虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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ここ最近で一番びっくりしたこと

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「そう。倉橋くんが保護者になってもいいんだけど、ほら、東京と沖縄を行き来しているでしょう? 何かあった時のために常時近くにいる人が保護者のほうがいいんじゃないかって。倉橋くんの両親は今、夫婦でアメリカの大学に呼ばれているしね」

「そういえばそうだったね。じゃあ、保護者になるのを引き受けたらその子を皐月と宗一郎さんの家で預かるってことになるの?」

「そうなるかな。桜守には寮もあるけど、月に一度は必ずそのお兄ちゃん……悠真くんって言うんだけど、その悠真くんも仕事で上京するから、その期間は一緒に過ごさせてやりたいからね」

桜守の寮は個室だから家族の宿泊もOKだけど、確かに頻繁だとやっぱり遠慮しちゃうかもしれないな。
それに沖縄から来たばかりで寮で生活するのも慣れるまでに時間がかかるかもね。
皐月たちがそばにいてあげたら精神的にも楽かもしれない。

「宗一郎さんと皐月なら、倉橋くんも安心だろうけど、本人はなんだって?」

「それがね、桜守はずっと憧れていたみたいで本人……真琴くんって言うんだけど、真琴くんは大学からでも桜守に通いたいと思っていたんだって。でも学費のことを考えて桜城大学にしようとしていたみたい。桜城なら特待生になれなくても国立だから学費は桜守より安いしね。悠真くんはそのことを知っていたから、倉橋くんから桜守に行かせたいって話が出てすぐに賛成して、真琴くんを説得したみたい」

「そうなんだ。じゃあ高校進学のタイミングでこっちに出てくるんだ?」

「うん。その前に試験があるけどね。倉橋くんの話じゃ余裕だろうって」

あの倉橋くんがそこまで自信満々に言うくらいだから、よっぽどの秀才なんだろうな。

「今度一度見学がてらうちに遊びにくるんだよ」

「えー、そうなんだ! じゃあ、その時はうちにも遊びに来てよ!」

「もちろん! その時には直くんも絢斗の家で暮らしているだろうし、一緒に遊びに行くよ。天使ちゃんと関わったら気持ちも和みそうじゃない?」

直くんと、その真琴くんが仲良くなったらかなり楽しくなりそうだ。

「ねぇ、その子の写真とかないの?」

「あっ、あるある!! みる?」

「見たいー!!」

皐月は嬉しそうにスマホを操作して見せてくれた。

「ほら、この子だよ。こっちはお兄ちゃんの悠真くん。後ろにいるのはおばあちゃんとお母さんだって」

「えっ? おばあちゃんとお母さん? 本当に?」

お母さんとお姉さんかと思った。
いやいや、お母さんの方も相当すごいけど、絶対この人がおばあちゃんとかありえない。

「ね、びっくりでしょう? 私も絢斗と同じように聞き返した。でも本当におばあちゃんなんだって」

「へぇ……ここ最近で一番びっくりしたかも。いや、でもこの兄弟もかなり遺伝子受け継いでるよね。めちゃくちゃ可愛いし、美人」

「だよね! でも私のここ最近の一番びっくりしたのは磯山先生のメロメロっぷりだけどね」

私の想像以上にあの動画は皐月を驚かせてしまっていたみたいだ。

「ねぇ、この写真ちょうだい。卓さんにも見せたい」

「うん、絢斗ならいいか」

皐月はささっとスマホを操作して私に写真を送ってくれた。

「この子が皐月の家にいるようになるのかー。楽しみだね」

「うん。宗一郎さんも張り切ってるよ。伊織以来の可愛い息子みたいな存在だからね」

確かに年齢は伊織くんの時とあまり大差はないけれど、この子なら志良堂教授が絵本の読み聞かせをしていてもおかしくないと思ってしまう。やっぱり伊織くんは逞しかったからかな。

<side賢将>

「お帰りなさい。賢将さん」

いつものように仕事から帰ってきた私をキスで出迎えてくれる秋穂だが、今日は一段と機嫌がいい。

「ただいま。もう出かける準備が万端なようだな」

「ええ。帰ってきてすぐに大好きなケーキ屋さんに連絡して限定のケーキを予約しておいたの。それを受け取って保さんの病室に行きましょう」

今朝、直くんの病室を出る時に、夕食を保さんと一緒にとってあげて欲しいと言われた。
昨夜、私たちが直くんたちの病室で過ごしている間、実は寛さんと沙都さんは保さんの部屋で夕食を摂っていたそうだ。
だいぶ心も健康的になってきた今の状態を考えると、一人で食事を、特に夕食を摂らせるのは忍びないと思ったのだろう。
寛さんと沙都さんの優しさが胸に沁みる。

この誘いを断る理由などなく、すぐに了承した。
そして、いつもより少し早めに仕事を終えて、自宅に戻ってきたのだ。

すでに秋穂が準備を整えてくれていたおかげで、私たちはすぐに家を出た。
途中で秋穂が好きなケーキ屋により、いくつかのケーキを買って聖ラグエル病院に向かった。

保さんの部屋に入ると、顔色のいい保さんに出迎えられた。
手元には分厚い本もある。

私の視線に気づいたのか、その本のことを教えてくれた。
寛さんが暇つぶしにと持ってきてくれた本らしい。
やはり考えることは同じなのだな。

「これも君の興味を惹く本だと思うよ」

持ってきた荷物から何冊か本を取り出すと保さんの目が輝いた。
やっぱり知識を得ることが好きなようだ。
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