虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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楽しい家族の時間

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直くんの部屋の扉を開けると、部屋の中が静まり返っている。
ゆっくりと音を立てないように中に入ると、絢斗が直くんを抱き寄せて眠っているのが見える。

普段なら、絢斗のその場所を奪われたような気持ちでいっぱいになるところだが、直くんが相手だと一切嫉妬の気持ちが起こらない。
それくらい直くんを自分の息子だと認識しているのかもしれない。

ああ、なんて幸せな空間なんだろう。

聖母のような穏やかな表情で、天使な直くんと一緒に眠っている姿をどうしても残しておきたくて、スマホを手に取った。
数枚でなんとか抑えて見つめていると、絢斗が目を覚ました。

「悪い、起こしたか?」

「ううん。ちょっとうとうとしていただけだから。直くんがあったかいからつい寝ちゃった」

「そうか。でも二人の寝顔、可愛かったよ」

「卓さんに可愛いって言ってもらえたならよかった。卓さんもこっちにおいでよ」

絢斗に誘われて、私は直くんを傷つけないようにジャケットとベルト、そして時計を外しベッドに横たわった。

「ああ、本当にあったかいな」

「でしょ? 子どもって体温が高いっていうけど、本当なんだね」

絢斗の身近な子どもといえば昇くらいだが、抱っこさせたりはあまりしなかったからな。

「そういえば、榎木先生が来た時、離乳食の話をしてたよ」

「そうか、離乳食……本来ならもうとっくに完了して大人の食事を食べている頃だが」

直くんの様子を見る限り、まだその段階にはないだろう。

「うん。少し柔らかいものから始めて一ヶ月半くらいで大人と同じものが食べられるように進めていった方がいいって」

「そうか、わかった。私が直くんにあったものを作るから、絢斗は食べさせてくれるか?」

「えっ? うん! やる!!」

料理はできなくても絢斗がやれることはいっぱいある。
なんせ、こんなにも直くんが懐いているのだから。

「あと、予防接種はお父さんの病院でやってくれるから大丈夫だって」

「そうか、賢将さんが診てくれるなら安心だな」

こういう時、身内に医療関係者がいるのは助かる。
直くんの状態を知っている人に診てもらえるのが一番だからな。

そんな話をしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
どうやら食事の時間らしい。

「絢斗は直くんを起こしておいてくれ。私は料理を運んでおく」

「わかった」

ベッドを下り、三人分の食事を受け取り一旦テーブルに並べておいた。

直くんはたっぷり睡眠を摂ったからか、ぐずる様子もない。
それどころか絢斗に起こされて嬉しかったようだ。

「直くん、起きたか」

「あ、ちゅぐぅちゃ」

私の名前をしっかり覚えていてくれたようだ。
愛しい子どもに名前を呼んでもらえるのは嬉しいものだな。

「ご飯にしようか。絢斗、準備をするからそのまま抱っこしておいてくれ」

声をかけて、ベッドに広いテーブルを設置する。
三人分の料理を並べようとして考えた。

絢斗は直くんに食事を食べさせるから自分では食べにくいだろう。
それなら私が絢斗に食べさせるとしよう。

というわけで私のスペースに絢斗の料理も並べ、絢斗の前には直くんの料理を並べた。

「さぁ、食べようか」

直くんは目の前の料理だけでなく私たちの料理にも興味津々だ。
早くこういうものをみんなで楽しめるようになりたい。

「直くん、あーん」

子ども用の小さなスプーンで茶碗蒸しを掬い、直くんの口に運ぶ。
きちんと冷ましてあるから火傷の心配もない。
小さな口に茶碗蒸しが入ると、もぐもぐと小さく動く。
それだけで可愛い。

直くんが口をもぐもぐさせている間に絢斗の口に食事を運ぶ。

「ん、美味しいね」

聖ラグエル病院の料理は貴船コンツェルンが素晴らしいシェフを常駐させているから、病院食なのに驚くほど美味しいと患者達からの評判だ。

「おーちぃー」

直くんは絢斗の真似をしているのか、もぐもぐを終えると嬉しそうに言葉を話す。
本当にこの子は賢い子だ。

料理を食べ終えて、食器を下げてもらう。

「あら、直くん。いっぱい食べて偉かったね」

夜の診察に来た榎木先生に褒められて直くんは嬉しそうだ。

「お風呂は自由に使っていただいて構いません。直くんも今日はお風呂の日ですから一緒に入っても大丈夫ですよ。ただし、傷口には気をつけてくださいね。お風呂上がりにはこの軟膏をつけてください」

榎木くんから説明を受け、今日は三人でお風呂に入ることにした。

絢斗の裸を見せるなんてことを考える日が来るとは自分でも思ってなかったが、直くんなら良いと思ってしまう。
それが家族というものなのかもしれない。
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