まさか転生? 

花菱

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「こりぇは……どういうことでしゅか?」

 目の前には毛刈りしてスッキリとしていたのグランデシープ達の姿。

 なぜなのか、それは……子供達が毛刈り後の2~3倍くらいのモコモコと気持ち良さそうなモフモフへと大変身していたから。


 この空間は魔法で作り出した場所で、元々作物も生き物も育ちやすいって鑑定さんが言ってたし、実際に薬草を育てた時に一番最初は地属性魔法を使ったけど、それ以降は魔法も使っていないのに採取してもどんどん成長してくれるし品質も向上してくれる。

 でもだからと言って、刈った毛が伸びるのはどういうこと!? なんでだ~!?


[あのね、これね"のびろ~!"って、つよ~くかんがえたら、のびるんだよ!]

 はい? なんだそりゃ!?

[あそんでてね、"さっきまではだったのにね~"ってはなしてたら、のびたんだよ!]

 うん! 余計にわからん!

〔あ~、エア、分かってないのは分かるんだが、顔がひどい事になっているぞ〕

 おっと眉間にシワでも入ってましたか? でも、ビャクさんや"顔がひどい事"って何よ!? 乙女に向かって……。



〔子供達だけなのですか? 考えていたらとか、話していたらとの事でしたが、ちょっと試してみてくださいませんか?〕

 ん? 試す? なにをどうやって? ダメだ、驚き過ぎて……考えらんない。アサギちゃん達にまかせてみよう。

 癒しを求めて、ソラとツキを引き連れモコモコの子供達の中に突入~! モッフ~ン♪ あぁ~、極楽じゃ~。



[試す? 一体どうすれば……えっと……伸びろ~と強く念……(ボフンッ!)え?] 

 ん~? なに今の音、ボフンッて聞こえたけど……

「きゃ~!! にゃんでしゅかなんですか!? もちょじょうり元通りでしゅよ!?」

 音がした方を振り返ってみると、そこにいたのは出会ったときそのままのリーダーさん。


[う、動けない~。重い~、助けて~]

 今まで自然に使えていた風魔法も、突然の事に狼狽えて上手く対応できておらず、毛の重みで体は動いていないが、声だけはワタワタ・ジタジタしているのが伝わってくる。


 ところでこのリーダーさん。出会ったときは仲間のために身を盾にする格好良いリーダーだったのに、なぜだろうか? ドンドン最初の印象を裏切ってくれているのだが……それで良いのかリーダー!?


 急いで素材回収を行い、どうしてこうなったのかを聞いてみると、子供達が説明で話していたことをただ思い出し口にしていたら突然毛が元通りに伸びたらしい。

 急激な変化で体への異変を心配したが、問題ないというので一安心♪


[では、次は私がしてみます。子供達より長く、でも最初よりは短く……(ポフンッ!)] 

 いきなり光と音が起こり、その後に現れたのは出会った時と子供達の毛に対してちょうど中間位の長さまでに伸びた毛に覆われた一頭の雌。

[やった! 出来ました。身体に異変もありません、それどころか調子は良いままです♪]



 その後、成功した雌から、どうやったのかなどの説明を聞き他の子達の挑戦が始まったが、皆なかなか上手く出来ないものの、エアの素材回収スキルのお陰で"何の心配もない"とばかりに挑戦は続き、最終的には子供達も含め全員が希望通りの長さに出来るようになった。(もちろんリーダーもね)


 心配だった体調の異変も起こらなかったので結果としては良いのだが……何事にも加減という物があるのは知っているだろうか!?

 全員が奥義の習得が終了した時には、毛量合計1トンを超えていました!

 出会った時でさえ、大人たちは1頭で100キロ前後の毛量だったのに、何回か失敗なのか計画的なのか不明だが出会った時以上の毛量になってたからね!?


 なのにどの子も声をそろえて言うんです。

[これでいつでも希望があれば好きなだけを受け取ってもらえます!]

 なんてこと!? そんな自己犠牲は求めていませんよ!?

 ただ伸びた時で良いから、困らない程度に刈らせてもらえれば良かったんですよ……もちろん貰えるのなら無駄にはしませんけどね!?



 使い道は沢山ある。セーターやマフラー、寝具にも良いしカーペットも良いよね♪ 前世は羊毛フェルトもしたな~。

 でもまずは孤児院やトマスさん達それから住宅メンバーに、今よりもっと温かい毛布と、ザックさん達を含む全員に温かいマントかな?



 明日また来ることを伝えてから家に戻り、"蒼の剣"4人とトマスさん達に別荘に新しい仲間が増えた事の報告をしておくのを忘れていたのを思い出し、大慌て!!

「ちゃいへんでしゅ! おこりゃりぇりゅ~! うぎゃ~!」

 頭を抱えてワタワタしはじめると、その周りでソラとツキも一緒になって行ったり来たり。

 遊んでるんじゃありませんよ?


