虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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保くんの部屋

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「すごく美味しいです!」

揚げたての天ぷらを口にするたびに感動の声を上げてくれる保くんを見て、私たちはもちろん、この店を選んだ寛さんも笑みが溢れる。

さすがあの直くんの父親とでも言おうか。
喜び方も、可愛い笑顔も直くんとよく似ている。
あの笑顔を見たいがためになんでもしたくなるのだから、相当のものだろう。

私と寛さんより随分と若い保くんを、普通なら秋穂や沙都さんのそばに置きたくないものだが、保くんにはそんな嫉妬めいた感情は起こらない。
私たちの中でもう保くんは息子と同義なのだろう。
いや、寛さんは卓くんや毅くんには嫉妬めいた感情を起こしているところを見たことがあるから、寛さんにとって保くんは息子という定義の中でも特別なのかもしれない。
おそらく絢斗が秋穂と仲良くしていても全く嫉妬しない私の感情と同じなんだろう。

これなら、我が家でも磯山家でも十分うまくやっていける。

今日は我が家に連れて帰るのだからと、店の中では寛さんと沙都さんに保くんとの時間を過ごしてもらい、私と秋穂は話に加わりながらも寛さんと沙都さんの楽しそうな姿を見るだけに留めておいた。

寛さんと沙都さんも今夜から少し淋しいだろうが、数日後には直くんが寛さんたちのいえでお泊まりすることになっているからそれを楽しみにしていると言っていた。

卓くんにも絢斗と二人っきりの時間を作ってあげることができるし、寛さんたちも可愛い孫の世話ができる。
そして私たちは保くんとの時間を過ごす。

まさに全てがwin-win。どこからも反対のしようがないほどいい方向に巡っている。

そうして、楽しい時間を過ごして、私たちは保くんを我が家に案内した。

「さぁ、ここが今日から保くんの家だ。何も遠慮はいらない。ゆっくり過ごしてくれ」

「ここが……私の、家……」

保くんが直くんと暮らしていた家は、少し都心から離れていたこともあってそこそこ広い庭がある家だったそうだが、我が家も庭が広くて大きな家という点で言えば変わらない。
変わるとすれば秋穂が美しく家を整えてくれていることだろうか。

手入れの行き届いた庭は四季折々の花を咲かせ、いつでも暖かく家族を迎えてくれる。
その気持ちが外観からも現れているのだ。

「保くんの部屋も準備してあるのよ、どうぞ中に入って」

秋穂は嬉しそうに保くんの背中を押し、家に招き入れた。

「リビングや他のお部屋も案内するけど、まずは保くんの部屋ね」

秋穂が保くんを連れていくその後ろから私もついていくと、保くんの部屋を開けた途端、保くんから感嘆の声が漏れた。

「わぁー! すごい!!」

明るい太陽の光が差し込んだ南向きの部屋は保くんの気持ちも明るくしてくれる。

広々としたベッドは寝心地の良いものを用意し、机と本棚は落ち着いた色のものを選んだ。
勉強がしたいと言っていたから本棚には保くんの興味がありそうなものをびっしりと揃えておいた。

のんびりと本が読めるようにソファーも用意しておいたから、ゆっくりと寛ぎながら過ごすことができるだろう。

「この部屋を本当に私が使ってもいいんですか?」

「ええ、もちろんよ。保くんのために用意したんだから。ねぇ、賢将さん」

「ああ。何か足りないものがあったら何でも言ってくれ。すぐに用意するよ」

「そんな……っ、これ以上贅沢なんて……」

本当に保くんは控えめだ。

「親に遠慮なんて不要だよ。保くんが甘えてくれることが嬉しいんだ」

「賢将さん……ありがとうございます。あの、今はすごく満足しているので、何かあったらその時は……」

「ああ、それで構わない。しばらくここで過ごしているかな? それとも他の部屋を案内しようか?」

保くんは後からゆっくりと過ごしたいと言ってくれて、私たちは他の部屋を案内して回った。
リビング、キッチン、トイレにお風呂、書斎にも案内すると目を輝かせていた。
やはり根っからの本好きらしい。

流石に絢斗の部屋だけは通り過ぎるだけで終わらせたが、保くんの隣の部屋を最後に案内した。
扉を開けてすぐにそこが誰の部屋かは気づいたようだ。

「ここは、息子の……」

「ああ、そうだ。直くんのための部屋だよ。ここに泊まる日もこれからあるからね。中に入ってみるかな?」

「は、はい」

保くんはゆっくりと部屋の中に入り、並べられていた小さなぬいぐるみをそっと手に取った。

「この部屋は、絶対喜びますね」

そんな感想を言ってくれた保くんの声は少し涙に震えているようだった。
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