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後日談
後日談④
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――琉璃は砕波が帰ってくるまで待つことにした、どう反応するか分からないがミコトのことをちゃんと話し合おうと決めていた。
そして夜11時ごろ、漸く砕波が帰ってきた……。
--カチャッ
「ただいま、まだ起きてたのか?」
「おかえりなさい」
砕波は軽い変装を解いて琉璃がまだ起きていたことを問いかけた。
「うん、ちょっと話をしたいことがあって……」
「--?」
砕波にミコトの件で話があり、今まで起きていたことを明かし実はミコトが見つかった事やミコトが自殺未遂をしようとし偶然通りかかったノゼルの兄弟に命を救われ命は取り留めたこと、フリッグが手をまわしてくれたおかげでミコトと面会は出来るようにはなったものの出入り許可証が有効になる日が砕波の2回目のライブと重なってしまうことを話した。
ミコトが過去に琉璃に酷いことをしたとはいえ、ミコトが死のうとしたことを知って砕波は言葉が出なくなっていたようだった。
「そうか、寺院は魔法使い関係者か寺院関係者と寺院で入院してるやつら以外いくら王族でも出入りは難しいんだったな……」
テレビ局を出入りしていた時、人魚界の寺院の存在を知ったテレビ局の人間が取材目的で来たが所謂企業秘密漏えいにつながりかねない為許可が下りなかったことで歯軋りをしていた取材担当のディレクターが愚痴っていたことを思い出しながら、それがたとえ王族でも厳しく取り締まることを砕波は寺院のルールを思い出していた。
「許可証もたしかかなり期限短いはずだしな……すぐ通してもらうならそこの最高責任者に泣きつくしかねえくらいだしな」
許可証の機嫌もかなり短いうえにすぐにでも寺院に入りたいなら最高責任者に会って縋りついてでもお願いしなくてはいけないほど寺院の出入りは厳しい、砕波が琉璃が申し訳なさそうな態度を出していることを漸く知った。
「ミコトに、会いたいんだな?」
二人の過去を知る事は出来なくとも琉璃はミコトを捨てきれないほど心配していたことは分かっている、許可証を貰ったはいいがライブと予定が被ってしまって申し訳ないと思っていると察した。
「ライブ聞きたいのは嘘じゃない、でも……今ミコトに会わないとミコトはきっとどんどん駄目になる。」
ミコトの精神状態は自殺未遂するくらい今かなり病んでいる、自分が会って話をつけなければ今は寺院の者たちが目を光らせてくれているからいいもののミコトがまた手首を切らないとは言い切れない。
「ごめんね、砕波さん……でも、ぼく仲直りしたい。ちゃんとミコトと話をしたいの」
「……」
ライブのプラチナチケットまで用意してくれていたほど自分が来るのを期待してくれていたのはうれしいが、ミコトにちゃんと会って話し合いたいと琉璃は頼む。砕波は複雑な表情を浮かべると……
「正直、ミコトのことは許せてねえ……人の事言えねえけどあいつは琉璃に酷い事したのは事実だ。」
琉璃を不良仲間を呼んで輪姦させた怒りはまだあるし、そもそも少しのすれ違いで仲違いしてしまったとはいえ友人だった琉璃をあんなふうに辱めたミコトの事を思うとまだ許せないが琉璃とミコトの関係で思うことは少しあるのだ。
「俺さ、親父と縁を切っただろ? あの人が俺とお袋にとった態度を改めてくれるなら許したかったし、愛せるなら愛したい気持ちはあった。」
「……?」
不仲である父親と縁を切って今新しい人生を歩んでるが、縁を切る前に思っていたことを明かす。
「でも、もう駄目だって思って……切った。後悔はしないと決めたつもりでもやっぱりどこかに負い目はある。でも、こうしなきゃお互いの為じゃないって思ったんだ。」
親と縁を切るなんて大層な事なかなか出来る者なんていないだろう、腐っても親と思っていたら。
