保さんの代わりに直純くんのところに毎日顔を出しに行ってやりたいんだ。絢斗にもそれを手伝ってほしい。どうだろう?」
「卓さん……そんなこと、わかってるでしょう?」
「えっ?」
「もちろん私も直純くんに会いに行くよ!」
「絢斗……ありがとう」
当然だと言わんばかりのその言葉が、私にはたまらなく嬉しかった。
「本当は絢斗を一人で行かせるのは少し心配だからできれば一緒に行きたいんだが、どうしてもの時は絢斗だけに頼むことも出てくるかもしれない。それでも大丈夫か?」
「大丈夫だよ。あ、でも卓さんが心配だって言うなら、いい考えがあるよ!」
「いい考え? なんだ?」
「ちょっと待ってて」
絢斗は意味深な笑顔を見せると急いで部屋を出て行ったかと思ったら、さっきの有原くんを連れて戻ってきた。
有原くんも何も言われずに連れてこられたようで彼の顔に困惑の表情が見える。
絢斗は笑顔のまま、彼をソファーに座らせると私の隣に腰を下ろし、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、佳史くん。夕方とか、一緒に聖ラグエル病院に行ってくれないかな?」
「えっ? 聖、ラグエル病院、ですか? あの、緑川教授、もしかしてご病気でも……?」
「そうじゃなくてね。大事な用事があって……卓さん、佳史くんにも少し理由を話してもいいかな?」
「ああ。だが他言無用で頼む」
私の言葉に彼は少し緊張したようだが、しっかりと頷いてくれた。
そして先ほどの話を掻い摘んで伝えると彼は驚きつつも
「僕で良ければ喜んでお供させていただきます」
と言ってくれた。
「ありがとう。佳史くんなら安心だよ。一緒に賢吾くんも行ってくれるしね」
「――っ、教授っ。それはっ……」
「ああ。そうだったな。すっかり忘れていたよ。そうか、君が榎木くんの……」
あの聖ラグエル病院の院長の息子でこの桜城大学の医学生の榎木くんと、絢斗の教え子の子がカップルだと言う話は絢斗から聞いていた。ここ最近のゴタゴタですっかり忘れてしまっていた。
確かに彼なら絢斗と一緒に行ってくれる相手に最適だ。
なんと言っても直くんの主治医である榎木先生の将来の息子なのだからな。
私の笑顔に、全てを知っていると理解した彼は顔を真っ赤にしていたが、榎木くんから見ればこれも可愛くて仕方がないのだろうな。
「だから、卓さん。大丈夫、いつでも行けるよ」
「ありがとう。助かるよ。有原くんも、よろしく頼む」
「は、はい。お任せください!」
「じゃあお礼にランチでもご馳走しよう。ミモザにでも行こうか」
「あ、でもそろそろ賢吾が……」
「彼も良ければ一緒にどうかな? 二人がいいなら邪魔はしないが」
可愛い彼はすぐに顔を赤らめる。
「卓さん、あまりからかっちゃダメだよ」
「ははっ。わかった。わかった」
それからすぐにやってきた榎木くんと一緒にミモザに向かった。
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