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家畜も色々
お見舞い
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先輩は、オレがパジャマ代わりに着ていたジャージを容赦なく引っ張ってきた。ゴムの部分が見事につっかえて、恥ずかしさと興奮で思わず「うわっ」と声を上げてしまう。気持ちよさに身を任せてしまいそうになるが、なんとか踏み止まった。
「いきなり何してんだ!」
枕を抱え直して、先輩の手を振り払う。多分、全力で赤面しているだろう顔で、先輩を睨み付ける。
「いや、何って、下も着替えるだろ?」
手伝おうと思って、みたいな顔で見るな。何をどう手伝う気だ。
「後で着替えるから、今はいい!」
そう伝えると、先輩はこっちの気も知らないで、少し怒ったような顔を見せた。
「せっかく上着は着替えたんだ。面倒でも一緒に下も着替えとけ」
問答無用で伸びてくる長い腕から逃れる事は叶わず、オレは枕を抱えてその場で丸まった。
「わか、わかったから! 分かったってば。着替える! 自分で着替えるから!」
無理矢理ジャージを引っ張られ半ケツ状態で、もう正直泣きたい。てか、誰のせいで朝から盛ってると思ってんだ。責任取らせんぞ、この野郎。
「別に恥ずかしがる必要ないだろ? 変な奴だなぁ」
なんか段々と腹が立ってきた。気付かれたらマズイけど、気付けバカ! オレは子供じゃないんだぞ! 着替えくらい一人で出来る!
股間を枕で隠しつつ、先輩の無防備な体へ蹴りを入れる。けれど先輩に当てるどころか、逆に足首を掴まれてしまい身動きが取れなくなってしまう。
「相変わらず、往生際が悪いな。なんでそこまで嫌がるんだ?」
「うるせぇな! 離せよ! はーなーせー!」
オレが抵抗するせいか、先輩も全く引いてくれず、ついにその手が枕に伸びてしまう。オレだって、人並みの羞恥心くらい持ち合わせているのだ。ギャーギャー喚き立てて抵抗していると、オレの努力の成果か、医務室の扉が勢い良く開いた。
「こりゃっ! まぁだ清ボンと遊んだらいかーん!」
手に食堂のトレイを持ったじいちゃんが、慌てて駆けつけて、先輩をベッドから引っ張り下ろしてくれた。
「別に遊んでた訳じゃないんだけどなぁ」
じいちゃんに怒られた先輩はしょげてしまった。じいちゃんが持って来たベッド脇に置いた椅子の上で、長い手足を器用に抱えて体育座りをしている。
「ほれ、清ボン。腹減ったやろぉ。これ食うてな、薬飲みぃ」
ベッド用の机を出してくれて、その上に出来たての白粥と梅干し、あと水の入ったコップと錠剤が置かれた。
布団でしっかりと股間を隠したオレは、安心して空腹を実感していたので、軽く手を合わせて早速飯を食う事にした。大きめの匙で、白粥を掬って口に入れると、そのあまりの熱さに口の中が火傷してしまった。慌ててコップの水をゴクゴクと喉を鳴らして飲み干す。
「慌てて食べんでもええ。誰も取ったりせえへんからなぁ」
室内の冷蔵庫から、水の入ったペットボトルを持って来てくれたじいちゃんは、笑いながらコップに水を注いでくれた。
粥はなかなか冷めず、仕方無く匙に掬って吹き冷ますのだが、その殆どが器に戻ってしまう。残ったのは底に溜まった僅かな量で、口に入れても食った気がまるでしなかった。こんなチマチマと食ってられないので、手っ取り早く粥を冷まそうとコップに手を伸ばす。
「ちょっと待った! セイシュン、何をする気だ?」
粥に水を入れて冷まそうとしたオレの腕を先輩は慌てて掴んだ。
「熱すぎてこれじゃあ食えないだろ。だから冷まそうと思って」
