盲目少年に恋しイタチザメ

水野あめんぼ

文字の大きさ
29 / 45
本編

第二十八話:過去への自責

しおりを挟む
「さっき、ホルガー王子にもあってね。悪癖を治すつもりらしいって言ったら丁度良かったかもっていってくれたんだ」

ノゼルはホルガーとさっき会って、悪癖を治すためのこの薬を渡してくれたことを話してくれた。ホルガーは琉璃のために悪癖を治そうと考えていた砕波の思考を見抜いていた証拠だった。

「そうか……」
「ホルガーもメイルたちもやったらしいけど、飲んだ後酷い頭痛症状に悩まされるから覚悟して飲めとさ」

忠告する理由はこの薬を飲んだ時に酷い頭痛症状に苛まれるとは知っていたが、ここまで忠告すると言うことはホルガー達も経験者だからなのだろう。
だが、今はまだ飲まない。

飲む前に、やらなければいけないことがまだ残っているからだ。

「……ありがとう」

「ーーさあて、取り掛かるためにちょっと道具倉庫まで行きましょうかね。二人ともちょっと待っててよ。2日後にはこっちに戻るからそれまでなにかしてなさいよ。ノゼル、冷蔵庫にアイスあるから食べていいよ。」
「あいよー」

ノゼルにお礼を言って、砕波はポケットに治療薬を仕舞った。今度はフリッグが下半身のズボンを素早く脱ぎ捨てて、ここから少し深いところにある隠れ家に行くために薬造りの為に海に飛び込んだのだった。

「出来たらノゼルが迎えに行くから、2日間二人の好きにしていてね」

そう言ってフリッグは海の中へ潜って行った、ノゼルは「アイスアイス」と言いながら体を拭いてダグラスの元に行く。

「おーい、せっかくだしお前達も食っていきなよ」

「アイスか……せっかくだし食いに行こうか」
「――うん!」

 琉璃は好物のアイスを貰おうと言う提案に乗って、嬉しそうな表情を浮かべていた。

「人間って食文化広いよねぇ~、詠寿王子が人間たちを高評価するの分かる気がしやすわ」


「現金だな~、人間は悪い奴らもいるから気をつけなさいよ」
「分かってるよ」

ダグラスからアイスを貰って美味しそうに頬張るノゼルは、詠寿が人間に友好的になるのもなんとなくわかると呟きつつ味を堪能する。
ダグラスはノゼルの発言に心配しつつコーヒーを入れ、琉璃は美味しそうにアイスを頬張っていた。

「手伝いはしなくてもいいの?」

「ーーん? あぁ、いいんだよ。アタシがいたら余計邪魔になるしフリッグはだから」

琉璃はノゼルにフリッグの魔法役生成の手伝いをしなくてもいいのか尋ねるとそう答え、海の方を眺めていた。

「そうだ、薬が出来るまでに行っておきたいところがあるんだけど……砕波さん良いかな?」

「……?」

琉璃は何か2日間の時間を潰せるものの提案をしたそうだった、琉璃が提案したのは水族館に行こうというものだった。琉璃が行きたいのは琉璃曰く最後に父たちと一緒に言った水族館らしいので、思い出があるから東の人魚界に行く前に行きたいと言うものらしい。

「そう言うことなら……」
「ありがとう」

これを断るわけにはいかない、しかし場所は憶えているのか尋ねてみると……

「俺が場所知っているから、この住所を辿っていけ。鉄道に行きゃすぐだ。」

そう言ってダグラスはメモ帳を引っ張ってその水族館のある住所と降りる鉄道を書き記し、それを破って琉璃に手渡した。

――そして翌日、久々に琉璃とのデートだった。

今回はダグラスたちはおらず二人っきりでの……。

琉璃も休日だったのが好都合だった、そして住所を辿って父たちと行った思い出の水族館に向かって行く。砕波が鉄道に初めて乗ってそわそわしていた、その様子を隣で見て琉璃はくすくすと笑っていた。

琉璃はずっと窓越しで景色を見ていた、琉璃は「あっ、あの建物古くなっちゃってる」等と呟いている。

「記憶にあるのか……?」

窓から眺める景色に見覚えがあるのか聞くと、琉璃は……

「うん、お父さんたちと一緒に。でも大分景色変わっちゃったな」

自分の目が見えていない間に景色は大分変ってしまっていたが、懐かしく思って外を見てしまうと琉璃は感慨深そうに言う。

 そうこうしているうちに、琉璃が行きたがっていた水族館にまで無事辿りつくことが出来た。

「わぁ、あんまり変わってない。なつかしい」

そう言って琉璃は砕波の手を引いて大はしゃぎしている、琉璃の楽しそうな表情を見て砕波もふと笑みがこぼれた。

中に入ると、たくさんの種類の魚が砕波たちを迎えてくれていた。小さい魚や大きな魚、もちろん琉璃の好きな鮫もいた。

ふれあいコーナーもやっていて、琉璃は楽しそうだった。

「ーーおっ、ガラ・ルファだな。東の人魚界の王宮の湯治係の5つ子はガラ・ルファだぜ」
「へぇ~、天職だね」

琉璃は東の人魚界の一部の召使いの魚種を教えられて感嘆の声を上げて、ガラ・ルファの入った水槽に手を突っ込んで水中でひらひらと手を動かすとガラ・ルファは近づいて琉璃の皮膚の古い角膜を食べていく。

