虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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可愛い直くんとの対面

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<side賢将>

絢斗と卓くんが里親になると報告をしにきてから数日。
ようやく待ちに待った連絡がきた。

ー直くん、これから一般病棟に移れるんだって。

ーそうか。それはよかった。

ーそれでお父さんとお母さんにも会いに来て欲しいんだけど、卓さんのご両親にも声をかけるから一度に行くと直くんも驚いちゃうと思うんだよね。

ーそれはそうだな。

ーだから少し時間を空けて来て欲しいんだ。

ーああ。わかったよ。着いたら連絡するから。

ーありがとう。それじゃあ後でね。

直くんが一般病棟に移れるのが嬉しくてたまらないのだろう。
絢斗の声がはしゃいでいた。

「秋穂。待ち望んでいた連絡がきたよ」

「――っ、よかったわ!!」

「寛さんたちと間隔をあけて行くことになったから少し寄り道して行こうか」

「寄り道?」

「ああ、直くんにお土産を買って行こう」

「わぁ! それ、素敵!!」

満足に食事を与えられていなかったようだと聞いていたから、美味しいものも買って行ってやりたいが、私がいくら医師とはいえ主治医の判断を仰がなければ難しい。今日、直くんに会って確認したら次は何か食べ物を買って行ってあげられるかもしれないな。

「直くんの友達になれるようなぬいぐるみを買って行こうか」

「ええ。私もそう思っていたところよ。聖ラグエル病院ならすぐ近くにいいお店があるわ」

「ああ、あの店か。よし、じゃあ向かおうか」

秋穂は元看護師。小児科での経験もあるから子どもの見舞いに安心なものはよくわかっている。
私たちはすぐに準備を済ませて、病院近くの店に向かった。

ここはぬいぐるみだけでなく、おもちゃなども扱っている。
まだなんでも口にする月齢の子どもでも安心して使わせることのできる材料で作られていて噛んだり舐めたりしても安心なのだ。また誤飲などを防ぐため、月齢ごとに使わせていいおもちゃが決められているから初めておもちゃを選ぶ親や、出産祝いなどで子どものいない友人たちが選びやすいと評判でかなり人気のある店だ。

秋穂は店に入るとすぐにぬいぐるみコーナーに向かった。

「絢斗がウサギさんをプレゼントしたって話していたから、それ以外の可愛い子がいいわね。何にしようかしら?」

しばらく見て回っていたが、秋穂は棚の奥にひっそりと隠れるように置かれていたぬいぐるみを見つけ、笑顔でそれを取った。

「賢将さん、この子がいいわ。この子なら直くんのいいお友だちになれるわ」

嬉しそうに私に見せてくれたのは、ゴールドの色味が可愛いゴールデンレトリーバー。

「ああ、これはいい。直くんのいい友だちになるだろう」

私の言葉に嬉しそうにその子を抱きしめる秋穂を見ながら、私はさっと会計を済ませた。

病院の駐車場に車を走らせている間も秋穂は楽しげにその犬を見つめていた。

「いい? 私たちの可愛い孫の直くんのいいお友だちになってあげてね」

そう話しかける秋穂を可愛いと思いながら、駐車場に到着した私は絢斗に連絡を入れた。
すぐに迎えにきてくれると言って電話は切れたがきっと迎えにくるのは絢斗ではないだろう。
そんなことをあの卓くんが許すはずがない。

その想像通り、駐車場に迎えにきてくれたのは卓くんの父である寛さんだった。

「待たせて悪かったね」

「いえ、わざわざ迎えにきてくださってありがとうございます。それより私たちの可愛い孫の様子はどうでしたか?」

「もう沙都がすっかりメロメロになって絢斗くんと楽しそうに遊んでいるよ」

「遊べるようにまで回復しているならよかったですよ」

「ああ、本当に。んっ? 秋穂さん、それは?」

「直くんへの贈り物です。いいお友だちになれるかと思って……」

「なるほど。贈り物か……それは失念していたな。私たちも次に来る時は何か持ってこよう」

寛さんが何も持たずにきたとは……きっと私たち以上に待ち侘びていたのだろう。
急いで駆けつけたのが窺える。

直くんの病室は6階の特別室。面会時間を気にする事なく会いに行けて宿泊もできる部屋だそうだ。
これなら広々とした部屋で直くんを寂しがらせることもないな。

部屋の扉を叩くとすぐに卓くんが開けてくれた。
私たちが中に入ると絢斗の腕に抱かれた直くんはピクッと身体を震わせたが、秋穂がさっきの可愛い犬のぬいぐるみを見せながら近づくと途端に興味津々な表情を向けた。

秋穂の言葉を真似するように「わんわん」と言ったかと思うと、ベッドに置かれたウサギのぬいぐるみを指さして「うちゃ、うちゃ」と声をあげる。

ああ、この子は賢い子だ。

絢斗と直くん、そして秋穂が揃った可愛い姿をすかさず写真に収めてくれたのは沙都さん。
それをすぐに送ると伝えながら、自分が直くんに「さーちゃん」と呼ばれることになったと教えてくれた。

そうして、卓くんと寛さんと沙都さんは病室を出ていき、部屋の中には絢斗と私たちだけが残った。

直くんが不安がるかと心配したが絢斗にすっかり慣れているようでホッとする。

「お父さんもこっちに来て」

「ああ」

絢斗は直くんを抱いたままベッドに座り、すぐ隣に秋穂が座った。
私も絢斗と直くんの隣に腰を下ろすと、直くんは両手にぬいぐるみを持ったままキョロキョロと私と秋穂を見つめていた。

「絢斗は直くんになんて呼ばれているの?」

「私はあーちゃんだよ。ね、直くん」

「あーちゃ、あーちゃ」

「ふふっ。可愛い」

名前を呼んでくれた直くんを愛おしそうに抱きしめる息子の姿に父として涙が出そうになる。

「私はなんて呼んでもらおうかしら?」

「絢斗があーちゃんなら、秋穂はあきちゃんでいいんじゃないか?」

「そうね。直くん、私はあきちゃんよ」

「あいちゃ?」

「――っ、可愛い!」

可愛らしく小首を傾げながら尋ねてくる直くんの様子に秋穂だけでなく絢斗も、もちろん私もすっかりメロメロになっていた。
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