19 / 117
可愛い直くんとの対面
しおりを挟む
<side賢将>
絢斗と卓くんが里親になると報告をしにきてから数日。
ようやく待ちに待った連絡がきた。
ー直くん、これから一般病棟に移れるんだって。
ーそうか。それはよかった。
ーそれでお父さんとお母さんにも会いに来て欲しいんだけど、卓さんのご両親にも声をかけるから一度に行くと直くんも驚いちゃうと思うんだよね。
ーそれはそうだな。
ーだから少し時間を空けて来て欲しいんだ。
ーああ。わかったよ。着いたら連絡するから。
ーありがとう。それじゃあ後でね。
直くんが一般病棟に移れるのが嬉しくてたまらないのだろう。
絢斗の声がはしゃいでいた。
「秋穂。待ち望んでいた連絡がきたよ」
「――っ、よかったわ!!」
「寛さんたちと間隔をあけて行くことになったから少し寄り道して行こうか」
「寄り道?」
「ああ、直くんにお土産を買って行こう」
「わぁ! それ、素敵!!」
満足に食事を与えられていなかったようだと聞いていたから、美味しいものも買って行ってやりたいが、私がいくら医師とはいえ主治医の判断を仰がなければ難しい。今日、直くんに会って確認したら次は何か食べ物を買って行ってあげられるかもしれないな。
「直くんの友達になれるようなぬいぐるみを買って行こうか」
「ええ。私もそう思っていたところよ。聖ラグエル病院ならすぐ近くにいいお店があるわ」
「ああ、あの店か。よし、じゃあ向かおうか」
秋穂は元看護師。小児科での経験もあるから子どもの見舞いに安心なものはよくわかっている。
私たちはすぐに準備を済ませて、病院近くの店に向かった。
ここはぬいぐるみだけでなく、おもちゃなども扱っている。
まだなんでも口にする月齢の子どもでも安心して使わせることのできる材料で作られていて噛んだり舐めたりしても安心なのだ。また誤飲などを防ぐため、月齢ごとに使わせていいおもちゃが決められているから初めておもちゃを選ぶ親や、出産祝いなどで子どものいない友人たちが選びやすいと評判でかなり人気のある店だ。
秋穂は店に入るとすぐにぬいぐるみコーナーに向かった。
「絢斗がウサギさんをプレゼントしたって話していたから、それ以外の可愛い子がいいわね。何にしようかしら?」
しばらく見て回っていたが、秋穂は棚の奥にひっそりと隠れるように置かれていたぬいぐるみを見つけ、笑顔でそれを取った。
「賢将さん、この子がいいわ。この子なら直くんのいいお友だちになれるわ」
嬉しそうに私に見せてくれたのは、ゴールドの色味が可愛いゴールデンレトリーバー。
「ああ、これはいい。直くんのいい友だちになるだろう」
私の言葉に嬉しそうにその子を抱きしめる秋穂を見ながら、私はさっと会計を済ませた。
病院の駐車場に車を走らせている間も秋穂は楽しげにその犬を見つめていた。
「いい? 私たちの可愛い孫の直くんのいいお友だちになってあげてね」
そう話しかける秋穂を可愛いと思いながら、駐車場に到着した私は絢斗に連絡を入れた。
すぐに迎えにきてくれると言って電話は切れたがきっと迎えにくるのは絢斗ではないだろう。
そんなことをあの卓くんが許すはずがない。
その想像通り、駐車場に迎えにきてくれたのは卓くんの父である寛さんだった。
「待たせて悪かったね」
「いえ、わざわざ迎えにきてくださってありがとうございます。それより私たちの可愛い孫の様子はどうでしたか?」
「もう沙都がすっかりメロメロになって絢斗くんと楽しそうに遊んでいるよ」
「遊べるようにまで回復しているならよかったですよ」
「ああ、本当に。んっ? 秋穂さん、それは?」
「直くんへの贈り物です。いいお友だちになれるかと思って……」
「なるほど。贈り物か……それは失念していたな。私たちも次に来る時は何か持ってこよう」
寛さんが何も持たずにきたとは……きっと私たち以上に待ち侘びていたのだろう。
急いで駆けつけたのが窺える。
直くんの病室は6階の特別室。面会時間を気にする事なく会いに行けて宿泊もできる部屋だそうだ。
これなら広々とした部屋で直くんを寂しがらせることもないな。
