30 / 117
とりあえずお試しで
しおりを挟む
今日のサブタイトル何にしようかと考えて、他のお話の懐かしいサブタイトルをつけてみました(笑)
気づく人いるかなー?今日も楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
「少し保さんのところに顔を出してから行こうか」
「うん。私もそう言おうと思ってた」
絢斗は嬉しそうに私の手を取り、エレベーターに乗り込むと保さんの部屋の階を押した。
「直くん、お母さんにも慣れてて安心したよ」
「ああ、絢斗とよく似ているから安心したんだろうな」
「そっか。それならよかった」
それくらい、絢斗が直くんに信頼されているということだ。
保さんの部屋をノックすると、出てきたのは林先生だった。
「おはようございます。磯山先生、緑川教授」
「診察の途中でしたか?」
「いえ。ちょうど終わったところですので、ご安心を」
林先生は私たちに笑顔を向けるとそのまま部屋を出ていった。
「保さん、おはよう」
「あ、おはようございます」
今日も体調は良さそうだ。日に日に顔色が良くなっているのがわかる。
「あの、林先生に週明けには退院できると言われました」
「そうか、それはよかった。それじゃあ住まいを考えないといけないな」
「はい。でも……まだちょっと悩んでいて……」
うちの両親と絢斗の両親とどちらからも住んでほしいと言われては、悩んでも無理はない。
「ねぇ、それならどちらとも一緒に住んだらいいんじゃない?」
「えっ? 絢斗、それはどういうことだ?」
「だからひと月ごととか、二週間ごととか、まずはお試しで住んでみるのはどうかな? お互いに慣れるまで時間がかかるかもしれないし、住んでみたら合わないこともあるかもしれないし、今すぐに、どっちって選ばなくてもいいんじゃない?」
目から鱗が落ちるとはまさにこのことを言うのだろう。
どちらかに決めなければいけないと思い込んでいた私たちの考えを柔軟にしてくれる。
「で、でもお試しなんてそんな――」
「いや、それはいいアイディアだよ。今まで別々に暮らしていた者同士が一つ屋根の下で暮らすんだから、一緒の時間を過ごしてみないとわからないことも出てくるだろう。お試しで同居するのはいいことだと思うよ」
保さんは自分が試すと言うのが気になるのだろうが、そこは気にしないでいい。
うちの両親も絢斗の両親も一度一緒に暮らしたら、たとえその後選ばれなかったとしても世話ができた楽しみは残るのだから良かったと思ってくれるだろう。
「あの、でもそれでどちらも居心地が良かったら……」
どちらも悪いのではなく、良かったら……の話か。
保さんはつくづくいい人だな。
「その時は期間を決めて交互に暮らすのも楽しいんじゃないか。環境が変わるとそれはそれで楽しめるだろう。うちの両親はお世話できる相手がいるだけで嬉しいんだから」
「うちもそうだよ。私が卓さんと一緒に暮らすようになって、夫婦二人っきりになってからが長いから、時々でもお世話できる人が来てくれたら喜ぶと思う」
「うちの両親も絢斗の両親も保さんが気楽に暮らせればどちらでもいいんだよ。だから一度試してみよう。それでいいかな?」
私の言葉に保さんは素直に頷いた。
表情を見るとホッとしているように見えたからこれで良かったのだろう。
「どちらから試すか、それと期間についてはこちらで決めておくよ。保さんは安心して退院の日を迎えたらいい。必要なものはどちらの家にももう揃っていると思うから心配しないでいいよ」
「もう、揃ってる?」
「ああ。保さんに会って、何も準備を整えない両親じゃないんだ。それくらい、保さんを気に入っているんだよ」
保さんは驚いているようだったが、絶対にもうどちらの家にも保さん用の部屋が用意されていることだろう。
いや、それだけでなく、直くん用の部屋も絶対に作られているはずだ。
直くんがぬいぐるみを喜んでいたから、きっと部屋は可愛いぬいぐるみで溢れているだろうな……。
きっと我が家にもその部屋はできるだろう。
どこに行っても愛される、その未来しか見えない。
また来るから。
そう声をかけて絢斗と病室を出た。
「絢斗、さすがだったな。お試しなんて私は考えもつかなかった」
「でしょう? もっと褒めてくれていいよ」
得意げな顔をする絢斗が可愛くてたまらない。
「今夜二人の時にたっぷりと褒めてあげるよ」
「卓さんったら!」
一気に顔を赤らめる絢斗をそっと抱き寄せ、周りに絢斗の可愛い顔が見えないように駐車場に向かった。
「来週から、できるだけリモートで講義ができるように申請しておくね」
「ああ、絢斗が大学に行かなくてはいけない場合は、私が事務所で直くんを見ておくから、無理しない範囲でリモートにしてくれたらいい」
「うん、大丈夫」
小さな子どもとの生活が始まると言うことは私たちの生活も変わると言うことだからな。
協力してやっていかないと。絢斗だけに負担はかけないようにしないとな。
気づく人いるかなー?今日も楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
「少し保さんのところに顔を出してから行こうか」
「うん。私もそう言おうと思ってた」
絢斗は嬉しそうに私の手を取り、エレベーターに乗り込むと保さんの部屋の階を押した。
「直くん、お母さんにも慣れてて安心したよ」
「ああ、絢斗とよく似ているから安心したんだろうな」
「そっか。それならよかった」
それくらい、絢斗が直くんに信頼されているということだ。
保さんの部屋をノックすると、出てきたのは林先生だった。
「おはようございます。磯山先生、緑川教授」
「診察の途中でしたか?」
「いえ。ちょうど終わったところですので、ご安心を」
林先生は私たちに笑顔を向けるとそのまま部屋を出ていった。
「保さん、おはよう」
「あ、おはようございます」
今日も体調は良さそうだ。日に日に顔色が良くなっているのがわかる。
「あの、林先生に週明けには退院できると言われました」
「そうか、それはよかった。それじゃあ住まいを考えないといけないな」
「はい。でも……まだちょっと悩んでいて……」
うちの両親と絢斗の両親とどちらからも住んでほしいと言われては、悩んでも無理はない。
「ねぇ、それならどちらとも一緒に住んだらいいんじゃない?」
「えっ? 絢斗、それはどういうことだ?」
「だからひと月ごととか、二週間ごととか、まずはお試しで住んでみるのはどうかな? お互いに慣れるまで時間がかかるかもしれないし、住んでみたら合わないこともあるかもしれないし、今すぐに、どっちって選ばなくてもいいんじゃない?」
目から鱗が落ちるとはまさにこのことを言うのだろう。
どちらかに決めなければいけないと思い込んでいた私たちの考えを柔軟にしてくれる。
「で、でもお試しなんてそんな――」
「いや、それはいいアイディアだよ。今まで別々に暮らしていた者同士が一つ屋根の下で暮らすんだから、一緒の時間を過ごしてみないとわからないことも出てくるだろう。お試しで同居するのはいいことだと思うよ」
保さんは自分が試すと言うのが気になるのだろうが、そこは気にしないでいい。
うちの両親も絢斗の両親も一度一緒に暮らしたら、たとえその後選ばれなかったとしても世話ができた楽しみは残るのだから良かったと思ってくれるだろう。
「あの、でもそれでどちらも居心地が良かったら……」
どちらも悪いのではなく、良かったら……の話か。
保さんはつくづくいい人だな。
「その時は期間を決めて交互に暮らすのも楽しいんじゃないか。環境が変わるとそれはそれで楽しめるだろう。うちの両親はお世話できる相手がいるだけで嬉しいんだから」
「うちもそうだよ。私が卓さんと一緒に暮らすようになって、夫婦二人っきりになってからが長いから、時々でもお世話できる人が来てくれたら喜ぶと思う」
「うちの両親も絢斗の両親も保さんが気楽に暮らせればどちらでもいいんだよ。だから一度試してみよう。それでいいかな?」
私の言葉に保さんは素直に頷いた。
表情を見るとホッとしているように見えたからこれで良かったのだろう。
「どちらから試すか、それと期間についてはこちらで決めておくよ。保さんは安心して退院の日を迎えたらいい。必要なものはどちらの家にももう揃っていると思うから心配しないでいいよ」
「もう、揃ってる?」
「ああ。保さんに会って、何も準備を整えない両親じゃないんだ。それくらい、保さんを気に入っているんだよ」
保さんは驚いているようだったが、絶対にもうどちらの家にも保さん用の部屋が用意されていることだろう。
いや、それだけでなく、直くん用の部屋も絶対に作られているはずだ。
直くんがぬいぐるみを喜んでいたから、きっと部屋は可愛いぬいぐるみで溢れているだろうな……。
きっと我が家にもその部屋はできるだろう。
どこに行っても愛される、その未来しか見えない。
また来るから。
そう声をかけて絢斗と病室を出た。
「絢斗、さすがだったな。お試しなんて私は考えもつかなかった」
「でしょう? もっと褒めてくれていいよ」
得意げな顔をする絢斗が可愛くてたまらない。
「今夜二人の時にたっぷりと褒めてあげるよ」
「卓さんったら!」
一気に顔を赤らめる絢斗をそっと抱き寄せ、周りに絢斗の可愛い顔が見えないように駐車場に向かった。
「来週から、できるだけリモートで講義ができるように申請しておくね」
「ああ、絢斗が大学に行かなくてはいけない場合は、私が事務所で直くんを見ておくから、無理しない範囲でリモートにしてくれたらいい」
「うん、大丈夫」
小さな子どもとの生活が始まると言うことは私たちの生活も変わると言うことだからな。
協力してやっていかないと。絢斗だけに負担はかけないようにしないとな。
1,071
あなたにおすすめの小説
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
戦場からお持ち帰りなんですか?
satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。
1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。
私の結婚生活はうまくいくのかな?
うちに待望の子供が産まれた…けど
satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。
デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。
義妹が私に毒を持ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました
睡蓮
恋愛
義姉であるナナと義妹であるカタリナは、ナナの婚約者であるドリスを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるカタリナが一方的にナナの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ナナの事が気に入らないカタリナは、ナナに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる