という話

門松一里

文字の大きさ
49 / 66
「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話

「東アジアの思想」という話-19

しおりを挟む
「東アジアの思想」という話-19

【『老子』の思想的世界-5】
《「道」の比喩》
正統儒家の考え方を完全に否定したのが、『老子』第18章です。

「大道(たいどう)廃(すた)れて、仁義(じんぎ)有り。智慧(ちえ)出(い)でて、大偽(たいぎ)有り。六親(りくしん)和せずして、孝慈(こうじ)有り。国家昏乱(こんらん)して、貞臣(ていしん)有り」
「すぐれた真実の『道』が衰えて、そこで仁愛と正義を徳として強調することが始まった。人の知恵とさかしらがあらわれて、そこでたがいにだましあうひどい偽(いつわ)りごとが起こった。身内の家族が不和になって、そこで子供の孝行と親の慈愛が徳として強調されるようになった。国家がひどく乱れて、そこで忠義な臣下というものがあらわれた」――金谷治『老子』(講談社、1997年)P68
たぶん、『易経』から読み始めても、『老子』の「道」のなんたるかは理解できないでしょう。本来、「道」と私たちとの違いはありませんが、「デカルトの申し子」である私たちには、何か異質な感じがあって当然だからです。『荘子』ではそれを「物化(ぶっか)」としています。後述しますね。

解りにくいので、比喩を使ってみましょう。

儒家では「風が草をなびかせるように、君子の徳が小人を教化する」(『論語』「顔淵」)ことから「君子の徳は風」という比喩を使っています。

応用して、「道」と「徳」を、「大河(川)」と「水」だと考えてみましょう。
※私の考え方なので、学術的ではありません。

「いつのころからでしょう。慈しみの雨が降らなくなってしまいました。かつては溢(あふ)れんばかりの水(徳)を湛(たた)えていた大きな河(道)も水位が低くなり、川底が中州になりました。中州は干上がり、もはや陸(おか)になっています。今では大河(道)も小さな川(仁義)がいくつかあるばかりです。水(徳)が少なくなったので、悪知恵から嘘をついて水(徳)を手に入れる世の中になりました。昔は仲良くしていた家族でも同じことです。親はどの子もかわいいですが、やはり孝行してくれる子に水(徳)を与えるものです。水(徳)争いから国が乱れました。それでも忠義をつくす臣下はいつの時代もいるのです」

「大道廃れて、仁義有り」――容赦ないです。

老子は言います。「そもそもこうなったのも、あなたたち(儒家)の責任ですよね?」と。#blackjoke

そこまで言っていませんが、老子は「根本的なことをどうにかしましょう」と言っています。大河(道)が消えて、水(徳)が少なくなっているのに、小さな川(仁義)を喜んでどうするのかということです。

大河(道)を復活させるには、慈しみの雨(純粋無垢な徳)を降らせる必要があります。そのためには、個人の器を割って、たとえ一滴でもいいので小さな川に流す(仁義を行う)ことです。小さな川は、大洋に続きます。やがて慈雨も降るでしょう。

なお、比喩では『老子』の「道」を理解したことにはなりません。「道」と一つになり、それでいて個人があることです。

大久保健晴「思想を語る上で、右や左といった横方向だけでは不十分です。ぜひとも浅い深いといった縦方向も考えてください。単純な左右だけではなく、その深みを十二分に考えた思想を論じてください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

処理中です...