虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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番外編

桜カフェでの出会い  <前編>

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直くんとあの子(バレバレ笑)が知り合いになる序章になるお話です。
長くなったので前後編に分けます。
楽しんでいただけると嬉しいです。


  *   *   *



海外事業部に配属されて二週間。
直属の上司である織間おりま主任の優しく丁寧な指導のおかげでスムーズに業務を行うことができている。
これまでの知識と経験も役立てることができて少しずつ自信がついてきている気がする。

ここの会社に入って驚いたことといえば、昼休憩以外にも一日に二度二十分程度の休憩を取ることが許されていることだ。
今までの会社では考えられなかったことだが、聞くところによると、親会社だった貴船コンツェルンでも同様のルールがあったらしい。

大手ではこうも違うものかと今更ながら驚いた。

それでもあくまでもルール上のもので本当に休憩を取る人なんていないんじゃないかと思っていたけれど、みんな必ずこの休憩をとっている。というか、むしろそれを楽しみにしているようでそれに向けて集中して仕事をするから非常に効率がいい。
いつどのタイミングで休憩をとってもいいそうだけれど、内勤の人は午前十時と午後三時に休憩を取る人が多い。
もちろんお客さんがいる時はそちらが優先だけれど、その後きちんと休憩を取ることができる。

その時はそれぞれが持ってきたおやつをおしゃべりしながら食べたり、隣にある桜カフェで優雅な時間を過ごしたり、テイクアウトもできるからデスクでのんびり過ごしたり……と皆思い思いに過ごしている。

最初こそ本当に休憩していいのかなと不安だったけれど、織間主任からデパ地下のお菓子をいただいて、業務以外のたわいもいない話をしたり、直くんの可愛い動画を見せたりしているうちに、私も自然とこの時間が楽しみになっていた。

休憩を取ると仕事に戻るのが億劫になるんじゃないかと思っていたけれど、その後の仕事のハリが出てやる気が漲る。
そのおかげで仕事も捗るし、本当に効率が良くて驚いている。

今日の三時の休憩は隣の桜カフェで桜ラテを買う予定だ。
ここは一般のお客さんにも人気があるカフェでお客さんは常に入っているけれど、櫻葉グループの従業員専用のテイクアウトコーナーが設けられているから、そこまで待つことなく購入できるからありがたい。

三時になり桜ラテとシフォンケーキを買っておやつにしようとウキウキでオフィスを出た。

「迫田くん!」

「えっ、あっ! 社長! どうしてここに?」

「カフェに行くなら一緒に行こうと思って声をかけにきたんだ」

初日に待合室で初めて会話をしてから、それ以来社長はこうしてちょくちょく声をかけてくださる。
仕事終わりに食事に誘われたこともあって、一度一緒に食事をした。
もちろんその時は賢将さんに連絡を入れて了承をとった。

相手が社長の史紀さんだと聞いて安心してくれたのを覚えている。

その時からプライベートでは名前呼びを許してもらい、会社でもこうして気軽に声をかけてくださる。
流石に社内では名前では呼べないけれど。

「桜ラテ、飲みに行くんだろう?」

「はい。すっかり気に入ってしまって……すごく美味しいですね」

「ははっ。そう言ってもらえると嬉しいよ」

最初に飲ませてもらった桜の香り漂うコーヒーもとても美味しかったけれど甘い桜ラテは仕事中に欲しくなる。

「それにしても桜をコンセプトにしたカフェというのは珍しいですね」

いろいろなところで春限定で桜を使った商品を出しているけれど、年中桜を出しているところはない。
でも桜好きな日本人はいつでも桜を感じたいものなんだろう。
だからこそ、年中問わず人気がある。

「桜カフェを出すことになったのは会長の奥さまの声を採用したからなんだよ。会長の奥さまは花の中でも特に桜がお好きでね。会長と結婚されて苗字が櫻葉になったことを運命だと仰っているくらいなんだ」

「そうなんですね。奥さまの言葉を形にするって会長も素晴らしいですね」

そんな優しい会長がいる会社だから社員のこともこんなに大切にしてくれるんだろうな。


カフェに到着し、せっかくだから店内で食べようと史紀さんに誘われ、桜ラテと桜のシフォンケーキを注文して席についた。

早速桜ラテを口にする。
程よい甘さが口の中に広がってただただ幸せしかない。

「保くんの幸せそうな顔を見ると、みんな桜ラテを飲みたくなるね。これはいい宣伝になるな」

「そんな……っ、揶揄わないでください」

「ははっ、でも本当に美味しいね」

一緒に桜ラテを飲んで至福のひと時を過ごしていると、

「あ、ふみくんだー!!」

と可愛らしい声がカフェ中に響き渡った。

「えっ?」

驚いてその声がした方に振り向くと、可愛らしい制服を身に纏ったこれまた天使のように可愛らしい子が逞しい男性に抱きかかえられてこちらに手を振っているのが見える。

「一花くん! それに征哉くんも!」

びっくりして立ち上がった史紀さんに、彼らが近づいてくる。

「ふみくんにあえてうれしいー!」

「私も嬉しいよ。でもどうしてここに?」

目をぱちくりさせながら、史紀さんが尋ねると逞しい男性が代わりに口を開いた。

「一花がここの桜ラテが飲みたいというので学校帰りに連れてきたんです。今日は私がお迎えに行ったので」

「ああ、そうなのか。征哉くん、一花のわがままに付き合ってくれてありがとう」

「わがままなんかじゃないですよ。私も一花とデートできて喜んでいるんです」

愛おしそうに天使を見つめるこの人、見覚えが……

「――っ、貴船コンツェルンの次期総帥の……っ」

子会社だった貴船商会でも通達があった。
会長のご子息が次期総帥として入社された、と。

その時に配られた資料に確かにこの人の写真が載っていた。
あの時の写真と目の前にいる柔らかな表情を浮かべた彼とは全く別人に見えるほどだけれど、間違いなく貴船会長のご子息だ。
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