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番外編
小さな温もり
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<side周平>
櫻葉グループの社長である史紀さんは幼稚園から大学まで桜守に通っていたこともあり、同級生ではないが敬介とは友人関係にある。その史紀さんがこの度結婚することになり、イリゼホテルで挙式&披露宴を行うことになった。
お相手は桜城大学法学部出身で弁護士資格を持っているが、現在は老舗和菓子店<星彩庵>の若き店主として働いている安城伊吹くんだ。私も敬介もこの店の和菓子は昔からよく食べているが、群を抜いて美味しい店だと思う。
彼らは私たちと同じく同性カップルで、その場合どちらもタキシードを着て結婚式を挙げる場合もあるが、この二人の場合は安城くんのリクエストを受ける形で、史紀さんがドレスを着ることになったそうだ。
史紀さんのたっての希望で、櫻葉グループ会長のご子息一花くんと、史紀さんの親友の息子……今は磯山先生と緑川教授の息子になっている直くんと、そして磯山先生の甥っ子の昇くんにフラワーガールと、リングボーイをしてもらうことになり、今日そのドレスの打ち合わせのためにやってきた私はイリゼホテルの大広間でドレスの準備をしていた。
どのようなドレスを作るか、わかりやすく見せるためにいくつかのドレスを見本として用意していたのだが、そのドレスを敬介に見てもらおうと奥から出てきた途端、敬介が可愛らしい子を腕に抱いているのが見えた。
その聖母のような姿に心ときめいた瞬間、その子が私を見て泣き出してしまった。
あまりの泣きように敬介が磯山先生にその子を渡すと、磯山先生が必死にあやす。
どうやらこの子がお二人の息子になった、直くんという子のようだ。
突然現れたから驚かせてしまったのかと思ったが、怖いという声が飛んできた。
敬介と緑川教授は笑っていたが、私は少なからずショックを受けた。
自分でも多少強面だと自覚はあるが、幼児から見ても怖がられるのか……。
これから一花くんも来ることになっているし、私は表には出ずに奥で作業をしておいた方がいいのかもしれない。
そう思ったが、敬介たちの取りなしもあって直くんが目を潤ませながらも私を見てくれた。
そして抱っこしてもらうという敬介の呼びかけに応えるように私の手を伸ばしてくれた。
近くで見たらまた泣かれるかもしれないと思いつつも手を伸ばし直くんを受け取ると、その小さな身体は私の腕にすっぽりとおさまった。
ああ、何て可愛いんだろう。
六歳下に弟がいて、生まれた頃のあいつを抱っこしたこともあるがこれほど愛おしさを感じたことはないかもしれない。
小さな温もりに思わず笑みが溢れる。
「周平さん、嬉しそう!」
敬介の言葉にハッとした。
私がこんな思いを抱くとはな……。
「ちゅーへーちゃ?」
「えっ?」
腕の中の直くんがまだ潤んだままの瞳で何度もちゅーへーちゃと呼んで、その小さな腕を伸ばしてくる。
一体何のことだろう?
