虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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それぞれの退院初日

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運転席から颯爽と降り、急いで直くんの座っている後部座席の扉を開けた。
いつもなら絢斗をエスコートするが、絢斗もちゃんとそれを理解してくれて、私が直くんのチャイルドシートを外すのを嬉しそうに見つめていた。

直くんをチャイルドシートから下ろし、隣に座っていた絢斗に抱っこさせる。
そして私は反対側の後部座席の扉を開け、二人を下ろした。

地下駐車場ではなく、来客用の駐車場に止めたのは直くんにこれから住む家をしっかりと見せておくためだ。

絢斗に抱っこされた直くんはキョロキョロと辺りを見回して不思議そうに見つめていた。

「直くん、今日からここが直くんのお家だよ。家の中に入ろうね」

「おうち?」

「そう、直くんと私たちのお家だ」

優しく声をかけ、絢斗と三人で中にはいる。

階段を上がり、自宅の扉を開けると、直くんは興味深そうに中を見ていた。

一通り、みんなで家の中を歩き回り、最後に直くんの部屋に向かう。

「ここが直くんのお部屋だよ」

「わぁ!」

絢斗が直くんが喜ぶ部屋にするんだと言って、全てを可愛らしく作った部屋。
足元は転んで痛くないようにクッションマットを全面に敷いてあるから直くんがどれだけ走り回っても安心だ。

大きさの異なるぬいぐるみをいろんな場所に置いているので、寂しくはないだろう。
その中でも目につくのは小さな滑り台がついたプレイハウス。

直くんもそれに目を奪われているのがわかる。

絢斗がそっと直くんを下ろすと、直くんはゆっくりと歩き始めた。
筋力が足りず、歩くのもあまり覚束なかった直くんだが入院中に遊びながら動いていたおかげで筋力も増し、自分でもスタスタと歩けるようになっていた。

大きなクマのぬいぐるみに抱きつきにいく姿は可愛くてたまらない。
その場所にいたウサギのぬいぐるみを手にプレイハウスの方に歩いていく。
絢斗はそんな直くんから付かず離れずの距離で見守っていた。

この部屋には死角のないようにモニターがつけられている。
私が下で仕事をしながらも絢斗と直くんが遊んでいるのを確認できる。

絢斗が見られない時には事務所でも見られるように一室を直くん部屋に改装した。
成瀬くんと安慶名くん、そして事務の中谷くんと波多野はたのくんがいてくれるから安心だ。

直くんの部屋には今のところベッドはない。
寝る時は私たちと並んで寝られるように、直くんの隣の部屋に大きなベッドを新しく購入した。
ここは直くんと三人で寝るための部屋だ。

私と絢斗の部屋は別にある。
二人だけのベッドはたとえ直くんであっても寝かせることはできない。
それはあのベッドが私たちの愛を育むためのベッドもあるからだ。

直くんと一緒に暮らすことになったが、週に二度は保くんのいない家の方で直くんを預かってもらうことになっているから、その日は絢斗と愛し合う日だ。そこは可愛い息子ができようが、やはり譲れなかった。

父も母も、それに賢将さんと明穂さんも直くんを預かるのが楽しみだと言ってくれたからそれはよかった。

――里親になったからと言って、全てを直くん優先にしてしまえば、お前も絢斗くんもすぐに疲れて壊れてしまう。
今までの生活も守りつつ、みんなで直くんを育てていけばいい。私たちに遠慮はいらないよ。

そう言ってくれた父の言葉は私に勇気を与えてくれた。
今日からここで私たちと直くんとの新しい生活が始まる。
さて、保くんはどうだろうな?


<side賢将>

「保くん。準備はできたかな?」

「はい。大丈夫です」

無事に退院の日を迎え、保くんの表情も明るい。
それはきっと直くんが無事に退院したことを知ったからだろう。

あちらは家族での新しい生活を直くんにも理解できるように三人で退院の日を迎えたが、こちらは華々しくみんなでお祝いだ。

私と秋穂、そして寛さんと沙都さんが退院のお祝いにやってきた。
そして今日から一ヶ月、保くんは我が家で生活することになる。

「めでたい退院の日だ。どこかで食事でもしていこう。保くんは何が食べたいかな?」

「あ、私はなんでも……」

「あら、なんでもだなんてダメよ。ちゃんと食べたいものを言ってくれなくちゃ! 今日は保くんのお祝いなんだから」

秋穂の言葉に保くんは少し考えてから、

「あの、天ぷらが食べたいです」

とリクエストしてくれた。

「おお、天ぷらか。それはいい。私の行きつけの天ぷら屋でお祝いといこう!」

寛さんの行きつけならきっとあそこだろう。
あの店なら美味しい天ぷらを食べられるはずだ。

今夜は家ですき焼きの予定だったからかぶらなくてよかった。
それぞれの車で移動したが、保くんを寛さんたちの車に乗ってもらったのは、今日から私たちと共に生活するからだ。

少しでも保くんとの時間を過ごしてもらいたいという気持ちだったが、それは大正解だったようだ。
店の駐車場で降りてきた時の保くんはとても楽しそうに見えた。

こうしてみんなで仲良くなれればいい。
これが私たちの求める理想の家族のあり方だ。
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