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絢斗の実家
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「ありがとうございます。まだ直くんはしばらくは入院が必要なので、元気になったらこの家にも連れてきます」
「ああ、楽しみにしているよ」
父の表情がいつもより柔らかく感じる。
まさかこんなにもすぐに受け入れてもらえるとは思っていなかったが、もう父の中では孫と思ってくれているのかもしれない。
「ねぇ、卓。私たちがお見舞いに行くのはダメかしら?」
「えっ? 母さんと父さんが?」
「ええ。これからみんなで家族になるんでしょう? 顔を合わせるなら少しでも早いほうがいいわ」
「それは……そうかもしれないな。大人数でなければ認めてもらえるように主治医の先生に頼んでおくよ。許可がもらえたら連絡する」
「わかった、待ってるわ」
「それじゃあ私たちはこれで失礼するよ」
「あら、もう帰るの? 食事して帰ればいいのに」
久しぶりに実家に戻ってきてすぐに帰るのは正直言って申し訳ない気分だが、仕方がない。
「この後、絢斗の実家にも里親の報告をしに行こうと思っているから」
「そうなのね。それなら仕方がないわ。絢斗くん、また遊びにきてね」
「はい。また連絡しますね」
絢斗と母は少し名残惜しそうにしていたが、私たちはそのまま実家を出て、今度は絢斗の家に向かった。
向かう途中、絢斗は実家に電話をかけていた。
なんせ絢斗の父である賢将さんは現役の医師。
第一線を退き、昔馴染みの会社の顧問弁護士だけを続けている父と違って、開業医をしている賢将さんはまだ家に帰っていないかもしれない。
とりあえず母の秋穂さんに電話をかけてみたようだ。スピーカーにしてくれているからコール音が車内に響く。
数コールののちに電話がつながり、もしもしといつもの明るい声が聞こえてきた。
ーあ、お母さん? 絢斗だけど、お父さんはまだ帰ってない?
ー賢将さんならあと30分くらいで病院を出るって連絡あったわ。
ーそうなんだ。あのね、今から卓さんと家に行きたいんだけど大丈夫?
ーうちは構わないけど、どうかしたの?
ーうん。大事な報告があって……お父さんとお母さんに直接話しておきたいんだ。
ーそう。わかったわ。じゃあ、食事をしてからゆっくり聞きましょう。今日はちょうど美味しいお肉をたくさんもらったからすき焼きにしようと思っていたの。絢斗と卓さんも食べてくれたら助かるわ。
絢斗の言い方からきっと何かを察したのだろう。
秋穂さんが気遣ってくれたのがよくわかる。
絢斗がそっと視線を向けてきたから、私は静かに頷いた。
ーお母さん……うん、ありがとう。じゃあご飯ご馳走になるね。何か必要なものない? 買っていくよ。
ー大丈夫。全部揃っているから。だから安心して二人で来てちょうだい。
秋穂さんの優しい声に後押しされ、絢斗は電話を切った。
「いいお母さんだな」
「うん。うちもすぐに認めてくれると思うよ」
「そうだな。特に直くんの今の状態を知れば、賢将さんは反対はしないだろう」
「そうだね。でも、医師としてだけじゃなくて、きっと卓さんの真剣な気持ちに認めてくれるんだと思う。私ももう直くんと家族として過ごす気満々だから、お父さんたちに反対されても心は動かないよ」
「絢斗……ありがとう」
一番気持ちをわかってくれるのが、愛しい伴侶であることが何よりも心強い。
絢斗がそばにいてくれて私は本当に幸せだな。
「いらっしゃい。さぁ中に入ってちょうだい」
絢斗によく似た優しい笑顔で迎えられ、私たちはリビングに通された。
「何かお手伝いすることありますか?」
「ありがとう。でも準備はできているから大丈夫よ」
その言葉の通り、ダイニングテーブルにはすき焼き以外の全ての準備が整っている。
「お母さん、これ今日のお肉?」
「ええ。そうよ。賢将さんが倉橋さんからいただいたの」
なるほど。蓮見くんのところのお肉か。
それは美味しそうだ。
そんな話をしていると、玄関チャイムが鳴りインターフォン越しに賢将さんの姿が見えた。
「あ、お父さんを出迎えてくるね」
「ええ、絢斗が出迎えたらきっと喜ぶわ」
実家に戻ると途端に子どものように戻る絢斗を微笑ましく思いながら、私は秋穂さんと共に少し遅れて玄関に向かった。
「ただいま」
「お父さん! おかえりー!!」
「えっ? 絢斗? どうしたんだ?」
驚きつつも、絢斗のハグを受け入れている賢将さんはやはり嬉しそうだ。
「こんばんは。お邪魔しています」
二人がハグし合う後ろから声をかけると、
「卓くんも一緒か。なんだ、よかった」
とホッとしているように見えた。
「お父さん、なんでよかったなの?」
「いや、卓くんと喧嘩でもして実家に帰ってきたんだと思ったから」
「喧嘩なんてしないよ! 卓さんとはずーっとラブラブだから。ね、卓さん」
義両親の前で少し恥ずかしいものがあるが、ここは誤魔化してはいけない。
