両性具有な祝福者と魔王の息子~幸せへの約束~

琴葉悠

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 やらかした。
 本気でやらかした。
 吐きました。

 夕食にお招きいただいたのに、吐いてしまった。
 毒なんて入ってないのはわかるのに、頭が「毒が入ってる」と認識して吐いてしまった。

 げろった俺は吐瀉物のすぐ横に倒れこんだ。

 酸っぱい胃液の匂いが、鼻について、いやだった。

 母さんが作った物も食べたが、駄目になった。
 それも吐いた。

 理由が分からない。
 何故急に吐くようになったのかも――

 俺には何も、分からなかった。




「ニュクス……」
「母さん、ごめん……」
 二日続けてまともに食事もとれてないし、ここの国の医療の栄養剤も口にできなかった。
 空腹感はあるのに、食べると吐いてしまう、それが他の皆に申し訳なかった。
「ニュクス」
 俺用の客室に王子様がやってきた。
 手にもった籠には果物が入っている。
 果実水を作るのにもってこいの果物だ。

「衛生上問題が無いように消毒してきました」

 王子様が言っている意味が分からなかった。
 王子様はガラスのコップに果物を手で絞って入れ始めた。
 一つずつ一つずつ、俺の目の前で。

 カップの半分くらいが果実の液体で満たされた頃、果物はなくなり、王子様は手を拭いてから俺にコップを渡した。
「ニュクス、試してみてください」
 俺は王子様に言われるままに、何故かそれを口にした。

 甘く、程よい酸味の果実水の味が口に広がる。
 喉を潤す。

 気が付けば俺はそれを全部飲み干していた。
「……あれ?」
 吐く気配がないし、兆候も見られない。
「ああ、良かったニュクス……!!」
 母さんが俺に抱き着いてきた。
「母さん、心配かけてごめんよ……」

 王子様のその件で、周囲は俺は現状他者が調理しているのを目の前で見ないと、それを食べれないと思われた。

 でも、違った。

 目の前で調理しても、俺はまた吐いてしまった。
 調理して吐かなかったのは、王子様の時だけ。

――意味が分からん!!――

 と、思いつつも、王子様に料理させるなんて不敬極まりない行為をやるつもりはないので何とか食べようと努力するも、全て空回り。
 余計に悪化していった。


 他人が食べてる姿や、食べ物を持っているのを見るだけで吐くほどに。


 理由が分からなかった。


「――其方達に聞こう、心当たりはないのか?」
「ええ……」
 母さんが首を振る、そうだ、心当たり何てあるはずがない。
 今まで追手から逃げたり、隠れてたりしてたけど、それでも生活を共にしてきたのだから。


『本当に?』

 意識が朦朧とするなか、子ども時代の俺が俺自身に問いかけてくる。

――しらねぇよ――

『おれはちゃんとしってるよ、あのひともしってるよ』

――何でお前が、あの人って誰だよ――

『わかんないの? だよなぁ。だっておれのせんたくで、はなればなれになったからわすれちゃったんだもんなぁ』

 子ども時代の俺の言っている意味が今の俺には全く理解できなかった。



「ニュクス」
「……あ゛……? おうじ、さま?」
 名前に目を覚まし、王子様をそう呼べば、王子様は少し悲しそうな顔をした。
 そして前のように目の前で果実水を作ってくれた。
 王子様はコップを俺の口まで運んでくれて飲ませてくれた。
「すみません……」
「いいのです、貴方が苦しむのを見る方が私には辛いのです」

 少しだけ冷たい王子様の手が俺の頬を撫でる。

 その感触がどこか懐かしかった。

「……王子様」
「リアンと、呼んでください」
「え、でも……」
「お願いです」
 王子様に言われたなら仕方ないし、幸いここには俺と王子様以外いないのに気づいた。
「あの……リアン」
「何でしょうか?」
「なんで……俺、アンタだと平気なんだろう……?」
「……」
「リアンは……知っている?」
 王子様リアンたずねると、彼は悲しげに口を開いた。

「知っています、でも今の貴方に言うのが正しいのか、私にはわからないのです」
「……神託とかは?」
「ありません、ですから、どうすればいいのか、分からないのです」
 俺の手を握って言う王子様リアンの態度は嘘じゃないのは分かった。

――俺は何を忘れてしまっているんだろう?――

 そう思いながら目を閉じた。




 夢を見た。
 両親とはぐれて追手に追われて逃げる夢を。

 殺そうとする連中から必死になって逃げる夢を。

 でも、転んで――

 もう駄目だと思った矢先に、誰かが俺を庇ってくれた。

 そして俺を助けてくれた。

 助けてくれた人は――

 誰だっけ?




『そこまでおもいだせたのに、なんでおもいだせないんだよ!』

 子どもの頃の俺に文句を言われる。

――仕方ないだろう――

『しかたなくない!!』

『このはくじょうもの!!』

 幼い頃の俺が俺を叱る。

 でも、その理由は結局分からなかった。





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