しかし見ている分楽しいが歩き疲れた為、水族館にある喫茶店で足を休めていた。

「ーーふふ、久々ではしゃぎ過ぎちゃったな」

二人でコーラ・フロートを頼み、琉璃は一息ついてコーラ・フロートのアイスを頬張る。

「ここのアイス・フロートのアイス、いつもミコトが食べさせてくれたんだよね……」

「……!」

注文したコーラ・フロートを感慨深そうに見つめ、琉璃は思い出話をポロリと口にした。

「……ミコトも、お前に目をくれたデヴィットってやつとここに来たことあったのか?」

「……うん」

琉璃はこの水族館は父たちだけの思い出だけではなく、デヴィット、ミコトを含んだ二人で遊びに行った思い出もあることを話した。目は見えなくて魚の姿も想像するほかなかったが、そのたびにミコトが魚の色はどんな色か教えてくれていたという。

「そうか……。」
「ーー率直に聞くね? 砕波さんは、?」

琉璃は、過去の事もあって砕波自身の中ではミコトの印象は悪いのではないかと聞いて来た。

それを聞かれると砕波は複雑そうな表情を浮かべた、ミコトは不良仲間に友人だった琉璃を……。
そう考えると、許せない感情はやはりあるにはあるのだ。でもミコトが嫌いだと言うオーラを出すと、琉璃は悲しそうな表情をするのだ。

「正直言って良くねえよ……。琉璃にあんな目に遭わせやがったあいつを」

 ミコトが琉璃に酷いことをしたのは既成事実、あの時早く助けてやれなかった自分も許せないが、琉璃の気持ちを無碍にしたミコトも許せなかった。

「でもね、ミコトは……本当に優しい子だった。でも、ミコトがああなっちゃってって思ったりするの」
「何でだよ……?」

前々から気付いてはいたが、琉璃は妙にミコトを庇う言動をする。それがなぜなのか砕波にはわからない、何故あそこまでミコトを庇えるのか問いかけてみる。

「ごめんなさい、こんなこと言っても仕方ないよね。でも本当にあのころは3人一緒に居られて楽しかったし……二人とも友達でいてくれた」

「……」

――ポタッ

「でも、どうして……こうなっちゃったんだろう? ミコトもああなっちゃって、デヴィットがああなっちゃって……。ぼくがいない方が、良かったんじゃないかなって思ったりするの」

自分の言動のせいで、ミコトはああなってしまった。自分があの日、デヴィットに連絡しなければデヴィットは生きていられたのではないかと考えが過ってしまうのだった。そう思うと涙が、ぼろぼろと出てきてしまう……。

「どうしてあんな風になっちゃったんだろう……」

ミコトはデヴィットの死を見てショックを受けて責任を感じて少年院に行っても面会謝絶、連絡謝絶するようになってしまった。デヴィットは自分が連絡したことで事故に巻き込まれて命を落としてしまった。

あのころの三人が何故バラバラになってしまったのか。自分が居なければ、ミコトもあんな風にならなかったのではという考えに至ってしまう…。

「――お前のせいじゃねえよ……!」

琉璃は、昔を思い出すと友情に亀裂が入ってしまった事に非常に責任を感じているように思えた。これも全部目の見えなかった自分が悪いのだ、と……。

「ーー泣くなよ琉璃、お前のせいじゃねえって」
「でも、でも……!」
「――いいから泣くなって!」

琉璃は続けたそうにひゃっくりをあげて嗚咽を漏らす、琉璃が泣いていることに気付いた観光客が何事かと琉璃達がいる方向を見ていたが、砕波はなりふり構わず椅子から立って琉璃を胸に抱いた。

「お前はんだよ、誰も目の見えないお前を責めなかったじゃねえか」

琉璃はミコトに怒ってもいい立場なのに、以前まで盲目だったのだから仕方ないのにここまで責任を感じている。

「仮に、デヴィットが死んじまったのもミコトがぐれたのもお前のせいだってダグラスやフリッグや伯父さんは?」
「……っ」

ダグラスもフリッグも目が見えても見えていなくても琉璃に優しいし、伯父家族も琉璃を大切にしている。それでなければリタを雇うはずがないし、車で送り迎えなんてしてくれるわけがない。デヴィットも琉璃が好きじゃなかったらもし自分の身に何か起こったら琉璃に目を与えたいなんて発言を父親に漏らしたりしないだろう。

――これは砕波にだって分かる。

「それに、……。もう二度とそんなこと言うんじゃねえ」

初めて会ったあの時、琉璃が見つけてくれなければ自分は脱水症状と足を怪我した状態で干からびていたに違いなかった。琉璃が見つけてくれなければきっと……。

「皆、琉璃が好きだからああやって気にかけてくれるんだろうが……俺だってそうだ。だからもう二度とそんなこと言うんじゃねえ」
「ありがとう、砕波さん……」

砕波は、自分を責めるような言い方はもうしないでほしいと言った。琉璃はずっとひゃっくりをあげたままだったが、すこしずつ落ち着いてきていた。

「ミコトに、会いたいのか……?」

こくん……

こんなことを話すのは、ミコトに会いたいからなのか聞くと琉璃はゆっくりと頷いた。

「でも、面会謝絶にされていて……」
「……俺はあいつの事は許せねえが、お前にとって大事な友達だっていうのは良く分かった。」

自分の中ではミコトは琉璃を傷つけた憎き相手、でも琉璃にとってあんな風に拗れてしまっていたとしても大切な友達に変わりはない、それだけは分かる。

「それで、んだ……?」

「…――。」

琉璃は何かミコトに言いたいのか聞いてみると、琉璃は小声でミコトにしてあげたいことを砕波に告げる。

「――!?」

その言葉に砕波は意外そうな顔をした。

「そこまであいつのこと、捨てきれねえのか」
「……うん」

ミコトに会ったらミコトにしてあげたいこと、琉璃は心の奥でもう決まっていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

処理中です...