虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

文字の大きさ
11 / 117

可愛い孫として……

しおりを挟む
「それで今日はどうしたんだ?」

「賢将さん。話は先に食事をしてからにしましょう」

「んっ? ああ、そうか。じゃあ、そうしよう。着替えてくるよ」

賢将さんは私たちが来ている理由が気になったようだが、秋穂さんの言葉に耳を傾けて自室へ向かった。
その間にすき焼きを仕上げていく。

秋穂さん特製の割下で作る緑川家のすき焼きは絶品で、初めて食べさせてもらった時はあまりのおいしさに驚いたものだ。
その配合を教えてもらって我が家でも作るようになったから、すき焼きは緑川家の味だ。

「卓さん、お願いできるかしら?」

「はい。喜んで」

すき焼き鍋に牛脂を塗り牛肉を焼いていく。
そして、タイミングを見計らって割下を流し込み、具材を入れていく。
味の染みた白滝や椎茸は食欲をそそる。

絢斗は待ちきれない様子ですき焼き鍋を覗き込んでいた。

その間に秋穂さんはご飯などを並べ、もうそろそろ出来上がるかというくらいに賢将さんがダイニングにやってきた。

「ああ、いい匂いだな。卓くん、ありがとう」

「いえ。それじゃあいただきましょう」

みんなで席につくと、

「卓くん、一杯どうだ?」

と賢将さんが声をかけてくれた。

「ですが、車なので……」

「絢斗が運転して帰ったらいい。もし、無理なら泊まってくれても構わないよ」

遠慮しようかと思ったが、絢斗が私にグラスを渡してくれたから甘えることにした。

「はい。いただきます」

賢将さんと一緒に酒を飲むのは久しぶりだ。
これがいい酒になるかどうかはあの話をしてからだな。

美味しいお肉と楽しい雰囲気に食も進み、あっという間に七割方食事を終えた。
ふぅと一息ついたところで、賢将さんが私たちを見て口を開いた。

「それで、どういう要件だったんだ? そろそろ聞かせてくれてもいいだろう? 秋穂は知っているのか?」

「いえ。私もまだ。でも空腹で話をするよりは食事をしてからの方がいいと思って……」

「それは確かにそうだな」

賢将さんが納得してくれてホッとする。
私は覚悟を決めて、話をすることにした。

「実は、私と絢斗は里親になって子どもを預かることを決めました。その報告がしたくて今日は伺いました」

「二人が、里親に? 二人が決めたことをとやかくいうつもりはないが、養子ではなく里親を選んだ理由は何かあるのか?」

自分の子にするのではなく、実の親の代わりに養育することを選んだ理由を知りたいのだろう。
それは当然だ。

「はい。実は、自分の妻が二歳の息子を虐待していた罪で逮捕された男性と一緒に病院に付き添った縁で、彼らと関わることになりまして、父親は自分が息子を助けられなかったショックで記憶喪失になってしまい、息子のことを忘れてしまったんです」

「なんてことだ……」

医師である賢将さんにはしっかりと話しておいた方がいいと思い、私の両親よりも詳しく保さんの症状を伝えた。

「保さんは退院できたとしても息子について何の記憶もない自分が一人で育てて行くことが困難だということだったので、私が里子に出すことを勧めました。いつかまた彼が父親に戻りたいと思った時に戻れるようにしていたかったんです」

「なるほど……そういうことか。卓くんも絢斗もその表情を見る限り、同情ではなく本気でその子を養育することを決めたんだな?」

「はい。そうです」

「そうか……私たちは二人が決めたことを反対するつもりはないよ」

「――っ!! ありがとうございます。あの……できればその子……直くんには、私たちだけでなく、祖父母の愛情もたっぷりと与えて育ててやりたい。できることなら保さんも含めて大きな家族として成長させてあげたいと思っています。ですから直くんを里子に迎えたらこちらに連れてきても構いませんか?」

「お父さん、お母さん! お願い! 直くんを可愛い孫だと思って欲しい。本当に可愛いんだよ」

私の言葉に被せるように絢斗が直くんへの思いを訴える。

すると、賢将さんと秋穂さんは顔を見合わせて頷いたかと思ったら、私たちに笑顔を見せた。

「もちろん、養子にしろ里子にしろ、二人が育てるなら私たちは孫と思って可愛がるよ。絢斗と卓くんの孫を可愛がれるならこんなに嬉しいことはないよ」

「お父さん! お母さん! ありがとう!!」

絢斗は涙を流しながら、二人に抱きつきに行った。
3人で笑顔で抱き合う姿に私も涙が込み上げていた。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...