部屋の扉を叩くとすぐに卓くんが開けてくれた。
私たちが中に入ると絢斗の腕に抱かれた直くんはピクッと身体を震わせたが、秋穂がさっきの可愛い犬のぬいぐるみを見せながら近づくと途端に興味津々な表情を向けた。
秋穂の言葉を真似するように「わんわん」と言ったかと思うと、ベッドに置かれたウサギのぬいぐるみを指さして「うちゃ、うちゃ」と声をあげる。
ああ、この子は賢い子だ。
絢斗と直くん、そして秋穂が揃った可愛い姿をすかさず写真に収めてくれたのは沙都さん。
それをすぐに送ると伝えながら、自分が直くんに「さーちゃん」と呼ばれることになったと教えてくれた。
そうして、卓くんと寛さんと沙都さんは病室を出ていき、部屋の中には絢斗と私たちだけが残った。
直くんが不安がるかと心配したが絢斗にすっかり慣れているようでホッとする。
「お父さんもこっちに来て」
「ああ」
絢斗は直くんを抱いたままベッドに座り、すぐ隣に秋穂が座った。
私も絢斗と直くんの隣に腰を下ろすと、直くんは両手にぬいぐるみを持ったままキョロキョロと私と秋穂を見つめていた。
「絢斗は直くんになんて呼ばれているの?」
「私はあーちゃんだよ。ね、直くん」
「あーちゃ、あーちゃ」
「ふふっ。可愛い」
名前を呼んでくれた直くんを愛おしそうに抱きしめる息子の姿に父として涙が出そうになる。
「私はなんて呼んでもらおうかしら?」
「絢斗があーちゃんなら、秋穂はあきちゃんでいいんじゃないか?」
「そうね。直くん、私はあきちゃんよ」
「あいちゃ?」
「――っ、可愛い!」
可愛らしく小首を傾げながら尋ねてくる直くんの様子に秋穂だけでなく絢斗も、もちろん私もすっかりメロメロになっていた。
絢斗と卓くんが里親になると報告をしにきてから数日。
ようやく待ちに待った連絡がきた。
ー直くん、これから一般病棟に移れるんだって。
ーそうか。それはよかった。
ーそれでお父さんとお母さんにも会いに来て欲しいんだけど、卓さんのご両親にも声をかけるから一度に行くと直くんも驚いちゃうと思うんだよね。
ーそれはそうだな。
ーだから少し時間を空けて来て欲しいんだ。
ーああ。わかったよ。着いたら連絡するから。
ーありがとう。それじゃあ後でね。
直くんが一般病棟に移れるのが嬉しくてたまらないのだろう。
絢斗の声がはしゃいでいた。
「秋穂。待ち望んでいた連絡がきたよ」
「――っ、よかったわ!!」
「寛さんたちと間隔をあけて行くことになったから少し寄り道して行こうか」
「寄り道?」
「ああ、直くんにお土産を買って行こう」
「わぁ! それ、素敵!!」
満足に食事を与えられていなかったようだと聞いていたから、美味しいものも買って行ってやりたいが、私がいくら医師とはいえ主治医の判断を仰がなければ難しい。今日、直くんに会って確認したら次は何か食べ物を買って行ってあげられるかもしれないな。
「直くんの友達になれるようなぬいぐるみを買って行こうか」
「ええ。私もそう思っていたところよ。聖ラグエル病院ならすぐ近くにいいお店があるわ」
「ああ、あの店か。よし、じゃあ向かおうか」
秋穂は元看護師。小児科での経験もあるから子どもの見舞いに安心なものはよくわかっている。
私たちはすぐに準備を済ませて、病院近くの店に向かった。
ここはぬいぐるみだけでなく、おもちゃなども扱っている。
まだなんでも口にする月齢の子どもでも安心して使わせることのできる材料で作られていて噛んだり舐めたりしても安心なのだ。また誤飲などを防ぐため、月齢ごとに使わせていいおもちゃが決められているから初めておもちゃを選ぶ親や、出産祝いなどで子どものいない友人たちが選びやすいと評判でかなり人気のある店だ。
秋穂は店に入るとすぐにぬいぐるみコーナーに向かった。
「絢斗がウサギさんをプレゼントしたって話していたから、それ以外の可愛い子がいいわね。何にしようかしら?」
しばらく見て回っていたが、秋穂は棚の奥にひっそりと隠れるように置かれていたぬいぐるみを見つけ、笑顔でそれを取った。
「賢将さん、この子がいいわ。この子なら直くんのいいお友だちになれるわ」
