虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

文字の大きさ
12 / 117

大きな一歩

しおりを挟む
「卓さん。直くんのこと、お互いの両親に認めてもらえてよかったね」

「ああ。もし反対されても考えを変えるつもりはなかったが、やはり家族に賛成してもらえるのは嬉しいよ。直くんと保さんにとっても反対している家族がいるというのは不安に感じるだろうからね」

「うん。そうだね。私、直くんを預かれるのが待ち遠しいよ。お父さんたちも今頃そう思ってるはず」

「ははっ。そうだな」

絢斗の実家からの帰り道、久しぶりの助手席に乗って、絢斗との楽しい時間を過ごしていると、それを阻むように私のスマホが振動を告げた。

「何か忘れ物でもしたのかな?」

「いや、毅からだ。きっと母さんから話を聞いたんだろう」

別に口止めをするような話ではなかったから、何も言わなかったがまさかこんなにも早く母が毅に伝えるとは思っていなかった。それほど、母にとっては重要な出来事だったのかもしれない。

「悪い、取らなかったらうるさいから取るよ」

一応絢斗に了承を取って電話を取ると、スピーカーにしていないにも関わらず電話口から毅の大きな声が漏れ聞こえてきた。

ーもしもし、兄さん!

ーなんだ、電話口で叫ぶな。絢斗が驚いてるぞ。

ーえっ、あっごめん。でも、驚いて……母さんが言ってたこと、本当なのか?

ー何のことだ?

そう言いつつ、私はスピーカーボタンを押した。絢斗にも毅の気持ちを聞いていてほしいからな。

ー里子を預かるって話だよ。

ーああ、それなら本当だ。これから手続きを始めるところだからすぐではないが、近いうちに正式に里子として預かるよ。

ーで、でも、兄さんはずっと絢斗さんと二人でいいって言ってただろう? 絢斗さんに無理させてるんじゃないのか?

ーそれなら気にしないでいい。絢斗もその子に会って絢斗自身が里親になりたいと言ってくれた。

ーで、でも!

ーなんだ、毅。お前は反対なのか?

ーえっ? いや。そういうわけじゃないけど……心配なんだ。自分の子を育てるのも大変なのに、血のつながりもない子を育てるなんて……。

ーそれは確かにそうだろう。実際に毅は昇の親として育ててきて、育児の面では先輩だから毅の言いたいことはよくわかる。

ーだろう? それなら……

ーだが、血のつながりだけでは言い表せない縁もあるんだよ。私は初めて直くんと会った時に、この子は絶対に守ると誓ったんだ。絢斗も私と同じ気持ちだよ。だから、毅がどんなに反対しても意見を変えるつもりはない。お前がそれで私たちとの縁を切りたいというのなら寂しいが受け入れるしかない。それくらいの覚悟は持っている。

ー兄さん……。わかったよ。もう何も言わない。父さんも母さんももうすでにその子を孫として受け入れているようだったからわかってはいたんだ。でも、兄さんの覚悟をはっきりと聞けてよかった。俺たちもちゃんと家族だと思って接するよ。昇にもちゃんと話をしておく。あの子は歳の割にちゃんと判断ができる子だから、兄さんたちの子どもというか、従兄弟? として認識すると思うよ。

ー直くんには昇のような兄的存在ができるのはいいことだから、昇が仲良くしてくれたら嬉しいよ。今はまだ入院中だから実家に連れて行く時には連絡するから。

ーわかった。兄さん、騒いでごめん。

ーいや、毅の気持ちが聞けて嬉しかったよ。心配してくれてありがとう。

電話を切ると、絢斗が嬉しそうに笑顔を向けた。

「毅さん。卓さんを心配したんだね。」

「ああ、こんな機会でもないと毅とこんな話をすることはなかっただろうからよかったと思うよ。」

「そうだね。それに昇くんだけど、きっと直くんのこと可愛がると思うな。」

「そうか?」

「うん。そんな気がする。」

絢斗の意味深な笑顔が気になったものの、一人っ子の昇には直くんが可愛い弟のような存在になることは間違いない。
こうして私たちは家族全員の賛成をもらい、里親になる決意を固めた。


里親になるには特別な資格はないが、子どもの安全を守るため通常は児童相談所の職員の調査を受け、子どもの養育に必要な研修などを経て、里親としての適格性を審査された上で都道府県の知事の認可を受け里親になることが認められる。つまり手続きにかなりの時間がかかるのだ。

だが今回の場合は、事件の被害者である幼子の養育者をすぐに決定しなければいけない状況で両親ともに養育できない状況にあり父親が他に養育してくれる人を探したいと希望を出しているという特別な要因もある。
私たちは不特定多数の里親になるのではなく、直くんの養育を実父である保さんから頼まれて行うということになるため、通常の手続きを行わずに直くんを引き取ろうと考えている。
そのために私は同じ法曹界の友人、また警察関係者など他にもあらゆる人脈を使って直くんの里親となる手続きを進めてもらった。

彼らの力のおかげで一両日中にも許可が下りるという知らせを受け、私はすぐに保さんの元に向かった。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

戦場からお持ち帰りなんですか?

satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。 1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。 私の結婚生活はうまくいくのかな?

処理中です...