虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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初めての……

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直くんと昇を真ん中に入れ、直くんの隣に沙都が、そして昇の隣に私が横たわり眠りにつく。
直くんが日中動き回れるようにという意味もあって広々としたベッドだから四人でも寝られないことはない。

「寛さん、昔を思い出しますね」

「そうだな。本当に懐かしい」

とはいえ、毅が生まれた頃は卓はそこそこ大きかったから、あまり機会はなかったがな。
毅が三歳頃まで卓と一緒に寝たいと騒いでいたことがあったからその時くらいか。
あの時は布団を敷いて眠ったからここまで密着はなかったな。

「保さん……今の直くんの姿を見たら、幸せになってるってわかるから、記憶が戻らなくても喜んでくれるんじゃないかしら?」

「ああ、保さんが記憶のないままに直くんを育てることにならなくて本当に良かったよ。そうなったらどっちにとっても不幸だった」

自分のせいで傷つけてしまったと後悔の念を持ちながら、その対象を育てるのは精神的に負担も大きいだろうし、子どもだって相手の気持ちを感じ取るはずから、自分を見て辛い思いをしている人に育てられるのは辛いだろう。

卓と絢斗くんが里親になったのは、直くんだけでなく保くんを守るためにも大事なことだったな。

「直くんには本当のパパと、育ててくれるパパたちと、そして私たちや秋穂さんたちの家族もいるから寂しい思いなんて絶対にさせないわ」

「そうだな。ほら、見てごらん。直くんも昇も幸せそうに寝ているよ。だから何も心配はいらないよ」

沙都は自分でも子どもを産んだ経験があるからこそ、直くんの実母がやったことが信じられないのだろう。
お腹の中で大切に育んできた子どもに手をかけるなんて、本当に鬼の所業だ。

「寛さん……孫はやっぱり可愛いわね」

「そうだな」

血の繋がりなんてなくても、愛しい存在なことに変わりない。
昇も直くんも私たちの可愛い孫で大事な宝だ。

「さぁ、寝よう」

昇と直くんを抱くように腕を回し、沙都の手を握った。
今日はいつもより沙都との距離が遠いが、手を握れただけでよしとしよう。

そうして、私たちは眠りに落ちた。


「じいちゃん、おきてー!」

「んっ、昇か。もう起きたのか?」

小さな力で肩を叩かれ、呼びかけられて目を覚ますと目の前に昇がいた。

「なおくんも、おきてるよ。のどかわいたみたい」

「おお、そうか。教えてくれてありがとう」

私たちのやりとりで沙都も目を覚ましたようだ。すぐに直くんのストロー付きのマグカップに飲み物を入れて渡していた。

「なおくん、おいしい?」

「おいちー!」

みんなで可愛い直くんが飲み干すのを見届けてから、昇にも声をかけた。

「昇も何か飲むか?」

「ううん。おれ、トイレいくー!」

「ああ、そうか。そうだな」

転落事故防止のために広々としたベッドには少し高めの柵をつけているから昇は行きたくてもいけなかったのかもしれない。昇をベッドから下ろそうとしていると、

「のぼりゅ、ろこいくの?」

と直くんが不思議そう尋ねてくる。

「んっ?」

相変わらずまだ直くんの言葉が聞き取れない様子の昇に代わって私が答えた。

「昇はトイレに行くんだよ」

「といれ?」

トイレじゃまだわからなかったか。それもそうだ、
直くんはまだオムツにしているのだから。
だが退院したらトイレトレーニングも始めないといけないだろうな。

「なおくん、いっしょにトイレいこうよ! そうしたらわかるよ」

「いくー!!」

いいことを思いついたとでもいうように昇が直くんをトイレに誘うから、直くんも行きたがってしまった。
仕方なく、沙都が直くんを抱っこして、ベッドから下ろした昇と一緒にトイレに向かった。

便器の前に踏み台を置いてやると、昇はそれに乗ってパジャマと下着を下ろし、おしっこを始める。
沙都に抱っこされた直くんはそれを珍しいものでも見るようにじっと見つめていた。

昇のトイレが終わると、直くんが突然

「といれー! といれー!」

と言い出した。

さすがに何もトレーニングしていない今は直くんには難しいだろうと思ったが、沙都は笑顔でそれに対応する。

「じゃあ、直くんもやってみましょうか」

トイレに置かれた子ども用の便座をのせると、沙都は手際よくさっとズボンとオムツを外した直くんを座らせる。

「シーしてみようか」

「ちー」

昔もこうして卓や毅のトイレトレーニングをしていたんだろう。
手慣れたものだ。

出来てもできなくてもやらせることに意味がある。
沙都は昔からそういっていた。

だが、しばらく座らせているとかすかに便器におしっこが当たっている音が聞こえ始めた。

「直くん! 上手、上手。ほら、昇も褒めて!」

「なおくん、おしっこできたの? すごい!!」

沙都と昇に褒められて、直くんは嬉しそうに笑っていた。
本当にこの子は賢い子だ。
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