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心を掴まれる
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<side毅>
私の目の前で嬉しそうに幼子を抱っこしている。
これは、本当に、あの兄さんの姿なのか?
もちろん先日、写真と動画で見ていたから兄さんが溺愛しているというのは知っていたが、まだ小学生の昇に嫉妬して張り合うような姿を見せるなんて思ってもなかった。
「毅、どうした?」
「いや……兄さんの様子に驚いただけです」
「まぁお前が驚くのも無理はない。私も沙都も大いに驚いたからな」
「それでも昇に対してあんな態度を見せるなんて……」
小さな子が赤ちゃんを抱っこするなんて、誰が見ても微笑ましい光景としか思えない。
「お前にはわからんだろうな」
「どういうことですか?」
「昇が無意識に直くんを運命の相手だと感じ取ったことに卓は気づいたんだろう」
「えっ……」
昇が、あの子を運命の相手、だと感じ取った?
「あの、それって……」
「お前にも覚えがあるだろう? 二葉さんと出会った時にどんな感情を抱いたか……」
「それは……でも、私はあの時もうすでに大人だったし、昇はまだ小学一年生ですよ」
二葉と出会ってすぐに一生愛する人だから絶対に手放してはいけないと感じたのは事実だ。
だが、それはきちんと判断ができる大人だったから。
まだ六歳の昇にそんな判断ができるなんて思えない。
「何を言っているんだ。人を好きになるのに大人も子どももない。元春のところだって昇の年齢の時にはもう運命の相手だと認識していただろう」
「――っ、それは確かに……」
今はまだ中学生のカップルだが、将臣くんはこの上なく秀吾くんを溺愛しているし、秀吾くんも将臣くんが大好きだというオーラを出しまくっている。
決して離れさせてはいけない二人だと周りの大人が認めているし、優しく見守っている。
「昇も運命と出会ったんだ。その気持ちを大切にしてやらないといけない。だが、卓にとっては少し辛いだろうな」
「兄さんが、辛い? どうしてですか?」
「溺愛している息子が運命の相手に取られそうになっているんだぞ。いくらそれが甥であっても父としての気持ちは複雑だ。お前だってそれがわかるから、二葉さんの両親、特に父上の前でいちゃついたりはしないだろう?」
それはもちろんだ。
二葉を愛していてもお義父さんにあからさまにいちゃついているところを見せたりはしない。
「だが、昇はまだ子どもだ。しかも本人もまだ直くんへの想いに気づいているわけじゃない。あくまでも兄として優しく接するだろうが、さっきみたいに抱っこしたり、あやしたりすることはこれから増えるだろう。卓にとってみたくない光景も出てくるはずだ。本当はもっと寛大になるべきだが、卓も直くんの父になってまだ少ししか経っていない。あいつもまだ成長途中なんだ。本来なら生まれた時からじっくりと時間をかけて父になるのだからな。感情が追いついていないんだよ」
そうか。
私たちが兄さんの溺愛する姿を見慣れないように、兄さんもまた自分の感情がコントロールできていないということか。
「昇の動きを全て制限させることはできないから、そこは大人の私たちや卓が慣れていかなくてはな」
「そう、ですね……」
まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかったが、ふと二葉を見ると何もかも理解したような目で昇や直くん、そして兄さんを見ていることに気づいた。
そういえば、二葉は父の代わりに兄さんが出迎えにきた時から何か気づいているような感じだった。
もしかしたらあの動画を見た時の昇の反応から、全てを理解していたのかもしれない。
やっぱり母親だな。いや、きっと私と出会った頃のことを思い出して、昇の気持ちに照らし合わせていたのかもしれない。
「さぁ、おやつにしましょう。昇、何をお土産に買ってきてくれたのかしら?」
病室の空気を変えるように母が楽しげな声で昇に問いかけた。
「あのねー、すいーとぽてとだよ。このまえおとーさんが、かってきてくれてすっごくおいしかったの!」
「あらあら、それは美味しそうだわ。ねぇ、直くん」
「なーにー?」
兄さんの腕に抱かれたままの直くんに母が声をかけると、可愛らしく小首を傾げる。
その姿に私もつい笑ってしまう。
「ふふっ。美味しいお芋よ」
「おいも?」
「そう! すっごくあまくておいしーんだよ!」
「おぃちー!!」
昇が教えてあげると、直くんは目を輝かせて可愛い声をあげる。
「卓、ここに座らせて。おやつを食べさせてあげましょう」
「あ、ああ」
母に言われた通りに、兄さんが母と昇の間に直くんを座らせると、昇が箱からすいーとぽてとを一つ取り出した。
このまま手で持って食べられるようになっている。
「ほら、直くん。あーん」
昇の声かけに直くんは素直に口を開けた。
その小さいこと。
本当に可愛い。
カプっと小さく齧ると、もぐもぐとリスのように口を動かしてみるみるうちに笑顔になっていく。
「どう?」
「おぃちー!!」
その笑顔に、昇だけでなく部屋にいた全ての大人が心を掴まれた。
私の目の前で嬉しそうに幼子を抱っこしている。
これは、本当に、あの兄さんの姿なのか?