オレがそう答えると、先輩は呆れたような表情を見せた。
「慌てて食わなくてもいいって爺さんも言ってただろ? そんな急いで食べると腹まで調子悪くなるぞ」
「せやで、勝ボンの言う通りやぁ。ふぅふぅして、ゆっくり食うたらええんや」
カーテン越しにじいちゃんにまで注意されてしまった。なんだか落ち着かないが、大人しく言われた通りに食うしかなさそうだったので、再び匙で粥を掬い吹き冷ます。
「セイシュン……その、な? ラーメンじゃないんだから、もう少し息を抑えないと全部飛んじまうぞ」
また同じ事をくり返すオレに、先輩は困ったような笑みを浮かべてアドバイスをくれた。くれたのだが、そんな食べ方したことないので、要領が分からず、もう面倒になって掬った粥をそのまま口に放り込んだら、やっぱり熱くて半泣きになった。
水で口の中を冷やしていると、先輩が匙を手に取ってオレと同じように粥を掬った。先輩も腹が減ったのかなと思ったのだが、そうではなく粥の冷まし方をレクチャーしてくれるらしい。オレが吹くと粥は大半が飛んでくのに、先輩が吹いても米粒一つ飛ばなかった。
「熱いの苦手みたいだな。猫舌か?」
口元に匙を近づけられたので遠慮無く食いついた。口の中は多少ヒリヒリしていたが、さっきみたいな熱さはまるでなく、それでも飲み込むと体の中が温かくなるような粥は、塩気がなくてもとても美味しかった。
添えられていた梅干しを崩しながら、先輩はもう一度粥を掬ってくれる。
「冷めた飯しか食った事ないから……こうゆうの、どうしたらいいのか分かんない」
猫舌なのかな? あんまり熱い物って食った事なくて分からなかったので、そう答えた。レンジとか使うの面倒で、コンビニ弁当は基本そのまま食ってたし。ここでの食事は冷めてはいないが、熱いってより温いって感じだからな。
先輩が冷ましてくれた粥をもう一口。
「旨いか?」
梅干しの塩気が加わると、さらに粥は美味しくなった。オレは「うん」と頷き返すと、次はまだかという目で先輩を見つめてしまった。
先輩に冷まして貰いながら、オレはただ口をパクパクさせるだけで白粥を完食した。腹の底からほかほかと温かくなるような感覚に、どれだけ寝れば気が済むのか、また眠気がやって来る。
「セイシュン、寝る前に薬も飲んどけ」
先輩の手に今度は錠剤が乗せられていた。オレは先輩の手をそのまま借り、薬を口に放り込み、残っていた水を飲み干した。唇に触れた先輩の手のひらを少し意識してしまうが、それすら飲み込む眠気が一気に襲ってきた。瞼が重くて、何度持ち上げても落ちてしまう。先輩が椅子から立ち上がる気配を感じて、オレは必死で口を動かした。
「せん、先輩。また、来てくれる?」
服も返せてない。それに……会いたいのに会えないのは、もう嫌だった。
「今度はジュース買って来てやるよ」
ポンと布団越しに肩を叩かれる。先輩の声を聞きながら、オレはあの旨くも不味くもないジュースの味を思い出していた。
薬を飲んだ事もあってか、オレは飽きもせず、また五時間ほど眠った。今度は夢も見ず、ぐっすりと眠れたのだが、薬の効果か寒気はキレイさっぱり失せ、暑さで目を覚ました。
厚手の布団と毛布を蹴飛ばして起き上がると、またしても全身汗だくになっていた。いまいち体に力は入らないが、熱のせいではなく、単純に腹が減っているせいだろう。ぼんやりしていた思考や視界も良好だ。
閉じられていたカーテンを勢い良く開くと、窓から入る日の光が眩しい。
「おぉ? 起きよったなぁ。ちょっと待ちぃ」
仕事を溜め込んでいるのが一目で分かる、山積みのデスクで何かの作業中だったらしいじいちゃんが、手を止めてオレの方へと来てくれた。
「顔色もええなぁ。まぁ、念の為にいっぺん熱はかってみい」