「ああ、絢斗とはずっとラブラブだな。お義父さん、安心してください」
私がはっきりと告げると、絢斗は満足そうに笑っていた。
「ああ、楽しみにしているよ」
父の表情がいつもより柔らかく感じる。
まさかこんなにもすぐに受け入れてもらえるとは思っていなかったが、もう父の中では孫と思ってくれているのかもしれない。
「ねぇ、卓。私たちがお見舞いに行くのはダメかしら?」
「えっ? 母さんと父さんが?」
「ええ。これからみんなで家族になるんでしょう? 顔を合わせるなら少しでも早いほうがいいわ」
「それは……そうかもしれないな。大人数でなければ認めてもらえるように主治医の先生に頼んでおくよ。許可がもらえたら連絡する」
「わかった、待ってるわ」
「それじゃあ私たちはこれで失礼するよ」
「あら、もう帰るの? 食事して帰ればいいのに」
久しぶりに実家に戻ってきてすぐに帰るのは正直言って申し訳ない気分だが、仕方がない。
「この後、絢斗の実家にも里親の報告をしに行こうと思っているから」
「そうなのね。それなら仕方がないわ。絢斗くん、また遊びにきてね」
「はい。また連絡しますね」
絢斗と母は少し名残惜しそうにしていたが、私たちはそのまま実家を出て、今度は絢斗の家に向かった。
向かう途中、絢斗は実家に電話をかけていた。
なんせ絢斗の父である賢将さんは現役の医師。
第一線を退き、昔馴染みの会社の顧問弁護士だけを続けている父と違って、開業医をしている賢将さんはまだ家に帰っていないかもしれない。
とりあえず母の秋穂さんに電話をかけてみたようだ。スピーカーにしてくれているからコール音が車内に響く。
数コールののちに電話がつながり、もしもしといつもの明るい声が聞こえてきた。
ーあ、お母さん? 絢斗だけど、お父さんはまだ帰ってない?
ー賢将さんならあと30分くらいで病院を出るって連絡あったわ。
ーそうなんだ。あのね、今から卓さんと家に行きたいんだけど大丈夫?
ーうちは構わないけど、どうかしたの?
ーうん。大事な報告があって……お父さんとお母さんに直接話しておきたいんだ。
ーそう。わかったわ。じゃあ、食事をしてからゆっくり聞きましょう。今日はちょうど美味しいお肉をたくさんもらったからすき焼きにしようと思っていたの。絢斗と卓さんも食べてくれたら助かるわ。
絢斗の言い方からきっと何かを察したのだろう。
秋穂さんが気遣ってくれたのがよくわかる。
絢斗がそっと視線を向けてきたから、私は静かに頷いた。
ーお母さん……うん、ありがとう。じゃあご飯ご馳走になるね。何か必要なものない? 買っていくよ。
ー大丈夫。全部揃っているから。だから安心して二人で来てちょうだい。
秋穂さんの優しい声に後押しされ、絢斗は電話を切った。
「いいお母さんだな」
「うん。うちもすぐに認めてくれると思うよ」
「そうだな。特に直くんの今の状態を知れば、賢将さんは反対はしないだろう」
「そうだね。でも、医師としてだけじゃなくて、きっと卓さんの真剣な気持ちに認めてくれるんだと思う。私ももう直くんと家族として過ごす気満々だから、お父さんたちに反対されても心は動かないよ」
「絢斗……ありがとう」
一番気持ちをわかってくれるのが、愛しい伴侶であることが何よりも心強い。
絢斗がそばにいてくれて私は本当に幸せだな。
「いらっしゃい。さぁ中に入ってちょうだい」
絢斗によく似た優しい笑顔で迎えられ、私たちはリビングに通された。
「何かお手伝いすることありますか?」
「ありがとう。でも準備はできているから大丈夫よ」
その言葉の通り、ダイニングテーブルにはすき焼き以外の全ての準備が整っている。
「お母さん、これ今日のお肉?」
「ええ。そうよ。賢将さんが倉橋さんからいただいたの」
なるほど。蓮見くんのところのお肉か。
それは美味しそうだ。
そんな話をしていると、玄関チャイムが鳴りインターフォン越しに賢将さんの姿が見えた。
「あ、お父さんを出迎えてくるね」
「ええ、絢斗が出迎えたらきっと喜ぶわ」
実家に戻ると途端に子どものように戻る絢斗を微笑ましく思いながら、私は秋穂さんと共に少し遅れて玄関に向かった。
「ただいま」
「お父さん! おかえりー!!」
「えっ? 絢斗? どうしたんだ?」
驚きつつも、絢斗のハグを受け入れている賢将さんはやはり嬉しそうだ。
「こんばんは。お邪魔しています」
二人がハグし合う後ろから声をかけると、
「卓くんも一緒か。なんだ、よかった」
とホッとしているように見えた。
「お父さん、なんでよかったなの?」
「いや、卓くんと喧嘩でもして実家に帰ってきたんだと思ったから」
「喧嘩なんてしないよ! 卓さんとはずーっとラブラブだから。ね、卓さん」
義両親の前で少し恥ずかしいものがあるが、ここは誤魔化してはいけない。
「ああ、絢斗とはずっとラブラブだな。お義父さん、安心してください」
私がはっきりと告げると、絢斗は満足そうに笑っていた。
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