虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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番外編

ドキドキのドレス選び

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「とりあえずどのラインのドレスが一番よく似合うか見てみましょう」

お義母さんの声掛けであっという間にドレス選びが始まってしまった。

「あの、どのラインって……?」

言葉の意味がわからなくて尋ねると、絢斗さんたちが一斉に立ち上がっていろんな場所からドレスを持ってきてくれる。

「ドレスの形にはおおまかに十タイプくらいあるのだけど、その中でも一番わかりやすいものを見せていくわね。絢斗くんが持っているドレスがAラインと言われるドレスの形。上半身はすっきりとしていてウエストから裾にかけて少し広がっていく感じね」

これが定番の形なんだろうか?

お互いに両親も親戚もいなかったし、友人たちだけをよんで大袈裟にするのも気が引けるということで写真だけは撮りたいと言ってきた美代の要望で二人で写真だけは撮ったのを覚えている。
あの時、美代が着ていたのはどんな形だったか?
出張明けであまり寝ていないまま撮影に連れて行かれたから体調が悪くてあまり覚えていないけれど、こんな形じゃなかった気がする。

「保くん? 大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です」

いけない、いけない。
余計なことを考えていてぼーっとしてしまっていた。

「それじゃあ次のドレスね。これはプリンセスラインと言って――」
「あっ!!」

二葉さんが見せてくれたそのドレスを見て思わず大きな声が出た。
どんなドレスだったか、こんなにも綺麗なデザインではなかったけれどその名前とふんわりとした形を見てあの時の情景が浮かんだ。

「どうかした? 顔色が少し悪いみたい」

「あの、ちょっと以前のことを思い出してしまって……」

そう告げただけでお義母さんも秋穂さんも絢斗さんも察してくれたのか、すぐにそのドレスを下げてくれた。

「ごめんなさいね。嫌なことを思い出させたわ」

お義母さんと秋穂さんがそっと僕の身体を支えてくれて近くにあった椅子に座らせてくれる。

「すみません。僕……」

「いいのよ、気にしないで。元々このタイプは保には似合わないと思っていたの。ドレスの形を教えるために見せただけだから。ねぇ、二葉さん」

「はい。保さんには多分、こっちの形のドレスが似合いそう」

さっとどこかからか持ってきてくれたドレスを僕に見せてくれる。

「これ! どうかしら?」

胸の下で切り替えがあってスカートの部分が多く見えるドレス。

「あら、エンパイアラインのドレスね。ええ、すごくよく似合うわ」

一花くんのお母さんの麻友子さんが笑顔で声をかけてくれる。

「これはワンピースにもよく似た形だから着やすいのはあるかもしれないわね」

「あとはこっちのラインかしら?」

秋穂さんが見せてくれたのはストンとしたラインのドレス。

「これは……?」

「これは、スレンダーラインと言って細身のドレスなの。背が高くてスリムな体型の人によく合うドレスだから保くんにも似合うと思うわ」

それ以外に膝上のミニ丈のドレスやレースの袖がついたおしゃれなドレスもあってどれがいいのか悩んでしまう。

「実際に着てみてから選んだほうがわかりやすいかもしれないわね」

「えっ、試着……ってことですか?」

「ええ。そうじゃないとわからないもの。私がお手伝いするから試着室に入りましょう」

お義母さんに手を取られて試着室のカーテンを開けるとそこには広々とした部屋に大きな鏡が設置されていた。

「うわっ、すごい!」

「ドレスを着るお部屋だもの。当然よ。とりあえず何から着てみましょうか?」

「あ、えっと……さい、しょの?」

「ええ、じゃあそれから着てみましょう」

お義母さんが最初のドレスを受け取っている間に僕は部屋の隅っこでドレス用の下着に着替えることになった。
下着は太ももの半分くらいまであるピッタリとしたスパッツのようなもの。締め付けられている感じはするけれど苦しくなくていい。

上半身はコルセットのような形の下着。
難しそうと思ったけれど前でボタンを閉めるタイプだったから一人でも楽に着ることができてホッとした。

鏡で見るとなんとも不思議な格好で恥ずかしくなるけれど、ここまできたら後戻りはできない気がする。

お義母さんがドレスを手に戻ってきて僕の姿を見て笑顔を見せてくれる。

「あら、よく似合ってるわ。それじゃあドレスを着てみましょうね」

淡い水色のAラインのドレス。柔らかい素材でなんだか心地良い。

「周平くんのドレスは本当に軽くて柔らかくて素敵ね。これなら何時間着ても疲れないでしょうね」

そうか、女性は僕よりももっと体力がないから軽くて柔らかいドレスは楽に着られていいんだろうな。
このドレスを作った人はそういうこともちゃんと計算して作っているんだろう。
すごい人だな。
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