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幸せの夜
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「直くん、湯船に浸かろうか」
「ちゅかる、ちゅかる!」
椅子に座っていた直くんを抱きかかえて湯船に入ると、たちまちご機嫌な声をあげる。
卓の話では、初めて一緒に風呂に入った時は浴室を見ただけで怖がっていたというから嫌な思い出があったんだろうが、この数日でその恐怖もすっかり消えたようだ。
たちまちご機嫌な直くんに私も昇も笑みが溢れた。
湯船にはすでに卓たちや賢将さんたちが用意した可愛らしいおもちゃで溢れかえっている。
私が髪と身体を洗っている間に昇が湯船に浮かべて準備をしていたようだ。
これも直くんが怖がらないようにする作戦の一つだったのだろう。
その中でも特に昇が見せたいおもちゃを直くん目の前に浮かべた。
「ほら、直くん見てて!」
昇が手を離すと、船のおもちゃが水面を進んでいく。
「わぁー、ちゅごい! ちゅごい!」
動物のおもちゃが多い中で、船のおもちゃは新鮮だったんだろう。
釘付けになって遊んでいる。
「もっちょー!」
「んっ?」
直くんの舌足らずな言葉は昇にはまだ難しいようで何度か聞き返すこともあるが、昇もだんだんと慣れてくるだろうし、それ以上にたくさんの人と触れ合って行く中で、直くんの言葉も上手になってくるだろう。
二人とってもいい成長になるだろうな。
「もっと動かしてほしいみたいだぞ」
「わかった!」
私が直くんの言いたいことを教えてやると、昇は嬉しそうに船を動かしてあげていた。
優しいお兄ちゃんと天真爛漫な弟と行ったところか。
いつまでも遊ばせてやりたいが、長く浸かっているとのぼせてしまうからな。
「沙都ー!」
風呂場に付いているボタンを押しながら呼びかけるとすぐに沙都が風呂場にやってきた。
安全のために風呂場の外と連絡が取れるようになっているから呼びかけるのも楽でいい。
「はいはい。直くん。いらっしゃい」
ガラッと扉を開けて入ってきた沙都に直くんを託すと、沙都は脱衣所に置かれたベビーベットで薬つけと着替えをサッと済ませて出ていく。直くんはその間ずっとご機嫌なままだ。相変わらず手際がいい。
私と昇も湯船を出て着替えを済ませる。
昇の髪の毛がポタポタとしているのを見つけて髪を乾かしてやると、
「なおくんもかみをかわかすの?」
と尋ねられる。
「ああ、もう沙都がやっているはずだよ」
「そっかー。おれももうすこしおおきくなったら、なおくんのかみかわかしてあげられる?」
「そうだな。もうすこしおおきくなったらな」
「じゃあおれ、はやくおおきくなるー!!」
素直な昇の反応が可愛くて仕方がない。
昇の中に直くんが大事な子だという意識があるんだろうが、まだ小学一年生。
恋愛というものではなくて、大切にしなくちゃいけない存在という意識なんだろうな。
昇と一緒に出ていくと、直くんがストロー付きのマグカップで飲み物を飲んでいる。
風呂上がりの水分補給だ。
「昇もこれを飲んでおきなさい」
病室に置かれたウォーターサーバーから常温の水をグラスに注いで渡してやると、あっという間に飲み干した。
長いこと風呂に浸かっていたから喉が渇いていたんだろう。
「さぁ、そろそろ消灯時間だ。寝る前にじいちゃんが絵本を読んであげよう。昇は知っている話だが、直くんと一緒に楽しむんだぞ」
「はーい!」
私はベッドに足を広げて座り、そこに直くんと昇を横並びに座らせた。
そして二人を抱きかかえるように腕を回して絵本を広げた。
直くんが一番好きな本だと付箋が付いていたものだ。
私が話し始めると、沙都がその様子を動画や写真に撮っているのが見える。
きっとこれもこの前の卓のように絢斗くんや二葉さんに共有されるんだろう。
いつもの私とは違うから気恥ずかしい気もするが、可愛い孫たちとの戯れが記録に残るのは楽しいものだ。
「わぁ! ちゅごいね!」
「うん、すごいね」
「こりぇはー?」
「これは……」
一ページ進むごとに直くんと昇の言葉が挟まってくるがそれが楽しくて仕方がない。
いつしか撮られていることも忘れて、私の方が夢中になってしまっていた。
絵本が二冊目の途中を迎えた頃、直くんの頭がゆらゆらとし始めた。
昇もすっかり私に寄りかかって眠っているようだ。
「二人とも寛さんのお話が楽しすぎて興奮していたものね。きっと夢の中で続きを見ているわ、二人ともすごく楽しそうな顔をしているもの」
沙都が優しく直くんを抱きかかえている間に、昇をベッドに寝かせて私はベッドから下りた。
ベッドの中央に二人並んで寝かせてホッと一息つく。
「孫が二人になるとずっと賑やかだな」
「ええ。本当に。でも幸せだわ」
二葉さんは昇を出産した時に、次の妊娠は母体に負担がかかるから諦めた方がいいと医者に言われたようだ。
だからうちには孫は昇一人だと思っていたが、まさかこんなかわいい孫ができるとはな。
本当に人生とはつくづくわからないものだ。
「沙都、風呂に入っておいで。一人で寂しいだろうが、今日は我慢だ」
「ふふっ、はい」
キスを交わして沙都を風呂場に送り込み、私はかわいい孫の寝顔を楽しんだ。
「ちゅかる、ちゅかる!」
椅子に座っていた直くんを抱きかかえて湯船に入ると、たちまちご機嫌な声をあげる。
卓の話では、初めて一緒に風呂に入った時は浴室を見ただけで怖がっていたというから嫌な思い出があったんだろうが、この数日でその恐怖もすっかり消えたようだ。
たちまちご機嫌な直くんに私も昇も笑みが溢れた。
湯船にはすでに卓たちや賢将さんたちが用意した可愛らしいおもちゃで溢れかえっている。
私が髪と身体を洗っている間に昇が湯船に浮かべて準備をしていたようだ。
これも直くんが怖がらないようにする作戦の一つだったのだろう。
その中でも特に昇が見せたいおもちゃを直くん目の前に浮かべた。
「ほら、直くん見てて!」
昇が手を離すと、船のおもちゃが水面を進んでいく。
「わぁー、ちゅごい! ちゅごい!」
動物のおもちゃが多い中で、船のおもちゃは新鮮だったんだろう。
釘付けになって遊んでいる。
「もっちょー!」
「んっ?」
直くんの舌足らずな言葉は昇にはまだ難しいようで何度か聞き返すこともあるが、昇もだんだんと慣れてくるだろうし、それ以上にたくさんの人と触れ合って行く中で、直くんの言葉も上手になってくるだろう。
二人とってもいい成長になるだろうな。
「もっと動かしてほしいみたいだぞ」
「わかった!」
私が直くんの言いたいことを教えてやると、昇は嬉しそうに船を動かしてあげていた。
優しいお兄ちゃんと天真爛漫な弟と行ったところか。
いつまでも遊ばせてやりたいが、長く浸かっているとのぼせてしまうからな。
「沙都ー!」
風呂場に付いているボタンを押しながら呼びかけるとすぐに沙都が風呂場にやってきた。
安全のために風呂場の外と連絡が取れるようになっているから呼びかけるのも楽でいい。
「はいはい。直くん。いらっしゃい」
ガラッと扉を開けて入ってきた沙都に直くんを託すと、沙都は脱衣所に置かれたベビーベットで薬つけと着替えをサッと済ませて出ていく。直くんはその間ずっとご機嫌なままだ。相変わらず手際がいい。
私と昇も湯船を出て着替えを済ませる。
昇の髪の毛がポタポタとしているのを見つけて髪を乾かしてやると、
「なおくんもかみをかわかすの?」
と尋ねられる。
「ああ、もう沙都がやっているはずだよ」
「そっかー。おれももうすこしおおきくなったら、なおくんのかみかわかしてあげられる?」
「そうだな。もうすこしおおきくなったらな」
「じゃあおれ、はやくおおきくなるー!!」
素直な昇の反応が可愛くて仕方がない。
昇の中に直くんが大事な子だという意識があるんだろうが、まだ小学一年生。
恋愛というものではなくて、大切にしなくちゃいけない存在という意識なんだろうな。
昇と一緒に出ていくと、直くんがストロー付きのマグカップで飲み物を飲んでいる。
風呂上がりの水分補給だ。
「昇もこれを飲んでおきなさい」
病室に置かれたウォーターサーバーから常温の水をグラスに注いで渡してやると、あっという間に飲み干した。
長いこと風呂に浸かっていたから喉が渇いていたんだろう。
「さぁ、そろそろ消灯時間だ。寝る前にじいちゃんが絵本を読んであげよう。昇は知っている話だが、直くんと一緒に楽しむんだぞ」
「はーい!」
私はベッドに足を広げて座り、そこに直くんと昇を横並びに座らせた。
そして二人を抱きかかえるように腕を回して絵本を広げた。
直くんが一番好きな本だと付箋が付いていたものだ。
私が話し始めると、沙都がその様子を動画や写真に撮っているのが見える。
きっとこれもこの前の卓のように絢斗くんや二葉さんに共有されるんだろう。
いつもの私とは違うから気恥ずかしい気もするが、可愛い孫たちとの戯れが記録に残るのは楽しいものだ。
「わぁ! ちゅごいね!」
「うん、すごいね」
「こりぇはー?」
「これは……」
一ページ進むごとに直くんと昇の言葉が挟まってくるがそれが楽しくて仕方がない。
いつしか撮られていることも忘れて、私の方が夢中になってしまっていた。
絵本が二冊目の途中を迎えた頃、直くんの頭がゆらゆらとし始めた。
昇もすっかり私に寄りかかって眠っているようだ。
「二人とも寛さんのお話が楽しすぎて興奮していたものね。きっと夢の中で続きを見ているわ、二人ともすごく楽しそうな顔をしているもの」
沙都が優しく直くんを抱きかかえている間に、昇をベッドに寝かせて私はベッドから下りた。
ベッドの中央に二人並んで寝かせてホッと一息つく。
「孫が二人になるとずっと賑やかだな」
「ええ。本当に。でも幸せだわ」
二葉さんは昇を出産した時に、次の妊娠は母体に負担がかかるから諦めた方がいいと医者に言われたようだ。
だからうちには孫は昇一人だと思っていたが、まさかこんなかわいい孫ができるとはな。
本当に人生とはつくづくわからないものだ。
「沙都、風呂に入っておいで。一人で寂しいだろうが、今日は我慢だ」
「ふふっ、はい」
キスを交わして沙都を風呂場に送り込み、私はかわいい孫の寝顔を楽しんだ。
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