33 / 87
第三章
1
しおりを挟む
朝食を終えた後、グラハム以外の五人で片付けまで済ませると、ミルカはにこやかな雰囲気を途切れさせた。
「フィーネと二人だけにしてくれるかしら。少しお話しておきたいことがあるの」
ミルカにそう言われると三人は恭しく一礼し部屋を出て行った。私は何を言われるのか少しだけ緊張しながらミルカと向き合うと、そこには何故か少しニヤニヤした顔と鉢合わせる。
「フィーネのハートはとってもすてきな人ね」
これはアレだ。恋バナ大好き女子の顔だ。無駄に緊張して損した気分になりつつ、ミルカ特有の妙な呼び方について聞いてみる。
「はぁと?」
ハートはハートだと思うけれど、それが何を指すのかイマイチ分からない。いわゆるダーリンとかそういう感じの意味合いで使っているのかなと思ったのだけど、ミルカはじっと私を探るような目で見つめて「まだ何も知らないのね」と言った。
「彼はあなたのハート、命そのものなの」
曖昧な、それでもどこか決定的な言葉にどう反応したらいいのか迷っていると、ミルカは自分の胸に手を当てる。
「彼らがアタシたちに命をくれたのよ」
本気で意味がわからない。戸惑っていると、ミルカは私の手を取り(動揺しているのが手のひら越しに分かる)小さな胸にそっと押し当てた。
「ここで動いているでしょ。これは彼のものだったの」
ハート、心臓。これがグラハムのものだったとは、どういう意味なんだろう。まさか本当にそのままの意味だとしたら、ここが異世界だとしてもどう捉えていいのか、さっぱり分からない。大人と子供では心臓の大きさは違うだろうし……いやそんなことは問題じゃない。そもそも心臓を人に渡すということは持ち主の死を意味する。
「彼を心配しているの? 大丈夫、これは契約なのよ」
「けぇや、く」
「そう……契約。アタシとディノは二人で一人なの。アタシが生きている限り、ディノは死なない。彼の命はここにあるから」
ミルカのどこか遠くへ向ける眼差しは、誇らしくもあり少し悲しげだった。小さく息を吐くと、ミルカに愛らしい笑顔が戻る。
「フィーネのハートは優しい人ね」
私はグラハムのことをまだ何も知らない。けれど、どうしてかミルカの言葉に全力で頷いていた。
少し長くなるから座りましょう。そう前置きされたので、クッションを床に敷き、二人で簡易ソファーのようなものを作って、肩を寄せ合い座った。ミルカが私の手を握るので、ぎゅっと握り返すとくすぐったそうに笑ってくれる。
「フィーネは生まれた時を覚えている?」
生まれた時、私が意識を取り戻した日のこと……ではないと思い、首を左右に振る。
「アタシたちは世界そのものが産み落とす子供ならしいの。だから、お父さんもお母さんもいないのよ」
いきなり異世界ハードル高い。根本的に違う気はするけど、錬金術とかの漫画にあるホムンクルスとかそういう感じなのかなと無理やり納得しておく。
「生まれてくる時に力の源である石を握っているの。それは世界との繋がりを強くしてくれるのよ。でも生まれたばかりの時は封印されてるの。悪いことを考える人に持っていかれたら困るでしょう。だから、ちゃんとハートとの契約を結ばれた後で、先代が封印を解いてお役目を引き継ぐらしいの」
何故かミルカの表情から疑問符がいっぱい読み取れてしまう。もしかして、ミルカもちゃんと理解していないのでは? と思い、穴を開けるつもりで、ミルカの頬の辺りを凝視する。
「うっ、視線が痛いわ。ちょっとふわっとしてるけど、嘘じゃないのよ。ちゃんと始祖様のお手紙に書いてあったんだから」
そもそも始祖様とは誰なのか、問い詰めたい気持ちがミルカに無言の圧力をかけてしまう。
「お手紙はむずかしい文字が多くて一人じゃ読めなかったけど、セバスちゃんに読んで教えてもらったから大丈夫なのよ」
目に見えてしょげてしまったので、首肯でフォローしておく。力のある石の封印を解くため、ミルカは一人で私を訪ねてくれたらしいことは理解できた。そもそも、私には生まれた時の記憶がないので、自分が石を持っていたかは正直分からないが、恐らくグラハムが管理してくれているに違いない……と思いたい。
「フィーネと二人だけにしてくれるかしら。少しお話しておきたいことがあるの」
ミルカにそう言われると三人は恭しく一礼し部屋を出て行った。私は何を言われるのか少しだけ緊張しながらミルカと向き合うと、そこには何故か少しニヤニヤした顔と鉢合わせる。
「フィーネのハートはとってもすてきな人ね」
これはアレだ。恋バナ大好き女子の顔だ。無駄に緊張して損した気分になりつつ、ミルカ特有の妙な呼び方について聞いてみる。
「はぁと?」
ハートはハートだと思うけれど、それが何を指すのかイマイチ分からない。いわゆるダーリンとかそういう感じの意味合いで使っているのかなと思ったのだけど、ミルカはじっと私を探るような目で見つめて「まだ何も知らないのね」と言った。
「彼はあなたのハート、命そのものなの」
曖昧な、それでもどこか決定的な言葉にどう反応したらいいのか迷っていると、ミルカは自分の胸に手を当てる。
「彼らがアタシたちに命をくれたのよ」
本気で意味がわからない。戸惑っていると、ミルカは私の手を取り(動揺しているのが手のひら越しに分かる)小さな胸にそっと押し当てた。
「ここで動いているでしょ。これは彼のものだったの」
ハート、心臓。これがグラハムのものだったとは、どういう意味なんだろう。まさか本当にそのままの意味だとしたら、ここが異世界だとしてもどう捉えていいのか、さっぱり分からない。大人と子供では心臓の大きさは違うだろうし……いやそんなことは問題じゃない。そもそも心臓を人に渡すということは持ち主の死を意味する。
「彼を心配しているの? 大丈夫、これは契約なのよ」
「けぇや、く」