「びゃく、ぎん、あしゃぎしゃん! どうちよう!?」

「何をどうするんだ?」

「ひぎゃ~~!!」

 突然掛けられた後ろからの声に、思わず飛び上がって驚いてしまった。


「「「「うわ!?」」」」

「「「どうなさいました!?」」」 

「「「何かありましたか!?」」」

 エアの悲鳴に声を掛けた側はもちろん驚くが、悲鳴を聞き付けたトマス達もあわてて現場に駆けつけることになってしまった。




「それで? アワアワオロオロして、挙句声を掛けたら悲鳴を上げるような……何をした?」

 何という事でしょう。家族になってまだ日も浅いというのに、エアの事をよく理解している"蒼の剣"の4人。


 ジト目でエアを見つめる4人と、見つめられる中で徐々に小さくなってビャク達従魔のモフモフの毛に埋もれ姿を消していくエア……。
 5人と5頭の様子に訳が分かっていないながらも、今は空気になって見守った方が良いと察したトマス達。


 エアには当然だが嘘など言うつもりはないのだ、それでも小さくなって消えようとしているのには訳がある。

 報告が遅くなった事で注意はあるだろうがそれは平気。
 問題は……大人しいとはいえ魔物を勝手に保護して別荘に住まわせたことに対して、どんな反応が来るか予想が出来ない事だ。


べっちょう別荘じぇ、しぇちゅめー説明ちまちゅ」

 口で説明するよりも、実際に見てもらいつつ紹介した方が良いだろうと全員で移動する事になった時、グッドタイミングでダニエルさん達お店のみんなも帰って来たので、彼らへの説明はトマスさん達に任せ(訳が分かってないから説明できないけど)扉をくぐる。



「グランデシープ……それもこの数か……」

「毛皮は勿論ですが、そのも最高級品ですよ。彼らは襲っては来ませんがそれゆえに命を狙われるので、常に隠れていますからね」

「昔、毛布が欲しかったけど、とても買えない金額だったよ~」

「……でも気持ちいい」

 ザックさん達は呆れながらもエアの説明を聞き怒ることなく、ただ"もう少し早く教えてくれ"とだけ言って目の前にいるグランデシープの大きさに驚いていた。


「「「ふわぁ~、おっき~い、モフモフだ~」」」

「「「「話で聞いた事はありましたが……本当に大きいですね。気持ちいいです」」」」 

 今は適度にモコモコ状態になってもらって、モフモフをみんなで堪能中。チョ~気持ちいい~♪



 グランデシープ達だけでなく、ハニ―ビーとコッコそしてミューとも戯れた後で家に戻って夕食となったが、本日のメニューはこの世界の材料で作り上げた和食だ~!

 出汁は数種類のキノコを混ぜる事で代用出来たし、味見した感じでは成功だと思うんだよね~。

「「「「いただきます!」」」」


「……あ~! 今日も美味しい! 今日はエアちゃんの好きなお味噌の料理が多いね~」

「……美味しい……ほっとする」

「そうですね、お味噌というのはなぜかホッとする味ですね」

「美味いな~。マルセルとシモンもエアの料理が上手くなったな!」

「「「ん~!! おいしいね~」」」

 良かった口に合っているようだ。

 マルセルさんとシモンさんを見ると、みんなに褒められてとても嬉しそうに、ニコニコしながらも"次はこうしよう、あれと組み合わせてみてはどうだ?"とアイデアが尽きないようで話が止まらず、奥さんに注意されている。


 そんな中、今日見つけたを見せると、子供達は訳が分かっていないようだったが、大人たちは騒然とした。

 不味くて(傷んでいて)食べられないと思っていた物が調味料として使われていると聞けばそうなって当然だろうが、直接食べる物ではなく調味料となればすべての人の食生活が大きく変わるのだから。

 旅や遠征でお店もない所で食事をする場合、コウジの木は探せばどこにでもあり年中収穫できるので、超手抜きでも味噌和えなんかのおいしい食事が出来るようになるし、干し肉をかじるのに比べたら断然いいだろうし、ちょっと小鍋があれば干し肉も使ってスープとかも出来るしね!



「コウジの実って食べられたんだな、もっと早く知っていれば依頼で出た時とかもう少し旨いもんが食べられたのに」

「固いパンに固い干し肉だもんね~」

「まあまあ、これからは良くなるんですから」

「……もう絶対嫌だ!」

 ライルさん……切実ですね。

「ほちにく!」

 そうだ思い出した! 最初の日に買ってたんだよ~。インベントリを誤魔化すためにマジックバッグをガサゴソ。



「どうしたの~?」

 慌てたようにゴソゴソするので気になったんだろう。アーロンさんが心配そうに聞いて来たので正直に。

「わたち、かいまちた。ほちにく!」

「え……買ったのか? エアがわざわざ!? 干し肉を!?」

 答えたら今度はザックさんまで不思議そうにというか、正気を疑うような顔で……

「はい、しょうでしゅ」

「わざわざ、美味しくないのにですか?」

 うわ~、カイルさんがハッキリと言っちゃいけないセリフを言いましたけど~!? 干し肉屋さん大丈夫か!?
 

〔エアはどこに行ったとしても自分で料理をするという事を忘れていてな、冒険者が依頼の時に食べると聞いて買ったんだ〕

 あ!? ビャクったら秘密にすべき情報を!


「……不味いのに……どうするの?」

しょんにゃにそんなに!?」

 問い掛けにものすごく真剣な眼差しで力強く頷く元冒険者と現役冒険者、周りを見るとなぜか他の家族と子供達まで一緒になって頷いていた。

 これはマズイですよ!? すべてにおいて正直な子供達なんて、真顔どころか今まで見たことがないほど険しい表情になっています! これは相当酷いという事でしょう……。


「ぎゃ~~!? どうちよう!? にゃにかほうほうは!?」

 そんな不味い物はいくら何でもお断りです! そんなこと知らないで買っちゃいましたよ……。

「「ま、まぁ、なんとかなるさ~」」

 掛ける言葉の見つからない面々は、そっとエアから視線を外した……。

「ええぇぇぇ…………」

 誰か~、目を逸らしてないで助けてくださ~い!
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