もちろん先日、写真と動画で見ていたから兄さんが溺愛しているというのは知っていたが、まだ小学生の昇に嫉妬して張り合うような姿を見せるなんて思ってもなかった。
「毅、どうした?」
「いや……兄さんの様子に驚いただけです」
「まぁお前が驚くのも無理はない。私も沙都も大いに驚いたからな」
「それでも昇に対してあんな態度を見せるなんて……」
小さな子が赤ちゃんを抱っこするなんて、誰が見ても微笑ましい光景としか思えない。
「お前にはわからんだろうな」
「どういうことですか?」
「昇が無意識に直くんを運命の相手だと感じ取ったことに卓は気づいたんだろう」
「えっ……」
昇が、あの子を運命の相手、だと感じ取った?
「あの、それって……」
「お前にも覚えがあるだろう? 二葉さんと出会った時にどんな感情を抱いたか……」
「それは……でも、私はあの時もうすでに大人だったし、昇はまだ小学一年生ですよ」
二葉と出会ってすぐに一生愛する人だから絶対に手放してはいけないと感じたのは事実だ。
だが、それはきちんと判断ができる大人だったから。
まだ六歳の昇にそんな判断ができるなんて思えない。
「何を言っているんだ。人を好きになるのに大人も子どももない。元春のところだって昇の年齢の時にはもう運命の相手だと認識していただろう」
「――っ、それは確かに……」
今はまだ中学生のカップルだが、将臣くんはこの上なく秀吾くんを溺愛しているし、秀吾くんも将臣くんが大好きだというオーラを出しまくっている。
決して離れさせてはいけない二人だと周りの大人が認めているし、優しく見守っている。
「昇も運命と出会ったんだ。その気持ちを大切にしてやらないといけない。だが、卓にとっては少し辛いだろうな」
「兄さんが、辛い? どうしてですか?」
「溺愛している息子が運命の相手に取られそうになっているんだぞ。いくらそれが甥であっても父としての気持ちは複雑だ。お前だってそれがわかるから、二葉さんの両親、特に父上の前でいちゃついたりはしないだろう?」
それはもちろんだ。
二葉を愛していてもお義父さんにあからさまにいちゃついているところを見せたりはしない。
「だが、昇はまだ子どもだ。しかも本人もまだ直くんへの想いに気づいているわけじゃない。あくまでも兄として優しく接するだろうが、さっきみたいに抱っこしたり、あやしたりすることはこれから増えるだろう。卓にとってみたくない光景も出てくるはずだ。本当はもっと寛大になるべきだが、卓も直くんの父になってまだ少ししか経っていない。あいつもまだ成長途中なんだ。本来なら生まれた時からじっくりと時間をかけて父になるのだからな。感情が追いついていないんだよ」
そうか。
私たちが兄さんの溺愛する姿を見慣れないように、兄さんもまた自分の感情がコントロールできていないということか。
「昇の動きを全て制限させることはできないから、そこは大人の私たちや卓が慣れていかなくてはな」
「そう、ですね……」
まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかったが、ふと二葉を見ると何もかも理解したような目で昇や直くん、そして兄さんを見ていることに気づいた。
そういえば、二葉は父の代わりに兄さんが出迎えにきた時から何か気づいているような感じだった。
もしかしたらあの動画を見た時の昇の反応から、全てを理解していたのかもしれない。
やっぱり母親だな。いや、きっと私と出会った頃のことを思い出して、昇の気持ちに照らし合わせていたのかもしれない。
「さぁ、おやつにしましょう。昇、何をお土産に買ってきてくれたのかしら?」
病室の空気を変えるように母が楽しげな声で昇に問いかけた。
「あのねー、すいーとぽてとだよ。このまえおとーさんが、かってきてくれてすっごくおいしかったの!」
「あらあら、それは美味しそうだわ。ねぇ、直くん」
「なーにー?」
兄さんの腕に抱かれたままの直くんに母が声をかけると、可愛らしく小首を傾げる。
その姿に私もつい笑ってしまう。
「ふふっ。美味しいお芋よ」
「おいも?」
「そう! すっごくあまくておいしーんだよ!」
「おぃちー!!」
昇が教えてあげると、直くんは目を輝かせて可愛い声をあげる。
「卓、ここに座らせて。おやつを食べさせてあげましょう」
「あ、ああ」
母に言われた通りに、兄さんが母と昇の間に直くんを座らせると、昇が箱からすいーとぽてとを一つ取り出した。
このまま手で持って食べられるようになっている。
「ほら、直くん。あーん」
昇の声かけに直くんは素直に口を開けた。
その小さいこと。
本当に可愛い。
カプっと小さく齧ると、もぐもぐとリスのように口を動かしてみるみるうちに笑顔になっていく。
「どう?」
「おぃちー!!」
その笑顔に、昇だけでなく部屋にいた全ての大人が心を掴まれた。
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