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私の宝物
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「えっ――!! こ、これ……兄さん?」
合成かと疑ってしまうほど、見たこともない笑顔で映っている兄さんの姿。
ただただ驚きしかない。
「あ、ばあちゃん。またなんかきたー!」
画面の上にポンと現れたのを見た昇が母に声をかけると、二葉と一緒にこちらにやってきた。
そして送られてきたものを見てこの上ない笑顔を見せる。
「二葉、今度はなんだ?」
「動画よ、ほら」
私たちに向けてくれた画面を見ると、先ほどの兄さんが動いているのが見える。
――赤ずきんは――――
ーかーいーねー。ちゅぐぅちゃ、こりぇはー?
ーこれはね、赤ずきんが花を摘んでいるんだよ。
ーはにゃー、きりぇいー。
ーそうだな、綺麗だな。
話の途中で声をかけられて、嬉しそうに答える兄さんの様子に、驚いているはずなのに自然と顔が綻んでしまう。それは兄さんと直くんの様子があまりにも微笑ましいからだろう。
「ちゅぐぅちゃ?」
「直くん、卓のこと、ちゅぐぅちゃって呼んでるのよ。可愛いでしょ」
「なるほど、絢斗さんの言い方を真似しているんですね。可愛い。それにお義兄さん、読み聞かせが上手だわ。あんなに興味を持たせられるなんて……」
「ええ。私も初めて知ったわ。卓のこんな姿が見られるなんて思わなかったわ」
母は感慨深そうに画面を見つめている。
確かにこの子と出会わなければ一生見られなかった兄さんの姿だったかもしれない。
「早く……会いに行きたいですね……」
自然とその言葉が漏れていた。
<side卓>
「さぁ、そろそろ消灯時間だ。寝るとしようか」
結局予備のベッドは頼まず、三人で同じベッドで寝ることにした。
直くんを間に入れて、電気を消そうとして
――暗闇は怖がるようです。
榎木先生の言葉を思い出した。
顔が判別できる程度の明るさに落として横たわると直くんは不思議そうにキョロキョロと私と絢斗の顔を見つめていた。
「直くん、どうした?」
「いっちょ、うれちぃー」
「そうか、私たちも直くんと一緒で嬉しいよ」
私が直くんの頭を撫で、絢斗が直くんの胸を優しく叩いてやると、直くんはあっという間に深い眠りに落ちていった。
「もう眠ったな」
「うん。怖がらないでよかった」
「そうだな。一緒に寝るのが嬉しいと言っていたな」
「たぶん、ずっと一人で寝かされてたのかも」
ベビーベッドで一人で寝かせるのが悪いとは思わないし、そういう文化もあるだろう。
だが、直くんの場合は違う。
暗闇でベビーベッドの上に放置していたのだろう。
保さんが帰ってきた時には疲れて眠っていたのかもしれない。
「明日はうちの両親が泊まりにきてくれるって連絡あったから、きっとこうして一緒に寝てくれるね」
「ああ。それなら寂しがらないだろう」
そうなると明後日はうちの両親か。それもまた安心できるな。
磯山家と緑川家と両方に慣れてくれたら、私も絢斗と二人の時間が持てる。
直くんは可愛い存在だが、絢斗との時間も私にはかけがえのない時間だ。
絢斗に目を向けると直くんにピッタリと寄り添って幸せそうに眠っているのが見える。
寝顔が二人ともよく似ているな。
この愛しい二人の宝物を守るように抱きしめながら、私も眠りについた。
朝になり、身支度を整えたところで朝の診察のために榎木先生がやってきた。
「あら、直くん。今日は朝からご機嫌ね。一緒にねんねできたから楽しかったかな?」
「ねんね、たのちぃー」
夜中は一度も起きなかった。
ぐっすりと眠っていたおかげで朝もぐずることもなかった。
「信頼のおける大人と一緒に眠れるのは直くんの成長にもいいようですね。体調も良さそうですから、朝食を運ばせますね」
すぐに料理が運ばれてきて、昨夜のように絢斗が直くんに食べさせながら、私が絢斗に食べさせた。
その様子を直くんは楽しそうに見つめていた。
あっという間に食事を終えて、片付けをしていると、
「絢斗、来たわ」
入り口から秋穂さんの声が聞こえた。
「お母さん! お父さんは?」
「ここまで送ってくれて病院に戻ったの。一度顔を見ちゃうと直くんを寂しがらせることになるからって顔を見せずに戻ったわ」
さすが医師だけあって、直くんの気持ちがよくわかるようだ。
「今日は午前で診察も終わりだから、お昼には来てくれるわ。卓さんも絢斗もそろそろ出かける時間でしょう? 直くんは私が見ているから行ってらっしゃい」
看護師の秋穂さんだから安心して直くんを預けられる。
「直くん、覚えてるかな?」
「あいちゃ」
「ふふ。えらいわー」
さっと抱き上げる姿も手慣れている。
それは看護師だからではなく、絢斗を育ててきた経験だろう。
「あーちゃんと、卓さんは今からお仕事に行くから、あきちゃんと行ってらっしゃいしようか?」
「おちごと? あーちゃ、ちゅぐぅちゃ、おちごと?」
少し寂しげな声で言われると、仕事に行きたくなくなってくるが行かないわけにはいかない。
「ああ、直くん。頑張ってくるよ」
できるだけ笑顔で声をかけると、直くんは小さく頷いた。
「あーちゃ、ちゅぐぅちゃ、いってらっちゃい」
「くっ――!!」
ああ、可愛すぎて離れたくない!!
