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番外編
最高の決断
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<side賢将>
保くんがいなくなって、夫婦二人だけの生活に戻った。
もちろん、秋穂との生活に不満はない。
だが、暮らしていた人数が減るというのはやはり寂しいものだ。
絢斗が卓くんと生活をすると言って我が家を出て行った日も同じように寂しかった。
それくらい保くんとの生活は、本当の息子と過ごすようで楽しかったんだ。
「秋穂……」
「賢将さん、置いて行かれた子犬みたいな顔をしてるわ」
「じゃあ、甘えさせてくれ」
秋穂の膝に頭を置いて、腰に抱きつくと秋穂の優しい手が私の頭をそっと撫でる。
こんな姿、秋穂にしか見せたことがない。
「毎日の送迎も楽しんでいたものね。賢将さん、あの時間が好きだったんでしょう?」
「そうなんだよ。会社に入っていく後ろ姿を見つめると、必ず振り返って笑顔で手を振ってくれるのも、仕事終わりに笑顔で車に乗ってきて、その日の出来事を話してくれることも、私の仕事の疲れを吹き飛ばすほど谷しい時間だった。保くんが帰宅して、秋穂に同じ話を楽しそうにするのを見るのも好きだったんだ」
「ふふ、昔の絢斗と同じね。桜守に送迎していた時もあなた同じことを言っていたわ。もう保くんは可愛い息子同然なのよね」
絢斗と同じ、か。
そうだな。あの時もあの時間が本当に好きだった。
「私たちには可愛い孫もいるのよ。明後日にはうちに泊まりにくるわ。一緒にお風呂に入って、川の字になって一緒に寝ましょう。幼いときの絢斗が戻ってきたように」
「そうだな。直くんとの日々もまた楽しいものになるな。ありがとう、秋穂」
秋穂がこうして甘えさせてくれるから、どれだけ私が救われているか。
「お礼はキスがいいわ」
そんな可愛いおねだりをされて受けないはずがない。
さっと起き上がって優しい笑顔を浮かべる秋穂の唇を奪う。
甘い唇を堪能していると、離れた場所でスマホが鳴る音が聞こえた。
この時間に電話など珍しいがまだ非常識という時間でもない。
秋穂とのキスを中断して電話をとりにいくと画面表示には絢斗の名前があった。
もしかしたら直くんが体調を崩したのか?
そうだとしたら主治医としてすぐに駆けつけなければいけないだろう。
とりあえず話を聞かなければ。
「秋穂、絢斗だから電話をとるよ」
秋穂が頷くのを見て電話をとる。
ーお父さん? 今大丈夫?
その明るい声に体調不良ではないとすぐに察した。
ー構わないが、どうした?
ーあのね、お母さんにも聞いてもらいたいからスピーカーにしてくれるかな?
ーわかった。
何か重大な話か? それにしては声がやたら明るいのが気になる。
秋穂の隣に戻り、スピーカーにすると秋穂が電話口の絢斗に声をかけた。
ー絢斗。どうしたの?
ーあのね、直くんが……卓さんの養子になることになったんだ。
ーえっ?
ー保くんが、直くんのためにそうしたいって決断したみたい。
これまではいつか保くんが直くんの父親に戻れるようにという考えで里親になっていたが、直くんのために保くんが決断したのか。彼にとってはかなり大きくて辛い決断だっただろう。
それでも彼のいう通り直くんのことを考えれば、いい決断だったと思う。
ーそれで、保くんはこれからどうするつもりなのかしら?
秋穂が尋ねるように気になるのはそこだ。
ーうん。それがね、保くん……磯山のお義父さんたちの養子に入りたいって言ったんだって。そしたら、卓さんと兄弟になって直くんとも同じ苗字になれるからって。
ーえっ? そう、なのか……。
直くんと同じ苗字になるために、親戚になるために、考えた結果、寛さんと沙都さんの息子になる道を選んだのか……。
我が家としては寂しい決断だが、これ以上ないいい決断でもある。
ーでも名前が変わるだけだよ。お父さんとお母さんの家に一ヶ月おきに暮らすのは変わらないから。今まで通り、保くんのこと息子だと思って欲しい。だって、卓さんの義理の弟だもん。変わらないよ。
ーそうだな。
ーそうね。絢斗のいう通りだわ。保くんは保くんだもの。変わらないわ。今度みんなでお祝いしましょう。ね、賢将さん。
秋穂の笑顔にいつも救われる。
本当に秋穂がいてくれてよかった。
また連絡するねと可愛い息子との電話が終わり、私たちは手を繋いで二人で寝室に向かった。
保くんがいなくなって、夫婦二人だけの生活に戻った。
もちろん、秋穂との生活に不満はない。
だが、暮らしていた人数が減るというのはやはり寂しいものだ。
絢斗が卓くんと生活をすると言って我が家を出て行った日も同じように寂しかった。
それくらい保くんとの生活は、本当の息子と過ごすようで楽しかったんだ。
「秋穂……」
「賢将さん、置いて行かれた子犬みたいな顔をしてるわ」
「じゃあ、甘えさせてくれ」
秋穂の膝に頭を置いて、腰に抱きつくと秋穂の優しい手が私の頭をそっと撫でる。
こんな姿、秋穂にしか見せたことがない。
「毎日の送迎も楽しんでいたものね。賢将さん、あの時間が好きだったんでしょう?」
「そうなんだよ。会社に入っていく後ろ姿を見つめると、必ず振り返って笑顔で手を振ってくれるのも、仕事終わりに笑顔で車に乗ってきて、その日の出来事を話してくれることも、私の仕事の疲れを吹き飛ばすほど谷しい時間だった。保くんが帰宅して、秋穂に同じ話を楽しそうにするのを見るのも好きだったんだ」
「ふふ、昔の絢斗と同じね。桜守に送迎していた時もあなた同じことを言っていたわ。もう保くんは可愛い息子同然なのよね」
絢斗と同じ、か。
そうだな。あの時もあの時間が本当に好きだった。
「私たちには可愛い孫もいるのよ。明後日にはうちに泊まりにくるわ。一緒にお風呂に入って、川の字になって一緒に寝ましょう。幼いときの絢斗が戻ってきたように」
「そうだな。直くんとの日々もまた楽しいものになるな。ありがとう、秋穂」
秋穂がこうして甘えさせてくれるから、どれだけ私が救われているか。
「お礼はキスがいいわ」
そんな可愛いおねだりをされて受けないはずがない。
さっと起き上がって優しい笑顔を浮かべる秋穂の唇を奪う。
甘い唇を堪能していると、離れた場所でスマホが鳴る音が聞こえた。
この時間に電話など珍しいがまだ非常識という時間でもない。
秋穂とのキスを中断して電話をとりにいくと画面表示には絢斗の名前があった。
もしかしたら直くんが体調を崩したのか?
そうだとしたら主治医としてすぐに駆けつけなければいけないだろう。
とりあえず話を聞かなければ。
「秋穂、絢斗だから電話をとるよ」
秋穂が頷くのを見て電話をとる。
ーお父さん? 今大丈夫?
その明るい声に体調不良ではないとすぐに察した。
ー構わないが、どうした?
ーあのね、お母さんにも聞いてもらいたいからスピーカーにしてくれるかな?
ーわかった。
何か重大な話か? それにしては声がやたら明るいのが気になる。
秋穂の隣に戻り、スピーカーにすると秋穂が電話口の絢斗に声をかけた。
ー絢斗。どうしたの?
ーあのね、直くんが……卓さんの養子になることになったんだ。
ーえっ?
ー保くんが、直くんのためにそうしたいって決断したみたい。
これまではいつか保くんが直くんの父親に戻れるようにという考えで里親になっていたが、直くんのために保くんが決断したのか。彼にとってはかなり大きくて辛い決断だっただろう。
それでも彼のいう通り直くんのことを考えれば、いい決断だったと思う。
ーそれで、保くんはこれからどうするつもりなのかしら?
秋穂が尋ねるように気になるのはそこだ。
ーうん。それがね、保くん……磯山のお義父さんたちの養子に入りたいって言ったんだって。そしたら、卓さんと兄弟になって直くんとも同じ苗字になれるからって。
ーえっ? そう、なのか……。
直くんと同じ苗字になるために、親戚になるために、考えた結果、寛さんと沙都さんの息子になる道を選んだのか……。
我が家としては寂しい決断だが、これ以上ないいい決断でもある。
ーでも名前が変わるだけだよ。お父さんとお母さんの家に一ヶ月おきに暮らすのは変わらないから。今まで通り、保くんのこと息子だと思って欲しい。だって、卓さんの義理の弟だもん。変わらないよ。
ーそうだな。
ーそうね。絢斗のいう通りだわ。保くんは保くんだもの。変わらないわ。今度みんなでお祝いしましょう。ね、賢将さん。
秋穂の笑顔にいつも救われる。
本当に秋穂がいてくれてよかった。
また連絡するねと可愛い息子との電話が終わり、私たちは手を繋いで二人で寝室に向かった。
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