しかし、父は自分への態度を変えようとしてくれず失望して結果縁を切ってしまったが縁を切ってもどこか心が晴れやかになれずにいる自分がいることを砕波は話す。例え嫌いでも父を信じたい気持ちもどこかにあったのだろうと砕波は縁を切ってからの自分の心情を語る。
「でも、琉璃達の場合は違うだろ……? ミコトは後悔してるって言ってるし自殺するくらいだったんだろ?」
しかし、琉璃とミコトは自分たち親子とは違う。
ミコトは琉璃を傷つけてしまった過ちは犯したがそのことをちゃんと悔いてくれていると、さっきの話で分かった。
「正直、ミコトのこと生きててくれてよかったって思ってるんだぜ? だって死んじまったら……お互いに言いたかったこと言えずじまいだっただろうし。」
ミコトが生きててくれなければ琉璃は悲しみに明け暮れ話すことも話せなかった後悔をずっと引きずり続けること間違いなかったため、ミコトが命を取り留めてくれていたことは内心安堵していると砕波は言うと……
「話して来いよ、互いに生きていても関係が何も修復できなかった俺とは違って琉璃はまだ関係を修復できるんだからよ」
今ならちゃんとやり直せる、ずっと仲違いしたままで後悔したくないならいっそ仲を修復させた方がいいとミコトとの面会を後押しする。
「ライブの事は気にすんな、こっちにたまたま来てくれてるリゼットに渡すよ」
「ありがとう、砕波さん……!」
砕波はミコトを優先することを許してくれた、琉璃はミコトと会うことを許してくれた砕波に抱きつく。
「その代り……」
「……?」
「――戻ってきたら指定する場所に来てくれるか?」
ライブに来られないことになった琉璃に変わりのものを用意しようとしてくれているらしく、砕波はミコトとの面会を終えたら必ず自分が指定する場所に来てほしいとお願いしてきた。
「――うん!!」
琉璃は強く頷き、ライブよりミコトとの面会を優先してくれた砕波のためにも必ずミコトと話をつけようと思うのだった。
――そして、ライブ当日。
琉璃はいけなくなったライブ会場がある方角を名残惜しそうに見ながらも、フリッグが呼んでくれた迎えのイルカ車に乗るのだった。
「ミコト……」
南の人魚界にて、ミコトとの涙の再会を果たすのはまた別のお話……。
寺院に行ってミコトと話をつけてきた琉璃はイルカ車から降りた後、ダグラスが待ち構えており砕波に頼まれて案内役を任されたと言い、ダグラスが運転する車に乗ると同行していたフリッグと一緒に砕波が指定した場所に向かった。そこは……、
「ここって……」
砕波が今所属するバンドが結成した場所でもあるあの練習場に使っていた貸しスタジオだった。
早速中に入ると貸しスタジオのお客である無名の他バンドメンバーらしき客やたまたま誰かを見つけて店に入ってきたと思われる女性客が目の前にたくさんおり、誰かにサインを求めていた。
「――“Tail of the shark”のレモンに会えるなんて! 歌何時も聞いてます!」
「どうしてここに!?」
「――他のメンバーは!?」
「確かライブ終わったばっかりでしたよね?」
目の前で複数で屯している女性客はサインを求めるだけではなく、どうしてこの貸しスタジオにいるのか質問攻めをしている。しかも中には、握手まで求めている女性客の姿すら見えていた。
――眼をこらえてよく見ると質問攻めに遭っている相手は、レモンだった。
「おぉーい、ユリちゃん!」
サングラスをかけたレモンが元気そうに手を振っている。
「レモンさん、大丈夫!?」
「あははは、出入りするところ見られちまってねぇ……人気になったのはうれしいけど大変でね。今、女性客に捕まっちまった」
貸しスタジオの中にファンの女性陣が紛れ込んでいたようで、レモンは正体に気付かれ捕まってしまったのだと話した。
「えー、何々? オトモダチ!?」
「いいなぁ~~」
レモンが琉璃に声をかけたこともあって女性陣の視線が琉璃へと移り、琉璃の立ち位置を羨ましがる。
「はいはい、サインはしてあげる。でもこの事は黙ってくれよ?」
きゃあ--っ!
サインはちゃんとしてあげるのでこれ以上琉璃を困らせないでほしいとレモンが頼むと女性陣はサインすると言う言葉に喜び、女性陣はメモ帳やらサイン色紙を取り出してレモンにサインをせがんでくる。
「あはは、当分こいつらここを練習所にして来れないなぁ」
「あはは……」
砕波も含め、バンドメンバーは楽器テクニックも凄いが皆顔も良いので女性ファンの心を掴むのもかなり容易かった。レモンも黙っていればイケメンなので“少しお馬鹿なチャラ男”なキャラとしてバンドメンバーの個性を引き立てていた。
サインを一通り終わるとレモンの前に屯していた女性陣はお礼を言いながら去って行った、レモンはライブを終えた後すぐこのスタジオに駆け込んだこともあってか少し疲れている顔を浮かべていた。
「ごめんなぁ、ユリちゃん。砕波のやつどうしてもここでやりたいって聞かなくてよ」
砕波が琉璃のために用意したサプライズをどうしてもバンド結成したこの場所に拘った為琉璃がちょっとした質問攻めのとばっちりを受けてしまったことにレモンは謝る。
「――いいえ、大丈夫です。」
「ふふ、ユリちゃんがそう言ってくれるならオレっち達も嬉しいや。それじゃあこのスタジオ開けてよ」
琉璃に貸してもらっているスタジオの扉を開けるようレモンは促す、何のサプライズか琉璃はどきどきしながらもそっと扉を開けると砕波たちが待ち構えていた。
そして砕波の合図でクラッカーが鳴り響き、琉璃は唖然とする。
「せーの……」
「――誕生日おめでとう!」
砕波の合図でその言葉を告げられた。琉璃は思い出した、そう言えば今日がその自分の誕生日だったのを……。
そこにはヘディ達だけではなくシエルたちも待ち構えていたのだった。
「琉璃、その……シエルから聞いてよ。ライブいけなくなった代わりにどうすれば良いかシエルに相談したらシエルが実は三日後琉璃は忘れてるかもしれないけど誕生日だと」
砕波が照れくさそうにサプライズを用意できた理由を、明かし始める。
実は3日前琉璃が行けなくなって詫びた少し前に、シエルからメールが来ており実はこの日に誕生日があるのでそれをサプライズとしてあのスタジオで個人ライブ開いてあげたらどうだと提案されたらしい。
そして琉璃が行けなくなったのでこの提案を採用しようとああ言ったと言う。
砕波は誕生日祝いもかねてその提案に乗ってこのサプライズを披露したと明かした。
シエルの方を見るとシエルはしてやったとでも言いたげに笑顔でピースを浮かべている、よく見るとシエルの後ろにはリゼットもおり微笑ましそうに二人の姿を見ていた。
「――じゃあ、始めますか」
「ユリちゃんの為の小さなスタジオ内でのミニライブ」
「とくとご覧あれ!」
バンドメンバーも2回目のライブの疲れを忘れたかのように、乗り気で自分のポジションに乗り出す。
「――じゃあ聴いてくれ」
琉璃達を背にボーカルの位置に着くと、ヘディの合図で新曲を披露し始める。
琉璃は拍手喝采で、休憩用のソファに座ってミニライブを愉しみ始める。
まさかこんなサプライズを用意してくれていたなんて、思ってもいなかった。
琉璃は今日泣いてばかりだなと思いつつも、今日は忘れられないとても幸せな誕生日になること間違いないと思った。そして神に心の中で感謝をするのだった……。
――あぁ、神様……愛しいイタチザメさんに会わせてくれて、本当にありがとう。
そして夜11時ごろ、漸く砕波が帰ってきた……。
--カチャッ
「ただいま、まだ起きてたのか?」
「おかえりなさい」
砕波は軽い変装を解いて琉璃がまだ起きていたことを問いかけた。
「うん、ちょっと話をしたいことがあって……」
「--?」
砕波にミコトの件で話があり、今まで起きていたことを明かし実はミコトが見つかった事やミコトが自殺未遂をしようとし偶然通りかかったノゼルの兄弟に命を救われ命は取り留めたこと、フリッグが手をまわしてくれたおかげでミコトと面会は出来るようにはなったものの出入り許可証が有効になる日が砕波の2回目のライブと重なってしまうことを話した。
ミコトが過去に琉璃に酷いことをしたとはいえ、ミコトが死のうとしたことを知って砕波は言葉が出なくなっていたようだった。
「そうか、寺院は魔法使い関係者か寺院関係者と寺院で入院してるやつら以外いくら王族でも出入りは難しいんだったな……」
テレビ局を出入りしていた時、人魚界の寺院の存在を知ったテレビ局の人間が取材目的で来たが所謂企業秘密漏えいにつながりかねない為許可が下りなかったことで歯軋りをしていた取材担当のディレクターが愚痴っていたことを思い出しながら、それがたとえ王族でも厳しく取り締まることを砕波は寺院のルールを思い出していた。
「許可証もたしかかなり期限短いはずだしな……すぐ通してもらうならそこの最高責任者に泣きつくしかねえくらいだしな」
許可証の機嫌もかなり短いうえにすぐにでも寺院に入りたいなら最高責任者に会って縋りついてでもお願いしなくてはいけないほど寺院の出入りは厳しい、砕波が琉璃が申し訳なさそうな態度を出していることを漸く知った。
「ミコトに、会いたいんだな?」
二人の過去を知る事は出来なくとも琉璃はミコトを捨てきれないほど心配していたことは分かっている、許可証を貰ったはいいがライブと予定が被ってしまって申し訳ないと思っていると察した。
「ライブ聞きたいのは嘘じゃない、でも……今ミコトに会わないとミコトはきっとどんどん駄目になる。」
ミコトの精神状態は自殺未遂するくらい今かなり病んでいる、自分が会って話をつけなければ今は寺院の者たちが目を光らせてくれているからいいもののミコトがまた手首を切らないとは言い切れない。
「ごめんね、砕波さん……でも、ぼく仲直りしたい。ちゃんとミコトと話をしたいの」
「……」
ライブのプラチナチケットまで用意してくれていたほど自分が来るのを期待してくれていたのはうれしいが、ミコトにちゃんと会って話し合いたいと琉璃は頼む。砕波は複雑な表情を浮かべると……
「正直、ミコトのことは許せてねえ……人の事言えねえけどあいつは琉璃に酷い事したのは事実だ。」
琉璃を不良仲間を呼んで輪姦させた怒りはまだあるし、そもそも少しのすれ違いで仲違いしてしまったとはいえ友人だった琉璃をあんなふうに辱めたミコトの事を思うとまだ許せないが琉璃とミコトの関係で思うことは少しあるのだ。
「俺さ、親父と縁を切っただろ? あの人が俺とお袋にとった態度を改めてくれるなら許したかったし、愛せるなら愛したい気持ちはあった。」
「……?」
不仲である父親と縁を切って今新しい人生を歩んでるが、縁を切る前に思っていたことを明かす。
「でも、もう駄目だって思って……切った。後悔はしないと決めたつもりでもやっぱりどこかに負い目はある。でも、こうしなきゃお互いの為じゃないって思ったんだ。」
親と縁を切るなんて大層な事なかなか出来る者なんていないだろう、腐っても親と思っていたら。
しかし、父は自分への態度を変えようとしてくれず失望して結果縁を切ってしまったが縁を切ってもどこか心が晴れやかになれずにいる自分がいることを砕波は話す。例え嫌いでも父を信じたい気持ちもどこかにあったのだろうと砕波は縁を切ってからの自分の心情を語る。
「でも、琉璃達の場合は違うだろ……? ミコトは後悔してるって言ってるし自殺するくらいだったんだろ?」
しかし、琉璃とミコトは自分たち親子とは違う。
ミコトは琉璃を傷つけてしまった過ちは犯したがそのことをちゃんと悔いてくれていると、さっきの話で分かった。
「正直、ミコトのこと生きててくれてよかったって思ってるんだぜ? だって死んじまったら……お互いに言いたかったこと言えずじまいだっただろうし。」
ミコトが生きててくれなければ琉璃は悲しみに明け暮れ話すことも話せなかった後悔をずっと引きずり続けること間違いなかったため、ミコトが命を取り留めてくれていたことは内心安堵していると砕波は言うと……
「話して来いよ、互いに生きていても関係が何も修復できなかった俺とは違って琉璃はまだ関係を修復できるんだからよ」
今ならちゃんとやり直せる、ずっと仲違いしたままで後悔したくないならいっそ仲を修復させた方がいいとミコトとの面会を後押しする。
「ライブの事は気にすんな、こっちにたまたま来てくれてるリゼットに渡すよ」
「ありがとう、砕波さん……!」
砕波はミコトを優先することを許してくれた、琉璃はミコトと会うことを許してくれた砕波に抱きつく。
「その代り……」
「……?」
「――戻ってきたら指定する場所に来てくれるか?」
ライブに来られないことになった琉璃に変わりのものを用意しようとしてくれているらしく、砕波はミコトとの面会を終えたら必ず自分が指定する場所に来てほしいとお願いしてきた。
「――うん!!」
琉璃は強く頷き、ライブよりミコトとの面会を優先してくれた砕波のためにも必ずミコトと話をつけようと思うのだった。
――そして、ライブ当日。
琉璃はいけなくなったライブ会場がある方角を名残惜しそうに見ながらも、フリッグが呼んでくれた迎えのイルカ車に乗るのだった。
「ミコト……」
南の人魚界にて、ミコトとの涙の再会を果たすのはまた別のお話……。
寺院に行ってミコトと話をつけてきた琉璃はイルカ車から降りた後、ダグラスが待ち構えており砕波に頼まれて案内役を任されたと言い、ダグラスが運転する車に乗ると同行していたフリッグと一緒に砕波が指定した場所に向かった。そこは……、
「ここって……」
砕波が今所属するバンドが結成した場所でもあるあの練習場に使っていた貸しスタジオだった。
早速中に入ると貸しスタジオのお客である無名の他バンドメンバーらしき客やたまたま誰かを見つけて店に入ってきたと思われる女性客が目の前にたくさんおり、誰かにサインを求めていた。
「――“Tail of the shark”のレモンに会えるなんて! 歌何時も聞いてます!」
「どうしてここに!?」
「――他のメンバーは!?」
「確かライブ終わったばっかりでしたよね?」
目の前で複数で屯している女性客はサインを求めるだけではなく、どうしてこの貸しスタジオにいるのか質問攻めをしている。しかも中には、握手まで求めている女性客の姿すら見えていた。
――眼をこらえてよく見ると質問攻めに遭っている相手は、レモンだった。
「おぉーい、ユリちゃん!」
サングラスをかけたレモンが元気そうに手を振っている。
「レモンさん、大丈夫!?」
「あははは、出入りするところ見られちまってねぇ……人気になったのはうれしいけど大変でね。今、女性客に捕まっちまった」
貸しスタジオの中にファンの女性陣が紛れ込んでいたようで、レモンは正体に気付かれ捕まってしまったのだと話した。
「えー、何々? オトモダチ!?」
「いいなぁ~~」
レモンが琉璃に声をかけたこともあって女性陣の視線が琉璃へと移り、琉璃の立ち位置を羨ましがる。
「はいはい、サインはしてあげる。でもこの事は黙ってくれよ?」
きゃあ--っ!
サインはちゃんとしてあげるのでこれ以上琉璃を困らせないでほしいとレモンが頼むと女性陣はサインすると言う言葉に喜び、女性陣はメモ帳やらサイン色紙を取り出してレモンにサインをせがんでくる。
「あはは、当分こいつらここを練習所にして来れないなぁ」
「あはは……」
砕波も含め、バンドメンバーは楽器テクニックも凄いが皆顔も良いので女性ファンの心を掴むのもかなり容易かった。レモンも黙っていればイケメンなので“少しお馬鹿なチャラ男”なキャラとしてバンドメンバーの個性を引き立てていた。
サインを一通り終わるとレモンの前に屯していた女性陣はお礼を言いながら去って行った、レモンはライブを終えた後すぐこのスタジオに駆け込んだこともあってか少し疲れている顔を浮かべていた。
「ごめんなぁ、ユリちゃん。砕波のやつどうしてもここでやりたいって聞かなくてよ」
砕波が琉璃のために用意したサプライズをどうしてもバンド結成したこの場所に拘った為琉璃がちょっとした質問攻めのとばっちりを受けてしまったことにレモンは謝る。
「――いいえ、大丈夫です。」
「ふふ、ユリちゃんがそう言ってくれるならオレっち達も嬉しいや。それじゃあこのスタジオ開けてよ」
琉璃に貸してもらっているスタジオの扉を開けるようレモンは促す、何のサプライズか琉璃はどきどきしながらもそっと扉を開けると砕波たちが待ち構えていた。
そして砕波の合図でクラッカーが鳴り響き、琉璃は唖然とする。
「せーの……」
「――誕生日おめでとう!」
砕波の合図でその言葉を告げられた。琉璃は思い出した、そう言えば今日がその自分の誕生日だったのを……。
そこにはヘディ達だけではなくシエルたちも待ち構えていたのだった。
「琉璃、その……シエルから聞いてよ。ライブいけなくなった代わりにどうすれば良いかシエルに相談したらシエルが実は三日後琉璃は忘れてるかもしれないけど誕生日だと」
砕波が照れくさそうにサプライズを用意できた理由を、明かし始める。
実は3日前琉璃が行けなくなって詫びた少し前に、シエルからメールが来ており実はこの日に誕生日があるのでそれをサプライズとしてあのスタジオで個人ライブ開いてあげたらどうだと提案されたらしい。
そして琉璃が行けなくなったのでこの提案を採用しようとああ言ったと言う。
砕波は誕生日祝いもかねてその提案に乗ってこのサプライズを披露したと明かした。
シエルの方を見るとシエルはしてやったとでも言いたげに笑顔でピースを浮かべている、よく見るとシエルの後ろにはリゼットもおり微笑ましそうに二人の姿を見ていた。
「――じゃあ、始めますか」
「ユリちゃんの為の小さなスタジオ内でのミニライブ」
「とくとご覧あれ!」
バンドメンバーも2回目のライブの疲れを忘れたかのように、乗り気で自分のポジションに乗り出す。
「――じゃあ聴いてくれ」
琉璃達を背にボーカルの位置に着くと、ヘディの合図で新曲を披露し始める。
琉璃は拍手喝采で、休憩用のソファに座ってミニライブを愉しみ始める。
まさかこんなサプライズを用意してくれていたなんて、思ってもいなかった。
琉璃は今日泣いてばかりだなと思いつつも、今日は忘れられないとても幸せな誕生日になること間違いないと思った。そして神に心の中で感謝をするのだった……。
――あぁ、神様……愛しいイタチザメさんに会わせてくれて、本当にありがとう。
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