虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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自宅に帰ろう

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<side卓>

「兄さん!」

駐車場に車を止め、絢斗と病院に向かって歩き出したところで、近くを走っていた車から声をかけられた。毅だ。

「なんだ、お前も今頃来たのか?」

もうとっくに昇を迎えに来ていたとばかり思っていた。

「きっと兄さんたちと同じ理由です」

そんなことを言って、私たちのすぐ近くに車を止めて降りてきた。
どうやら久々に甘く楽しい夜を過ごしたのは私たちだけじゃなかったようだ。

たまに父たちに昇を昼間預けることはあるようだが、夜は基本的にいつも家に子どもがいるんだ。
二人で愛し合っていても気になって仕方がないというのはわかる。

中学生くらいになれば、親の事情もわかってくれるようになるだろうが、まだまだ先の話だ。

それを父たちが見ていてくれるのなら楽しい時間を過ごしたくなるのも当然だ。

私も絢斗が私のことを受け止めてくれたのが嬉しくて昨夜はついついがっついてしまった。
流石に次の日、外に出せないほどにはしなかったが、それでもたっぷりと愛し合った。

今日は昇に対しても少し心に余裕を持って過ごせそうだ。

絢斗と二葉さんは昨夜母から送られてきた動画の話ですっかり盛り上がっている。
その可愛い姿はかなりの注目を浴びている。
その二人の横に並んで、周りの目から守りながら直くんの病室に向かった。

部屋に入り、出迎えてくれた父に挨拶をしてから直くんの名前を呼ぶとすぐに

「あーちゃ! ちゅぐぅちゃ! おはよー!」

と可愛い声で出迎えてくれる。
嬉しくなって駆け寄ると、ベッドの中で昇と母と並んで遊んでいるのが見える。

どうやら今日もご機嫌のようだ。

「直くんの様子はどうでしたか?」

「お利口なもんだよ。昇と一緒だからか、なんでもやることを真似してね」

「なおくん、トイレでおしっこしたんだよー!」

父に様子を尋ねると、昇が笑顔で教えてくれる。

「なに? 直くんが?」

驚いて母を見ると、母は嬉しそうに頷いていた。

「最初はたまたまかと思ったのだけど、さっきも自分からトイレ行きたいって言って連れて行ったらちゃんとできたのよ。一度でできるなんて本当にすごいわ! 榎木先生も褒めていらしたわ」

直くんの年齢ならトイレでできる子もいてもおかしくないが、直くんの今までの環境を思えば一度でトイレで用を足せるようになるのはものすごいことだ。

「のぼりゅー!」

「ふふっ、そうね。昇がお手本を見せてくれたのよね」

どうやら昇がトイレをしているのを見て、興味を持ったらしい。
やはりこの辺は同じ子ども同士、通じるところがあるということか。

保育園や幼稚園に通うと、急に色々とできることが増えるようになると聞いたことがあるが、子ども同士の関わりがそうさせるのかもしれないな。昇が一緒に泊まったことは直くんの成長にとってもプラスになったということだ。

「昇、ありがとうな。これからの直くんのお兄ちゃんとして頼むぞ」

「――っ!! うん! すぐるおじちゃん、おれ……がんばる!!」

その笑顔に心が温かくなっていくのを感じた。

私たちのその姿を絢斗も父たちも笑顔で見守ってくれていた。

  *   *   *

そうして、あっという間に直くんの退院の日を迎えた。
いくつ寝たら外に出られるよと毎日話していたせいか、直くんはすっかりこの日を楽しみにしてくれていた。
本当に賢い子だ。

同時に今日は保くんの退院の日でもある。

直くんに関しては、最初は三人だけがいいだろうという父たちの配慮で病室には私たちだけだったが、代わりに、保くんの部屋には父たちと賢将さんたちが集まっている。ちなみに保くんの最初の受け入れ先は緑川家だ。

話し合いの結果、最初は医師である賢将さんと同じ家に住んだ方が安心だろうということで決定した。
一ヶ月で交代することで決まっているから、父も母も楽しみでたまらないらしい。
もうすでにどちらの家にも保くんの部屋と直くんの部屋が準備されている。
保くんがそれぞれの家で辛い思いをすることは決してないだろう。

「さぁ、直くん。私たちの家に帰ろう」

絢斗が直くんを抱っこして、私は全ての荷物を持って駐車場に向かう。

車には直くん用のチャイルドシートもしっかりと備え付けている。

一人で座らせるのは寂しいだろうということで、絢斗も一緒に後部座席に乗った。
助手席が誰もいない車は少し寂しいものがあるが、家族ができるというのはこういうところから変わっていくのだろう。

初めてのチャイルドシートを嫌がるかと思ったが、直くんは外の景色に興味津々でシートは気にならない様子だ。

二人で直くんに話しかけているうちに、あっという間に自宅に到着した。
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