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番外編
自分を好きに
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「あ、あの……史紀、さん?」
「ごめん、ごめん。保くんの必死な顔が可愛くて」
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭うほど、何かツボにはいってしまったみたいだ。
僕、そんなおかしかったかな?
それに可愛いって……どこにそんな要素があったかもわからない。
とりあえず史紀さんが落ち着くのを待っていると、少し落ち着いたらしい史紀さんが僕に笑顔を向けた。
「保くんが男同士だからって気にするとは思ってないよ」
「えっ、そうなんですか?」
「だって、磯山先生と絢斗さんに大事な息子を託すくらいだからね。それにお二人が幸せな姿もずっと見ているだろう?」
その通りだ。卓さんと絢斗さんは男同士だとか年齢差とか何も気にならないくらい仲睦まじい。
寛さんと沙都さんも、賢将さんと秋穂さんもみんなみんな幸せで……人を好きになるのに性別って関係ないんだなってしみじみ思った。あんなふうに心から愛する人と一緒になれていたら、僕もきっと幸せに過ごせていたのにって思ってしまうほどだ。
「保くんが一番わかっているんじゃないかな、結婚するのに性別は関係ないって。異性と結婚したからって必ず幸せになれるわけじゃなくて、大切なのは相手だからね」
史紀さんの言葉が心に刺さる。そうだ、僕は幸せにはなれなかった。
「僕……家族がいなくてずっと寂しかったから、元妻からグイグイ来られて勢いに押されるがままに結婚してしまったんです。でも結婚するまではいろいろと尽くしてくれた彼女が結婚した途端、いつも文句ばかり言われるようになって、彼女の機嫌を損ねないようにするのに必死で、家族が増えたはずなのに心はずっと寂しくて……幸せになりたかったのにどこで間違えたんだろうってずっと思ってました」
「そうか、それは辛かったね」
「でも直が生まれて、自分に守らないといけないものができて自分の幸せより直を幸せにしようって願うばかりで、結局直を守ることもできなくて……直の幸せを願って、卓さんと絢斗さんに託したんです」
結局僕は何もできなかった。
自分が幸せになることも、直を幸せにすることも、守ることすらできなかった。
「それは違うよ。保くんは直くんを守るために磯山先生と絢斗さんに託したんだ。その願いは叶っているよ。それに保くん自身も幸せになる権利はあるんだからね。幸せな家族に囲まれて、保くんも幸せになろう。僕の幸せを分けるから、結婚式には絶対に出席して、ねっ」
「史紀さんの幸せを、僕に? そんな勿体無いですよ」
「僕の結婚式に参加してくれる人はみんな幸せだから。保くんにも今よりもっと幸せになってほしいんだ。それこそ、結婚したいほど好きになれる相手に出会えるかもしれないよ」
「そんな、僕なんか……」
僕の言葉を聞くや、史紀さんは笑顔のまま小さく首を横に振った。
「僕なんかって言葉は好きじゃないな。自分で自分を否定したら、自分が可哀想になるだけだよ。自分だけは自分を好きでいないとね」
「自分を好きに……」
いつだって自分が嫌いだった。
口下手でうまく気持ちを伝えられなくて、そんな自分に呆れていた。
でも磯山の家族も緑川の家族もみんな僕の気持ちを大切にしてくれた。
だから、今僕は幸せを感じられるようになったんだ。
「僕も自分を好きになったら、僕を心から好きになってくれる人に出会えますか?」
「絶対に出会えるよ」
「あの……史紀さんはお相手さんと初めて会った時から運命を感じましたか?」
「そうだね。初めて会った瞬間に、この人と一生を共にするだろうなって思ったよ。伊吹……彼のことだけど、伊吹もそう思ったみたい。だから、絶対に保くんも出会えるよ」
史紀さんがそう言ってくれると、本当にそうなるかもと思える。
「あのね、実は結婚式で考えてることがあって……保くんにはぜひその計画に乗ってほしいんだよ」
「僕でできることならなんでもしますけど、なんですか?」
「本当? じゃあもう決定だよ!!」
結局どんな計画か聞かないまま了承したことになってしまったけれど、その後絢斗さんたちも含めて打ち合わせに参加して僕は驚くことになってしまった。
<side卓>
休憩をしていた昼下がり、プライベート用のスマホに連絡がきた。
画面表示を見れば、相手は櫻葉会長。
何事かと思って慌てて電話をとった。
ーもしもし、磯山です。
ー忙しい時に悪いな。今は大丈夫かな?
ー大丈夫です。それで何かありましたか?
ー後で史紀からも連絡が来ると思うんだが史紀が結婚することになってね。そのパーティーをすることになったんだ。
ー史紀くんが? あの、お相手は?
ーもちろん安城くんだよ。彼しかいないだろう? 法律的には結婚という形は取れないが櫻葉家として、史紀と安城くんのきちんとした門出を迎えさせてあげたくてね。結婚パーティーということにしたんだ。
ーそうですか。二人も喜ぶでしょう。
ーああ、それで頼みがあって連絡したんだ。一花が結婚式でフラワーガールをすることになったんだが、君のところの直くんと昇くんにも頼みたくてね。できれば直くんには一花と同じくドレスを着てもらいたいんだ。
ー直くんにドレスを着せて、フラワーガールを?
ーそうだ。それで昇くんにはタキシードを着てリングボーイを頼みたいんだが、どうだろう?
直くんが可愛いドレスを着てフラワーガールを……。
想像するだけで可愛すぎる。一花くんも可愛らしいだろうな。
そして昇がリングボーイ……征哉くんの嫉妬を買いそうな気もするが……櫻葉会長からの頼みなら文句は出ないだろうな。
「ごめん、ごめん。保くんの必死な顔が可愛くて」
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭うほど、何かツボにはいってしまったみたいだ。
僕、そんなおかしかったかな?
それに可愛いって……どこにそんな要素があったかもわからない。
とりあえず史紀さんが落ち着くのを待っていると、少し落ち着いたらしい史紀さんが僕に笑顔を向けた。
「保くんが男同士だからって気にするとは思ってないよ」
「えっ、そうなんですか?」
「だって、磯山先生と絢斗さんに大事な息子を託すくらいだからね。それにお二人が幸せな姿もずっと見ているだろう?」
その通りだ。卓さんと絢斗さんは男同士だとか年齢差とか何も気にならないくらい仲睦まじい。
寛さんと沙都さんも、賢将さんと秋穂さんもみんなみんな幸せで……人を好きになるのに性別って関係ないんだなってしみじみ思った。あんなふうに心から愛する人と一緒になれていたら、僕もきっと幸せに過ごせていたのにって思ってしまうほどだ。
「保くんが一番わかっているんじゃないかな、結婚するのに性別は関係ないって。異性と結婚したからって必ず幸せになれるわけじゃなくて、大切なのは相手だからね」
史紀さんの言葉が心に刺さる。そうだ、僕は幸せにはなれなかった。
「僕……家族がいなくてずっと寂しかったから、元妻からグイグイ来られて勢いに押されるがままに結婚してしまったんです。でも結婚するまではいろいろと尽くしてくれた彼女が結婚した途端、いつも文句ばかり言われるようになって、彼女の機嫌を損ねないようにするのに必死で、家族が増えたはずなのに心はずっと寂しくて……幸せになりたかったのにどこで間違えたんだろうってずっと思ってました」
「そうか、それは辛かったね」
「でも直が生まれて、自分に守らないといけないものができて自分の幸せより直を幸せにしようって願うばかりで、結局直を守ることもできなくて……直の幸せを願って、卓さんと絢斗さんに託したんです」
結局僕は何もできなかった。
自分が幸せになることも、直を幸せにすることも、守ることすらできなかった。
「それは違うよ。保くんは直くんを守るために磯山先生と絢斗さんに託したんだ。その願いは叶っているよ。それに保くん自身も幸せになる権利はあるんだからね。幸せな家族に囲まれて、保くんも幸せになろう。僕の幸せを分けるから、結婚式には絶対に出席して、ねっ」
「史紀さんの幸せを、僕に? そんな勿体無いですよ」
「僕の結婚式に参加してくれる人はみんな幸せだから。保くんにも今よりもっと幸せになってほしいんだ。それこそ、結婚したいほど好きになれる相手に出会えるかもしれないよ」
「そんな、僕なんか……」
僕の言葉を聞くや、史紀さんは笑顔のまま小さく首を横に振った。
「僕なんかって言葉は好きじゃないな。自分で自分を否定したら、自分が可哀想になるだけだよ。自分だけは自分を好きでいないとね」
「自分を好きに……」
いつだって自分が嫌いだった。
口下手でうまく気持ちを伝えられなくて、そんな自分に呆れていた。
でも磯山の家族も緑川の家族もみんな僕の気持ちを大切にしてくれた。
だから、今僕は幸せを感じられるようになったんだ。
「僕も自分を好きになったら、僕を心から好きになってくれる人に出会えますか?」
「絶対に出会えるよ」
「あの……史紀さんはお相手さんと初めて会った時から運命を感じましたか?」
「そうだね。初めて会った瞬間に、この人と一生を共にするだろうなって思ったよ。伊吹……彼のことだけど、伊吹もそう思ったみたい。だから、絶対に保くんも出会えるよ」
史紀さんがそう言ってくれると、本当にそうなるかもと思える。
「あのね、実は結婚式で考えてることがあって……保くんにはぜひその計画に乗ってほしいんだよ」
「僕でできることならなんでもしますけど、なんですか?」
「本当? じゃあもう決定だよ!!」
結局どんな計画か聞かないまま了承したことになってしまったけれど、その後絢斗さんたちも含めて打ち合わせに参加して僕は驚くことになってしまった。
<side卓>
休憩をしていた昼下がり、プライベート用のスマホに連絡がきた。
画面表示を見れば、相手は櫻葉会長。
何事かと思って慌てて電話をとった。
ーもしもし、磯山です。
ー忙しい時に悪いな。今は大丈夫かな?
ー大丈夫です。それで何かありましたか?
ー後で史紀からも連絡が来ると思うんだが史紀が結婚することになってね。そのパーティーをすることになったんだ。
ー史紀くんが? あの、お相手は?
ーもちろん安城くんだよ。彼しかいないだろう? 法律的には結婚という形は取れないが櫻葉家として、史紀と安城くんのきちんとした門出を迎えさせてあげたくてね。結婚パーティーということにしたんだ。
ーそうですか。二人も喜ぶでしょう。
ーああ、それで頼みがあって連絡したんだ。一花が結婚式でフラワーガールをすることになったんだが、君のところの直くんと昇くんにも頼みたくてね。できれば直くんには一花と同じくドレスを着てもらいたいんだ。
ー直くんにドレスを着せて、フラワーガールを?
ーそうだ。それで昇くんにはタキシードを着てリングボーイを頼みたいんだが、どうだろう?
直くんが可愛いドレスを着てフラワーガールを……。
想像するだけで可愛すぎる。一花くんも可愛らしいだろうな。
そして昇がリングボーイ……征哉くんの嫉妬を買いそうな気もするが……櫻葉会長からの頼みなら文句は出ないだろうな。
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