差し出された体温計を脇に挟み、風呂に入りたいと言うと、
「はあはあ、風呂なぁ……ええよ。そやけど、ちゃんと湯船に浸からなあかん。よう体を温めるんや。せやから、湯が入るまで待ちや」
一応の許可は貰えた。でも、湯船に浸かるのは無理だな。あの風呂に浸かったら今度は一晩では済まないくらい体調を崩すだろうから。まあ、ちょっと長めに湯を浴びよう。
ピピッという音がしたので体温計を見てみると、平熱に戻っていた。なんかテンション上がってしまい体温計をじいちゃんに見せびらかしたら、ちょっと厳しい顔をされてしまった。
「まぁーだ遊んだらいかん。今晩は部屋に戻ってもええけどな、風呂の時間まではここに居りぃ」
じいちゃんはオレの頭をグリグリと撫でると、相好を崩して「元気出てよかったなぁ」と言ってくれた。それから、オレの汗で肌に張り付いたシャツを指先で摘まんだ。
「また着替え持ってきてくれとるから、これなんとかしぃ」
治療台の上の丁寧に畳まれた着替え一式が目に入る。一番上には先輩から借りた服が置かれていた。ベッドを下りて裸足で床の上を歩くと、ひんやりとした冷たさが妙に気持ちよかった。
先輩の服を手に取る。昨日……じゃなくて、一昨日か。熱の出る前兆だったのか寒くて堪らず、また勝手に着て寝た上、いつもの習慣で脱いだ後は枕の下に戻してしまったというのに、狭間は見つけ出して洗濯してくれたらしい。肌が触れないよう、そっと鼻を近づける。
「……いい匂いだな」
太陽の光をたくさん浴びた洗濯物の匂いだ。狭間に『ありがとう』を山ほど言わないとな。いや、毎日言わないと駄目だな。
「ほれ、タオル。今はこれで我慢しい」
じいちゃんが用意してくれたタオルと、自分の着替えを持ってベッドへと戻る。軽くカーテンを閉めて、オレは汗を吸った服を全部脱いだ。パンイチになって、温かいタオルで体を拭くと少しホッとする。風呂に入れるのは夕方以降……着替えの中に下着もあったので、今度は尻や太股辺りも拭いておこうと思い下着も脱ごうとして、そこに情けない染みがあるのに気付いてしまう。
「これは自分で洗濯しないとな」
先輩に散々嬲られた、もとい体を拭いて貰った時、本気でヤバかった証拠だな。脱いだ服の間に下着を隠して、新しい物に丸ごと着替えた。着替え終わると、さすがに少し疲れてベッドの上で胡座を掻いて座ると、何故か唐突に尿意を催した。
そう言えば、半日以上全く小便に行ってないな。多分、汗で大半が流れ出てしまったせいだろうが、行っていない事に気が付くと余計に切羽詰まった勢いで催し出したので、ベッドの下に置いてあったスリッパを引っかけて便所に行く事にした。
「いきなり何してんだ!」
枕を抱え直して、先輩の手を振り払う。多分、全力で赤面しているだろう顔で、先輩を睨み付ける。
「いや、何って、下も着替えるだろ?」
手伝おうと思って、みたいな顔で見るな。何をどう手伝う気だ。
「後で着替えるから、今はいい!」
そう伝えると、先輩はこっちの気も知らないで、少し怒ったような顔を見せた。
「せっかく上着は着替えたんだ。面倒でも一緒に下も着替えとけ」
問答無用で伸びてくる長い腕から逃れる事は叶わず、オレは枕を抱えてその場で丸まった。
「わか、わかったから! 分かったってば。着替える! 自分で着替えるから!」
無理矢理ジャージを引っ張られ半ケツ状態で、もう正直泣きたい。てか、誰のせいで朝から盛ってると思ってんだ。責任取らせんぞ、この野郎。
「別に恥ずかしがる必要ないだろ? 変な奴だなぁ」
なんか段々と腹が立ってきた。気付かれたらマズイけど、気付けバカ! オレは子供じゃないんだぞ! 着替えくらい一人で出来る!
股間を枕で隠しつつ、先輩の無防備な体へ蹴りを入れる。けれど先輩に当てるどころか、逆に足首を掴まれてしまい身動きが取れなくなってしまう。
「相変わらず、往生際が悪いな。なんでそこまで嫌がるんだ?」
「うるせぇな! 離せよ! はーなーせー!」
オレが抵抗するせいか、先輩も全く引いてくれず、ついにその手が枕に伸びてしまう。オレだって、人並みの羞恥心くらい持ち合わせているのだ。ギャーギャー喚き立てて抵抗していると、オレの努力の成果か、医務室の扉が勢い良く開いた。
「こりゃっ! まぁだ清ボンと遊んだらいかーん!」
手に食堂のトレイを持ったじいちゃんが、慌てて駆けつけて、先輩をベッドから引っ張り下ろしてくれた。
「別に遊んでた訳じゃないんだけどなぁ」
じいちゃんに怒られた先輩はしょげてしまった。じいちゃんが持って来たベッド脇に置いた椅子の上で、長い手足を器用に抱えて体育座りをしている。
「ほれ、清ボン。腹減ったやろぉ。これ食うてな、薬飲みぃ」
ベッド用の机を出してくれて、その上に出来たての白粥と梅干し、あと水の入ったコップと錠剤が置かれた。
布団でしっかりと股間を隠したオレは、安心して空腹を実感していたので、軽く手を合わせて早速飯を食う事にした。大きめの匙で、白粥を掬って口に入れると、そのあまりの熱さに口の中が火傷してしまった。慌ててコップの水をゴクゴクと喉を鳴らして飲み干す。
「慌てて食べんでもええ。誰も取ったりせえへんからなぁ」
室内の冷蔵庫から、水の入ったペットボトルを持って来てくれたじいちゃんは、笑いながらコップに水を注いでくれた。
粥はなかなか冷めず、仕方無く匙に掬って吹き冷ますのだが、その殆どが器に戻ってしまう。残ったのは底に溜まった僅かな量で、口に入れても食った気がまるでしなかった。こんなチマチマと食ってられないので、手っ取り早く粥を冷まそうとコップに手を伸ばす。
「ちょっと待った! セイシュン、何をする気だ?」
粥に水を入れて冷まそうとしたオレの腕を先輩は慌てて掴んだ。
「熱すぎてこれじゃあ食えないだろ。だから冷まそうと思って」
オレがそう答えると、先輩は呆れたような表情を見せた。
「慌てて食わなくてもいいって爺さんも言ってただろ? そんな急いで食べると腹まで調子悪くなるぞ」
「せやで、勝ボンの言う通りやぁ。ふぅふぅして、ゆっくり食うたらええんや」
カーテン越しにじいちゃんにまで注意されてしまった。なんだか落ち着かないが、大人しく言われた通りに食うしかなさそうだったので、再び匙で粥を掬い吹き冷ます。
「セイシュン……その、な? ラーメンじゃないんだから、もう少し息を抑えないと全部飛んじまうぞ」
また同じ事をくり返すオレに、先輩は困ったような笑みを浮かべてアドバイスをくれた。くれたのだが、そんな食べ方したことないので、要領が分からず、もう面倒になって掬った粥をそのまま口に放り込んだら、やっぱり熱くて半泣きになった。
水で口の中を冷やしていると、先輩が匙を手に取ってオレと同じように粥を掬った。先輩も腹が減ったのかなと思ったのだが、そうではなく粥の冷まし方をレクチャーしてくれるらしい。オレが吹くと粥は大半が飛んでくのに、先輩が吹いても米粒一つ飛ばなかった。
「熱いの苦手みたいだな。猫舌か?」
口元に匙を近づけられたので遠慮無く食いついた。口の中は多少ヒリヒリしていたが、さっきみたいな熱さはまるでなく、それでも飲み込むと体の中が温かくなるような粥は、塩気がなくてもとても美味しかった。
添えられていた梅干しを崩しながら、先輩はもう一度粥を掬ってくれる。
「冷めた飯しか食った事ないから……こうゆうの、どうしたらいいのか分かんない」
猫舌なのかな? あんまり熱い物って食った事なくて分からなかったので、そう答えた。レンジとか使うの面倒で、コンビニ弁当は基本そのまま食ってたし。ここでの食事は冷めてはいないが、熱いってより温いって感じだからな。
先輩が冷ましてくれた粥をもう一口。
「旨いか?」
梅干しの塩気が加わると、さらに粥は美味しくなった。オレは「うん」と頷き返すと、次はまだかという目で先輩を見つめてしまった。
先輩に冷まして貰いながら、オレはただ口をパクパクさせるだけで白粥を完食した。腹の底からほかほかと温かくなるような感覚に、どれだけ寝れば気が済むのか、また眠気がやって来る。
「セイシュン、寝る前に薬も飲んどけ」
先輩の手に今度は錠剤が乗せられていた。オレは先輩の手をそのまま借り、薬を口に放り込み、残っていた水を飲み干した。唇に触れた先輩の手のひらを少し意識してしまうが、それすら飲み込む眠気が一気に襲ってきた。瞼が重くて、何度持ち上げても落ちてしまう。先輩が椅子から立ち上がる気配を感じて、オレは必死で口を動かした。
「せん、先輩。また、来てくれる?」
服も返せてない。それに……会いたいのに会えないのは、もう嫌だった。
「今度はジュース買って来てやるよ」
ポンと布団越しに肩を叩かれる。先輩の声を聞きながら、オレはあの旨くも不味くもないジュースの味を思い出していた。
薬を飲んだ事もあってか、オレは飽きもせず、また五時間ほど眠った。今度は夢も見ず、ぐっすりと眠れたのだが、薬の効果か寒気はキレイさっぱり失せ、暑さで目を覚ました。
厚手の布団と毛布を蹴飛ばして起き上がると、またしても全身汗だくになっていた。いまいち体に力は入らないが、熱のせいではなく、単純に腹が減っているせいだろう。ぼんやりしていた思考や視界も良好だ。
閉じられていたカーテンを勢い良く開くと、窓から入る日の光が眩しい。
「おぉ? 起きよったなぁ。ちょっと待ちぃ」
仕事を溜め込んでいるのが一目で分かる、山積みのデスクで何かの作業中だったらしいじいちゃんが、手を止めてオレの方へと来てくれた。
「顔色もええなぁ。まぁ、念の為にいっぺん熱はかってみい」
差し出された体温計を脇に挟み、風呂に入りたいと言うと、
「はあはあ、風呂なぁ……ええよ。そやけど、ちゃんと湯船に浸からなあかん。よう体を温めるんや。せやから、湯が入るまで待ちや」
一応の許可は貰えた。でも、湯船に浸かるのは無理だな。あの風呂に浸かったら今度は一晩では済まないくらい体調を崩すだろうから。まあ、ちょっと長めに湯を浴びよう。
ピピッという音がしたので体温計を見てみると、平熱に戻っていた。なんかテンション上がってしまい体温計をじいちゃんに見せびらかしたら、ちょっと厳しい顔をされてしまった。
「まぁーだ遊んだらいかん。今晩は部屋に戻ってもええけどな、風呂の時間まではここに居りぃ」
じいちゃんはオレの頭をグリグリと撫でると、相好を崩して「元気出てよかったなぁ」と言ってくれた。それから、オレの汗で肌に張り付いたシャツを指先で摘まんだ。
「また着替え持ってきてくれとるから、これなんとかしぃ」
治療台の上の丁寧に畳まれた着替え一式が目に入る。一番上には先輩から借りた服が置かれていた。ベッドを下りて裸足で床の上を歩くと、ひんやりとした冷たさが妙に気持ちよかった。
先輩の服を手に取る。昨日……じゃなくて、一昨日か。熱の出る前兆だったのか寒くて堪らず、また勝手に着て寝た上、いつもの習慣で脱いだ後は枕の下に戻してしまったというのに、狭間は見つけ出して洗濯してくれたらしい。肌が触れないよう、そっと鼻を近づける。
「……いい匂いだな」
太陽の光をたくさん浴びた洗濯物の匂いだ。狭間に『ありがとう』を山ほど言わないとな。いや、毎日言わないと駄目だな。
「ほれ、タオル。今はこれで我慢しい」
じいちゃんが用意してくれたタオルと、自分の着替えを持ってベッドへと戻る。軽くカーテンを閉めて、オレは汗を吸った服を全部脱いだ。パンイチになって、温かいタオルで体を拭くと少しホッとする。風呂に入れるのは夕方以降……着替えの中に下着もあったので、今度は尻や太股辺りも拭いておこうと思い下着も脱ごうとして、そこに情けない染みがあるのに気付いてしまう。
「これは自分で洗濯しないとな」
先輩に散々嬲られた、もとい体を拭いて貰った時、本気でヤバかった証拠だな。脱いだ服の間に下着を隠して、新しい物に丸ごと着替えた。着替え終わると、さすがに少し疲れてベッドの上で胡座を掻いて座ると、何故か唐突に尿意を催した。
そう言えば、半日以上全く小便に行ってないな。多分、汗で大半が流れ出てしまったせいだろうが、行っていない事に気が付くと余計に切羽詰まった勢いで催し出したので、ベッドの下に置いてあったスリッパを引っかけて便所に行く事にした。
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