虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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頼りになる存在

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「可愛い? 昇。今、可愛いって言った?」

「うん。おかーさんもみて! すっごくかわいいよ、このこ」

驚きの表情で駆け寄ってきた二葉さんは、昇にもう一度確かめてみたが嬉しそうに私のスマホを指さして笑顔を見せる。

「昇が可愛いというなんて……」

「よっぽど直くんが気に入ったのね」

二葉さんの呟きに沙都が返すと、昇はしっかりと言葉を聞いていたようで沙都に尋ねる。

「このこ、なおくんっていうの?」

「ええ。そうなの。卓おじさんの子どもなのよ」

「えっ? すぐるおじちゃんの? わぁー! じゃあ、おれもあえる?」

「ええ。会えるわ。ちょっと体調を崩していて病院に入院しているんだけど、もうすぐ退院できるの」

「にゅういん? じゃあ、おれ、おみまいにいきたい!」

少し前に昇の友達の龍弥くんが盲腸で入院した時にみんなでお見舞いに行ったのを覚えていたんだろう。
あの時は食べ物の差し入れはできず、昇は気に入っている本をいくつか持っていってあげていた。

「にゅういんってひまだっていってたから、おれ、いっしょにあそんであげるよ」

「そうか、昇が遊んでくれるなら直くんも楽しいだろうな」

「ねぇ、いついける?」

昇はすっかりその気になっているが、こればかりは卓に聞いてみないとな。

「卓に確認して、昇が会いに行ける日を連絡するよ」

「うん、わかったー! ああー、なおくんにあえるの、たのしみだなー」

嬉しそうに畳に座ると、持っていた饅頭を一つ取って頬張った。

「おいしい! これ、なおくんもたべられるかなー? たべさせてあげたいなー」

「ははっ。直くんはまだ赤ちゃんだから饅頭は難しいかも知れないな」

「そっかー、なおくんがたべられるものはなにかなー」

それからも昇は何かするごとにこれは直くんも……と言い続けていた。

「こんなに固執するのは初めてだわ」

二葉さんも困惑気味だったが、私はその昇の様子にあることを思い出していた。
それは卓だ。

絢斗くんと初めて会った頃の、あの卓と同じ感じがする。

もしかしたら、昇の運命の相手が直くん?
まさかそんなことあるはず……ないと言い切れないのは、卓と絢斗くんをみているからだろう。

あの二人は心から愛し合っていて、その絆は強固なものだ。
あの二人が出会えたことを心から良かったと思っているだけに、昇と直くんが将来的にそうなったとしても私たちは見守るだけだ。

とりあえず今は、新しい家族となる直くんを昇が受け入れてくれた。そのことだけを良かったと思うことにしよう。

<side卓>

「安慶名くん、成瀬くん。ここしばらく君たちに負担をかけてしまって悪かったね。仕事の方はどうだろう?」

「先生、大丈夫ですよ。私たちの仕事はほぼ終わっていましたし、二人で分け合ったので特に負担にもなりませんでした。なぁ、成瀬」

「ええ。問題もなく進んでいますよ。こちらがその進捗状況です」

頼りになる二人からここ数日の進捗状況を聞き、いくつかの案件はすでに解決しているものもあった。

「さすがだな、この離婚問題は少し長引きそうだと思ったが妻側の有責を明らかにできたのか?」

「ええ、いい情報が入ってきたのでそこをついたらすぐにこちらの要望を受け入れてくれましたよ」

成瀬くんの手腕にはいつも驚かされる。本当に優秀な弁護士だ。

「それで、先生の方はどうですか?」

「ああ、保さんとも話をして、私と絢斗が里親として直くんを預かることになった。直くんは今日一般病棟にも移ることだできてもう少ししたら退院できるそうだ。今日は絢斗と二人で直くんの部屋に泊まることになったよ」

「そうですか、それは良かったですね。安心しました。父親の保さんの方はどうですか?」

「それがな、ちょっとした悩みが浮上した」

「悩み、ですか?」

「ああ、実は……」

うちの両親と、絢斗の両親がお互いに保さんを引き取りたがっているという話をすると、安慶名くんと成瀬くんは二人で顔を見合わせて笑みを浮かべた。

「なるほど、それほど保さんを気に入ったということなんですね」

「ああ、そうなんだよ。父は保さんに櫻葉グループでの就職も勧めていたし、かなり気に入っているみたいだ」

「でも、今までの会社に勤めるのは難しかったでしょうから、新しい就職先の当てがあるだけでも心にゆとりはできるでしょう」

成瀬くんも安慶名くんも保さんの気持ちを理解してくれているようだ。

「君たちにも近いうちに保さんと直くんを紹介するから、その時はよろしく頼むよ」

「はい。私たちも楽しみにしてます」

「さて、久しぶりに私が残りの仕事を請け負うから、君たちは早く帰っていいよ」

「ですが、緑川教授と直くんが待っているのでしょう? 私たちのことは気にせず、早く戻ってあげてください」

「だが……」

「気になさらなくて大丈夫ですよ、二人でやればすぐですから」

ああ、私はいい教え子たちを持ったものだ。
私は二人に礼を言って、急いで自宅に戻り荷物を持って絢斗と直くんが待つ病院に向かった。
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