嬉しそうに私に見せてくれたのは、ゴールドの色味が可愛いゴールデンレトリーバー。
「ああ、これはいい。直くんのいい友だちになるだろう」
私の言葉に嬉しそうにその子を抱きしめる秋穂を見ながら、私はさっと会計を済ませた。
病院の駐車場に車を走らせている間も秋穂は楽しげにその犬を見つめていた。
「いい? 私たちの可愛い孫の直くんのいいお友だちになってあげてね」
そう話しかける秋穂を可愛いと思いながら、駐車場に到着した私は絢斗に連絡を入れた。
すぐに迎えにきてくれると言って電話は切れたがきっと迎えにくるのは絢斗ではないだろう。
そんなことをあの卓くんが許すはずがない。
その想像通り、駐車場に迎えにきてくれたのは卓くんの父である寛さんだった。
「待たせて悪かったね」
「いえ、わざわざ迎えにきてくださってありがとうございます。それより私たちの可愛い孫の様子はどうでしたか?」
「もう沙都がすっかりメロメロになって絢斗くんと楽しそうに遊んでいるよ」
「遊べるようにまで回復しているならよかったですよ」
「ああ、本当に。んっ? 秋穂さん、それは?」
「直くんへの贈り物です。いいお友だちになれるかと思って……」
「なるほど。贈り物か……それは失念していたな。私たちも次に来る時は何か持ってこよう」
寛さんが何も持たずにきたとは……きっと私たち以上に待ち侘びていたのだろう。
急いで駆けつけたのが窺える。
直くんの病室は6階の特別室。面会時間を気にする事なく会いに行けて宿泊もできる部屋だそうだ。
これなら広々とした部屋で直くんを寂しがらせることもないな。
部屋の扉を叩くとすぐに卓くんが開けてくれた。
私たちが中に入ると絢斗の腕に抱かれた直くんはピクッと身体を震わせたが、秋穂がさっきの可愛い犬のぬいぐるみを見せながら近づくと途端に興味津々な表情を向けた。
秋穂の言葉を真似するように「わんわん」と言ったかと思うと、ベッドに置かれたウサギのぬいぐるみを指さして「うちゃ、うちゃ」と声をあげる。
ああ、この子は賢い子だ。
絢斗と直くん、そして秋穂が揃った可愛い姿をすかさず写真に収めてくれたのは沙都さん。
それをすぐに送ると伝えながら、自分が直くんに「さーちゃん」と呼ばれることになったと教えてくれた。
そうして、卓くんと寛さんと沙都さんは病室を出ていき、部屋の中には絢斗と私たちだけが残った。
直くんが不安がるかと心配したが絢斗にすっかり慣れているようでホッとする。
「お父さんもこっちに来て」
「ああ」
絢斗は直くんを抱いたままベッドに座り、すぐ隣に秋穂が座った。
私も絢斗と直くんの隣に腰を下ろすと、直くんは両手にぬいぐるみを持ったままキョロキョロと私と秋穂を見つめていた。
「絢斗は直くんになんて呼ばれているの?」
「私はあーちゃんだよ。ね、直くん」
「あーちゃ、あーちゃ」
「ふふっ。可愛い」
名前を呼んでくれた直くんを愛おしそうに抱きしめる息子の姿に父として涙が出そうになる。
「私はなんて呼んでもらおうかしら?」
「絢斗があーちゃんなら、秋穂はあきちゃんでいいんじゃないか?」
「そうね。直くん、私はあきちゃんよ」
「あいちゃ?」
「――っ、可愛い!」
可愛らしく小首を傾げながら尋ねてくる直くんの様子に秋穂だけでなく絢斗も、もちろん私もすっかりメロメロになっていた。
1,121
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?
まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。
うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。
私、マーガレットは、今年16歳。
この度、結婚の申し込みが舞い込みました。
私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。
支度、はしなくてよろしいのでしょうか。
☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる