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番外編
直くんのために
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ーもしもし、一眞さん今お時間よろしいですか?
ー緑川先生。今、ちょうど一花が保くんの話をしていたところですよ。
ーははっ。そうでしたか。それなら話がはやい。うちの可愛い孫の直くんと一花くんを一度会わせてみませんかというご提案で連絡させていただいたのです。
ーえっ、一花と直くんを?
直くんの事情については、寛さんから保くんの話をした時に全て伝えている。
絢斗と卓くんが里親となり、保くんの子どもを預かって育てていることも、保くんが我が家と磯山家を一か月ごとに行き来して生活を共にすることももちろん全てだ。
ー今日、一花くんと征哉くんとカフェで会った時に、一緒にカフェで過ごしていた史紀くんからの提案だそうですよ。
ーなるほど。史紀が……。あいつ、よほど保くんを気に入ったと見える。
といっても史紀くんが保くんに恋愛感情を抱いているわけではない。
友人として気が合う仲間としてだ。
なんせ、史紀くんにはすでに愛しい恋人がいるのだからそれは100%ないと言い切れる。
その彼は絢斗の教え子で卓くんの事務所でもほんの少しだけ働いてくれていた安城くん。
今は実家の和菓子屋<星彩庵>の後継となり、店主として頑張っている。
時々、絢斗のお土産を買いに行くが、伝統のお菓子を守りつつ。新しいものも開発していて年配から若い人まで人気が絶えない店だ。
ーわかりました。一花は小さな子と遊ぶのは好きなほうだし、会えばきっと仲良くなるでしょう。我が家はそちらの都合に合わせられますから、いつでも声をかけてください。
ーありがとうございます。それではそのように伝えておきますね。また連絡します。
楽しみにしていますよという声を聞きながら電話を切った。
よし、これでいつでも会える約束は取れた。
とりあえず一花くんと会わせる前に一つだけ早急にやっておきたいことがある。
卓くんたちにも声をかけて明日にでも話をすることにしよう。
卓くんに今の一眞さんとの話を伝え、その前に大切なことを話したいと告げ、近々我が家に来てもらうことにした。
そうして、当日。
「ぱぱーっ!」
「ははっ、直くん。この前会った時よりまた大きくなったな」
「おっきくなっちゃー!」
卓くんが玄関に直くんを下ろすと、迎えに出てきた保くんにトタトタと走っていく。
それを見守る卓くんと絢斗の表情には全く嫉妬の色は見えない。
それどころか久しぶりの親子の対面を微笑ましく思っているようだ。
「直くんにぱぱとおじいちゃんとあきちゃんに会いに行こうねって話したら、車の中でもはしゃいでて可愛かったよ。ねっ、卓さん」
「ああ、保くんもすっかり元気になって仕事も順調そうですね」
「そうなんだよ、毎日帰り道に楽しそうに話してくれるんだよ」
そんな会話をしながら、絢斗たちと一緒にリビングに入ると、直くんは秋穂と保くんと楽しそうに遊んでいた。
「それでお父さん、話って何?」
「そうだな。さっさと話を終わらせてゆっくり孫との時間を過ごすとしようか」
私が秋穂に目配せすると、秋穂は直くんを抱っこしてプレイルームに連れて行った。
「保くん、こっちにおいで」
私と保くんが横並びに座り、絢斗と卓くんが向かいに座った。
「何か大変なこと?」
保くんに少し緊張の様子が見えた絢斗が心配そうに尋ねてくる。
「いや、そうじゃない。これから先のことを考えて私から提案したいことがあるんだ。直くんだが、みんなも気づいていると思うが、直純と名前で呼ばれると身体を硬くするだろう? きっと名前にトラウマがあるんだ」
私の言葉に絢斗も卓くんも保くんも大きく頷く。
「だから私たちは直くんと呼んでいるわけだが、これから大きくなるにつれて本名を言わなければいけない状況は大いにある。だから、提案なんだ。今のうちに、改名しないか?」
「改名、ですか?」
「直くんも今なら、変わっても問題ないだろう。だが学校に行き始めたら簡単な話ではなくなる」
「私も名前についてはずっと思っていました」
卓くんならやはりそう思うだろうな。
「改名できるのであれば変えてあげたいと思っています。そのためには父親である保くんの意思確認が必要です。保くんはどう思っているかな?」
「私は……これ以上、あの子に嫌な出来事を思い出させたくないです。改名してあげられるなら改名したいです」
「そうか、父親と里親の了解が取れたなら大丈夫だな。それで名前だが……」
「直くんがいいよ。可愛いし、直くんにピッタリ」
絢斗の言葉にみんなが同意し、それからすぐに直純から直への改名手続きに入ることになった。
その手続きは弁護士である卓くんが主体となってすぐに動いてくれた。
通常手続きには最低でも二週間はかかるが、直くんの置かれた状況と友人たちの協力のおかげで一週間も経たずに改名が認められた。
これで直くんは戸籍上は迫田直となり、通称名は磯山直となった。
どちらもよく似合っている。
そうして、磯山直くんとなった週末、櫻葉家の一眞さんと麻友子さん、そして一花くんと征哉くんが集まり場所となった磯山家の実家にやってきた。
ー緑川先生。今、ちょうど一花が保くんの話をしていたところですよ。
ーははっ。そうでしたか。それなら話がはやい。うちの可愛い孫の直くんと一花くんを一度会わせてみませんかというご提案で連絡させていただいたのです。
ーえっ、一花と直くんを?
直くんの事情については、寛さんから保くんの話をした時に全て伝えている。
絢斗と卓くんが里親となり、保くんの子どもを預かって育てていることも、保くんが我が家と磯山家を一か月ごとに行き来して生活を共にすることももちろん全てだ。
ー今日、一花くんと征哉くんとカフェで会った時に、一緒にカフェで過ごしていた史紀くんからの提案だそうですよ。
ーなるほど。史紀が……。あいつ、よほど保くんを気に入ったと見える。
といっても史紀くんが保くんに恋愛感情を抱いているわけではない。
友人として気が合う仲間としてだ。
なんせ、史紀くんにはすでに愛しい恋人がいるのだからそれは100%ないと言い切れる。
その彼は絢斗の教え子で卓くんの事務所でもほんの少しだけ働いてくれていた安城くん。
今は実家の和菓子屋<星彩庵>の後継となり、店主として頑張っている。
時々、絢斗のお土産を買いに行くが、伝統のお菓子を守りつつ。新しいものも開発していて年配から若い人まで人気が絶えない店だ。
ーわかりました。一花は小さな子と遊ぶのは好きなほうだし、会えばきっと仲良くなるでしょう。我が家はそちらの都合に合わせられますから、いつでも声をかけてください。
ーありがとうございます。それではそのように伝えておきますね。また連絡します。
楽しみにしていますよという声を聞きながら電話を切った。
よし、これでいつでも会える約束は取れた。
とりあえず一花くんと会わせる前に一つだけ早急にやっておきたいことがある。
卓くんたちにも声をかけて明日にでも話をすることにしよう。
卓くんに今の一眞さんとの話を伝え、その前に大切なことを話したいと告げ、近々我が家に来てもらうことにした。
そうして、当日。
「ぱぱーっ!」
「ははっ、直くん。この前会った時よりまた大きくなったな」
「おっきくなっちゃー!」
卓くんが玄関に直くんを下ろすと、迎えに出てきた保くんにトタトタと走っていく。
それを見守る卓くんと絢斗の表情には全く嫉妬の色は見えない。
それどころか久しぶりの親子の対面を微笑ましく思っているようだ。
「直くんにぱぱとおじいちゃんとあきちゃんに会いに行こうねって話したら、車の中でもはしゃいでて可愛かったよ。ねっ、卓さん」
「ああ、保くんもすっかり元気になって仕事も順調そうですね」
「そうなんだよ、毎日帰り道に楽しそうに話してくれるんだよ」
そんな会話をしながら、絢斗たちと一緒にリビングに入ると、直くんは秋穂と保くんと楽しそうに遊んでいた。
「それでお父さん、話って何?」
「そうだな。さっさと話を終わらせてゆっくり孫との時間を過ごすとしようか」
私が秋穂に目配せすると、秋穂は直くんを抱っこしてプレイルームに連れて行った。
「保くん、こっちにおいで」
私と保くんが横並びに座り、絢斗と卓くんが向かいに座った。
「何か大変なこと?」
保くんに少し緊張の様子が見えた絢斗が心配そうに尋ねてくる。
「いや、そうじゃない。これから先のことを考えて私から提案したいことがあるんだ。直くんだが、みんなも気づいていると思うが、直純と名前で呼ばれると身体を硬くするだろう? きっと名前にトラウマがあるんだ」
私の言葉に絢斗も卓くんも保くんも大きく頷く。
「だから私たちは直くんと呼んでいるわけだが、これから大きくなるにつれて本名を言わなければいけない状況は大いにある。だから、提案なんだ。今のうちに、改名しないか?」
「改名、ですか?」
「直くんも今なら、変わっても問題ないだろう。だが学校に行き始めたら簡単な話ではなくなる」
「私も名前についてはずっと思っていました」
卓くんならやはりそう思うだろうな。
「改名できるのであれば変えてあげたいと思っています。そのためには父親である保くんの意思確認が必要です。保くんはどう思っているかな?」
「私は……これ以上、あの子に嫌な出来事を思い出させたくないです。改名してあげられるなら改名したいです」
「そうか、父親と里親の了解が取れたなら大丈夫だな。それで名前だが……」
「直くんがいいよ。可愛いし、直くんにピッタリ」
絢斗の言葉にみんなが同意し、それからすぐに直純から直への改名手続きに入ることになった。
その手続きは弁護士である卓くんが主体となってすぐに動いてくれた。
通常手続きには最低でも二週間はかかるが、直くんの置かれた状況と友人たちの協力のおかげで一週間も経たずに改名が認められた。
これで直くんは戸籍上は迫田直となり、通称名は磯山直となった。
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