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第三章
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本来の私が持っていたであろう、よこしまな気持ちが膨れきる前に、ミルカは「さて」と部屋の隅に置かれた小さな荷物を持って私たちに背中を向けた。
「お仕事もおわったし、そろそろ帰りましょうセバスちゃん。みんなにご挨拶をしたらアタシのポケットに入ってちょうだいね」
モモが「そんなに急がなくても」と呟き、グラハムがいるせいか慌てて口を閉じた。
「みう、ごぁん」
ミルカに駆け寄り、服の裾を掴んで訴える。慌てて帰る必要なんてない、そう思って引き止めるけれど、振り返ったミルカは困ったように笑って「ダメよ、帰らなきゃ」と私の手を優しく握った。
「大丈夫、きっとまた会えるからさびしくないわ」
自分に言い聞かすための言葉にも聞こえる。ミルカはほんの少し瞳を潤ませていた。
城の外は瘴気で溢れ(見たことのない私はどんな状態か分からないが)ミルカが一人で旅できるほど安全な道中ではないだろう。
「はむぅ」
グラハムを振り返ると、同じくミルカの安全を案じてくれていたのかすぐに頷いてくれた。
「ミルカ様が無事に階層を越えられるまで、護衛として随従させて頂いて宜しいでしょうか」
「気持ちはありがたいけれどダメ。一人で行きます。心配しなくても大丈夫よ。アタシこれでも、あ、元だけど、青の番人なんだから瘴気を避けることくらい朝飯前なのよ。セバスちゃんはすごーく心配してたけど、こうしてちゃんとフィーネの元に一人でたどり着けたでしょ」
セバスさんは力なく笑って「そうでございましたな」とミルカの側に歩み寄った。
「皆様、この度は突然の訪問にも関わらず、あたたかく迎えて下さり、ありがとうございました」
ぺこりと器用にお辞儀するセバスさんはそれだけ言うと、浮き輪の空気を抜くようにスルスルと自分の体を縮め、ごく一般的なトカゲのサイズにまで小さくなった。ミルカが手を差し出すと慣れた様子で上り、誘導されるまま大人しくミルカの胸ポケットに潜り込んだ。
「アタシからも言わせてちょうだい。モモ、たくさんお世話してくれてありがとう。あなたのおかげで無事に役目を果たせました。アル、セバスちゃんに付き合ってくれてありがとう。こちらの図書室は素晴らしいって、知りたいことが全て知れてとても勉強になったと感謝していました」
ミルカの別れの言葉に私は焦り出す。どうしてミルカはそんなに急いでいるのか、帰りの道中が危険なのは分かり切っているのに、家の近く(という認識が正しいかは分からないけれど)まで護衛することすらダメなのは何故なのか。
「フィーネのハート、グラハム…………かわいい妹に会わせてくれてありがとう。これからたくさん大事にしてあげて欲しい。お願いできるかしら?」
グラハムは跪き「御意」と短く答えながら頭を下げた。
「フィーネ」
真っ直ぐこちらを見つめるミルカの瞳に涙は滲んでいなかった。
「きっとあなたは祝福の子ね。見たでしょ、たくさんの金色。あんな数の金色アタシ初めて見たからおどろいたわ」
小さな手、小さな腕が私を正面から抱きしめてくれる。
「お仕事もおわったし、そろそろ帰りましょうセバスちゃん。みんなにご挨拶をしたらアタシのポケットに入ってちょうだいね」
モモが「そんなに急がなくても」と呟き、グラハムがいるせいか慌てて口を閉じた。
「みう、ごぁん」
ミルカに駆け寄り、服の裾を掴んで訴える。慌てて帰る必要なんてない、そう思って引き止めるけれど、振り返ったミルカは困ったように笑って「ダメよ、帰らなきゃ」と私の手を優しく握った。
「大丈夫、きっとまた会えるからさびしくないわ」
自分に言い聞かすための言葉にも聞こえる。ミルカはほんの少し瞳を潤ませていた。
城の外は瘴気で溢れ(見たことのない私はどんな状態か分からないが)ミルカが一人で旅できるほど安全な道中ではないだろう。
「はむぅ」
グラハムを振り返ると、同じくミルカの安全を案じてくれていたのかすぐに頷いてくれた。
「ミルカ様が無事に階層を越えられるまで、護衛として随従させて頂いて宜しいでしょうか」
「気持ちはありがたいけれどダメ。一人で行きます。心配しなくても大丈夫よ。アタシこれでも、あ、元だけど、青の番人なんだから瘴気を避けることくらい朝飯前なのよ。セバスちゃんはすごーく心配してたけど、こうしてちゃんとフィーネの元に一人でたどり着けたでしょ」
セバスさんは力なく笑って「そうでございましたな」とミルカの側に歩み寄った。
「皆様、この度は突然の訪問にも関わらず、あたたかく迎えて下さり、ありがとうございました」
ぺこりと器用にお辞儀するセバスさんはそれだけ言うと、浮き輪の空気を抜くようにスルスルと自分の体を縮め、ごく一般的なトカゲのサイズにまで小さくなった。ミルカが手を差し出すと慣れた様子で上り、誘導されるまま大人しくミルカの胸ポケットに潜り込んだ。
「アタシからも言わせてちょうだい。モモ、たくさんお世話してくれてありがとう。あなたのおかげで無事に役目を果たせました。アル、セバスちゃんに付き合ってくれてありがとう。こちらの図書室は素晴らしいって、知りたいことが全て知れてとても勉強になったと感謝していました」
ミルカの別れの言葉に私は焦り出す。どうしてミルカはそんなに急いでいるのか、帰りの道中が危険なのは分かり切っているのに、家の近く(という認識が正しいかは分からないけれど)まで護衛することすらダメなのは何故なのか。
「フィーネのハート、グラハム…………かわいい妹に会わせてくれてありがとう。これからたくさん大事にしてあげて欲しい。お願いできるかしら?」
グラハムは跪き「御意」と短く答えながら頭を下げた。
「フィーネ」
真っ直ぐこちらを見つめるミルカの瞳に涙は滲んでいなかった。
「きっとあなたは祝福の子ね。見たでしょ、たくさんの金色。あんな数の金色アタシ初めて見たからおどろいたわ」
小さな手、小さな腕が私を正面から抱きしめてくれる。
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