虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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とりあえずお試しで

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今日のサブタイトル何にしようかと考えて、他のお話の懐かしいサブタイトルをつけてみました(笑)
気づく人いるかなー?今日も楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *


「少し保さんのところに顔を出してから行こうか」

「うん。私もそう言おうと思ってた」

絢斗は嬉しそうに私の手を取り、エレベーターに乗り込むと保さんの部屋の階を押した。

「直くん、お母さんにも慣れてて安心したよ」

「ああ、絢斗とよく似ているから安心したんだろうな」

「そっか。それならよかった」

それくらい、絢斗が直くんに信頼されているということだ。

保さんの部屋をノックすると、出てきたのは林先生だった。

「おはようございます。磯山先生、緑川教授」

「診察の途中でしたか?」

「いえ。ちょうど終わったところですので、ご安心を」

林先生は私たちに笑顔を向けるとそのまま部屋を出ていった。

「保さん、おはよう」

「あ、おはようございます」

今日も体調は良さそうだ。日に日に顔色が良くなっているのがわかる。

「あの、林先生に週明けには退院できると言われました」

「そうか、それはよかった。それじゃあ住まいを考えないといけないな」

「はい。でも……まだちょっと悩んでいて……」

うちの両親と絢斗の両親とどちらからも住んでほしいと言われては、悩んでも無理はない。

「ねぇ、それならどちらとも一緒に住んだらいいんじゃない?」

「えっ? 絢斗、それはどういうことだ?」

「だからひと月ごととか、二週間ごととか、まずはお試しで住んでみるのはどうかな? お互いに慣れるまで時間がかかるかもしれないし、住んでみたら合わないこともあるかもしれないし、今すぐに、どっちって選ばなくてもいいんじゃない?」

目から鱗が落ちるとはまさにこのことを言うのだろう。
どちらかに決めなければいけないと思い込んでいた私たちの考えを柔軟にしてくれる。

「で、でもお試しなんてそんな――」
「いや、それはいいアイディアだよ。今まで別々に暮らしていた者同士が一つ屋根の下で暮らすんだから、一緒の時間を過ごしてみないとわからないことも出てくるだろう。お試しで同居するのはいいことだと思うよ」

保さんは自分が試すと言うのが気になるのだろうが、そこは気にしないでいい。
うちの両親も絢斗の両親も一度一緒に暮らしたら、たとえその後選ばれなかったとしても世話ができた楽しみは残るのだから良かったと思ってくれるだろう。

「あの、でもそれでどちらも居心地が良かったら……」

どちらも悪いのではなく、良かったら……の話か。
保さんはつくづくいい人だな。

「その時は期間を決めて交互に暮らすのも楽しいんじゃないか。環境が変わるとそれはそれで楽しめるだろう。うちの両親はお世話できる相手がいるだけで嬉しいんだから」

「うちもそうだよ。私が卓さんと一緒に暮らすようになって、夫婦二人っきりになってからが長いから、時々でもお世話できる人が来てくれたら喜ぶと思う」

「うちの両親も絢斗の両親も保さんが気楽に暮らせればどちらでもいいんだよ。だから一度試してみよう。それでいいかな?」

私の言葉に保さんは素直に頷いた。
表情を見るとホッとしているように見えたからこれで良かったのだろう。

「どちらから試すか、それと期間についてはこちらで決めておくよ。保さんは安心して退院の日を迎えたらいい。必要なものはどちらの家にももう揃っていると思うから心配しないでいいよ」

「もう、揃ってる?」

「ああ。保さんに会って、何も準備を整えない両親じゃないんだ。それくらい、保さんを気に入っているんだよ」

保さんは驚いているようだったが、絶対にもうどちらの家にも保さん用の部屋が用意されていることだろう。
いや、それだけでなく、直くん用の部屋も絶対に作られているはずだ。

直くんがぬいぐるみを喜んでいたから、きっと部屋は可愛いぬいぐるみで溢れているだろうな……。

きっと我が家にもその部屋はできるだろう。
どこに行っても愛される、その未来しか見えない。

また来るから。
そう声をかけて絢斗と病室を出た。

「絢斗、さすがだったな。お試しなんて私は考えもつかなかった」

「でしょう? もっと褒めてくれていいよ」

得意げな顔をする絢斗が可愛くてたまらない。

「今夜二人の時にたっぷりと褒めてあげるよ」

「卓さんったら!」

一気に顔を赤らめる絢斗をそっと抱き寄せ、周りに絢斗の可愛い顔が見えないように駐車場に向かった。

「来週から、できるだけリモートで講義ができるように申請しておくね」

「ああ、絢斗が大学に行かなくてはいけない場合は、私が事務所で直くんを見ておくから、無理しない範囲でリモートにしてくれたらいい」

「うん、大丈夫」

小さな子どもとの生活が始まると言うことは私たちの生活も変わると言うことだからな。
協力してやっていかないと。絢斗だけに負担はかけないようにしないとな。
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