気になって緑川教授と磯山先生に目を向ければ、緑川教授が笑って教えてくださった。
「周平くんのことを呼んでるんだよ。直くん、周平くんが気に入ったみたい」
どうやら私の名前を一生懸命呼んでくれていたらしい。
嬉しそうに私の名前を呼び、その小さな手で優しく私の頬に触れてくれる。
ああ、本当に可愛い。
「直くん、ありがとう。私が可愛いドレスを作ってあげるからね」
「どれちゅ?」
舌足らずな口調がなんとも可愛らしい。
「ちょっと待っててごらん。可愛いドレスを見せてあげるよ。磯山先生、直くんをお返しします」
直くんに一応声をかけ、磯山先生の腕に返してから、すぐ近くにあった子ども用の可愛いドレスを持って直くんの元に戻った。
「ほら、こんなドレスはどうかな? 直くんに似合いそうだ」
「わぁー! どれちゅ! かわいー!!」
ふんわりとした柔らかなドレスを見て、目を輝かせる直くんに私は笑顔が抑えられなかった。
櫻葉グループの社長である史紀さんは幼稚園から大学まで桜守に通っていたこともあり、同級生ではないが敬介とは友人関係にある。その史紀さんがこの度結婚することになり、イリゼホテルで挙式&披露宴を行うことになった。
お相手は桜城大学法学部出身で弁護士資格を持っているが、現在は老舗和菓子店<星彩庵>の若き店主として働いている安城伊吹くんだ。私も敬介もこの店の和菓子は昔からよく食べているが、群を抜いて美味しい店だと思う。
彼らは私たちと同じく同性カップルで、その場合どちらもタキシードを着て結婚式を挙げる場合もあるが、この二人の場合は安城くんのリクエストを受ける形で、史紀さんがドレスを着ることになったそうだ。
史紀さんのたっての希望で、櫻葉グループ会長のご子息一花くんと、史紀さんの親友の息子……今は磯山先生と緑川教授の息子になっている直くんと、そして磯山先生の甥っ子の昇くんにフラワーガールと、リングボーイをしてもらうことになり、今日そのドレスの打ち合わせのためにやってきた私はイリゼホテルの大広間でドレスの準備をしていた。
どのようなドレスを作るか、わかりやすく見せるためにいくつかのドレスを見本として用意していたのだが、そのドレスを敬介に見てもらおうと奥から出てきた途端、敬介が可愛らしい子を腕に抱いているのが見えた。
その聖母のような姿に心ときめいた瞬間、その子が私を見て泣き出してしまった。
あまりの泣きように敬介が磯山先生にその子を渡すと、磯山先生が必死にあやす。
どうやらこの子がお二人の息子になった、直くんという子のようだ。
突然現れたから驚かせてしまったのかと思ったが、怖いという声が飛んできた。
敬介と緑川教授は笑っていたが、私は少なからずショックを受けた。
自分でも多少強面だと自覚はあるが、幼児から見ても怖がられるのか……。
これから一花くんも来ることになっているし、私は表には出ずに奥で作業をしておいた方がいいのかもしれない。
そう思ったが、敬介たちの取りなしもあって直くんが目を潤ませながらも私を見てくれた。
そして抱っこしてもらうという敬介の呼びかけに応えるように私の手を伸ばしてくれた。
近くで見たらまた泣かれるかもしれないと思いつつも手を伸ばし直くんを受け取ると、その小さな身体は私の腕にすっぽりとおさまった。
ああ、何て可愛いんだろう。
六歳下に弟がいて、生まれた頃のあいつを抱っこしたこともあるがこれほど愛おしさを感じたことはないかもしれない。
小さな温もりに思わず笑みが溢れる。
「周平さん、嬉しそう!」
敬介の言葉にハッとした。
私がこんな思いを抱くとはな……。
「ちゅーへーちゃ?」
「えっ?」
腕の中の直くんがまだ潤んだままの瞳で何度もちゅーへーちゃと呼んで、その小さな腕を伸ばしてくる。
一体何のことだろう?
気になって緑川教授と磯山先生に目を向ければ、緑川教授が笑って教えてくださった。
「周平くんのことを呼んでるんだよ。直くん、周平くんが気に入ったみたい」
どうやら私の名前を一生懸命呼んでくれていたらしい。
嬉しそうに私の名前を呼び、その小さな手で優しく私の頬に触れてくれる。
ああ、本当に可愛い。
「直くん、ありがとう。私が可愛いドレスを作ってあげるからね」
「どれちゅ?」
舌足らずな口調がなんとも可愛らしい。
「ちょっと待っててごらん。可愛いドレスを見せてあげるよ。磯山先生、直くんをお返しします」
直くんに一応声をかけ、磯山先生の腕に返してから、すぐ近くにあった子ども用の可愛いドレスを持って直くんの元に戻った。
「ほら、こんなドレスはどうかな? 直くんに似合いそうだ」
「わぁー! どれちゅ! かわいー!!」
ふんわりとした柔らかなドレスを見て、目を輝かせる直くんに私は笑顔が抑えられなかった。
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