「そう……契約。アタシとディノは二人で一人なの。アタシが生きている限り、ディノは死なない。彼の命はここにあるから」
ミルカのどこか遠くへ向ける眼差しは、誇らしくもあり少し悲しげだった。小さく息を吐くと、ミルカに愛らしい笑顔が戻る。
「フィーネのハートは優しい人ね」
私はグラハムのことをまだ何も知らない。けれど、どうしてかミルカの言葉に全力で頷いていた。
少し長くなるから座りましょう。そう前置きされたので、クッションを床に敷き、二人で簡易ソファーのようなものを作って、肩を寄せ合い座った。ミルカが私の手を握るので、ぎゅっと握り返すとくすぐったそうに笑ってくれる。
「フィーネは生まれた時を覚えている?」
生まれた時、私が意識を取り戻した日のこと……ではないと思い、首を左右に振る。
「アタシたちは世界そのものが産み落とす子供ならしいの。だから、お父さんもお母さんもいないのよ」
いきなり異世界ハードル高い。根本的に違う気はするけど、錬金術とかの漫画にあるホムンクルスとかそういう感じなのかなと無理やり納得しておく。
「生まれてくる時に力の源である石を握っているの。それは世界との繋がりを強くしてくれるのよ。でも生まれたばかりの時は封印されてるの。悪いことを考える人に持っていかれたら困るでしょう。だから、ちゃんとハートとの契約を結ばれた後で、先代が封印を解いてお役目を引き継ぐらしいの」
何故かミルカの表情から疑問符がいっぱい読み取れてしまう。もしかして、ミルカもちゃんと理解していないのでは? と思い、穴を開けるつもりで、ミルカの頬の辺りを凝視する。
「うっ、視線が痛いわ。ちょっとふわっとしてるけど、嘘じゃないのよ。ちゃんと始祖様のお手紙に書いてあったんだから」
そもそも始祖様とは誰なのか、問い詰めたい気持ちがミルカに無言の圧力をかけてしまう。
「お手紙はむずかしい文字が多くて一人じゃ読めなかったけど、セバスちゃんに読んで教えてもらったから大丈夫なのよ」
目に見えてしょげてしまったので、首肯でフォローしておく。力のある石の封印を解くため、ミルカは一人で私を訪ねてくれたらしいことは理解できた。そもそも、私には生まれた時の記憶がないので、自分が石を持っていたかは正直分からないが、恐らくグラハムが管理してくれているに違いない……と思いたい。
93
あなたにおすすめの小説
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜
渡琉兎
ファンタジー
日本での生活に疲れ切っていた犬山楓(いぬやまかえで)は、異世界が行った勇者召喚に巻き込まれてしまう。
しかし彼女は異世界系の作品を読み漁っており、異世界での生活に憧れを抱いていた。
「城を出て行くというのか!?」
「え? あ、はい」
召喚した異世界の王子に驚かれながらも、楓は自分の道を進むことを選択する。
授かったスキルは〈従魔具職人〉。
召喚された異世界では外れスキルと呼ばれるものだったが、そんなことは気にしない。
「それじゃあ皆さん、お元気で!」
憧れていた異世界での生活。
楓は自分のスキルで自由に生きていこうと決めた……のだが、実は楓の〈従魔具職人〉はスキルレベルが規格外の〈EX〉だった!!
楓の従魔具が従魔たちの人生を一変させる。
そんな楓の異世界生活は、忙しくも充実した生活になる……のかも?
※カクヨム、小説家になろう、アルファポリスにて掲載しています。
溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜
あいみ
ファンタジー
亡き祖母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。
困っている人がいればすぐに駆け付ける。
人が良すぎると周りからはよく怒られていた。
「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」
それは口癖。
最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。
偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。
両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。
優しく手を差し伸べられる存在になりたい。
変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。
目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。
そのはずだった。
不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……?
人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。
何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。
くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。
しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた!
しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!?
よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?!
「これ…スローライフ目指せるのか?」
この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる