圏ガク!!

はなッぱち

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消灯後の校舎侵入の代償

番外編 もしもの夜1

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 自販機の前にあるベンチで、壁に背中を預けてぼんやりしている。オレは呼吸を整えるように、ゆっくりと先輩へ向かって歩いた。裸足のせいで足音もなく、忍び寄るような形になってしまい、随分と近づいたのに先輩はオレに気付かず、自分の手元をジッと見つめていた。

 オレは声をかけるのも忘れて、先輩の隣に、肩がぶつかる勢いで腰を下ろす。先輩に驚いた様子はない。嫌がられている様子もなくて、少しホッとした。

「セイシュン……恐くないのか?」

 先輩は精彩を欠いた声で呟く。それに答えてやるのも馬鹿らしくなって、こちらも同じように聞いてやった。

「先輩こそ恐くねーの? 隙あらば人の耳に舌突っ込む奴が隣に居るんだぞ」

 黙って少し腰を浮かせ、オレと距離を取ろうとする先輩に肩パンを入れると、先輩の雰囲気が少し柔らかくなった。それが堪らなく嬉しくて、先輩を見上げると、フッと視界を遮られ、唇に何かが触れた。

 覚えのある感触。今触れた何かが、少し荒れた先輩の唇だと気付き先輩を見ると、いつもの穏やかな表情の下で熱が燻っているのが分かった。その熱に煽られて、オレの中にも期待が、この前の続きがしたいという欲求が膨れ上がる。言葉にするのは恥ずかしく、言葉なく誘うように先輩の手に自分の手を重ねると、指を絡ませるように握り返してくれた。

 予期せぬ展開に喉がカラカラに渇いていた。ゴクリとなんとか唾を飲み込むと、沈黙を裂くようにオレの腹が盛大に鳴いて、さっきまであった色っぽいムードをぶち壊しにした。

 欲情で頬が火照りだした上に、緊張感の欠片もない腹の虫に対する羞恥から、自分の顔が真っ赤になっているのが嫌でも分かった。鍋を床にぶちまけた奴らを呪いながら先輩を窺うと、さっきまでのあやしい気配を掻き消すように、いつもの暢気な顔で盛大に吹き出していた。

 なんかいい雰囲気だったのに台無しだ。オレが真っ赤な顔でふて腐れていると、先輩はこちらを試すような事を口にする。

「インスタントラーメンくらいしかないけど、俺の部屋に食べに来るか?」

 時刻は消灯の数分前。その提案は、手のひら越しの誘いへの答えにしか聞こえず、オレは全力で「行く」と返事をした。

 消灯までの時間、宿直の見回りに見つからないよう、普段は開ける事のない部屋の中に隠れた。鍵が開いている部屋があるか不安だったが、そこは圏ガク、と言うか旧館と言うべきか、すんなり扉は開いてしまった。

 倉庫と同じ並びにある一部屋で、中は使っていない布団が文字通り山のように積まれている。使っていないはずの布団なのだが、どうしてか黴や埃の温床にはなっておらず、手前の方に置いてある布団は、どれもふかふかだった。奥の方にある布団と違う、見慣れた布団の置き方に、オレはその理由を悟る。こんな所にまで狭間の手が入っているらしい。その一つに腰かけてゴロンと寝転がると、オレらの部屋にある布団と同じ、心地良い匂いがした。

「先輩先輩、こっち来いよ。この布団ちゃんと干してあるから気持ちいいよ」

 投げ出した足をバタバタさせながら先輩を呼ぶと、外の様子を窺っていた先輩がこちらを見て笑った。いきなりくつろぎだしたオレに呆れたのか、先輩は少しだけ渋い顔をして、布団の方へと足を向けてくれる。

「あんまり騒ぐと見つかっちまうぞ」

 窘めるような先輩の口調に、少しからかいたくなったオレはニヤリといやらしく笑う。

「じゃあ、先輩が塞いでろよ。オレの口」

 怒るかなと思ったが、そう言った次の瞬間、先輩がオレの上に覆い被さってきた。塞ぐように押しつけられた唇は、それだけに止まらず、オレの口を割るようにすぐに舌が遠慮無く縁をなぞった。あの蕩けるような感覚を味わいたくて、絡ませるよう舌を伸ばすが、ほんの僅か触れただけで、先輩の舌はすぐに別の場所を撫で始める。

 顎の先から首筋へ、何度か軽く吸い付きながら肩にさしかかった時、オレの体に先輩の体がのしかかった。先輩の重さを感じながら、その体温を感じながら、自分の中でさっき顔を出した欲求が大きくなっていくのを止められず、期待に身を焦がしていると、聞き覚えのある気配が耳元に纏わりついてきた。

「……人の上に乗っかりながら、一人で勝手に寝んな!」

 渾身の力で膝蹴りを先輩の腹に見舞うと、寝息を立てていた先輩は、くの字になりながら呻いた。

「すまん……謹慎中はずっと羽坂と一緒で……睡眠公害のせいで殆ど寝てなかったんだ」

 腕で軽く起き上がったらしく、先輩と至近距離で見つめ合う形になる。寝ぼけた声でそう言うと、その目は見る見る正気を取り戻したような色になり、先輩は青ざめてオレから離れようとした。

 そんな事を許せるはずがなかった。オレは足を先輩の腰に巻き付け、腕で先輩の頭を掴み強引に引き寄せキスをした。

「ちょっ、ちょっと待て、待ってくれ、セイシュン」

 溺れるように息を吸ったり吐いたりする先輩は、無理矢理に吸い付くオレの口を手のひらで強引に蓋しやがった。腹が立ちヤケクソ気味に噛みついてやると、大袈裟に痛がり手を離したので、再び思い切り先輩の頭を引き寄せた。けれど、力加減を間違えてキスどころではなく、単なる頭突きになってしまい、二人して自分の頭を抱えて悶える。

 頭の痛さと、それ以上の情けなさで、オレは体を丸めて自分の顔を隠した。

「ごめんな、セイシュン」

 もう復活したのか、先輩の優しい声が降ってきた。何に対しての謝罪なのか、考えるのも嫌で、オレも形だけの「ごめん」を口にする。けれど、例え形だけとは言え、それを口にするのは失敗だった。自分の言葉に心が折れてしまう。

「勝手に盛って悪かったよ。迷惑かけた。オレも適当に自分の部屋へ帰るから、先輩、先に帰っていいよ」

 自己嫌悪から、本心とは真逆の事をぶっきらぼうに伝える。いや、本心かもしれない。このまま先輩に一人我に返られたら、身の置き場がない。高ぶった体を置き去りに、心はどんどん冷めて、泣きたいような笑い出したいような妙な気持ちになる。

 オレの声が震えていたせいだろう。先輩がいつもみたいにオレの頭を撫でてくれた。さすがに辛くて、その手を振り払い、無神経な先輩の顔を睨み付けた。

「勝手に勘違いしたオレが悪いけどさ……期待だけ持たせて、オレが浮かれてるの見て楽しむとかマジありえねぇよ」

 感情を制御出来なくて、半ば怒鳴るように吐き捨てると、先輩は困ったような表情でそれを受け止め、何か考えるように暫く沈黙する。

「勘違い、じゃないんだ。それ」

 言葉の意味が分からず、攻撃的な視線で責めるよう見つめていると、先輩はふにゃっと観念したように気の抜けた表情を浮かべた。

「お前を食っちまうつもりで部屋に誘った。だから、セイシュンの勘違いじゃないんだ」

 思わず言葉が詰まった。先輩は本当にいつも通りで、オレの大好きな先輩の雰囲気のままで、そんな事を言われたら……真っ直ぐ先輩を見ているのが恥ずかしくて、顔を上げられなくなってしまった。

 先輩が笑ってる気配が近づいて来る。さっきぶつけた額が、今度は柔らかく押し当てられて、じんわりと熱くなった。

「セイシュン、嫌だったら部屋に帰っていいぞ。あと少しくらいなら、俺も自制出来そうだから……今の内に逃げろ」

 本気なのか冗談なのか、分からないような口調に戸惑う。いや、そうじゃないな、これは単なる期待だ。オレの方は、もうすっかり自制なんて出来てないんだ。だんだん近づいて来る先輩の唇を感じて、がっついてしまわないよう目をギュッと瞑って触れる瞬間を、先輩が自制心を手放す時を待った。

 長いような短い時間の後、軽く触れるだけのキスをされた。目を開けると、先輩が照れ臭そうな顔でオレを見ていた。そして、ポケットから何か、水糊のような物を取り出し、開き直ったように笑った。

「こんなもんを持たされるまま持って来といて、自制も何もないよな」

 布団の上に置かれた物を手に取ってみる。よく見た事はないけど、化粧品っぽい感じがした。男には縁の無いものだ。オレが物珍しく、しげしげと眺めていると、先輩はそれをヒョイと取り上げてしまった。

「それ何? なんに使うの?」

 オレがそう聞くと、先輩はその蓋を開けて、その中身を自分の手のひらに少し垂らして見せた。ねっとりとしたそれは、先輩の指先で揉むと見事に糸を引いた。指先で弄ぶと、妙にいやらしい音を立てる。

「ローション。潤滑剤としてセイシュンの尻に塗りたくるんだ」

 カッと顔が熱くなった。そう具体的な事を平然と言われるとビビる。てか、なんでそんなモンを普通に携帯してるんだよ。まさか、こういう事を日常的にやってんじゃねーだろうな!

「そんな訳ないだろ。これは、その、羽坂に持たされたんだ。セイシュンに会いに行こうとしたのがばれて、無理矢理押しつけられた」

 なんか言い訳っぽいが、先輩のなんとも言い難い表情から、その言葉に嘘はないと確信が持てた。そうか、ローションか。それを使ってケツに入れるのか……ヤバイ、考えただけで勃ってきた。

「あ、そうだ。お前、腹減ってるんだよな。俺の部屋に行ってから始めないと……悪い、なんか焦りすぎたな」

 手を近くにあったシーツで拭い、しまったという顔をして「明日ちゃんと洗濯しよう」と真面目な顔で反省する先輩を見て、オレは我慢出来ず、布団に押し倒しながら抱きついた。

 さっきしてもらった軽いのじゃあ全然足らないのだ。音を立てながら、何度も先輩の口に吸い付くと、先輩の腕がオレを抱きかかえ、アッと思う間もなく攻守が逆転した。されるがままに布団へ寝転がり、だらしなく口を開け舌を突き出すと、舌先を擦り合わせながら口を塞がれる。強く舌を吸われる音が頭の中で響いて、思わず腰が浮いてしまった。

 キスだけで朦朧としてしまったオレは、情けなく息を吐きながら先輩を見上げる。前髪をスッと撫でられ、背筋にゾクリと快感が走り抜けた。このままだと、直接ちんこやケツを触られるまでに一回射精してしまいそうだ。 

 切羽詰まったオレとは違い、まだ余裕のある先輩は、ジッとこちらを真剣な表情で見つめてきた。けれど、オレを呼ぶ声は、どこか劣情が滲んでいて更に興奮を煽った。

「ラーメンはいいのか? 先に食ってからでいいんだぞ、無理するな」

 ラーメンなんかもうどうでもいいよ! 少々腹が減ってようと死なねぇよ! 

「そうか? でも、夕食なかったんだろ? 辛くないか?」

 この状態で先輩の部屋までお預け食らう方が辛いわ! 

 つい本気で怒鳴り返してしまった。まあ、おかげで、先走りすぎた興奮が落ち着いてきたので良しとするか。オレは先輩の目を真っ直ぐ見て、言い聞かせるように「このまま続けよう」と伝えた。

 先輩は了承してくれたのか、オレの耳元をふわりと撫でながら、ゆっくりと口の中をかき混ぜるみたいな、舌を絡ませるキスをしてくれた。気持ち良すぎて、情けない声が自然と漏れてしまい、恥ずかしくて目を伏せた。

「お、消灯だ」

 こっちの態度などまるで気にしない先輩の声に、オレも目を開けて、廊下側の磨りガラスの窓から入って来る灯りに目を向ける。館内の電気が一斉に消え、この部屋の唯一の灯りだった窓から入る光も当然消えてしまい、辺りは真っ暗になった。

 消灯時の点呼をすっかり失念していたが、大丈夫だろうか……暗くなった事で不安が増したのか、妙に心配になってしまった。先輩と何度もキスをして、のぼせ上がっていた頭が冷えて、少しばかり冷静さを取り戻してしまう。

「ちょっと待ってろ」

 いつの間にかオレの上から起き上がった先輩がごそごそと動き回り、窓を遮るように遮光カーテンを引き、室内の殆ど切れかけの薄暗い電気のスイッチを入れていた。ぼんやりと視界が戻り、ホッとした反面、冷静になった頭で自分の状況を見てしまうと、悶えたいくらいの羞恥に襲われた。視界を確保して隣に戻って来た先輩は、そんなオレの表情を見て困ったように笑って見せた。その視線は「どうする?」とオレに選択を迫る。

「こ、これ! これ、どうやって使ったらいいの?」

 恥ずかしさを全力で飲み込み、きっと笑えるくらい真っ赤っかの顔をして、オレは脇に置かれたローションを手に取った。ケツに塗りたくるって言ってたから、下は全部脱いだ方がいいのかな?

「んー、これはまだ早いかな? そんな慌てなくても、今更止めたりしないよ。お前が本気で嫌だって言ったら、そりゃあ頑張ってなんとかするけどな。ちょっとくらい嫌がっても、多分もう押さえられないから」

 そこまではいつもの暢気な調子で言うと、先輩はオレの耳元で「覚悟しろよ」と小さく囁いた。悪戯っぽく笑う先輩と目が合うと、心臓が張り裂けそうなくらいバクバクと鳴って、思わず生唾を飲み込んだ。

 自分の欲求を持て余して、爆発しそうなソレを言葉に出来なくて大きく頷く。すると、優しく口元を綻ばせた先輩は、そのままオレの首筋にキスするみたいに唇で肌をなぞった。緊張で固くなった筋肉が一瞬で緩んで、今度は快感でビクビクと震え固さを取り戻す。
 首筋から鎖骨の辺りを甘噛みされ、思わず女みたいな声が漏れてしまうと、先輩はするりとシャツの中に手を入れてきた。

 先輩の手のひらが、ゆっくりと腹を撫で上げて、指先がオレの乳首に触れる。先を指の腹で優しく擦られたり、押し潰されたりしていると、乳首が固くなるのが分かった。

「せんぱい、それ、なんかヤダ。変な感じする」

 こりこりと転がされ、むず痒くて止めて欲しいと口にすると、先輩は「んー」と気のない返事をするや、少し強めに乳首を摘まみやがった。オレは息を吐き出すのと一緒に大きく喘いだ。快感なのか痛みなのか、それがそのまま下半身にビリッと電気みたいに流れて、腰が跳ね上がってしまう。横になっているせいで、短パンの上からでも分かるくらい勃起したオレの股間に視線をやると、先輩はオレのシャツを捲り上げて、弄っていない方の乳首を口に含んだ。

 たっぷりと唾液の溜まった舌が、指でやったように乳首を撫で回す。すると舌が触れた途端に固くなってしまった乳首を今度は音を立てて吸われる。恥ずかしさと気持ちよさに翻弄され、耐えるように奥歯を噛んだ。
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