それでも必死に気持ちを奮い起こして、絢斗と二人で部屋を出た。
合成かと疑ってしまうほど、見たこともない笑顔で映っている兄さんの姿。
ただただ驚きしかない。
「あ、ばあちゃん。またなんかきたー!」
画面の上にポンと現れたのを見た昇が母に声をかけると、二葉と一緒にこちらにやってきた。
そして送られてきたものを見てこの上ない笑顔を見せる。
「二葉、今度はなんだ?」
「動画よ、ほら」
私たちに向けてくれた画面を見ると、先ほどの兄さんが動いているのが見える。
――赤ずきんは――――
ーかーいーねー。ちゅぐぅちゃ、こりぇはー?
ーこれはね、赤ずきんが花を摘んでいるんだよ。
ーはにゃー、きりぇいー。
ーそうだな、綺麗だな。
話の途中で声をかけられて、嬉しそうに答える兄さんの様子に、驚いているはずなのに自然と顔が綻んでしまう。それは兄さんと直くんの様子があまりにも微笑ましいからだろう。
「ちゅぐぅちゃ?」
「直くん、卓のこと、ちゅぐぅちゃって呼んでるのよ。可愛いでしょ」
「なるほど、絢斗さんの言い方を真似しているんですね。可愛い。それにお義兄さん、読み聞かせが上手だわ。あんなに興味を持たせられるなんて……」
「ええ。私も初めて知ったわ。卓のこんな姿が見られるなんて思わなかったわ」
母は感慨深そうに画面を見つめている。
確かにこの子と出会わなければ一生見られなかった兄さんの姿だったかもしれない。
「早く……会いに行きたいですね……」
自然とその言葉が漏れていた。
<side卓>
「さぁ、そろそろ消灯時間だ。寝るとしようか」
結局予備のベッドは頼まず、三人で同じベッドで寝ることにした。
直くんを間に入れて、電気を消そうとして
――暗闇は怖がるようです。
榎木先生の言葉を思い出した。
顔が判別できる程度の明るさに落として横たわると直くんは不思議そうにキョロキョロと私と絢斗の顔を見つめていた。
「直くん、どうした?」
「いっちょ、うれちぃー」
「そうか、私たちも直くんと一緒で嬉しいよ」
私が直くんの頭を撫で、絢斗が直くんの胸を優しく叩いてやると、直くんはあっという間に深い眠りに落ちていった。
「もう眠ったな」
「うん。怖がらないでよかった」
「そうだな。一緒に寝るのが嬉しいと言っていたな」
「たぶん、ずっと一人で寝かされてたのかも」
ベビーベッドで一人で寝かせるのが悪いとは思わないし、そういう文化もあるだろう。
だが、直くんの場合は違う。
暗闇でベビーベッドの上に放置していたのだろう。
保さんが帰ってきた時には疲れて眠っていたのかもしれない。
「明日はうちの両親が泊まりにきてくれるって連絡あったから、きっとこうして一緒に寝てくれるね」
「ああ。それなら寂しがらないだろう」
そうなると明後日はうちの両親か。それもまた安心できるな。
磯山家と緑川家と両方に慣れてくれたら、私も絢斗と二人の時間が持てる。
直くんは可愛い存在だが、絢斗との時間も私にはかけがえのない時間だ。
絢斗に目を向けると直くんにピッタリと寄り添って幸せそうに眠っているのが見える。
寝顔が二人ともよく似ているな。
この愛しい二人の宝物を守るように抱きしめながら、私も眠りについた。
朝になり、身支度を整えたところで朝の診察のために榎木先生がやってきた。
「あら、直くん。今日は朝からご機嫌ね。一緒にねんねできたから楽しかったかな?」
「ねんね、たのちぃー」
夜中は一度も起きなかった。
ぐっすりと眠っていたおかげで朝もぐずることもなかった。
「信頼のおける大人と一緒に眠れるのは直くんの成長にもいいようですね。体調も良さそうですから、朝食を運ばせますね」
すぐに料理が運ばれてきて、昨夜のように絢斗が直くんに食べさせながら、私が絢斗に食べさせた。
その様子を直くんは楽しそうに見つめていた。
あっという間に食事を終えて、片付けをしていると、
「絢斗、来たわ」
入り口から秋穂さんの声が聞こえた。
「お母さん! お父さんは?」
「ここまで送ってくれて病院に戻ったの。一度顔を見ちゃうと直くんを寂しがらせることになるからって顔を見せずに戻ったわ」
さすが医師だけあって、直くんの気持ちがよくわかるようだ。
「今日は午前で診察も終わりだから、お昼には来てくれるわ。卓さんも絢斗もそろそろ出かける時間でしょう? 直くんは私が見ているから行ってらっしゃい」
看護師の秋穂さんだから安心して直くんを預けられる。
「直くん、覚えてるかな?」
「あいちゃ」
「ふふ。えらいわー」
さっと抱き上げる姿も手慣れている。
それは看護師だからではなく、絢斗を育ててきた経験だろう。
「あーちゃんと、卓さんは今からお仕事に行くから、あきちゃんと行ってらっしゃいしようか?」
「おちごと? あーちゃ、ちゅぐぅちゃ、おちごと?」
少し寂しげな声で言われると、仕事に行きたくなくなってくるが行かないわけにはいかない。
「ああ、直くん。頑張ってくるよ」
できるだけ笑顔で声をかけると、直くんは小さく頷いた。
「あーちゃ、ちゅぐぅちゃ、いってらっちゃい」
「くっ――!!」
ああ、可愛すぎて離れたくない!!
それでも必死に気持ちを奮い起こして、絢斗と二人で部屋を出た。
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